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タイムリミットは真綿のごとく

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あれからすぐに帰国した私は森の中に私の為のお屋敷を用意してもらってそこでゆったりと過ごしていた。
今はカミオが獣化しているので、存分にモフらせてもらっている。

「あー、やっぱりモフモフはいいね、あー落ち着く」

森は地球でいえば五月くらいの穏やかな日差しと風が吹いていて、芝生に寝転がってモフるのが最近の日課になっている。

「あ、今日もやってるね。カミオもずいぶんおとなしくしてるじゃないか」
「あ、アベル。そういえばどうなった?」
「予想通り、王族は全員体調不良で公務がほぼ中止。周りのお貴族様も芳しくないね」
「町の人たちは?」
「脱出した人たちまでは追えなかったけどおおむね回復傾向にあるよ。今年は豊作になりそうだ」
「そっか。良かった」

あの後、教えてもらった通り祈りが作用して、私にひどいことをした人にはお返しを、そうでない人たちには恵みがいきわたったらしい。
私を追放した後から起きていた苗の立ち枯れなんかも回復して、飢饉も何とか回避できる水準になったそうだ。

「それからまた癒し水の注文が入ったよ。今回は10セット。まあ、納品はゆっくりでいいんじゃないかな」

王族や一部貴族が体調不良に苦しめられていると聞いたアベルは、さっそく私の祈りを込めた水を魔公国の最も有効な薬として売りつけている。
王族やお貴族様ですからね、もちろん素敵なお値段が付いてます。
まあ、飲んで一時的には回復するけど私の祈り付きだから、自分で真綿で首を締めるようなもんなんですけど。

「それにしてもよくこんなこと思いつきますよね」
「いやー、それを言うならカミオの方がえげつないことかんがえてたからなぁ。僕はまだ優しい方だよ?」
「これでまだ優しい方……マジか」

まあでも、これのおかげで『追放されてもなお救いの手を差し伸べる聖女』のイメージが強化されて都合がいいんだけど。
とりあえずこの二人は敵に回したらめちゃくちゃやりにくいだろうことは実感している。

「そういえばもうどっちがアルテ帝国の立て直しの王になるのか決まった?」
「いや、まだ。僕らはそこまで難しいことだとは思わないんだけど、昔の人たちは会議が大好きだからね」
「ふうん」

聖女の癒しの反転で王族を亡き者にするだけでなく、危険因子からは治療で財産を搾り取っておき、民衆には、けなげで慈悲深い聖女だと信仰させておく。
あれ、この二人まだ実務経験あんまりないはずなのに、抵抗なく植民地化するプロなのでは?

「あ、そういえば頼まれてたもの買ってきたよ」
「え、本当!」

平和な日本にいた私には、そういうことを考えるのはあんまり向いてない。
自分の性格的にも。
まあ今は私はのんびりこの二人、もとい魔公国に囲われていればいいのでゆっくりしましょ。
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