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第六部:救済か破滅か

その142 舞闘

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 フレーレが足へ、セイラがベルダーの援護をすると決定した頃、ベルダーと師範は迫り来る蛇の首をかわしつつユリの体がある胴体を目指していた。

 「ユリ! 目を覚ませ!」

 <ほほほ、無駄よ! すでに意識は封じている!>

 八つの頭の内、一本は氷付け、一本はセイラを、もう一本はフレーレを追うがそれでもまだ五本の頭が残っている。有利は変わらぬとばかりに地を駆けるベルダーへと襲い掛かった。

 しかしその時、蛇の頭の上に乗った師範が攻撃を仕掛ける。

 「<雷は瞬く奔り、其の敵を討たん>!」

 ビシャーン!

 師範が何やら術を唱えながら刀を振るうと、切っ先よりいかずちが迸りベルダーを狙った頭に直撃した。一瞬怯んだその頭の目に手裏剣を投げつけ両目を潰す。

 <おのれ! ジジイお前から殺してくれる!>

 シュラァァァァァ

 二本の頭が師範へと向かってきた! そこにカイムが刀を逆手に持ち、斬りかかる。

 「ここは私が!」

 「カイムか! 一本ずつ手分けするぞ!」

 「は! これでも食らえ! <残光閃>」

 キキキン! と、金属と金属が弾かれるような音が洞穴に響く。その技名どおり、斬った後は光の軌跡がいくつも出来ていた。

 <まだよ!>

 「くっ!? しかし血を出しているところを見ると無敵ではないらしいな! 師範、鱗に沿って刃を入れてください、鱗と鱗の間は硬くありません!」

 カイムは頭に弾き飛ばされながらも刀を刺して反撃をする。それを聞いた師範は頷き、刀を構え直して迫り来る首を迎え撃つ態勢に入った。

 <人の首の上にいつまでも乗ってるんじゃぁないわよ!!>

 「ふん、体当たりか噛み付くくらいしか能がない頭にはそれがお似合いじゃろうて。そら、『雷刀・霹靂』をくれてやろう」

 刀を鱗と鱗の間に突き刺し、先程のいかづちを体内に弾けさせる師範。その瞬間、師範の乗っていた蛇の頭がバシン! と振るえて白目を剥いた。口から肉の焦げる匂いをした煙を吐いている。

 一本を無効化し、刀を抜こうとした師範に、蛇の牙が師範を切り裂いた。

 <遅い!>

 ザシュ!

 「うぬ! ぬかったか。じゃが、貴様はこちらを侮りすぎじゃな。すでに三本の首を無力化させてもらった。でかいだけで、連携も何も無いから余裕じゃわい! カイム!」

 「ええ!」

 師範はそのままカイムと戦っている首へと向かい、カイムへ合図をする。そして下から二人で首を斬るため交錯する!

 「「<龍牙斬>!!」」

 <げぇぇぇ!? この首を落とすとは!>

 皮膚が硬く切断できないとバステトがボヤいていたが、二人の技によりボトリと首が落ちた。そして師範を狙っていた首がその光景を見て突撃を止め、威嚇を始めた。

 <シャァァァァ! 許さぬ……絶対に許さぬぞ……! あの女、わが体にしてやろうと思ったが気が変わった……まずはあの女から食い殺してくれるわ>

 「む!? いかん! ベルダー行ったぞ!」


 
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 「ユリ! ユリ! 目を覚ましてくれ!?」

 「……」

 上半身だけ突き出たユリの体をゆすり、頬を叩くがだらんと体を伸ばしたまま動く気配が無い。腕を見ると、じわじわと鱗に侵食されているようだった。

 「くそ、どうすれば……!」

 神殺しの短剣でユリの体の周りを切り裂いて救出しようとするも、深く飲み込まれているため時間がかかる。そうしていると、後ろから師範の叫び声が聞こえてきた。

 「ベルダー行ったぞ!!」


 「こんな時に!」

 <ほほほ! ユリを飲み込めばこんな傷などすぐに癒える……さ、おどき!>

 「一度はユリから逃げた俺だが、もう逃げるのは無しだ。俺の大事なユリは必ず助ける!」

 ピクッ……

 <ならば一緒に死ぬが良いわ!!>

 シュルルルルル……!

 ユリとベルダーを丸呑みしようと口をばっくりと開け、覆いかぶさるように口を閉じようとした首。しかし、その口を閉じる事は出来なかった。
 
 「ぐぬぬぬぬぬ!!」

 <ぬおおおおお!? こ、こいつ!?>

 ベルダーは神殺しの短剣を掲げて上顎を刺し止めていた。下顎は足に力を込めて閉じられないように踏ん張った形になる。

 <しかし、首はまだあるのよ! ユリはもらった!>

 「くっ! <炎破>!」

 ベルダーが短剣を持っていない方の手から術を出す。しかし、態勢が悪い状態ではうまく当てる事ができなかった。

 <シャァァァァ! もがけもがけ!>

 アネモネの首がいよいよユリに首が迫ろうとしたその時である!

 グラリ……

 <ん? な、何だ?>

 アネモネの体が斜めに倒れ、そして……


 ドォォォォォン!!


 「……! 今だ!」


 何とアネモネの体が横に倒れたのだった!



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 <アネモネの体が倒れる少し前のフレーレ>


 「しつこいですよ!」

 <うごえぁぁぁぁ!? こ、この力は一体……>

 足元へと駆け出したフレーレが、襲いくる首を聖魔光のメイスで一蹴。
 首がじゅうじゅうと焼け、悲鳴をあげて動かなくなった。その隙にフレーレは足元へ迫った。

 「足は二本、これでよく支えてますね」

 オロチと化したアネモネの体は八つの頭を支えるには少しばかり小さいとフレーレは感じていた。だが、今はそんなことよりも足止めをする必要があるとメイスを握り直す。

 「せぇーーーの!!」

 ゴツゥゥゥゥン! と、大気が震えそうな音と共にオロチ・アネモネの脛にメイスが叩き込まれた。

 だが……

 「……? 痛みを感じていないのかしら?」

 すこしぐらついたが、生き残った頭が体を心配する、または痛がる素振りを見せていない事に気づく。首単体では先程、聖魔光で溶かした頭は苦しんでいたが、胴体は不気味なまでに静かだった。

 「なら倒れるまで叩いてみましょう」

 ドゴン! ドゴン! ドゴン!

 一本の足に集中して何度もメイスを叩きつけるフレーレ。しかしそこで悲劇が起きた。

 ベキン!

 「あ!」

 何と愛用のメイスが真っ二つに折れてしまったのだ!

 「……無理させすぎましたね……そういえばジャンナの神殿からずっと戦いが続いていましたから」

 転がった先端と一緒に柄を置いて、フレーレは両手に聖魔光を宿す。

 「こうなったら素手でもやるしか……! たああああ!」

 元々神職のフレーレに「殴る」という行為はあまり似合わないし、苦手である。だが、武器に宿す場合と違い、拳に聖魔光を宿して殴る場合、十全に力が相手に伝わるためその威力は数倍にも及んだ。

 そして炸裂するフレーレのパンチ。

 グラリ……

 「え!? い、いける? えい!」

 さらにもう一撃を加えると、アネモネの体は横へ倒れこんでいた。

 「あ、あはは……学院長、これもしかしなくても凄く危ない技じゃないですか……? フレーレベルアップ……?」

 伝授してくれたフォルサに対して複雑な思いを口にしたが、その言葉は誰も聞いていなかった。
 

 そしてバランスを崩したアネモネの首は全て沈黙していた。

 残すはユリを助けるのみとなったが…… 
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