想っていたのは私だけでした

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アル視点

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「いつまでそちらにいらっしゃるんですか?こちらへどうぞ」

 あの、聞いてます?と声をかけられているのが私に対してだと認識するのに時間かかった。
 殿下の気配を察知して、魔力で監視して周囲の警戒をしていたからだ
 窓から見ると殿下が大丈夫だと念を送ってきた
 心配だが仕方ない。とりあえず室内で待つことにする

 グイグイと左腕の服を引っ張るのを感じた

「紫さん、お茶いれますから」

 スミレが呼びかけに答えない私の服を引っ張っていた

「あ、あぁすまない」

 殿下を心配するあまり、自身の警戒を怠っていた。近づいていたことに気づかない自分に驚く

「いい加減名前を覚えたらどうだ?私は紫ではない、アル…んん…」


 本名を言いそうになって口籠もる
 真面目すぎるとよく言われるが、それはあくまでも良く言えばということ
 
 柔軟性がなく臨機応変が難しいので、偽名や嘘などつけない性格だ
 潜入にも向いてない

「アメ…だ」

 苦虫を噛み殺した顔で何とか口に出す
 いい加減、こういうことにも慣れねば

 くすくすと笑いを噛み殺す声がしてなんだと顔を向ける

「だって、名前を言うのにそんな難しい顔をして。ちょっと変わってますね。紫さんじゃなかったアメさん」

 なんだそんなことかと思い、勝手に開けるぞとお茶を淹れるのを手伝う為にカップを戸棚から取り出す

「そこに並べてくれますか?」

 私に見向きもせずに声をかけてくるスミレ。新鮮な反応にどこか心地良さを感じてもいた

 何を馬鹿なことを考えている私は


 ふとスミレを見ると窓の外へ目を向けていた

「デ、デーが気になるのか?」

 無理もない。殿下は誰にでも分け隔てなく話しかけてくださるので、惹かれる者は多い。見惚れる者も
 分かっていることなのに、なぜか面白くないムカムカとした気持ちになった
 何か変な物を食べただろうか


「あ、ちょっと髪の色がほんの少しですよ、あんなに綺麗な金色でないんですけど、似ていて、懐かしくて。」

 何でもないですと私に顔を向けた彼女の表情は物憂げで、吸い込まれそうな黒い瞳の奥には光の粒子がキラめいて見えた。欲しいと思った。

「恋人か?」

 不躾な質問をした自分に驚く
 咄嗟に言葉にでていた 

「兄…のような、とても頼りにしてた人です。こちらにおかけください。どうぞ」

「私が運ぼう」

恋人という返事ではなかったことに、ほっと安堵した
一体私はどうしたというのだ
別に恋人でもいいではないか

いや…


「何だ?アメ~もう尻に敷かれてるのか」

カップを並べてる最中に殿下が戻ってきた

「な、何を」

「ははは冗談だよ。アメがお茶をね~」

「淹れたのは彼女です。私は手伝ただけで」

「あ、そういえば名乗ってませんでした。私はスミレといいます」

「お嬢さんにピッタリな名前だ、そう思うだろアメも」

ありがとうございますと頬を少し染めて答える彼女にイライラする

「別に」

もう少し優しい言い方はできないのかと殿下の声が聞こえるが心がざわめく

いかん、これはきっと精神の鍛錬が足りないせいだ

鍛えねばとアルは心に決めるのだった
















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