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最終部:タワー・オブ・バベル

その217 極限

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 「あの子、天才とか言われて図にのってるんじゃないかしら」

 「ああ、俺達と話そうともせず……お高くとまりやがって!」

 「頭領の覚えもいいし、雷迅なんて二つ名も腹が立つね」

 「技ばかりみがくから胸が小さいんだよ」

 
 「……」

 稀代の天才くノ一と呼ばれたアネモネは、仲間たちの悪意を意に介さず、任務をこなす。彼女は天才などではなく、努力で勝ち取ったものであるが嫉妬に狂った仲間がそれに気づくことは無かった。後、胸は関係ないと思っていた。

 しかし、集団というものは異質なものを排除したがるものなのだ。それはアネモネも例外ではなく……。


 ◆ ◇ ◆


 「近くで見るとでかいのがよく分かるわね!」

 私はレジナ達と共にカエル化したキルヤと戦っているアネモネさん達の元へ向かう。三体に増えた巨大カエルは愚鈍ではなく、むしろ速かった。

 「疾風斬!」

 お父さんの剣技がカエルの腹を斬り裂く。だけど、すぐに再生し反撃に出てくるから厄介極まりない。回り込んできた舌を私が叩き落とすと、お父さんがこちらに気付く。

 「ルーナか、ディクライン達は?」

 「もう大丈夫、薬が効いて呼吸が落ち着いたのを確認したわ! で……」

 「ふぬう、鎌鼬でござる!」

 「何でこの人も戦ってるの?」

 「俺の手下だ」

 「嘘はいかんでござる!? ……あ、すいません調子に乗りました」

 「ガウ!」

 反論しようとするカラスだっけ? の首筋にお父さんが剣を置き、レジナが足に噛みつくと大人しくなった。
 
 と、話してはいるものの、カエルの攻撃は尚も続いている。私達は散開し、的を絞らせないように動きつつ戦う。するとその内一匹の体がテカテカしていることに気付いた。

 <チッ! こっちだ!>

 アネモネさんが注意を逸らそうとシュリケンのような物を投げるが、当たった瞬間につるんと弾かれてしまう。

 「もう遅いわ! 秘技、蝦蟇油田!」

 ビシャ、っと体を纏っていたテカりを撒き散らせてくるキルヤ。直撃を避けるが、床一杯に体液が広がる。これは……油?

 「ふっふ、これでどうだ! 熱波!」

 ボウン!

 「む! 油を撒いたのはこのためか」

 「熱いでござる!?」

 床に撒いた油に火をつけ、フロアの一部が燃えさかった! フレーレの檻から出た水があったが、油は水よりも軽いので逆に良く燃え広がっている。

 「俺はこの程度の火は効かん。それ……」

 「ふっふ、もう少し弱らせてから食ろうてやろう」

 <させないよ! ぐっ……! ぐあ!?>

 「アネモネさん!? この!」

 三匹が凄い早さでこちらに迫り、殴打と舌で狙ってくる。三匹中、二匹がアネモネさんを攻撃しているので私が援護に向かう。

 「お前も俺の養分になれ!」

 「きゃあ!?」

 「わんわん!」「きゅーん! きゅん!」

 お父さんたちと戦っていたキルヤが後ろから下を使って私を拘束し、引っ張られる。それを見てお父さんたちの手が止まった。

 「ふっふ、攻撃すれば即この娘をパクリと行くぞ? あっちの娘が食われるまで大人しく見ているんだな」

 「ぐぬぬ、そこまで腐ったか……!」

 このままじゃ私のせいでアネモネさんがやられちゃう!? 見ればアネモネさんは二匹に挟まれ攻防を繰り広げていた。
 幸い腕は封じられていないので、
 
 「ふっふ、この大きさで食らうと致命傷だぞ? 螺旋掌……!」

 <うぐ……この程度、舐めるんじゃないよ!>

 アネモネさんの胴体より大きいなカエルの手を受けながらも、手を斬り落としてシュリケンを目に投げつける。

 「ぐあ!? 小癪な……」

 <(腕は再生したが、目はそのまま? もしかすると)……痛ぅ!?>

 「ボーっとしている暇はあるのか? ふっふ、反撃すればあの娘は俺の腹の中だ」

 <見た目通り汚いヤツだね。それでよくニンジャの頭をやってこれたもんだ>

 「ふっ、元々キルヤは強かったからな……それを妬んだ者達に裏切られ、死の淵にいる所を俺が取りこんだのよ。俺は忍び連中を、キルヤを裏切った者達を殺した……そして力でまとめあげてやったのだ」

 <……>

 「キルヤの技能は凄かった……極めた技は誰も寄せ付けることなどできんかったし、むしろ尊敬の眼差しを受ける事が多かったわ……おっと、おしゃべりがすぎたか!」

 <ぐ!?>

 二匹はアネモネさんが動くのを見逃さず、再びアネモネさんに攻撃を仕掛けはじめた。ここで私もようやく目的のモノを腰のポーチから取り出すことができたところだった!

 「アネモネさん、もう少し待っていて! 間抜けな口にはこれがお似合いよ!」

 久しぶりの登場、トウガラシ爆弾だ! 魔王の力を得て強くなったけど、こういった小細工はどこかで役に立つので忘れてはいない。

 「ぶあ!? 喉が……焼ける……!?」

 「おまけよ!」

 喉に直接火の魔法を撃ちこみ、喉へ追い打ちをかけると舌が緩み拘束が解かれた。着地してアネモネさんを狙っているカエルの足を煉獄剣で斬り裂く。

 「うお!?」

 「何!?」

 再生する間もなく、巨体が床にドシンと崩れ落ちる。それをもう一匹が驚愕して見るが、アネモネさんはその隙を見逃さなかった。

 <アンタらの弱点、見切ったよ!>

 「しまった!?」

 飛び上がったアネモネさんの刀が倒れなかった方のカエルの両目を潰し、さらに眉間から脳に向かって刺し貫いた。

 「げ、ゲロぉ……」

 変な液を出しながらカエルは動かなくなり、そのままアネモネさんは倒れたカエルの頭にも刀を突き刺した!
 
 「ゲェロ!? ……ゲボボ……」

 <後一体!>

 後は私がトウガラシ爆弾を食わせたヤツだけ!

 「ゲホ……おのれ……」

 分身だったのだろう、こと切れた二匹が消え一匹に戻る。そして、カエルの姿から元のキルヤの姿へと戻って行った。

 <力を使い果たしたのかい? 年貢の納め時だよ>

 「ふっふ……まだだ、まだ終わった訳ではない!」

 「きゅふん!?」

 人型に戻ったキルヤが再び分身し、今度は八人のキルヤが私達の前に立つ。レジナ達を含めてもこれは分が悪いわね……。

 「さあて、こうなってしまっては仕方がない……生きたまま食うのが良かったが、殺してから食うとしよう……」

 一斉に刀を抜いた所で、アネモネさんがキルヤに尋ねた。

 <……アンタ、さっきキルヤが強かった、と言っていたけど他に強いヤツは居なかったのかい? それと極めたと聞いたけど、アンタ自身はキルヤを取りこんだ後に修行はしたかい?>

 「? 何を言いたいのか分からんが……俺より強いヤツが居なかった訳ではない……だが、少し罠を仕掛ければ簡単に始末できるのだ。さらに俺はもう充分強い……強くなる必要もあるまい?」

 その言葉に目を瞑って考えるアネモネさん。しかしすぐに目を開け、アネモネさんが口を開いた。

 <そうかい……キルヤは強かったかもしれないが、アンタは雑魚だってことがよく分かった>

 「何……!」

 そう言うと、アネモネさんも分身をしだした。しかし数は相手よりも少ない。

 「ふ、ふっふっふ……驚かせてくれる……たかだか四体の分身で……」

 キルヤが笑うと、アネモネさんがニヤリと口元を歪がませてながら……さらに分身を増やした!

 <ルーナ達は下がってな、こいつはアタシが片づける!>

 もう何体になったか分からないアネモネさんの分身がキルヤへと襲いかかった。

 「う、うおお!? な、何体居るのだ!?」

 「馬鹿な!? キルヤの技は最高峰のハズ……たかが小娘如きにこんなことが……!」

 <アンタは努力を怠った。それが敗因だよ 奥義……瞬雷華……>
 
 「ヒッ!?」

 およそ三十体は居るであろうアネモネさん達が短く呟くと、その刹那一瞬で八体のキルヤへと交錯した。音も無くアネモネさん達が現れ、そして一人になる。

 <極めるってのはこういうことさね>

 「……!?」

 キルヤは声をあげる間も無く、全身から真っ赤な血を吹き出す。まるで赤い華が咲いたように。

 <極めた技って言ったっけ? それはキルヤの事であってアンタじゃない。アンタはただ、借りていただけさ。そのツケを今支払った、それだけさね>

 白に近い銀髪に返り血を受けながら、アネモネさんはバラバラに崩れ落ちるキルヤを見て一言呟いたのだった。
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