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静寂

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桐山はそれ以来奈々と智の目の前に姿を現さなくなったが、二人は警戒する事を怠らず、細心の注意を払った。

奈々は極力家から出ない。もし、外出するなら智も同伴する。
買い物、莉愛の散歩などについても基本、智がする事とした。
だが、奈々のストレスは溜まるばかりで、どうしても智に愚痴を言ったりあたったりするようになり、普通ならギクシャクしてしまうような雰囲気だった。
それでも、智は穏やかに奈々の不満を受け止めた。
そんな暮らしを続ける中、二ヶ月が経過し、ようやく二人にも、少し心に余裕も出てきていた。


その日も仕事を終えた智は急いで家に向かった。一刻も早く奈々と莉愛の元に帰らなければと、ついつい早歩きになっていった。

ようやく家に着き、バックからカギを出そうとすると

「吉岡さん」

と、後ろから声をかけられた。
振り返るまでもなく、その声の主は桐山だとすぐにわかった。
恐れていた事態が、今起きている。
再び桐山が動き出したのだ。


「桐山さん、何度来てもらっても同じ事です。奈々も私も気持ちは変わりませんし、あなたとお話する事なんてありませんよ。」

「吉岡さん、私も事を荒立てたくないんですよ。ちゃんと話し合いして解決策を見出したいと思ってます。

だから、今日は奈々抜きであなたとお話をするためにここで待ってたんです。」

「私と?」

「ええ。あなたとなら冷静に建設的な意見を交わせるかなって思いましてね。
どっかの元総理の発言じゃないが、女は感情的になりすぎるし、話が長い。
その点、あなたは見た目は女性だが、内面のそういう部分は男のままだ。」

智は少し悩んだが、奈々に会わせるより自分が前面に出て対応する方が事態の改善が成されるのではないかと思い、桐山の提案に乗る事にした。

桐山は自分の車の助手席に智を乗せると、どこか落ち着いて話しが出来るところはないかと、しばらく走らせ、幹線道路上にあるコーヒー店を見つけ、入っていった。

奥の四人がけの席に向かい合った二人は、コーヒーを注文した。

とてつもない緊張感の中に智はいた。
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