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第六部:救済か破滅か
その149 偶像
しおりを挟む<さて、どこから行くのじゃ? 食べ物か? 食べ物かのうやはり!>
「お、おいはしゃぐなよ……皆見ているじゃないか……」
買い物のため市場に来たレイド達だが、妙に足取りの軽くなったチェイシャがキョロキョロと物色していた。それを見ていたアイディールが、チェイシャを少し市場から遠ざける。
「はあ……チェイシャ、あまりはしゃぐと目につくわ。別にこそこそするような身分じゃないけど、あなたはマズイんじゃない? 王女様?」
その一言にギクリと体を震わせ、チェイシャは目を泳がせる。
<な、何の事じゃ? わらわは強欲の魔神じゃあ、王女? 何の事じゃ?>
吹けていない口笛をしようとするが、酷い汗をかいていた。レイドがアイディールに尋ねる。
「王女……? もしかして冒険者に殺された?」
「そうよ、さっき『シャールって知ってる?』って聞いたら鼻息を荒くして『あやつは忠実な部下じゃった』ってハッキリ言ったわ!」
ドーン! とチェイシャに指を突きつけドヤ顔になるアイディール。
<ず、ずるいのじゃ! 誘導尋問なのじゃ!>
「まあどっちにしても言動が怪しいからいずれはバレていたと思うわよ? で、この国の顛末を聞いたチェイシャはどうするの? ディクライン達の力を借りれば取り返す事は出来ると思うけど……」
「100年前の事を聞きたがる若者などそうそう居ないだろうから、それもそうだな」
カルエラートが納得したように頷いた後、チェイシャは諦めたように呟いた。
<まあお主らなら良いか……わらわは死んだ人間じゃ。そして女神の封印を守る獣として蘇った。それで終わり。この国は滅びておらん……後は残ったもので築いていくものじゃろう?>
「未練は無いと言う事か?」
<そうじゃな。あのダラードという冒険者の子孫が城にいるのは気に入らんが、今は世界が滅びるかどうかの方が重要じゃ。さ、封印を解くためにダンジョンへ行こうではないか>
「……」
嘘では無さそうだ、と三人は思い、当の本人がこう言っているのだからこれ以上の追求はできない。仕方なくこの話は終わりにして再度市場へと戻る一行。
そして、人気が無いと思っていたが、近くの家屋でその一連の会話を聞いていた者達が居た。
「……聞いたか?」
「ああ、容姿を見た時まさかとは思ったが……」
先程、ギルドから四人をストーキングしてきた若い男である。話題の誘拐犯……と言いたいところだが、ただの冒険者だ。
ただし、祖父や両親が王女の死を悔やんでいた、という恨み言を聞いて育っている。そこに王女の肖像画と瓜二つの女が出てきたらどうだろう?
「本物でも偽者でも構わん、あの女を祭り上げればもしかしたらこの国を俺達の手に戻せるかもしれない……」
「お、おい。いくらなんでもそれは無理だろ? ダラードの時だったらまだしも、今の王は小心者だ。ヘタに藪をつついてもいいことは無いぞ? それにどうやって連れてくるんだ? 国を取り返すのに協力してくださいとでも言うのか?」
四人の男達のうち、一人は冷静に判断していた。
ビューリックのクーデターのような話だが、エリックのように計画を立てているわけではないので、成功率は低い。しかし若い男は言う。
「やりようはある……今、誘拐事件が起きているだろう? 今の時期一人二人消えても問題にならんさ。あの四人は目立つ、すぐに見つかるだろう。そして宿を見つけて攫えばいい。男は手だれだが、この国は俺達のほうが詳しい。連れ出してしまえば……」
「ふむ……では、こういうのはどうだ?」
「なら同士集めは……」
国を取り戻す、という正義に燃える男達の話はエスカレートしていく……。
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「……なんかドキドキするな……」
<堂々とするのじゃ、そわそわしていたら逆に怪しいぞ?>
もぐもぐと何かの串肉を食べながらチェイシャがレイドを肘で突く。王女だと知った後、レイドの動きが不審になっていたのだ。
「こうなったら買い物を楽しまないと損よレイド。とりえあずチェイシャ……いや、これだと王女と名前が一緒だからマズイわね……チョ……ショ……ア、アイシャ! この場限りであなたはアイシャよ!」
<おお、いいのう! 別人になった感じがしてよい! それでいこう、いいなレイド>
「わ、分かった」
チェイシャに詰め寄られてタジタジするレイドを見てカルエラートが呟いた。
「何だろう、結局王女っぽい雰囲気は抜けていない気がするのは……」
「生まれ持ったものかもね? カリスマの恩恵でも持ってるんじゃない?」
なるほどと、チェイシャ改めアイシャを連れて女性陣は買い物という名のショッピングへと繰り出した。後ろから見れば王女と側近に見えなくも無い。
「……こりゃ早いところこの国を出ないとトラブルに巻き込まれそうだな。っと、待ってくれ!」
慌ててレイドが「女性専用の服屋」に入っていき(レイドの)悲鳴があがった。
チェイシャ用の服、暖房道具、食料などを買い込み、あちこち見て回る。王女時代はあまり外に出る事が無かったのか、あれやこれや見て回る姿があった。さらに、死んでからも女神の封印の獣になってしまったのだ、三人は自由のない生活だったせいもあり、開放感が凄いのだろうと思って好きにさせることにした。
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<むっはあ! 美味いのう……>
自分が狙われているとは露知らず、いい飲みっぷりで酒を飲むチェイシャ。
買い物を終えた四人は夕飯を宿屋近くの料理屋で貪っていた。食べていた、ではなく。
「いやあ、おみやげも買ったし後は封印を解くだけね!」
「すまんなレイド……」
上機嫌で乾杯をするアイディールとチェイシャ。カルエラートとレイドも飲んでいるが、申し訳無さそうに謝るカルエラート。封印をちょっと買い物に行くくらいの意識で言うアイディールに呆れていた。
「ああ、いや。俺のカバンはいっぱい入るから大丈夫だ。ほら、カルエラートさんも食べないと……無くなるぞ……」
「そうだな、うん。でも逆に食欲を失くすな……」
それもそのはず、アイディールとチェイシャがモリモリと食べているのだ。こっちの料理はスパイシーなものが多いが、特にチキンが絶品だった。
「なぁによぅ、食べないの? あ、この串焼き追加でー!」
<わらわはサラダをもらおうかの>
まあ、今日くらいはいいかと、レイドも串焼きをかじりながら明日からの話をする。
「とりあえず、チェ……アイシャの故郷ということもあるし、もしかしたらアイシャを知っている者もいるかもしれない。明日、すぐに発とうと思うがどうだ?」
「そうねぇ……誘拐もあるみたいだし、私とか狙われそうじゃない? ほら、美人だし? あははははは、なんてねー!!」
すっかり出来上がっているアイディールがアイシャの肩を叩き、大笑いする。チェイシャが代わりにレイドの提案に答えていた。
<レイドの言うとおりじゃな。少し懐かしい感覚が味わえただけでもよしとしよう、早朝にダンジョンへ行こうぞ。もしかしたら違うかもしれんしの>
「気配で分からないのか?」
<近くまで行けばというところじゃな。入り口まで行けばわかるじゃろう>
人間の体だと感覚が鈍いのかも、とチェイシャが酒を飲みながら軽く言う。
「じゃあ酒はほどほどに、だな。アイディールはもう禁止だ!」
「ああん! ケチぃ!」
酒瓶を取り上げられたアイディールがわきわきと手を伸ばすがカルエラートに顔を押さえられていた。その間、レイドは周囲を警戒していたが、あの若い男以降怪しいものは居なかった。
ただ、レイドは気になる人影を捉えていた。
「(あの子……ミトと言ったか? どうしてこんな所にきているんだ?)」
話を聞いた祖父の孫娘が、フードを被り隅のカウンターでもぞもぞとご飯を食べていた。
「(あの子以外では特に怪しいやつはいない、か。何とか無事に出発できそうだな)」
残った酒を飲み干し、レイドは安堵するのだった。
そして訪れる夜更け……
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