愛憎の驟雨

僕は人を愛せない。
醜くて、愚かで、自分のことしか考えない。そんな人間が嫌いで嫌いでたまらなかった。すべての人間が醜く、歪んで見えた。同じ人間である自分を愛すこともできなかった。
そのはずだったのに、君と出会って、すべてが変わってしまった。
大学サークルの飲み会で出会った十条凪。たくさんの友達に囲まれて、屈託なく笑う彼の姿は、天真爛漫で、美しく、そして――醜く見えた。
医学部に通う「僕」は、文学部の彼に会いたくて毎日通う。他愛のない話をして、一緒に食事をして、勉強を教えて。彼は醜くて美しい顔を歪ませながらも、僕を受け入れてくれた。
「なんでお前って、俺に毎日毎日会いに来るんだよ」
「僕は君のことが大好きだよ。醜くて、愚かで、頭も悪い君のことが」
そして彼は言った。「俺もお前のことは愛してるよ」と。
初めて人を愛した。初めて愛された。美しくも醜い、様々な感情がぐちゃぐちゃに絡み合った気持ち。これが、愛なんだ。
幼い頃に両親を亡くし、莫大な遺産と「お姉様の面影」だけを残された僕。憎しみと愛情が入り混じった叔母の言葉。表面だけを取り繕った友達のような何か。
そんな僕に、初めて愛を教えてくれた彼。
だが、ある日。医学部棟で彼の姿を見つけた僕の胸は高鳴った。僕に会いに来てくれたのだと。やはり彼も僕を愛していたのだと。
しかし、彼の隣には――誰かが、いた。
楽しそうに笑い合う二人。彼の腕に絡められた彼女の腕。真っ赤に染まった彼の頬。
おかしい。おかしい。おかしい。
彼は僕に会いに来たはずなのに。彼は僕のことを愛しているはずなのに。愛していいのは僕だけなのに。僕だけの彼だったはずなのに。
様々な感情がドロドロに溶けあって、その感情のすべてが終着するのは、彼への歪んだ愛だった。
愛と狂気、執着と破滅が交錯する、危険で甘美なサイコスリラー。
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