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第四部:ルーナの秘密

その68 矛先

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 「うわああああああああああああああああああ!!!」


 私の体を淡い光が包み込む!!

 全身から魔力が抜けると同時に全ての身体能力が上がっていく。
 完全に強化された事を感じた瞬間、私は弾けるように野盗のボスへ向かっていた!

 「んん? なんだそりゃ……」

 野盗のボスが何か言っていたが、私には聞こえて居なかった。

 ヒュン……!

 ブシャァァァァ!!!

 「は? え? ……あがああああああ!? 腕がああ!?」

 「まだよ」

 「こ、このガキぁ!?」

 切れた腕を拾い、傷口へ当てるとみるみる内に再生していく。
 オーガの生命力は高いというけどデタラメな再生能力だ。

 でも、いつまで再生ができるかしらね!!

 「く、くそ!? 何だこいつは!? うが!? ぎゃあああ!」

 喉、腕、足、無防備になった所を次々と切り裂いていき、大量の血を噴出させる。

 
 
 <あ、あれは……デッドエンドか……? いかん! レジナの出血が酷い! レイド急げ!!>

 「真空裂破ぁ!! フレーレちゃんはレジナを! 俺は村長の娘を保護する!」

 鉄格子の向こうでレイドさんが技を使って鉄格子をバラバラにしていた。
 フレーレが泣きながらレジナに駆け寄り、おチビ達も必死で母親に呼びかけていた。

 「レジナしっかりして! ≪シニアヒ……≫」

 フレーレが魔法を使おうとしたが、動きが止まる。どうしたの!?

 

 「どこ見てるんだぁ!」

 「うるさい!!」

 ハルバードを持っていた腕はとうに斬り落とし、拾わせないよう遠くへ蹴り飛ばしていたが、残った腕で掴みかかろうとしてきた。
 傷は再生しているが、ダメージは軽くなかったようで動きがかなり鈍い。ガントレットの裏拳で殴り飛ばすと床に倒れ込んだ。

 「ば、ばがなあぁ!? オーガの力だぞ!? それがこんなガキにぃぃぃ!?」

 「オーガだか何だか知らないけど、人に迷惑かけるんじゃないわよ!」

 「あがががばがば!?」

 起き上がろうとしたボスの顔面を、お腹を、隻眼ベアのガントレットで何度も殴りつけ、最後にガントレットから爪を出して脇腹を刺すとやがてボスは動かなくなった。

 「やったか!? 娘さんは無事だ、レジナは!」

 レイドさんが気絶していたレーネさんを抱きかかえて戻ってくる。
 そしてフレーレは……

 「ど、どうしたのフレーレ!?」

 何度も回復魔法を唱えようとしているが、最後まで言葉が出ないようだった。
 よく見ると嘔吐した後も見られる。

 「……はっ……はっ……」

 <……トラウマか? あの時ヒールで死んでしまったのを目の当たりにして……>

 「きゅーん! きゅーん!」

 「きゅん……」

 「う、う、レジナ……! ≪シニア……≫げほ!?」
 
 涙を流しながらフレーレは頑張っているが、体がいう事を利かない、そんな感じだ。
 レジナの呼吸が小さくなってきた……!
 
 「フレーレ! しっかり!」

 「は、はい……! ふー! ……ふー! ≪シ、シニアヒール≫! うぐ!? おえ……」

 ぱああ……と、レジナの体に光が降り注ぎ傷口が塞がっていった! よ、良かった……。

 「あ、ありがとうフレーレ!」

 「い゛……い゛え……ひゅー……ひゅー……」

 倒れそうになったフレーレを支えて抱きしめると、少し荒かった呼吸が戻り始めていた。
 レジナは目を閉じていたが、痛みと出血で気絶したようだ。胸が上下しているので息があることは確認できた。

 <しかし、何とかなったがシニアヒールで傷が塞がる程度とは……これは深刻かもしれんな……>

 チェイシャが呟いたのと同時に部屋へライノスさんが入ってくる。
 
 「すいません、遅れてしまって! 途中で出くわした野盗と戦闘になってしまい……」

 「ライノスか、とりあえずボスはこの通り倒したが……」

 「な、何ですかこれ……? オーガ……?」

 「いや、人間だ。何かの実験とやらで、オーガにされたとか言っていたが、目が覚めてから詳しく聞かないと何とも言えない」
 
 レイドさんが説明しながらライノスさんがボスを縛り付け、倒れていた三人も無事捕縛した。ボスはロープではなく念のため鎖と錠を使って動けなくしている。

 「……これで村は助かりましたね」

 「そうですね。ライノスさんも依頼達成できたんじゃ?」
 
 「ああ、騎士団に引き渡せば依頼は完了だ。オレはここで見張っておくから、村から何人か呼んできて欲しいんんだけど……」

 村へ引っ張るにしても、ここで騎士が来るまで放置するにしても村人の助けは必要だと言う。
 レーネさんを送り届けた時にダラムさんに言っておくことを約束し洞穴を出た。


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 「おお! 無事じゃったか!! ……レーネも!」

 「ああ、お父さん……!」

 「良かったですね……」
 フレーレが抱き合う二人を見て思わず声を出す。

 「ダラムさん、野盗は討伐できました! 今はライノスさんが見張りをしてくれているんですけど、村の人を何人か貸して欲しいそうです。

 「本当かね!? ああ、みな喜んで手を貸すじゃろう。すぐに若い衆を行かせるよ」
 私達が先に捕まえた野盗と同じ牢へ入れるらしい。本当は逃がすつもりだったそうだけど、良かったとダラムさんは胸を撫で下ろしていた。



 「きゅーん……」「きゅん……」

 <用が終わったなら戻ろう、レジナが心配じゃ>

 「そうね……」

 「……」

 目を覚まさないレジナを背負って私達は宿へと戻る。フレーレがレジナを見て落ち込んでいるのが目に見えて分かった。


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 「……血を拭いたし、包帯も巻いたから後は目を覚ますのを待つだけね。血が流れ過ぎたから起きたら美味しいものを食べさせてあげようかな」

 ベッドへ寝かせると、呼吸が落ち着いてきたようだ。

 「とりあえずレジナは助かったか……ルーナちゃん、ちょっといいかい?」

 レジナを撫でた後、レイドさんが私に近寄ってきて……

 ゴツン!

 音がするほどの拳骨を頭に受けた! 痛い……。
 さっきまで涙目だったフレーレが驚いて目を見開いて私とレイドさんを交互に見ていた。

 「何で殴ったか分かるかい?」

 私は訳が分からず、首を振るだけだった。

 「……一人で先行した事がまず一つ。あの部屋に居たから、村長の娘さんに何かあったから追いかけたのは分かるけど、一人でボスの部屋へ突っ込むべきじゃなかった。せめて俺達が来るまでは身を隠して様子を見るくらいにとどめておくべきだ、鉄格子で分断させられたから分かるだろう?」

 「は、はい……」

 「二つ目は、補助魔法を過信して戦っていた事だ。確かにルーナちゃんの補助魔法は強力だけど、本人のレベルが低い場合はそれに値しない。さっきもレジナが飛び込んできたから良かったものの、そこのベッドで寝ているのはもしかしたらルーナちゃんだったかもしれないんだ」

 確かに……ここ最近順調だったから調子にのっていたふしはあったかも……。隻眼ベアの時も結局デッドエンドに頼ったのを忘れてた……。

 「三つ目は怒りに任せてデッドエンドを使った事。勝機があっての事なら構わないんだけど、レジナがやられたことで逆上してただろう? あれじゃ消耗が激しいし、もしあの野盗のボスが耐え切って、デッドエンドが切れたらどうするつもりだったんだい?」

 「…………」

 「……最後は、村長さんの娘さんを放置していたこと、だな。ルーナちゃんの補助魔法の早さと腕力アップなら、女性一人抱えて逃げることは出来たはずだ。三人と戦って勝ったのは良かったけど、すぐに連れて逃げるべきだった。オーガになっていなければルーナちゃんに追いつけっこ無いんだから」


 「……は゛い゛ずびばせんでしだ……」

 私はちゃんと一言一句聞きながらも、号泣してしまった。言われた事は分かるし、叩かれたことよりも仕方ないと思う。
 でもそれよりも、あの優しいレイドさんに私を叩かせてしまった事が悔やまれる。それに怒っているハズのレイドさんが泣きそうな顔をしていたのでさらに申し訳ないと思った。

 「……ふう……それだけ心配だったってことだよ……。これに懲りたらもっと考えて行動すること! いいね?」
 最後はフッと笑って頭を撫でてくれたけど、それがよけいに私の涙を誘う。

 「……ごめんなさい……」

 <レイドよ、わらわも止めなかったから同罪じゃ、すまんかった。そして、ルーナよお主デッドエンドが使えるとは聞いていなかったが……>

 「すん……ぐす……そ、そういえばチェイシャと戦った時も、その後ついてくるようになった時も使ってなかったわね……」

 「わたしも初めて見ました。……ホントに髪が白くなるんですね……」

 すでに使用して一時間近く経つので、私の髪は真っ白だった。

 <そのデッドエンドじゃが、それは我が主が作ったモノなんじゃ。解せぬのは女神の力……アルモニアの力と同居している、いや『できている』ことなんじゃ……>

 「え!? この魔法ってエクソリア、様の?」

 <うむ、デッドエンドと我が主について少し話をしようか……この、母狼の事も……>

 チェイシャがレジナのベッドへ乗り私達を前にして語り始めた。
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