こいちゃ![R-18]

蒼い色鉛筆

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③本編↓未工事(すごいえちえち)背後注意でお楽しみください。

燃夏くん、お仕置きです 前編

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「ふんふーん…。」

燃夏モカは今日、自覚するほど機嫌がいい。

鼻歌混じりに、朝食を済ませた
二人分の食器を重ねて、台所へ運ぶ。

心も体も軽いリズムで食器を洗う恋人の
由海広ユミヒロの隣に立つ。

「んっ、ありがと、モカくん。」

笑顔の素敵な海さんが声を弾ませた。

「いえいえ、これで全部です。
海さんお願いしまーす♡」

「はーいっ。」

彼もとってもご機嫌さんだ。

というか、俺の機嫌がいいのは
海さんの機嫌がいいから。
恋人が嬉しそうにしていると、
自分まで楽しくなるからだ。

今日はいい日になりそうだ…。

緩みっぱなしの笑顔でリビングに戻って
いつも通りテーブルを布巾で拭く。

海さんがご機嫌な理由を知っている。
だから俺も、今か今かとそわそわしてる。

数秒置きに時計をちらちら交互に見る。

…もうすぐ外国の高級紅茶が家に届く…。

海さんが半年前の仕事で
もてなされた時に出された紅茶の
とんでもない美味しさに感動したそうだ。

相手に茶葉を譲って貰えないか交渉したが、
外国の職人が手摘みにこだわった一品、
という理由で断られてしまった。

せめて自分で購入しようと、慣れない
インターネットで販売先を調べまくって
何件も販売を断られていた。

俺も検索を手伝ったが、
本当にどこにも売ってなくて苦労した。

一時期、海さんが「直接買いに行く!」と
駄々をこねていた時があった。

正直それだけ彼に執着される茶葉が
憎くさえあったが、所詮嗜好品だ。

全然負けてない、と心の中で笑った。

…彼が紅茶のことばかり考えている夜は、
少し激しく抱いたこともあったけど
別に敗北感とか全然ないから。

俺の勝ちだから。

怒りを優越感で誤魔化していた。

そしてようやく数ヶ月待ちで茶葉を
販売しているサイトを見つけて、
海さんは即、購入ボタンを押していた。

長いこと待たされたサイトから
ようやく連絡があり、
宅配は今日の午前に指定した。

今日は二人とも一日休みなので、
お茶会をした後ゆっくり映画を見る予定を
ワクワクしながら計画したんだ。

紅茶を待ちわびた海さんがはしゃいでいる。

普段、年の差を気にして
子供っぽさを見せない彼の
そんな姿かわいくて嬉しくて、
嫉妬してる暇なんてない。

微笑ましい笑顔を作りながら、
しっかり目に焼き付けた。

ほっこりした癒しの空間に
鋭く滑り込んだチャイムが鳴り響く。

ピンポーン

「あっ!はーいっ!」

「海さん、俺出ますよ。」

「ごめんね、ありがと…っ。」

インターホンに焦って振り返り、
食器用洗剤で手元が泡々してる
海さんに代わって素早く玄関へ向かう。

配達人の姿を見て、扉を開ける。
大事に荷物を受け取り、そっと持つ。

しっかり商品名を見て、
彼の望みの紅茶であることを
確認してから受け取り印に判を押す。

「ども。」

配達員に軽く頭を下げて、扉を閉めた。

丁重に小箱を胸に抱いて台所へ向かう。

これを見て、きっと海さんは
すごく嬉しそうに興奮してはしゃぐだろう。

その姿を想像すると楽しみだ…。

「うーみさん、届きましたよー。」

「ほんとっ!?わぁ、嬉しい…っ。」

ほっと安心して顔を綻ばせた彼は
洗い終えた食器を並べた
食器乾燥機の電源をつけ、
濡れた手をタオルで拭いた。

「わぁ、本物だ…っ!」

少年のようにきゃっきゃはしゃいで、
俺が支える小箱に手を添える海さん。

やっぱ紅茶が少しムカつくけど
海さんが可愛いから許せる…。

怒りが愛しさで相殺される。

「箱、開けますよ。
海さんは、お湯を沸かしてて下さい。
早く飲みたいんでしょ?」

「ん、分かった!お願い!」

気を利かせて役割分担を提案する。

その場で飛び跳ねるのを
堪えた彼は、輝く笑顔で頷いた。

いそいそと準備したポットを
いつもより丁寧に水洗いしてる…。

海さん、本気だな。

微笑ましい姿に癒されつつ、
隣でハサミを使って慎重に紅茶を取り出す。

その正体をじっくり見た…。

いかにも「高級」…。

複雑な模様で装飾されたまばゆい金色の筒が
肌触りのいい緩衝材にくるまれている。

この筒を部屋に飾るだけでも
すごいお洒落そうな…圧倒される上品さ…。

「敵」をよく知るために筒を取り出した。
じっくり観察して、彼に尋ねる。

「茶葉の香りを嗅いでもいいですか?」

「いいよ~、すごく芳醇な香りで、
ふわっとするから…きっとモカくんも
好きになるよーっ。」

濡れたポットを拭いた彼は上機嫌に答え、
蛇口をひねり、ポットを水で満たす。

同じ立ち位置で、そっと筒の蓋を開けた。

厚みのある、整ったお上品な
茶色の茶葉がいっぱいに詰め込まれている。

香りは…確かに鼻腔を優しくくすぐる、
嗅いだことないお茶のいい香りだ。

うん、「お上品」がこの上なく似合う。

海さんほど紅茶が好きな訳でもないのに
見てるだけでつい、喉が渇く。

味も確かめたいな…。

妥協を許さない眼光で筒を睨む。

「いい香りでしょ?」

にやにやが止まらない海さん。

ふと、開けた蓋を彼に向けた。

「はい、これすごくいいーーー」

カンッ!ゴッ…!

……たった今、この瞬間まで
持っていたはずの筒が…、ない。

何も持ってない手の先が、
ひやりと冷たくなるのを感じた。

「……………。」

「…………………。」

ジャー、ザバザバザバ…

蛇口の水が容赦なく流れていく。

二人で、おそるおそる…
洗い場の排水口を見た。

…おそろしい光景だった。

シンクに広がっていく、
海さんがめちゃくちゃ楽しみにしていた…
何ヵ月も待っていた高級紅茶が…
するすると排水口に流れていく。

数秒間、何が起きたのか理解出来なかった。

「………っ!!!」

しかし沈黙の後、事の重大さに
ようやく頭がついてきた。

手が滑って筒を落としてしまい、
シンクに茶葉を盛大にぶちまけたんだ!

「う、海さん、ごめんなさい!
ごめんなさい、本当にごめんなさい!!」

テンパって何度も叫び謝る。

それしか頭になかった。

続いて放心していた海さんが
叫び声に反応して、はっと前を見る。

「……………。」

茶葉のほとんどが下水道に流れる…
その様子を口を開けたまま
静かに見守っていた。

今から慌てても、助けられないことは
一目瞭然だった。

………コン、

すごくゆっくりした動作で蛇口を止めて、
筒を拾い上げ、シンクの上に置いた。

心臓が飛び出しそうだ。

整理がつかないけど、とんでもないことを
してしまったのは分かっている。

「ごめんなさい、ごめんなさい…っ!
本っ当に…!ごめんなさい…!」

すがるように手を合わせ、頭を下げる。

「……大丈夫だよ。」

やっと口を開いた彼の声は
怒りでも悲しみでも、
無感情でもない、いつも通りの優しい声。

尚更心がぎゅっと苦しくなる。

パニックになりそうだが今は
謝らないといけない、それは分かるんだ。

「海さん、取り返しがつかないのは
分かってます。それでも、怒ってください
…殴っても構いません、だから、だから…」

浮かんだ言葉を頭で考える前に
ぺらぺらと口が動いてしまう。

何をされてもいい、嫌われたくない。

その一心で彼の怒りを請う。

どんな怒鳴り声も覚悟して目を瞑るが
彼の声は変わらず、穏やかだ。

「そんなに頭を下げないでいいよ…。
たかが、紅茶じゃないか。」

ぽんぽん、と肩を叩いて俺が慰められる。

お互い、今にも泣きそうだ。

その「たかが」紅茶のことを彼が
どれだけ長く、恋い焦がれていたか…
一番近くで見ていたから知っているんだ…!

「お願いします、海さん…。
俺に出来ること何でもします…!
現地で買ってきますから、お願い…、
嫌いに、ならないで…っ!」

涙で声が震える。

世界で一番おそろしいことを、
口にするだけでも汗をかく。

「そんな…、紅茶を落としただけで
モカくんを嫌いになるわけないでしょ?」

ショックを受けているはずの
海さんが俺を優しく宥めてくれる。

その言葉に心底救われるけど…
今日一番の楽しみを一気に台無しにされた
彼は、少し寂しそうに微笑む。

「最短で配達してくれるサイトを探します。
海さんが飲みたい紅茶でもなんでも、
今すぐ買ってきます!ごめんなさい…!」

少しでも罪を償いたい思いで、
彼のシャツの裾を弱々しく引っ張った。

溢した紅茶を元に戻せない俺は
情けなく彼にすがり付いて許しを
請うことしか出来ない…。

彼のいたみを勝手に想像して、
勝手に自分が傷ついている。

「モカくん、顔を上げて?
私、本当に怒ってないから…。」

頭を撫でる彼の手を素早く掴んだ。

迫真の顔で彼に迫る。

「それなら、怒ってください!
どんな罰も受けますから!!」

「え、えぇ…?」

優しい彼に、それは無茶だと理性が
否定するけど、そうじゃないと…!

「そうじゃないと、そうしないと…
罪悪感で、胸が潰れそうです…!」

「…………。」

彼はもう一度、頭を撫でてくれる。

さっきよりも温かい手つきだ。

「モカくん?確かにちょっとした
事故だったけど、わざとじゃないでしょ?」

「そ、それはもちろん…っ!」

即答で反応した。

すると海さんは、ふわりと微笑む。

「それなら、自分の体を犠牲にしないで?
私の大切なモカくんをぞんざいに
扱って欲しくないよ。」

「あ、う…、みさん…?」

分からない…。俺は…、
今まで他人に激情をぶつけられて生きてた。

別れる時に怒り喚く自称カノジョ。
一言喋るだけで殴るチチオヤ。
執着の化け物になったセフレ。

その誰とも違う対応をする恋人に戸惑う。

怒りを受け止めることで、許されてきた。

今は、今はどうしたらいいんだ…?

「海さん、海さん…、俺…っ、…!」

頭の奥がぐるぐる渦巻いている。
胸の下を荒っぽくかき回されているようだ。
重苦しく、唾液が酸っぱい。

平たく言うと混乱して吐きそうだ。

彼にすがるけど、言葉が続かない。

海さんは困ったように笑う。

「分かった…んん、それじゃあ…そうだ、
…『お仕置き』、しようかな?」

「え…?」

何故だか、ほっとした。

まとまらない思考では
まだ何も理解できていないのに。

戸惑う視線を彼に向けた。

「よしよし…、真面目なモカくんも
好きだよ。だけど、ちょっと妬けちゃうな。
…お茶のことばかり考えてさ。」

「…??」

受け身で抱擁されるが、混乱している。
俺の方がお茶のことを考えていたのか…?

抱きしめ返すことも出来ずにいると、
彼が言葉を続けた。

「お茶なんて、もう気にしてないよ。
また取り寄せればいいんだからさ。
たった一人しかいない君の方が
ずっと大切なんだから。」

「…っ!!」

彼はきっと、気づいていない…。

彼が思っている以上に、
俺はその言葉に救われている。

いたむ胸が、じわっと熱くなる。

「…、っみ、さん…!ごめんなさい…!」

息がつまって、謝ることしか出来ない。

「ん、許す。許す前にお仕置きするけどね。
だからもう…傷つかないでいいんだよ。」

「…!!!」

どうして海さんは俺が知らない、
優しい言葉で俺を癒してくれるんだろう…

なんだかふわふわしたロマンチックな
世界に浸っていると、耳元でそっと囁く
彼の声が現実に引き戻してくれる。

「すごいお仕置き考えるから…
お茶のことは一回忘れて、
いい子で待っててね…?」

「!…っ!、は、い…っ。」

抱擁を解いた彼はじっと筒を見つめて、
別れを惜しみつつ
丁寧に紅茶の筒に蓋をした。

筒が遠ざけられて、少し安心した。
ほっとすると頭は別のことを考えてしまう。

なんだか…、すごい日になりそうだ。


そんな予感がしていた…。








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