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2章-学園入学と大事件-

46話 ダンジョンガチャ その2

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コマンダーウルフ達のドロップは肉だった。
また製菓に使える食材が来ないか期待していたユリスは内心ガッカリしていたが、普通のウルフ肉よりも味が良いそうなので通常の食事のために狩りに来る事は考えられるだろう。
そして宝箱は今回は1つ、中身は『[光の心得]の紋章球』だった。

(紋章が出たのは久しぶりだな。
 何気に属性系では持ってなかった光だが…)

「レイラ、使う?」
「…あまり魅力を感じないのですよね。
 使えるのが火属性だけだとこの先厳しい事が出てくるのは理解しているのですが」
「まあ、無理に使うこともないさ。
 とりあえずこっちで保管しておくから、もし使うようなら言ってね」
「はい、ありがとうございます」

ダンジョンを後にし、時間を確認すると今日は余裕をもって残り1回といったところだった。連日利用時間をオーバーするのは流石に不味い、そう考えたユリスは次で終わりにすることを伝える。

「分かりました。
 それでは…これで行きましょう」

レイラがまたランダムで配置したメダルは
2選択、3道、4狭、5統率、6棒、7舞台、8石、9広、10消失
と先程までで使っていないメダルが多めの結果となった。

(これはちょっと予想がつかないな…
 これまでを考えると8時に石でロックゴーレムの可能性が高いってくらいか)

配置を鑑定したユリスも初見のメダルが多くなかなか予想がつかないため、警戒状態でゲートを潜って行く。
入った先は見慣れた洞窟、かと思いきや1分も探索しないうちに分かれ道が出現する。

「いきなりか。どっちに行く?」
「そうですね…今回は右にしてみましょう」

そうして分かれ道を右に進んで3分程度歩いたところで先の方に扉が見えてくる。
これまた見覚えのある扉であった。

「…ボス扉?もう?」
「ちょっと早すぎませんか?
 階層も降りてませんし、入ってからまだ5分たってないですよ?」
「だよねぇ…
 ちょっと気になるから、さっきの分かれ道を逆に進んでみる?」
「!!
 そうですね、確かに気になります」

いくら何でもボス戦は早すぎると意見が一致した2人は先ほどの分かれ道を目指して引き返して行く。
が、すぐに入口まで辿り着いてしまった。

「あら?入口ですね…?」
「光が少ないせいで見落とした?
 …引き返そっか。同じ方向からなら流石に分かるだろうし」

洞窟は薄暗い、そのせいで分かれ道が判別出来なかったのだと再度引き返すユリス達。
しかし、2人の目に入ったのは先ほどのボス扉。分かれ道なんてものは存在していなかった。

「分かれ道…ありました?」
「なかった。流石に2度も見落とさないだろうし消えたと思うべきかな。
 なら消失…いや、選択か道もあり得るか?」

(これも要検証だな)

無くなった分かれ道の原因をユリスはメダルの効果だと判断するもののどれかなのかは分からない。
鉱石ダンジョンに続いてユリスの中に検証項目として追加されてしまったようだ。

「仕方ないからボス部屋に入ろう」
「そうですね、探索するところも有りませんし…」

そうして扉を開けた先にいたのは、予想通りのロックゴーレム。
今回は自滅を狙うなんて事はせず、普通に戦って倒す。
そんなユリスの頭にはまた疑問が浮かんでいた。レイラが聞いたらまた実験するのかと微妙な顔をすること必至だろう。

(そういえば、コア以外への攻撃のみで倒した場合はどうなるんだ?それに起動時の5秒間は無防備だよな…その段階で倒せたらどうなるんだろ…?起動時に循環しているっぽい魔力に干渉できるかも気になるな…)

研究者気質でもあるユリスは一度気になった事は解消されるまでずっと頭に残るタイプだ。前世からその兆候はあったが、祝福の影響で余計忘れる事ができなくなっている。
それなりに良識はあるので場合によっては我慢するが、特に大きな問題にならなさそうな場合はお構いなしである。

「…レイラ、ちょっと試したい事があるから、次からボスがロックゴーレムの時は何回か1人でやらせてくれない?」
「…構いませんよ。
 その代わりちゃんと修行にも付き合ってくださいね?」
「分かってるよ、ありがとう。
 っと、宝箱が出たね。中身は…インゴット?鉄か」
「鉱石じゃなくて精製済みの金属ですか。こんなパターンもあるのですね。
 ……??ユリスさん、あの扉…入ってきたやつではありませんよね?」

なんと気なしに周囲を見渡したレイラが部屋に扉が2つある事に気づく。

「そう…だね。確かにあっちのは来た方向とは反対側だ。
 それに、帰還装置も出ないってことはまだ先があるのかな?」

(入ってきた時は無かったと思うんだが…
 ボス撃破で出現する仕掛けか?にしてもこれはもしかして…)

ユリスの頭にはダンジョンの構造に対してとある1つの答えが浮かんでいた。ゲームなどではストーリー後半でよく見られるイベントである。
そのイベントの名称は…『ボスラッシュ』
読んで字の如くボス格の敵と連戦をするイベントである。何体もの中ボスと連戦するものもあれば、戦闘を重ねるごとに形態が変わるものもある。パターンは幾つもあるが、おおよそRPGでこのイベントに共通する事は難易度の高さもさる事ながら時間当たりの身入りの良さである。

帰還装置も出てこないので結局出現した扉を開けてみると、やはりそこには下の階層に降りる階段があった。
そして第2層の通路を歩いていると、またしてもすぐに分かれ道に当たる。

「またですか…今度は左です」

先に進むと見たのはボス部屋の扉。ここまで来るとレイラも察してきたようだ。
中に入るとまたロックゴーレムのようだったが、どこか違和感がある。

「ロックゴーレムみたいだけど、なんか違和感が…?」
「…あ。あれではないですか?水晶周りの石に光沢が見えます」
「お、確かに。
 んー…金属っぽいけど鑑定には出てこないな。
 まあいいか。レイラ、今回は僕がやるから」
「はい、分かりました」

ロックゴーレムの起動を待ち、動き出しと同時にユリスが一気に接近。そしてゴーレムの攻撃を避けながら手や足にダメージを与えていく。
その間ユリスに被ダメージは全くなく、側から見ていてもロックゴーレムの動きに今までと変化はなさそうだ。
そして瞬く間に水晶が砕け散った。
どうやら水晶に攻撃を加えなくても、外的要因でダメージを受けると水晶は砕けるようだ。

「レイラ、宝箱は何だった?」
「今度は銅インゴット2つです」

ユリスはドロップのゴーレム石を確認しているようだが、先程まであった金属らしき光沢は消えてしまっており、床に散乱したドロップは全てただのゴーレム石であった。

「ん、こっちも大した収穫はなし」
「なら次ですね。
 次もロックゴーレムでしょうか?」
「まだどうなるか分からないよ?
 分かれ道の意味がよく分かってないからね」

しかし、期待に反して次もロックゴーレムのいる部屋であった。今度はユリスが認識すると同時に奥義『覇王一陣』を使用して突進。起動中のゴーレムを一撃で粉砕する。が、またしても通常ドロップ。
起動中にも攻撃が通ることは判明したがドロップに影響はないようだ。今のところノーマルコアの入手手段はMPの自然消費による自滅しかない。
そして第4層もロックゴーレム…と思いきや、部屋の中心に鎮座していたのは宝箱であった。

「宝箱…罠か?」
「怪しいですね」

怪しさ満点だが鑑定にも特に罠の表記はない。警戒しつつも開けることにすると、中に入っていたのは細長い棒の先に赤い水晶のついたもの、長杖であった。

「ダンジョンで宝箱から装備が手に入るのか…?
 レイラ、よかったら使うといいよ」
「良いのですか?結構貴重そうですが」
「いいさ。僕はあまり杖は使わないし。
 微妙だったら売ってもいいよ」

そう言ってレイラに性能を教えるために鑑定をする。
ついでにレイラが持っていた杖の鑑定もすると
―――
【名前】魔のロッド
【効果】
物理攻撃力:11
魔法攻撃力:25
耐久:89/100
品質:B
【詳細】
トレント材製のロッド。
装飾には魔鋼が使用されており、装備すると魔法威力が僅かに上昇する。
作成者:ライーザ
―――
―――
【名前】レッドコアロッド
【効果】
物理攻撃力:20
魔法攻撃力:50
耐久:50/50
品質:B
【詳細】
魔鋼製のロッド。
先端に火属性のノーマルコアが取り付けられており、装備すると火属性の魔力が強化される。
水晶の部分が脆いため耐久性は低い。
[スキルスロット]
『火属性強化』
作成者:なし
―――

「え、強っ!
 しかもスキルスロットって、まじかこれ…」

予想以上の強さにも驚いたが、それよりもスキルスロットの項目に衝撃を受ける。

(装備中はこのスキルが使えるようになるのか…
 しかも、既に覚えている場合はパッシブ強化系なら重複すると。耐久が低いのはちょっと気になるが、遠距離で固定砲台をする時だけ持ち換えれば問題はない。
 ダンジョン産装備強すぎだろ)

ユリスは衝撃を受けつつもレイラに杖の性能を教える。

「そんなにすごい性能が…でも確かにユリスさんの言う通り近接で使うことは出来なさそうですね。
 …私が持っていた杖も王都では結構腕のいい職人に頼んだ物だったのですが、それを超えるような代物なんて……いえ、大事に使わせていただきますね。ありがとうございます」

レイラは遠慮しようとしたが、今後もユリスの隣で戦っていくことを望むのであれば自身の強化だけでなく装備も強化していく必要があると思い直したようだ。

「そういえば…宝箱以外他に何も無かったね?
 もしかしてあの分かれ道ってボスか宝箱かの2択ってことなのかな?
 …選択のメダルの効果だと考えればしっくりくる」
「そうですね…あれ?このレベルの装備が手に入りますし、短時間でボスと何度も戦える。もしかしてこのダンジョンってかなり有用なのでは?」
「確かに。最低限必要なメダルが何かを確認する必要はあるだろうけど…もしかしたら第1種レベルの情報かもしれないね」

第1種と聞いてレイラが息をのむ。
第1種といえば在学中での国への大きな貢献が条件であるため、数ある称号の中でも突出して難易度が高いものだ。卒業してからも賞賛され続けるほどに。
そんなレベルなのでユリスに言われるまでこのダンジョンの情報がそこまでだとは思っていなかったようだ。
しかし、道中にほとんど時間がかからない上に、身入りのいいボス戦のみを連続で行える。そしてボス戦が無くとも毎層必ず宝箱産のアイテムが手に入るとなると、普通にダンジョンを攻略していくよりも遥かに効率がいい。探索技能を磨くことは出来ないが、今の騎士団が国に求められているのはレベル上げや装備の向上による戦力の拡充である。
それらを鑑みると、様々な効率を上げるこのダンジョンのレシピは大きな功績となり得るのだ。しかも最低限必要なメダルが多くなければ、さまざまな応用が出来ることもポイントになる。

しばらく時が止まっていたレイラを再起動させたところで、最後の階層に進んでいく。
流石に最後は強制ボス戦なのだろう。距離は短いままだったが扉までは1本道だ。

「さて、どうせ最後もゴーレムだろうね。
 ただあの金属が全身に広がっている可能性が高い。
 考えられるのは各種金属のゴーレム、混合金属のメタルゴーレム、表面だけ金属で覆われたメッキゴーレムだね」
「これまでを考えるとメッキゴーレムが有力でしょうか…?何か特徴はあるのですか?」
「正直、どのゴーレムも耐久や防御力が上がるだけで性質については大して変化はしないはず。動きというか対応パターンが増える可能性は高いけどね。
 強さ的には金属のランクに準拠する感じだよ。メタルは金属によるけど最低ラインが鉄と銀の間で、メッキは各金属のワンランク下と思ってくれればいい」
「分かりました。
 これまでと同じように動けばいいのですね」
「そうだね。今回は唯のロックゴーレムじゃなさそうだし普通に2人で戦おう」

事前の打ち合わせが終わり、最後の扉に手を掛け力を入れていく。
少しずつ開いた先には鈍色に光るみなれたフォルムのゴーレム。

「メタルメッキゴーレムだ。これまでより2ランク上といったところか?
 よし、いくぞ!!」
「はい!『ファイアランス』!」

ユリスが駆けている横からレイラの発動した炎槍が放たれる。着弾と同時にユリスのパンチも炸裂する。
しかしコアの位置が不明だったため、この攻撃で削れたのはHPの2%程度。
ランクを考えればダメージとしては申し分ないのだが、明らかにこれまでとは違う強敵だ。

「今ので大体2%!」

ユリスの報告を聞き、レイラは次の魔法を準備しようとするが、今まで見たことない体勢をとるゴーレムに危険を感じたので警戒のために一旦動きに注目する。

「…!!
 警戒していて正解でしたね」

ゴーレムは少し体を沈ませた後、後方にいたレイラめがけて突進してきたのだ。しかも1歩が大きく到着までの猶予があまりない上に少し追尾している。
しかし、予め警戒していたレイラは全速力で真横に走ることで避ける事に成功。
そして壁に激突したゴーレムの背に追いついたユリスの飛び蹴りとレイラの攻撃が同時に入る。今度のダメージは約10%と先ほどよりも明らかに高かった。
どうやら背中に弱点があったようで、攻撃を加えたことで背中のメッキが剥がれてコアが露出し始める。が、その瞬間にゴーレムが腕を振り回しだし、そこらの壁や地面ごと周囲を破壊していく。
攻撃範囲からはなんとか離れることが出来たユリスだが、このままだと近づいて攻撃することが出来ない。

「仕方ない、収まるまで待つとして…魔纒は水で発動し直してみるか。属性弱点があるかはわからんが」

手をだしあぐねているそんな時、頭上前方から岩が飛んでくる。

「あっぶな!まだ暴れんの?
 もしかして、これ強制的に止めないとダメなのか?」
「ユリスさん!
 ちょっとこちらで大技使ってみます!」

どうやら同じ考えに至ったのだろうレイラがいち早くカードを切るようだ。

「いきます、『イグニッションフレア』!」

発動と同時にゴーレムの胴体で大きな爆発が起こる。
イグニッションフレアは視認した箇所に爆発を起こす魔法だ。順位決定戦の時には使っていなかった中級に位置する魔法だが、後で聞いたらこの数日で習得していたらしい。
レッドコアロッドを装備したレイラの魔法は魔法自体が強力なものであるのも相まって、離れているユリスにも衝撃が伝わるほど強力な攻撃になっていた。
そしてその攻撃でゴーレムの動きが止まり、レイラに向かって突進をする構えを見せる。
どうやら、遠距離からのダメージが近接攻撃によるダメージを上回ると直近で遠距離攻撃してきた対象に突進するようになっているようだ。そして、コアに攻撃されると一定ダメージを受けるまで無差別に暴れ回る仕様である。
これ以上の特殊な動きはないのか、そこからは危なげのない戦闘を展開していく。
そして遂にファイアランスがゴーレムのコアを砕く。

「ふう…いい感じの疲労感だな」
「終わりましたか…耐久力はありましたが、振り返ってみれば総合的な強さはそこまででもありませんでしたね」
「そうだね、結局2人ともまともに攻撃食らわなかったし。さてさて、お楽しみの戦利品確認だ!」

まずはメタルメッキゴーレムのドロップ品からだ。
落ちているのはゴーレム石であることには変わりないが、その表面には金属が付着している。
これまでのゴーレムは倒したところで金属が消えてしまっていたので、この状態で手にするのは初めてである。
金属部分を鑑定するとどうやら『オペラ合金』という鉄、銀、魔鋼の合金のようで、この配合率で魔鋼と同等の硬度を保ちながらもより魔力親和性がより優れた金属になることも判明した。

「なるほど…これはいい情報だ。
 分離が面倒だけど、サンプルとして全部持って帰ろう」
「時間がある時にお手伝いしますよ。
 それよりユリスさん、今回の宝箱は2つのようですよ」
「おっ!なら今回は等分だね」

そうして、開けた宝箱に入っていたのは…

「僕はメダルだな…『金属』!?
 これは確実にレアでしょ!」
「すごいです!
 メダルも順調に集まってますね、ユリスさんかなり運が良いですよねー
 私なんて石ころです。今回はハズレですよ…」
「ん?なんか見覚えが…
 レイラ、ちょっとそれ見せて」

ハズレだと落ち込むレイラであるが、ユリスはどこか見慣れた石に鑑定をかける。

「…!!
 レイラ、これものすごい貴重品だよ!?この石は空のスキル石だ」
「……え?これがあの?」
「ああ、売ると5億はするらしい代物だね。
 まあそれ以上の価値はあるし、売らない方がいいと思うけど」
「5億……いえ、売りませんよ!?
 ユリスさん、そのまま自分で持っているのは怖いので、預かっておいて頂けませんか?」
「ああ、いいよ。
 使い道はゆっくり考えるといい」

(まあ、そう遠くないうちに使うだろうけど)

売値を聞いてそちらに考えが寄せられているようだが、収納スキルに思い至ればほぼ確実に頼んでくる事であろう。

「さて、今日はこれで終わりだ。
 色々と収穫があったけど、今後の動きはこのダンジョンに必要なレシピの確定からかな。
 他も重要だけど、鉱石の方は必要メダルを最低限まで削る重要性がそこまで高くないから後回しにする。
 まあ後は寮に戻ってから相談しよう」
「はい、分かりました。では帰りましょう」

予想以上に大きな収穫があったダンジョンガチャ。
大満足といった様子のユリスとレイラは足取りも軽く寮に戻っていくのであった。
余談として満足そうな笑顔を浮かべて帰ってきたユリス達を見て思わずまとめて抱きしめてしまった、可愛いもの好きに目覚めるシエラの姿があった。
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