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七話 現実が繋がる時

東郷さんの距離が近すぎて

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「……分かりました。今行きます」

 静かに立ち上がりながら東郷さんが返答すると、男性はすぐに離れていく。

 フゥ……と物憂げなため息をついてから、東郷さんは俺に顔を寄せて囁いた。

「出来る限りすぐに戻る。だからなるべくここを離れず、俺を待っていて欲しい」

「あ……はい。分かりました」

 困惑したまま俺が頷くと、わずかに東郷さんの目が笑う。
 俺だけに見せる特別な雰囲気。これがあのゲームで華候焔が相手なら、唇を奪われる展開だな――と考えてしまい、俺は心の中で頭を抱える。

 多分ここは現実。
 次に来る行動はキスなんかじゃない。

 だから身構えなくていい。このまま東郷さんは離れるだけだ。

 自分にそう言い聞かせて平静を保っていたが――東郷さんの顔がさらに近づき、手が伸びてくる。

 ……東郷さん? 何を……。
 頬を触られて、思わずビクッと俺は体を跳ねさせてしまう。

 そんな俺を見て小さく吹き出した後、東郷さんは親指で俺の頬を拭った。

「失礼。汚れが付いていた」

 料理のソースがついてしまっていたのか……恥ずかしい。
 ただでさえ未熟な戦いぶりを毎度晒しているのに、試合の外でも醜態を見せてしまうなんて。あまりの恥ずかしさで顔に熱が詰まっていく。

「……すみません」

 目を逸らしながらどうにか礼を伝えることで精一杯な俺の頭を、東郷さんはおもむろに撫で、そして「では、また後で」と個室を出て行った。

 残された俺はしばらく呆然とした後――テーブルに肘をついて頭を抱えた。

 今のはなんだ? 気のせいじゃない。東郷さんの距離の近さが異常だぞ!?

 俺は人の距離感とか心の機微とか、あまり気にせずやってきたから鈍いほうだという自覚はある。
 ただゲーム内で散々抱かれた挙句、真っ直ぐな好意をぶつけられたり、体を繋げながらの駆け引きを味わったりしてきたせいで、肌でそういった空気は感じやすくなった。

 そのせいで気づいてしまう。
 東郷さんの俺に対するものが、『至高英雄』で華候焔たちが俺に向けてきた空気と類似していることに――。

 東郷さんが俺をそういう対象として見ている? そんな、まさか……。
 ゲームのせいで感覚がおかしくなっているだけだ。現実で俺をあそこまで性的に見ようとする人間などいるはずがない。

 ……ちょっと水でも飲んで落ち着こう。
 俺は席を立ち、ドリンク類が用意されている所へ向かう。

 会場の片隅にあるビッチャーを手に取り、コップに水を注いでいると、

「正代君、しっかり食べているかい?」

 他選手のコーチと思われる男性が、にこやかな顔で俺に話しかけてきた。
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