秘密の果実〜妹の身代わりに嫁いだ元軍人アルファ、幼馴染の御曹司に薬でオメガにされて囲われています〜
大戦の起こらなかった日本、平成二年。世界中で子が生まれなくなり、必ず孕めるオメガは国内に百人といない。
剣崎山桜桃、二十八歳。元陸軍情報将校、いまは兄の秘書兼護衛。オメガの妹の嫁ぎ先として、剣崎家は財閥の泉堂へ縁談を持ちかけていた。ところが返ってきた書面は、なぜか山桜桃を名指ししている。差出人は泉堂賀久——二十年前に婚約を結び、山桜桃がアルファと判定された日にそれを反故にした、幼馴染の御曹司である。
再会の席で卓に置かれたのは、アルファをオメガに書き換える禁忌の薬だった。
「どうする?」
兄から与えられた任務は、財閥が金庫に眠らせている技術の行方を探ること。証拠はなく、泉堂の内側に立てる人間もいない。深入りは禁じられ、外へ繋がるのは月に一度の検診の日だけだ。
妹を守るため、そして任務のため。罠と知りながら、山桜桃は自分の意志でそれを呷る。
月に一度のヒートは、賀久にしか鎮まらない。書き換えられた身体を診られる医者も、泉堂にしかいない。幾重にも鎖をかけられた偽装結婚のなかで、山桜桃は限られた手札をやりくりしながら報告を続ける。
賀久はすべてを見抜いた上で、なにも言わない。先回りした配慮も、完璧な優しさも、疑えばそのまま証拠に見えた。
夜がくれば、その男に溶かされる。
これは正しいことなのか——揺れながら、山桜桃は任務を続ける。
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