フィロス

厄災

皧流，竹脇、高山夫妻の四人は、食事をしながら談笑していたが…


「奈緒先生」


「どうしたの？

皧流さん。」



「奈緒先生は元男性で、世界で初めて出産を経験されたわけですよね」



「そうね。」



「出産の時とか、どんな心境だったんですか？」



「ワタシ？


そうねえ…それはすごく不安だったわ。

だってよく言うじゃない？

男には出産の痛みは耐えられないって。」


「そうですよね。」


「でも、ワタシの出産の時には既に無痛分娩とかもあって、至れり尽くせりでやってくれたわ。

貴重なサンプルだとか言われてたしね。」



「そうだったんですね。

少し安心しました。」



「今は不安に思うこともたくさんあるとは思うけど、そんなのすぐに慣れてくるし…

生まれてきた我が子の顔を見たら、そんな苦労もすべて吹っ飛んでしまうわよ。」


「なんか、少しだけ気持ちがラクになりました。

ありがとうございます。」



「脳が女性化してしまったって言ったら、それはそうかもしれないけど、ワタシ、女として生きてきて、それまで生きてきた男としての人生とを、たまに比べてしまう時があるのよ。」


「そうなんですね。」


「でも、一つ言えることは、ワタシは何度生まれ変わっても女がいい。

もし、男として生まれてしまったら、今みたいに性転換して女としての人生を歩みたいと思う。」



「そんなに…」




曖流は、奈緒の話に驚きの色を隠せなかったが、高山が割って入ってきた。


「しょうがないなあ、奈緒

そんな話をするんじゃないよ。

最後の説得をしようと思ってたのに。」


と、バツの悪そうな顔をして、奈緒に言った。


「ごめんなさい…」　　　


奈緒は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。



竹脇と皧流は、その様子を見つめていたが、互いの方視線を移し合い、思わず笑みを漏らしてしまったのだった。