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最終部:タワー・オブ・バベル

その333 どんな覚悟で

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 「俺達も追うぞ!」

 『ダメだ、追手が居ない今がチャンスってのが分からないかい? エリックが作ってくれた隙だ、ここを逃す手は無い!』

 「ま、まだ来ますよ! 戦うんですか!?」

 フレーレがおろおろしながら叫ぶと、カルエラートがレイドの肩を掴んで言う。

 「レイド、ここはエクソリアの言うとおりだ。礼拝堂へ行くぞ! こういうことが有り得なくないことは分かっていたはずだ、私達のやることはなんだ?」

 「……分かったよ……行こう……!」

 <にゃ! 早く早く! 近づいてくるにゃ! あの目はやばいやつにゃ!>

 バステトが先行して待ち受けていた村人を転ばせながら手招きをする。口から泡を吹き、目が虚ろでどこを見ているかさえ分からない。

 「予想通りか、ならば前から来るやつらには応戦するぞ! 動きを止められればそれでいい」

 「分かりました! ……くっ、力が強い!?」

 「死ぬんじゃないわよ四人とも……生きていれば回復はできるんだから……」

 シルキーが後ろをチラリと見て走る。カームの姿が段々と小さくなっていくのが見えていた。



 ◆ ◇ ◆



 「僕はこっちだよー! ……少し向こうへ行っちゃったか、でもこれだけ引きつければ……!」

 エリックはレイド達と別れた後、一定の距離を取りつつ逃走を続けていた。村人だということで攻撃をためらっていたが、追ってくる村人は理性がない魔物のような目をしている。

 「(やはりアンデッド、か。これは僕がやらないとね)」

 雨の中アテもなく逃げ続けるエリック。数十分ほど走っていると、前方から村人の集団がが行く手を塞いできた。

 「ぐう……ううう……」

 「ぐるぅぅ……」

 「正気じゃないねー。胸糞悪いことをしてくれるよ、まったく」

 追いつめられたエリックは建物を背にすると――

 シャキン……

 剣を抜いた。

 直後、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 「おいおい、自国の民に剣を向けるとは、そっちこそ正気か?」

 抜いた剣を、声のする方向で構えると、追いついて来たデダイトがいた。斧を片手にエリックの前へと歩き出す。

 「君もアンデッド、なんだろう?」

 「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。逃げ出したお前はあの後、俺の生死を確認していないんだからな?」

 「ハッタリだね」

 「なんとでも言え」

 ゴロゴロゴロ……

 睨みあう中、雨音に加え、雷の音が響く。デダイトは一瞬息を吸ってから村人へ号令をかけた。

 「……ここまでだエリック。みんな、やれ!」

 グォァァァァ!

 デダイトが手をかざすと、村人が一斉に動き出す! この数相手ではエリックの腕がかなり立つとしても、無事では済まないであろうことが容易にわかる。

 「いいさ、僕一人の命でレイド達が先に進めるならねー。でも、ただじゃやられない……よ!」

 ザシュ! ガキン! ドッ!

 襲ってくる村人を切り伏せていくエリック。

 「ごめんよ、一度ならず二度までも……今度こそゆっくり眠っておくれ」

 「……」

 切り伏せられた村人を見て、集団が一瞬躊躇する。

 「何をしている! エリックに攻撃を仕掛け――」

 
 ダララララララララ!


 「ギャ!?」

 「グァァァァ!?」

 「ウガァァァァ……」

 「何だ!?」

 デダイトが号令をかけようとしたところで、銃撃の音と共に村人が次々と倒れていく! デダイトが慌てて家屋の影に隠れると、エリックが空を仰いで叫ぶ。

 「あれはカームさん!? それにユウリ君とノゾム君か!」

 
 「う、お、おおお!! カームさん、少し斜めに向いてくれ!」

 <承知!>

 ダラララ!

 ビシュビシュ!

 空からカームの背に乗り、ユウリが固定した機銃を乱射し、村人をなぎ倒していく。しかし、ワイヤーで無理矢理固定しているため、ユウリの腕や足にワイヤーが食い込み、手足に血が滲む。

 「……カームさん、低空飛行を頼む。ユウリの負担を軽くできる」

 <突っ込むか! はははは! いいぞ!>

 「うわ!? ちょっと角度がきついって!」

 ぐん! 
 
 カームが急速旋回し、村人の群れへと突っ込んでいく。地面ギリギリで平行になり、機銃が目の前の村人の肉を引き裂いていった。その光景を呆然と見ていたエリックが我に返り声を出す。

 「君達! 無理をしなくていい! ここは僕が――」

 だが、それを遮るようにユウリが機銃を乱射しながら叫ぶ。

 「囮になって死ぬつもりなら聞けないね! 何を迷っているのか分からないけど、こいつらはすでに死んだんだろ? 過去がどうであったかは悔やめばいいし、忘れる必要はない。けど、エリック、あんたは生きてる。父さんを倒して世界を救うっていう、前を見ないといけないんじゃないのかい! ……くそ、しつこいなこいつら」

 すると、今度はカームの背からノゾムが降り、ダガーを手にエリックの元へと走ってくる。

 「……ユウリの言うとおりだ。俺達も向こうの世界じゃ色々、それこそ人を殺したりもしたことがある。だが、楽しんで殺した訳じゃない……エリックさんも、好きで見捨てたわけじゃない。そうだろ?」

 「あ、ああ……」

 「待っている人も居るんだろ? 終わった人間のために、あんたまで死ぬことがあるか? フッ……! はあ!」

 近くに迫っていた村人をダガーで倒すのを見て、エリックは一瞬強張る。だが、次の瞬間――


 「ふ、ふふふ……」

 「ん?」

 「そうだ……そうだねー。君の言うとおりだ。僕は彼等に償いをしないといけない、そう思っていた。だけど違うんだね……僕はこの人達に謝って、そして進まないといけないんだ。デダイト! 聞こえているだろ! 恐らく正気を保っている君がこの村のキーだね? 出てきて僕と戦え」

 エリックがそう言うと、パチンという音と共にデダイトが家屋の陰から姿を現す。同時に、村人たちの動きが止まり、ぞろぞろとどこかへ去って行った。

 「覚悟が決まったようだな?」

 「……そうだね」

 「いいだろう。その覚悟、見せてもらうぞ……」

 チャキ……

 エリックが半身で剣を構え、デダイトが両手で斧を握る。間合いと武器の差を考えればエリックが有利。

 「懐かしいな。よくお前と模擬戦をしたものだ……」

 「そうだね。6-4で僕が勝ってたかな?」

 ジリ……

 「よく言うぜ! 6は俺だろうが!」

 ジリ……

 「そうだったかな? 君はしつこかったからね」

 「ハッ! 二人で騎士になって、この国を救うんだって意気込んでたっけな」

 ジリ……

 「……そうだったね。僕は、騎士になることができたよ」

 「ああ、見りゃわかる。お前はすぐに降参するからな、心配だったよ……」

 ジリ……

 「かもね。でも、今日は負けられない――」

 ザッ……!

 間合いに入り、先に攻撃を仕掛けるエリック。初撃を斧で受け流し、そのまま斧をエリックの肩へと振りかざした。

 「もらった……!」

 「甘い……!」

 ガッ! ガキン! ザン……!

 「なに!? は、弾かれた後、そのまま突っ込んで来るとは……!?」

 「君の攻撃は変わってないね……僕の初撃を待って弾くのは君の癖だ」

 エリックは雨の中、涙を流しながら答える。デダイトと手合せをするため、考案していた動きだった。

 「強くなったな……うぐ……」

 ドサリと、優しい目をしたデダイトが地面に倒れるのだった。
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