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最終部:タワー・オブ・バベル
その391 不屈
しおりを挟む「はあ!」
「だぁりゃああ! 師匠の仇にもなるとはな神裂ぃ!」
ガキン! ガキン!
レイドとアントンが左右から斬りかかり、神裂はそれを両の腕で受け止めてから笑う。
『ぎゃははは! いい気迫だ、そうこなくっちゃな!』
「チッ、腹に剣を刺したまま何を言ってやがる……!」
ガチンと受けた剣を振り払われたアントンは態勢を整えながら悪態をつく。逆にレイドはしっかりとした足取りのまま神裂へ猛攻を繰り出す。
「お前に体を貸していたゲルスも殺したか! お前はなぜこんなことをする? 言え!」
カカカカカ、と神裂に得意な間合いを取らせずに迫るレイド。全て防いでいるが、不利と見た神裂は攻撃範囲から逃れようと身を捻った。しかしレイドはその動きを見逃さなかった。
「うおおおおお!」
『おおおお!?』
神裂の動きに合わせて右肩に剣を突き刺し、そのまま壁へと縫い付けた。顔を近づけてレイドはもう一度神裂へと問う。
「……言う気になったか? 今のお前は剣でダメージは通るまい。しかし、手足を切断して行動不能にすることはできる」
『ほう、いい面になったな。そうだ、その『なにが何でも』という強い意志が必要だ』
「どういうことだ……?」
目を細めてそんなことを言う神裂に、レイドが訝し気に聞き返す。しかし神裂はフッと笑ってグググ、と身体を動かし始める。
『ぐ、ぐぐ……ははは、口が、滑っちまったなあ! まだまだ俺は元気だぜぇ!』
「!? アントン!」
「お、おう!」
ぶちぶちと嫌な音を立てながら剣から肩を強引に引き抜こうとしていたので、レイドはアントンを呼ぶ。意図を理解したアントンは左肩へ剣を突き立てる。
『うぐお!? 野郎、痛みはねぇが刺さった感触は気持ち悪ぃんだぞ?』
「うるせぇ! おい、レイドさん、この後どうするんだ!?」
「あそこにいるフォルサさんに来てもらう」
レイドが目を向けると、小さく頷くフォルサが見えた。
「このまま縫い付けて回復魔法をかければお前は終わりだ」
『おめでたいな、このまま俺が大人しくすると思うか? はあ!』
「うえ!?」
「ぐっ、まだそんな力を……」
神裂は両足でレイドとアントンを蹴り飛ばすと、肩から剣を抜いてふたりに投げる。そして首を鳴らしながら腕を回し、構えを取った。
『さあ、来い』
「なんなんだこいつ……」
「楽しんでいるのか、それとも……。アントン、”ディスタントゼロ”を放て。あれなら吹き飛ばすこともできるだろう」
「ど、どうやるんだよ」
「剣に集中するんだ。お前も勇者の恩恵があるならできるはず。その間は任せろ」
「無茶させやがる! ……こうか……」
アントンがぐっと剣を握り込むと、蒼剣ディストラクションがほのかに光る。それを見届けたレイドは神裂へ駆け出す。
「行くぞ!」
『ひとりか? そんなんで大丈夫かねぇ!』
「お前の目的を聞くためにはやるさ! ”竜咬牙”!」
『速ぇ!?』
ザン!
レイドの技は神裂の目でも捉えられず、咄嗟にかばった左腕の肘から下が切断され床に落ちた。すかさずレイドは床に落ちた腕をフォルサの方へ蹴り飛ばす。
『てめぇ、やりやがったな……! ”崩!!』
メキィ!
「ぐは!? 鎧の上からなのにこの威力とは……!」
『俺の世界にゃこういう技術もあるんだよ! おらぁ!』
「なんの……!」
レイドの剣に付き合わず、神裂も懐に飛び込んで攻撃をしてくる。片腕を失ったため、神裂の攻撃はかなり緩くなっていたが、それでも足を使ってそのハンデを補ってくることにレイドは感嘆していた。
「どうしてそこまでするんだ! 自分の子供達を殺してまで、この世界に何を求めている! ……ぐうう!?」
『がはっ……! 求めるものなんざ、ねえよ! ただ破壊するのみ!』
「だが、それならば回りくどいことをしなくても済んだはずだ!」
『……女神だけなら――』
「なに?」
少しだけ真顔になった神裂がポツリと呟いた瞬間、アントンが叫んだ。
「で、できた……! レイドさん、どいてくれ! ”ディスタント……ゼロォオォ”!」
蒼い衝撃波がディストラクションから放たれ、神裂とレイドめがけて飛んでいく!
「これでしばらくは動けまい!」
『てめぇもな!』
「なんだと!?」
離脱しようとしたレイドの腕を掴みにやりと笑う神裂。ディスタントゼロにレイドを巻き込むため拘束する。
「お、おい!? レイドさん離脱しろよ!?」
「離せ……!」
『仲良くしようぜ! ――だ』
「お前は!?」
グァ!
衝撃波はそのまま驚愕の表情を浮かべたレイドと不敵に笑う神裂を飲み込み爆発する。突き抜けた衝撃波は壁を破壊し穴を開けていた。
「マジかよ!?」
もうもうと立ち込める煙を見て焦るアントンがレイドの様子を見に行くため動こうとしたその時、
「!?」
ガン! と、煙の中から現れた神裂の拳を剣で受け止めていた。
『今までのお前なら確実に殴られていたな! 成長したじゃねぇかアントンよぅ!』
「か、神裂!?」
全身血だらけの神裂がアントンを蹴り飛ばす。直後、みるみるうちに傷が消えていくのを見てアントンが喉を鳴らす。
「ば、化け物かよ……」
『神だっての。まあ、反転術を使っていなけりゃ死ぬだろうな。それに俺の意識が飛べば反転術は効果を発揮しなくなるから、少々危なかったぜ?』
「意識を……ぐあ……!」
強くなったアントンだったが、流石にここまでして動く神裂を前に震えあがってしまった。殴りかかってくる神裂に抵抗できずダメージを負う。
『さて、レイドは俺の片腕を斬り飛ばしてくれた。中々の貢献だったがまだ届かねぇぞ? あとはお前だけだ。いや、あの姉ちゃんを縊り殺せばゲームオーバーか? とりあえず後ろから攻撃されるのも鬱陶しいから、死んでおけ』
「う……!?」
ひひひ、と嫌な笑いを浮かべて拳を振り上げ、アントンは庇うように腕をクロスさせた。無駄だとわかっていても生存本能がそうさせるのか。しかし、神裂の拳はいつまでも振り下ろされることは無かった。
『……運が良かったなあアントン。本命が登場だ。……なあ、ルーナ?』
「……よくも……レイドさんを!」
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