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「リリー!」

 聖水を作り終えて、祈りの間から自室に帰る途中に呼び止められた。
 中庭を横切ってくるアルフ様は陽光を浴び、金髪がキラキラと輝やいている。緑の中で光り輝く眩しさに、私は目をすぼめて見とれた。

「よかった。やっと会えた」

 にっこりと青空のような瞳で微笑みかけられると、初めてアルフ様を見た時の気持ちを思い出す。この方は私の憧れで、希望なのだと。

「最近は王宮に来てくれないだろう。聖水も使いのものに持たせているから、具合でも悪いのかと心配していたよ」

 私の手を取って、顔を近づける姿に、胸が締め付けられたような愛しさを覚える。こんなふうに私のことを心配してもらえるなんて。

「ごめんなさい。忙しくて王宮へは行けなかったのです」

 忙しいなんて嘘で、ただ、王妃に無理やり魔力譲渡させられそうで怖かったから。なんてことは言えない。
 だって、アルフ様に、そんなことを知らせたくない。この真っすぐで穢れのない青い瞳が陰る姿など見たくはないから。私が口をつぐめば、この方の笑顔が守られる。

「そうなのか。君の聖水はすばらしいからね。皆の期待に応えるために無理をしてないといいのだが。やはり次の大聖女はリリーしかいないな。父母も君を推薦すると言っていたよ」

 そりゃあそうでしょう。私を大聖女にして、アルフ様と結婚させれば、第一王子に魔力譲渡させやすくなるからだ。親族からの譲渡は成人していれば違法ではないから……。

 ゼオンの言葉が頭をよぎった。このまま、大聖女になって、王家に利用される人生で本当にいいの? あの、苦しい魔力譲渡をまたやるの?

 私は答えを求めて、アルフ様の真っ青な瞳をじっと見つめた。優しく見つめ返してくれるこの方と一緒になることで、私は幸せになれるはずだわ。きっと、王妃が私にさせようとしていることを知ったら、止めてくれるはず。

「リリー、ああ、愛している。大聖女になった君に、僕の隣にいてほしい」

 アルフ様はそう言うと、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。アルフ様の体温は私の不安を吹き消してくれる。その言葉は私に命を吹き込んでくれた。この方のためだったら、どんなことも耐えられる。脳裏にちらりと浮かんだゼオンの赤い瞳は、アルフ様に上書きされた。
 必ず大聖女になって、この方と一緒になるわ。だって、私達は愛しあっているもの。これが愛なのでしょう?
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