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3章-新たな発見と長期休暇-
65話 お試し中級ダンジョン(森)その1
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フォーグランド邸訪問の日程が決まり、それまで少し間があるということで、ユリスはレイラを伴って1年生にも解禁された中級ダンジョンの様子見をしに行く事にした。
「中級ダンジョンの推奨ベースレベルは30。これはレベル30で紋章器のレベルが1になるからだね。紋章次第ではあるけれど大体の紋章はこれでスキルかアビリティ上昇量が増えるから、ここを超えれば中級の魔物十分に通用するようになる」
「私はまだ19なのですが大丈夫なのでしょうか?下級でレベルを上げてからの方がよろしいのでは?」
「確かINTのランクがD+でしょ?それなら道中の敵なら倒せると思うよ。それに今回は僕がちゃんと前衛で働くから大丈夫だよ。
下級の魔物ってメダルでランクが上がったボスでレベル20だったし、そこで30まであげるのって大変だからね…」
「分かりました。でしたらまずはメダル無しのベースダンジョンから挑戦ですね?」
「うん、まだどんな仕様のダンジョンなのかも分からないからね。
お、そろそろ順番かな?それじゃあ列に並ぼうか」
長期休暇中ということもありダンジョン広場は人で溢れかえっている。中級目当ての人もかなりいるようで、入場口で番号札が配られて呼ばれた番号までの組が列に並べるというシステムになっていた。
これまでの説明は番号が呼ばれるまでの暇な時間を潰すためにされていたのである。
「さて…と。ようやく入ダンできた訳だけど…一応道っぽいものはあるね。これが正規ルートかな?」
「完全な森だったらまともに攻略できる気がしません。私にはこのレベルでもよく観察しないと道だとは分かりませんし」
森ダンジョンのスタート地点は広場のようになっており、周囲を木々に囲まれている。一見乱雑に生えているように見える木々だが、1箇所だけ木の感覚が広い場所があり道のように奥までその広さが保たれている。もちろん途中でカーブを描いているが、妙に人工的なので分かる人には分かりやすいと言える。
「そうかなぁ…?結構分かりやすいと思うんだけど…まあ小さい頃から森にいたし慣れが大きいのかな…っと、早速お出ましだ」
今回はレイラを守りながらの探索という事で、ユリスは気配、魔力の双方からの感知で警戒している。すると早速魔物を進行方向に見つけたようで合図を出す。
警戒しながら進んだ先にいたのはダンゴムシであった。
「おー…あれはモリダンゴだね。物理防御は高いけどただ転がって来るだけだから、前衛が受け止めて魔法で攻撃が有効かな。って事でっ…はい」
「分かりました!『ファイアボール』!」
「え?」
「はい?」
ユリスが合図と共に上空へ蹴り上げたモリダンゴに向かってレイラが言われた通りに魔法を発動。だが、それは火魔法だった。ここはダンジョンとはいえ森の中である。青々としているため比較的燃えづらくはあるだろうが、それでも火気厳禁の場である事は言うまでもないだろう。
「あー…とりあえず水っと。
あっちにも水やって、一旦スタート地点に戻ろうか?」
この場はひとまずユリスが魔術で水を発生させて消火。ついでにモリダンゴにも放水して倒し、魔物がやって来ないセーフティエリアでもあるスタート地点へ引き返す事に。
「申し訳ありません…」
「いやまあ、燃やしたらこのダンジョンはどうなるかとか気になるから今度やってみても良いんだけど、まあ今回はね?初回だし。
それで…もしかしてレイラって火属性以外の遠距離攻撃手段持ってない…?」
「はい…私の攻撃手段は武器術以外は全部火属性です。
頂いた障壁でサポートするくらいなら出来なくはありませんが…」
「障壁もねー…発動後に動かせるようになるくらい習熟すれば攻撃にも使えるんだけど、すぐにはちょっと厳しいよね」
「そうですね…集中すればゆっくり動かす程度なら出来ますけど、攻撃に使えるくらい衝撃を出そうと思ったら少々厳しいですね」
「動かせるんだ…でも戦闘中で使うのは難しそうだね。
それなら違う紋章に変えてみる?杖の心得とか正直必要なの?って言いたくなるレベルだし」
レイラの遠距離攻撃手段が火属性のみである事が判明し、ユリスは解決案として紋章の交換を提案。スキルの補助無しであれだけのナイフ捌きを見せるのだから、滅多に使用しない杖関係のスキルなど無くてもどうにでもなるだろうと判断した形だ。
紋章の付け替え自体はユリスが紋章術のスキルを持っているのでこの場で何度も可能である。
「確かにそうですね…いつかは必要と思ってましたし、ちょうど良い機会なのでしょうね。
それで…できればユリス様に選んで頂きたいのですが…」
「僕のおすすめはね…まだ手元に無いんだ」
「??
どういう事でしょうか?」
「レイラなら使いこなせるであろうスキルは前から目星が付いてるんだけど、それを低レベルの時点で覚えられる紋章が見つからなくてね…まだ探し中って事。
まあ今回は急しのぎとして、この前手に入れた光の心得にしておこうか。使えるのは『光属性変換』だけだけど、火魔術の時に使ってるだろうし使い方は大丈夫だよね?」
「私のために探して頂いていたなんて…!ありがとうございます!
あ、属性変換なら分かるので大丈夫です。多分ボール系で宜しければすぐに発動できると思います」
前々から探しているというユリスの言葉に感激したレイラは見つかったら絶対にそれを使いこなしてみせると既に意気込んでいる。
新しい紋章については使えるスキルが手持ちのものと同系統という事もあり、得意な火よりは威力が落ちるがすぐにちゃんとした遠距離攻撃手段として扱えるまでになった。
スタート地点での軽い慣らし運転を終えたのちダンジョンの探索を再開する。
「なんか気配がするんだけど…あれかな?…スケイルカラーね」
「あの赤いやつですか?」
進んでいくとユリスが気配を感知する。モリダンゴは転がって来ないので辺りを見回すと、幹の一部が赤色になっている木を見つける。
「そうそれ。色によって効果が変わる鱗粉を振り撒くだけでダメージになる攻撃はしてこないって。赤色はアビリティ低下ね。
まあ遠距離で先に発見できればそう強い魔物じゃないかな。ランクが上がると体当たりで鱗粉まみれにしてくるようになるみたいだけど」
「それならここから先制攻撃しましょうか?」
「あ、ちょっと待って。
鱗粉を落とせば時間経過で回復するみたいだから、今のうちにどんな感覚か体験してみようか?感覚を掴んでおかないと気付かない内に弱体化してるなんて事態にもなり得るからね」
「確かに…他の魔物と一緒に出てきた時に気付けないと危険ですね。分かりました、ではダメージを食らう心配もありませんし近接で倒してきます」
そう言ってレイラは素早く接近しナイフを閃かす。数度切りつけたところでスケイルカラーが反撃とばかりに羽ばたいて鱗粉を周囲にばら撒く。
「えっ…ううっ、なんか気持ち悪いです…
かかったかどうかは分かり易いですけど、かかりたくはないですねこれは…」
まともに鱗粉を被ってしまったレイラは急に動きが鈍くなり攻撃の速度も回数も落ちている。
万全の状態の連撃でおよそ1割のダメージだったためこのままでは倒すのにかなり時間がかかると予想される。
「あー…動きがかなり鈍ってるなぁ…そんなにきついのかな?
レイラー!交代ねー!ちょっと僕も試してみる!」
レイラのあからさまな変化に心配したのか好奇心が刺激されたのかは不明だが、突如交代を言い出したと思ったらスケイルカラーに向かって突っ込んでいったユリス。
ユリスの攻撃方法は素手なので一方的に殴っていても鱗粉の効果は現れるはずである。が、一向にその様子は見られない。
「んー…?なんか変わったような感じはない。レイラー!ステータスウィンドウの表示ってどうなってるー?」
「アビリティの下に状態の欄ができていて、そこに“【VIT】-1”の表示があります!」
「って事はまだかかってないと…レイラはすぐ効果が出たのに……あっ…あー…いいや、倒しちゃお」
わざと鱗粉を浴びに行ってもユリスのステータスには一向に変化が現れない。それもそのはずで、ユリスはシエラから『状態異常完全耐性』のスキルを貰っているのだ。アビリティ低下の状態異常など効くはずもない。
スキル欄を見てその事に思い至ったユリスは、若干の八つ当たりも兼ねて魔纒を伴った手刀でスケイルカラーを切り裂いてしまった。
「ユリス様、何かあったのですか?」
「あーうん…状態異常耐性があるの忘れてただけだから大丈夫だよ。
それでレイラ、感覚は掴めた?」
「はい。何というか全身に不快なものが纏わりついているような感覚でしょうか?とにかく気持ちが悪くて戦闘に集中出来ませんでした。VITが1ランク低下しただけであそこまでとなると、その不快さがメインの効果と言ってもいいかもしれません。
鱗粉そのものも不快ですし、今後あの魔物を見つけたら何色だろうと絶対に近寄らずに遠距離から確実に仕留めましょう」
「そんなにか…」
相当不快な状態だったのか、2度とかかりたくないと言わんばかりの形相で捲し立てるように感想を言うレイラを見て、次からは見つけ次第すぐに仕留めようと決めるユリスであった。
「中級ダンジョンの推奨ベースレベルは30。これはレベル30で紋章器のレベルが1になるからだね。紋章次第ではあるけれど大体の紋章はこれでスキルかアビリティ上昇量が増えるから、ここを超えれば中級の魔物十分に通用するようになる」
「私はまだ19なのですが大丈夫なのでしょうか?下級でレベルを上げてからの方がよろしいのでは?」
「確かINTのランクがD+でしょ?それなら道中の敵なら倒せると思うよ。それに今回は僕がちゃんと前衛で働くから大丈夫だよ。
下級の魔物ってメダルでランクが上がったボスでレベル20だったし、そこで30まであげるのって大変だからね…」
「分かりました。でしたらまずはメダル無しのベースダンジョンから挑戦ですね?」
「うん、まだどんな仕様のダンジョンなのかも分からないからね。
お、そろそろ順番かな?それじゃあ列に並ぼうか」
長期休暇中ということもありダンジョン広場は人で溢れかえっている。中級目当ての人もかなりいるようで、入場口で番号札が配られて呼ばれた番号までの組が列に並べるというシステムになっていた。
これまでの説明は番号が呼ばれるまでの暇な時間を潰すためにされていたのである。
「さて…と。ようやく入ダンできた訳だけど…一応道っぽいものはあるね。これが正規ルートかな?」
「完全な森だったらまともに攻略できる気がしません。私にはこのレベルでもよく観察しないと道だとは分かりませんし」
森ダンジョンのスタート地点は広場のようになっており、周囲を木々に囲まれている。一見乱雑に生えているように見える木々だが、1箇所だけ木の感覚が広い場所があり道のように奥までその広さが保たれている。もちろん途中でカーブを描いているが、妙に人工的なので分かる人には分かりやすいと言える。
「そうかなぁ…?結構分かりやすいと思うんだけど…まあ小さい頃から森にいたし慣れが大きいのかな…っと、早速お出ましだ」
今回はレイラを守りながらの探索という事で、ユリスは気配、魔力の双方からの感知で警戒している。すると早速魔物を進行方向に見つけたようで合図を出す。
警戒しながら進んだ先にいたのはダンゴムシであった。
「おー…あれはモリダンゴだね。物理防御は高いけどただ転がって来るだけだから、前衛が受け止めて魔法で攻撃が有効かな。って事でっ…はい」
「分かりました!『ファイアボール』!」
「え?」
「はい?」
ユリスが合図と共に上空へ蹴り上げたモリダンゴに向かってレイラが言われた通りに魔法を発動。だが、それは火魔法だった。ここはダンジョンとはいえ森の中である。青々としているため比較的燃えづらくはあるだろうが、それでも火気厳禁の場である事は言うまでもないだろう。
「あー…とりあえず水っと。
あっちにも水やって、一旦スタート地点に戻ろうか?」
この場はひとまずユリスが魔術で水を発生させて消火。ついでにモリダンゴにも放水して倒し、魔物がやって来ないセーフティエリアでもあるスタート地点へ引き返す事に。
「申し訳ありません…」
「いやまあ、燃やしたらこのダンジョンはどうなるかとか気になるから今度やってみても良いんだけど、まあ今回はね?初回だし。
それで…もしかしてレイラって火属性以外の遠距離攻撃手段持ってない…?」
「はい…私の攻撃手段は武器術以外は全部火属性です。
頂いた障壁でサポートするくらいなら出来なくはありませんが…」
「障壁もねー…発動後に動かせるようになるくらい習熟すれば攻撃にも使えるんだけど、すぐにはちょっと厳しいよね」
「そうですね…集中すればゆっくり動かす程度なら出来ますけど、攻撃に使えるくらい衝撃を出そうと思ったら少々厳しいですね」
「動かせるんだ…でも戦闘中で使うのは難しそうだね。
それなら違う紋章に変えてみる?杖の心得とか正直必要なの?って言いたくなるレベルだし」
レイラの遠距離攻撃手段が火属性のみである事が判明し、ユリスは解決案として紋章の交換を提案。スキルの補助無しであれだけのナイフ捌きを見せるのだから、滅多に使用しない杖関係のスキルなど無くてもどうにでもなるだろうと判断した形だ。
紋章の付け替え自体はユリスが紋章術のスキルを持っているのでこの場で何度も可能である。
「確かにそうですね…いつかは必要と思ってましたし、ちょうど良い機会なのでしょうね。
それで…できればユリス様に選んで頂きたいのですが…」
「僕のおすすめはね…まだ手元に無いんだ」
「??
どういう事でしょうか?」
「レイラなら使いこなせるであろうスキルは前から目星が付いてるんだけど、それを低レベルの時点で覚えられる紋章が見つからなくてね…まだ探し中って事。
まあ今回は急しのぎとして、この前手に入れた光の心得にしておこうか。使えるのは『光属性変換』だけだけど、火魔術の時に使ってるだろうし使い方は大丈夫だよね?」
「私のために探して頂いていたなんて…!ありがとうございます!
あ、属性変換なら分かるので大丈夫です。多分ボール系で宜しければすぐに発動できると思います」
前々から探しているというユリスの言葉に感激したレイラは見つかったら絶対にそれを使いこなしてみせると既に意気込んでいる。
新しい紋章については使えるスキルが手持ちのものと同系統という事もあり、得意な火よりは威力が落ちるがすぐにちゃんとした遠距離攻撃手段として扱えるまでになった。
スタート地点での軽い慣らし運転を終えたのちダンジョンの探索を再開する。
「なんか気配がするんだけど…あれかな?…スケイルカラーね」
「あの赤いやつですか?」
進んでいくとユリスが気配を感知する。モリダンゴは転がって来ないので辺りを見回すと、幹の一部が赤色になっている木を見つける。
「そうそれ。色によって効果が変わる鱗粉を振り撒くだけでダメージになる攻撃はしてこないって。赤色はアビリティ低下ね。
まあ遠距離で先に発見できればそう強い魔物じゃないかな。ランクが上がると体当たりで鱗粉まみれにしてくるようになるみたいだけど」
「それならここから先制攻撃しましょうか?」
「あ、ちょっと待って。
鱗粉を落とせば時間経過で回復するみたいだから、今のうちにどんな感覚か体験してみようか?感覚を掴んでおかないと気付かない内に弱体化してるなんて事態にもなり得るからね」
「確かに…他の魔物と一緒に出てきた時に気付けないと危険ですね。分かりました、ではダメージを食らう心配もありませんし近接で倒してきます」
そう言ってレイラは素早く接近しナイフを閃かす。数度切りつけたところでスケイルカラーが反撃とばかりに羽ばたいて鱗粉を周囲にばら撒く。
「えっ…ううっ、なんか気持ち悪いです…
かかったかどうかは分かり易いですけど、かかりたくはないですねこれは…」
まともに鱗粉を被ってしまったレイラは急に動きが鈍くなり攻撃の速度も回数も落ちている。
万全の状態の連撃でおよそ1割のダメージだったためこのままでは倒すのにかなり時間がかかると予想される。
「あー…動きがかなり鈍ってるなぁ…そんなにきついのかな?
レイラー!交代ねー!ちょっと僕も試してみる!」
レイラのあからさまな変化に心配したのか好奇心が刺激されたのかは不明だが、突如交代を言い出したと思ったらスケイルカラーに向かって突っ込んでいったユリス。
ユリスの攻撃方法は素手なので一方的に殴っていても鱗粉の効果は現れるはずである。が、一向にその様子は見られない。
「んー…?なんか変わったような感じはない。レイラー!ステータスウィンドウの表示ってどうなってるー?」
「アビリティの下に状態の欄ができていて、そこに“【VIT】-1”の表示があります!」
「って事はまだかかってないと…レイラはすぐ効果が出たのに……あっ…あー…いいや、倒しちゃお」
わざと鱗粉を浴びに行ってもユリスのステータスには一向に変化が現れない。それもそのはずで、ユリスはシエラから『状態異常完全耐性』のスキルを貰っているのだ。アビリティ低下の状態異常など効くはずもない。
スキル欄を見てその事に思い至ったユリスは、若干の八つ当たりも兼ねて魔纒を伴った手刀でスケイルカラーを切り裂いてしまった。
「ユリス様、何かあったのですか?」
「あーうん…状態異常耐性があるの忘れてただけだから大丈夫だよ。
それでレイラ、感覚は掴めた?」
「はい。何というか全身に不快なものが纏わりついているような感覚でしょうか?とにかく気持ちが悪くて戦闘に集中出来ませんでした。VITが1ランク低下しただけであそこまでとなると、その不快さがメインの効果と言ってもいいかもしれません。
鱗粉そのものも不快ですし、今後あの魔物を見つけたら何色だろうと絶対に近寄らずに遠距離から確実に仕留めましょう」
「そんなにか…」
相当不快な状態だったのか、2度とかかりたくないと言わんばかりの形相で捲し立てるように感想を言うレイラを見て、次からは見つけ次第すぐに仕留めようと決めるユリスであった。
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