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第六部:救済か破滅か
その151 同行
しおりを挟む<すまぬのう、助かったぞ>
「私が勝手に助けただけ。礼はいらない」
淡々と喋るミトにニコリと微笑み、チェイシャはレイドへと向く。
<大したやつらでは無いが、また来ないとも限らん。やはりすぐに出発するべきじゃな>
「そうだな。目的はなんだったんだろうな……」
<わらわを祭り上げてクーデターでも起こすつもりだったようじゃぞ。まったく、人を巻き込むのは止めて欲しいわ>
すると横に立っていたミトがぽつりと呟く。
「それは仕方ない。お姉さんは昔殺された王女にそっくり。ひいおじいちゃんが生きていたらきっと同じことをしたと思う」
<む? やつらは話を聞いていてわらわを王女だと思ったようじゃが、お主は何故その昔の王女の顔を知っておるのじゃ?>
レイドも顎に手を当てて考える。言われて見ればどうしてチェイシャが狙われたのかが分からないと、頭に「?」がついていた。するとミトが懐から一枚の紙を取り出し、二人に見せる。
「……こりゃ随分と古い紙だな。で、この女性は……」
<こりゃわらわじゃ。そういえばシャールが画家を呼んで似顔絵を描いてもらったのう……>
「え? ひいおじいを知っているの? やっぱり本物の王女様?」
<え? シャールがひいおじいちゃん?>
ミトがチェイシャに首をかしげながら聞くと、チェイシャも首を傾げながらミトを見る。収集がつかなくなりそうなのでレイドがミトに話す。
「このお姉さんは本物の王女だ。ちょっと国の様子が気になって蘇ったんだ、様子を見たらすぐいなくなるからここだけの秘密にしておいてくれ。国を取り返したりはしないけど、分かってくれ」
「うん、分かった。ひいおじいはいつも王女様の話をしていたから会えて嬉しい、かも」
あまり表情の無い子だったが、この時ばかりは少し興奮気味に返事をしていた。
<シャール……ちゃんと逃げて子を育てたのじゃな。逃がして良かったわい>
「……でも、ずっと城を睨みつけてた。城を乗っ取った冒険者はひいおじいの顔を覚えていなかったから、城の見える町外れに住んでたの」
<そうか、苦労をかけたな>
「ううん。苦労したのはひいおじい」
チェイシャがミトを撫でると目を細めてなすがままになっていた。そこでレイドが区切りをつける。
「一旦部屋へ戻ろう。念の為に俺が起きておくからチェイシャは寝ていてくれ、明日からダンジョンへ向けての旅になるからな」
<あい分かった。わらわは戦力として役に立たんが……休ませてもらおうかの……あ、シャールの墓に行くのはよいか?>
「ああ、アイディール達にも聞いてみよ……」
それくらいならいいだろうとレイドが返事をしようとしたが、ミトの言葉で遮られた。
「王女様、ひいおじいのお墓は無い。死が近づいた時、家から出て行ってそれから戻ってない」
<なんじゃと? 何か遺書などは?>
ミトは首を振って、ない、とだけ答えた。何故死か近づいているのに家から出たのだろう……チェイシャは考えるが答えは出なかった。
そして、ミトも護衛をすると同じ部屋に寝泊りすることに決まり、レイドのベッドを占有していた。それなりに戦えるが、夜更かしには弱いようでウトウトしつつ、やがて寝息を立てていた。
徹夜のため本を取り出して明かりを小さくするレイド。チラリと寝息を立てるチェイシャを見て一人呟いた。
「……色々あって気にしないようにしてきたけど、どうして人間の姿になったんだろうな。他の守護獣も戻ったりするのか?」
レイドが言うように、魔神としての力が無くなったチェイシャは本当に生前と同じ人間そのものなのだ。主であるエクソリアは何も言っていなかった。これは偶然なのだろうか……?
そして危惧していた襲撃は無く、そのまま朝を迎える事になる。
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「ごめん! チェイシャ!」
朝食の場で、開口一番平謝りしたのはアイディールだった。チェイシャとミトが寝入った後カルエラートと共にレイドに部屋に来ていたのだ。
バタバタしていた状況をレイドに聞き、反省。そのまま部屋に戻って今に至る。
「私からも謝罪する。出遅れてしまってすまなかった」
<なに、わらわも攫われかけて迷惑をかけた。だが、ミトが助けてくれたし大丈夫じゃあ。女神の封印の場で頑張ろうぞ>
「えへへ」
「それじゃ、飯を食ったら出発だ。世話になったな、ミト」
チェイシャにまた撫でられ顔を緩ませるミト。レイドに声をかけられてきょとんとした顔になる。
「? 私も行く。王女の護衛をすると言った」
本当はこっそりと言われていたが、こうなっては一緒についていく方がいいだろうと、自分に言い聞かせてミトはレイドに言う。
「いや、しかしダンジョンは危険だと聞いている。誰も戻ってこないらしいぞ」
「知ってる。だから護衛が必要。道案内も出来るから私は重宝するはず」
脅かしたつもりだったが、怯みもせずむしろ役に立つアピールをしてくる。そこでアイディールが声をかけていた。
「道案内はありがたいけど、本当に危険なのよ。だから着いてこない方がいいと思うの」
「ありがとう。でも、おじいには言ってあるし、危なくなったら逃げる」
意地でもついてくるつもりのようだとレイドは思い、ヘタに隠れて着いてこられるよりはいいか、と承諾する事にした。
「仕方ない、危なくなったらすぐ逃げるんだぞ?」
「うん。これでも冒険者登録はしてある。はい」
コクリと心なしか嬉しそうに頷き、再びパンをかじり始めるミト。レイドが渡されたカードを見ると、それなりにレベルはあった。ただ、恩恵は『商売のコツ』という戦闘に向かないもので、彼女の努力が伺える。
「ひいおじいは宰相だったから、商売はよく分からない。誰か教えてくれたら分かるかもしれない」
恩恵はやはり不平等だわ、とアイディールが愚痴をこぼしながらも朝食が終わり、いよいよ出発となった。
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「一頭だけラクダがいる。王女様に使ってもらう」
<良いのか?>
出発前、モルトには言っておくべきかとミトの家へ立ち寄り、挨拶していると、ミトがラクダを連れてきてチェイシャに乗れと促す。
「確かに今のチェイシャは王女時代と同じ能力なら砂漠を渡るのはきついかもしれん、借りておけ」
「スナジロウ君は大人しいから、すぐ乗れると思う。兄のスナタロウ君はひいおじいが乗ってどこかへ行ったからこの子しか残っていない」
少し悲しそうに下を向くと、スナジロウが頬に顔を摺り寄せていた。
<ふむ、ではよろしく頼むぞスナジロウ>
メ"ェェ"! と元気に鳴きチェイシャを乗せててくてくと歩き出した。それに合わせて日除けのフードを被り、町を出発する一行。
「女神の封印、今度はどんなヤツが守ってるんだろうな」
カルエラートがスナジロウを引っ張るための綱を持って話す。
<残り二人じゃからな……アネモネかカーム、どっちかが居るはずじゃ>
「ふうん。どんな獣なの?」
「アネモネは白い大蛇で、カームはグリフォンという獣じゃ。カームは恐らく7人の中でも一、二を争うほど強い。ドラゴンのファウダーとどっこいじゃ>
「ファウダーもそういえばドラゴンだったな……小さいから忘れていたが……」
<それを言ったらダメじゃ……>
「王女様、ドラゴンが仲間にいるの? やっぱり凄い」
キラキラした目でチェイシャを見るミト。
シャールから色々聞かされているのだろう、それが目の前に現われたのだ。ミトの興奮度は高くなる一方である。だが、別れる時が辛くなりそうだと四人は心の中で思っていた。
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