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3章-新たな発見と長期休暇-

63話 初邂逅

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長期休暇に突入して数日後、特寮に滅多にない来客が現れる。
それは帰省の準備を進めているカミラ、アーリア、サミュの元にきた婚約者達であったが、準備の邪魔だとして追い出されて入口で途方に暮れていた。

「なあ、俺らって呼ばれて来たはずだよな?」
「いや知らねぇよ。お前が呼んでるっていうから来たんじゃねえか」
「そうですよファーレン。こちらが理由や日時を尋ねてもとにかく行こうの一点張りだったのはあなたですよ。見ましたか?呼び出された3人のなんで今来たのとでも言っているかのような邪魔者を見る目を」
「呼ばれてたのは本当だったから良いじゃん」
「ええそうですね!
 夕飯を一緒に食べようという内容だったようですが!」
「まだ朝だぞ…どんだけ浮かれてるんだよお前。しかも隣にいた女子の目、俺らも同類に見られたじゃねえか」

どうやらカミラの婚約者であるファーレンの早とちりで予定していた時間よりも遥かに早い時間で訪ねてしまったようだ。アーリアとサミュそれぞれの婚約者であるグランとリュートが悪びれないファーレンに非難を浴びせている。

「なんだお前ら?ここは許可がないと入れねえぞ…ってああ、あの3人の婚約者達か。何してんだ?」
「おお!確か1組2位の勇者……「ルイス」そうルイス!
 俺はファーレン・ノストロックだ!よろしくな!」
「僕はリュート・シュガルです。
 サミュ達に呼ばれてきたんですが、どうやら伝言役のファーレンが時間を間違えたようでして…」
「間違えたってレベルじゃねえだろ…
 ああ、俺はグラン・シャトルだ」

朝の鍛錬の帰りであろうルイスがたまたま寮の近くで騒いでいる3人を見つけ、そのまま自己紹介に入る。

「ああ、よろしくな。後、勇者はやめろ。
 時間ミスっただけなら中で待ってるか?聞いてからにはなるが食堂くらいなら許可も出んだろ」
「あー…それがですね。実は約束の時間は夜だったようでして」
「はあ!?まだ朝だぞ!?何をどうしたら間違うんだよ!?
 なら出直してきたらどうだ?暇ならダンジョン広場も開いてるだろ?」
「明日帰省に出発だからダンジョン禁止が言い渡されてんだよ…ファーレンが」
「はっはっは!悪いな!
 でもカミラに言われたんだからしょうがないだろ?」
「それなら今日の時間の事も覚えておいてもらいたかったものです」
「何というか…2人は御愁傷様だな。
 それでどうしようかと悩んでいたわけか…まあ、とりあえず聞いてきてやるよ。ちょっと待ってな」

流石に放置するのは不憫だと思ったのか、ルイスは先ほど言った通り3人の入場許可を取りに行ったようだ。
特寮に部外者が入るためには入寮者の許可が必要である。個人スペースなら該当者の許可だけで良いのだが、今回はその相手から追い出されている。なので共用スペースを使うことになるのだが、その場合は全員の許可が必要になる。

「待たせたな。3人も流石に追い出すのは悪いと思ったのか食堂ならオーケーだとよ。
 ただ…なんつーか…今1組のカップルがいちゃついているというか食事してるから、その辺は気にしないでいてくれ」

特寮にいるカップルなど、ルイスがここにいる以上は確定しているようなものだが、内情を詳しく知らない3人は疑問符を浮かべながらもルイスに礼を言って中に入っていく。
そうして食堂の扉を開けると…

「ユーくん、今日の朝食はどう?
 レイラちゃんと一緒にちょっといつもと食材を変えてみたんだけど」
「うん、美味しいよ。これはあの卵を使ったの?」
「そうなんです。あれに使いますし、ちょっと勿体無いかと思いましたが、また取ってくれば良いですからね」
「まあ確かに取ってくるのは簡単だし、どんどん使った方がいいかもね。いやでも本当に美味しいな…レイラも既にかなり上達してきてるんじゃない?」
「ありがとうございます!
 そうなんですよ!シエラ師匠の教え方が分かりやすいおかげで伸び悩んでたのが嘘みたいに上達してるんです!」
「レイラちゃんは素直だからね~
 自己流とか言って教えた事を勝手に変化させる事もないから教える方としても楽なのよね。何であんな腕前だったのか不思議なくらいよ。
 基礎的な事はもう大体教えたし…って事でそろそろユーくんが知ってる他の料理を試す時が来たんじゃない?」
「あー…そうだね。なら今度試してみようか。
 …必要なもの探さないとな」

椅子をピッタリくっつけて寄り添うように座るレイラ、椅子の後ろから首に手を回して抱きつくように立っているシエラ、それらの相手でありながら普段通りといった様子で朝食を食べているユリスの3人がいちゃついている光景が目に飛び込んできた。

「うわ…さらに酷くなってやがる」

ルイスは引き気味、他の3人は唖然とした状態で固まってしまっている。

「…ん?ああルイスか、おはよう」
「おう…相変わらずだな」
「まあ嫌ではないしね。もうここでこんな状態になる事へ抵抗する気も失せてるよ…
 それにしても、後ろで固まってる3人は?」
「ああ、さっき言ったカミラ達3人の婚約者だよ。
 固まってるのは仕方ないだろ。この光景を初めて見た奴は大体こうなるだろうよ」
「まあ、それもそうか」

ルイスがユリス達に状況を説明している間に何とか時間をかけて復活した3人と自己紹介という流れになったのだが…

「是非とも師匠と呼ばせてください!」

約1名ネジが飛んでしまったのか、急にユリスを師匠呼びし始めたリュートによって場はさらに混沌としていくことに。

「誰が師匠だ。しかも何の。
 一体急にどうしたのさ…えーと、シュガル?」
「リュートで構いません!
 それだけ魅力的な女性達に抱きつかれていながら顔色ひとつ変えないなんて…!どうやったら師匠みたいになれますか!?」
「あー…えぇ…?」

何でもサミュは婚約者であるリュートを事あるごとに揶揄っており、最近では抱きついたりなどの肉体接触により慌てふためく様を見て楽しそうにしているのだとか。リュートとしては恥ずかしい上に慌てふためく様を見せるのはカッコ悪くてどうにかしたいと思っているのだが、実際に抱きつかれると頭が真っ白になってしまうという。それにこれ以上誘惑がエスカレートすると耐えられそうもない。なので今もシエラに抱きつかれ、レイラにしなだれかかるように寄り添われていながら平然としているユリスに心構えや対策などを伝授してほしいと、それはもう必死な様子で力説しているのだ。

「貴重なツッコミ役だと思ってたんだが…こいつ天然入ったいじられ役だったか。
 いや男として切実な内容なのは分かるんだが…」
「俺は放置する事が多いし、俺ら6人の中でまともなツッコミはカミラだけだ」
「最低ボケが3人居て時折増えるってのにツッコミ1人かよ…過労で倒れんぞ…?」

予想外の人物の壊れっぷりにより判明した事実に同じくツッコミ気質のルイスがカミラに同情してしまう。
そんなやり取りをしている一方で、ユリスの方はリュートの悩みに対して真面目に答えていた。

「んー…僕の場合は昔から育ててくれた師匠によるぬいぐるみがごとき扱いがデフォルトだったからなぁ…表情に出ないのはもう慣れというか癖というか。
 リュート、そもそもなんだけど…耐える理由は?婚約者なんだし度が過ぎなければ別に構わないと思うけど。
 …明らかに誘惑してるというか別に手を出されても構わないくらいのスキンシップに思えるんだよね。シエラは貴族令嬢としてどう思う?」
「そうだね~…さっさと既成事実を作って婚約を確定させたいって意図は見えるわね。この子を逃したら誰を当てがわれるか分からないし、早めに好きな子で確定させたいっていう気持ちなら理解出来るわね」

リュートに尋ねながら小声でシエラにも意見を求めるユリス。レイラに聞かないのは彼女はそこまでスキンシップが激しくないためである。

「僕としてもサミュとの婚約が嫌な訳ではありません。むしろその逆なのですが…父、現当主はまだ早いと思っているのか、学園在籍中に手を出すような事があればサミュとの婚約は解消すると念押しされていまして…」
「俺も親父に似たような事言われたぜ」
「お前らもか。って事は貴族の習わしみてえなもんだったのか?」
「全員言われてんのかよ…
 にしても手を出したら婚約解消ってふざけてんのか?相手の人生が全く考慮されてないじゃねえか」

3人とも当主である父親から同様の内容で言いつけられていたようだ。

「……ねえシエラ、僕の記憶が間違えてなければ現シャトル領主の婚姻の儀って在学中にしていたと思うんだけど…?3人が言ってるような習わしなんてあるのかな?」
「よくそんなこと覚えてるわね…まあ、貴族毎に伝統を持ってたりするから一概には言えないけど、今回の内容だとちょっと怪しいよねー…
 あそこの6貴族って学園の頃からの仲らしくて今でも頻繁に交流してるくらい仲はいいんだけど、事あるごとに張り合ってるというか対決してるんだよねー…もしかしたら今回の件もそれに関係あるかもね」
「女子側が結婚が早い方が勝ちで男子側が結婚が遅い方が勝ちみたいな感じで勝負してるってこと?…言っといて何だけど酷い内容だな。流石に自分の子供でそんな事するかな?」
「あん?勝負だと?……あり得るな。
 それに…おい、ユリス。親父が在学中に結婚したってのは本当か?」

周囲に聞こえないように小声で相談していたユリスとシエラだったが、猫獣人であるグランにはしっかりと聞こえていたようだ。内容が自分の親についてであったこともあり、追求の手を緩める気配は微塵もない。

「あー…勝負の方は確証はないけどね。女子の方にも聞いてみないと…シエラ、それとなく聞いといて貰える?違ったら違うとだけ報告してくれれば良いから」
「はーい、任せといて。部屋使ってもいい?」
「うん、いいよ。
 それで、現当主については学園の歴史を記した本に書いてあったよ。史上初、在学中に学園の教会で婚姻の儀を執り行った貴族ってな感じで」
「…あのクソ親父…!自分が出来てもいねえことをさも家のしきたりであるかのように言うんじゃねえよ…!
 で、ユリス。その本は何てやつで何処にある?」
「学園の図書館にしかなさそうな本だね。題名はそのまま『王立学園の歩み』の最新版で200ページ辺りだったかな?後は『王国貴族の軌跡』って一般向けの本に各貴族の結婚時期とか子供が産まれた時期とかも載ってるからそれを照らし合わせてみるといいと思うよ」
「よし、感謝するぞユリス。さっさと確かめてきてやる…!可能なら写しも貰わねえと。
 悪いが俺はここで抜けるぞ」

ユリスの頼みをきいたシエラと図書館で早く証拠を押さえたいグランがここで抜けることに。

「訳分からん質問から始まったのに、なんか大事になったな」
「そうだね。
 それでさっきの答えの続きだけど、リュートはとりあえずは今のままで良いと思うよ。それがサミュの好みかもしれないんだし。
 ただ、聞いてる感じだと基本受け身みたいだし、それがサミュにとって不安だって可能性はあるかもね」
「それはあるかもしれませんね。
 私も時折撫でたり話しかけてもらったりするだけでちゃんと私を見てくれているんだと安心感が生まれますから」
「なるほど…!今の師匠みたいに積極的に自分からですか…」
「自分から構いにいくようになったらちょっとはスキンシップも落ち着くかもね。
 逆に今されてるレベルで反応が薄くなったらどんどんエスカレートしていくかもよ?」
「エスカレートは困りますね…分かりました。
 師匠、レイラさん、ありがとうございます。
 すぐにはちょっと難しいでしょうけど、自分なりに接し方を変えてみようと思います」
「うん。でも師匠は辞めようか」

どうやらリュートは納得できる答えを得る事が出来たようだ。

「なあルイス。良いこと言ったみたいな雰囲気になってるけど、こいつらいちゃついてただけじゃね?」
「その通りなんだが、それは言わないでおいてやれ…」
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