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25話 リンドの秘密

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————俺には秘密がある。

この秘密は、この世界で誰にも知られてはならない。

誰かに知られたら、精霊界に戻される契約になっているからだ。

実のところ、俺は精霊界で最上級精霊に位置している。

言えないのはそのことだ。

これを誰にも言えない理由は、最上級精霊は個々に特別な能力があり、それを知られると欲に駆られた人間たちに狙われたり、取り合われて戦争を引き起こしたり、一国、なんなら世界を滅ぼす事態になりかねないため、世界に不穏をもたらさないよう、隠しておく必要があるためだ。

ただ最上級精霊は、本来下の世界の器には入れないきまりになっていて、もし下の世界に降りたいなら姿をもたない状態で存在しなければならない。

だが、俺はある事情で、どうしても人間界でティアに会わねばならず、同じ時代でティアに近づける器に入りたかった。

それを、俺がまだ中級精霊で案内人だった時代の友人であるジョルジュに相談したら、実は内緒だが、器に入る方法があって、やり方を教えることはできないが、ジョルジュの手で器に入れることができると言ってくれた。

ジョルジュはイヤミなやつだが、なんでもよく知っていて、俺の面倒もよく見てくれる憎めないやつだ。

そのジョルジュが言うには、ただし、器に入っても、ティアに会うまでは今の記憶を忘れた状態になるという。

つまり、俺が器に入って産まれてから、偶然ティアに会える機会が得られなければ、何をしにその器に産まれたのか気づくことはなく、何もできずに死を迎え、精霊界に戻るだけ。

そして、器に入る機会は一度限り。

…なんだ、その無理ゲー設定は!と怒りを覚えつつも、他に方法がないなら、一か八か試すしかない。

ティアがティアとして転生する機会を待って、覚悟をきめてジョルジュに器へ入れてもらった。

記憶がない頃に感じていた、あの不思議な、いつも何か探しているような感覚は、まさにティアのことだった。

思い出せないけれど、俺の強い意志が感覚だけを呼び起こしていた。

おかしな光がみえる能力も最上級精霊の名残りだろう。

俺の能力は、姿が人間の時は、目に力が宿っている。

要するに離れた場所からでも見たい場所が見える千里眼と、さらに見えたものに、生き物以外になら離れた場所からでも干渉できること。

ただ、その能力を使っている間は体が金色に発光するので、絶対人の前では使えない面倒な能力だ。

あとできることといえば、もとの精霊の姿に戻ることだが、それをやってしまうと一発アウトで精霊界に逆戻りだろうな…

まぁ、あんな姿に戻るつもりもないけど。

俺は絶対ティアと結婚して幸せにするって決めてるんだからな!

そのためにここにいるんだから、そんな間抜けな失敗で、この奇跡を台無しにできるはずない。

一度きりのチャンスなんだから…

決心新たに唇を噛み締めた。


—————じゃあ、やるか。

周りに誰もいないのを確かめてから、リンドは目に力を込めた。

ちなみにリンドは皇女が降下した家系であったため、王族の血が入っているせいか、美しいサラサラの金の髪に赤い目をもっていて、

今は記憶を取り戻したため人格がまあこんなかんじだが、それまではあまり人と話すこともない孤独系冷血クールキャラだった。

そんな赤い目と冷徹な目つき、あとはそのクールキャラが相まって、麗しきヴァンパイア公子などと影で言われていたようだ。

ネーミングセンスのなさになんだかなぁと思いつつ、訂正するのさえ面倒で放っておいたが———

キースの依頼をこなす為、目に力を込めると同時に目の色は徐々に赤から金色に変わり、体全体も金色の眩い光に覆われはじめた。

その目に、あのティアの父がよく出入りしている平民街にある小さなアパートが映し出された。

今はどうやら留守らしい。
部屋の中へと視線をフォーカスする。

中を隈なく見ると、

…あった、これか。

小さな扉が本棚に隠されているようだ。

この目を使えば、透明度を自由に変えられるため、本棚を透かして見ることも簡単だし、本来特殊体質の人間以外の目には見えない結界も、はっきり映し出されている。

たしかに、結界だな。

…うん、本当だ。この国の術式じゃない。

まぁ、この目を使えば、術式とか解呪とか関係なく破壊できるんだけどな。

と思うと同時に、さらに目の色が強く光る。

目に映る結界が、パァァァッと大きく光ると、音はないがフレアのように光が一気に拡散し、そのまま消滅した。

…ふぅ

ひと息吐くと、リンドの体からすうっと光が消え、目の色も、元の怪しくも美しい赤色へと戻っていた。

これで大丈夫だな

あとの潜入捜査はキースの方が得意だし、そういうの好きだろうから、任せておこう

なにせ、こっちは兄君の処理に忙しいんだから…

と、作業の済んでない封入前の書類を見て、リンドは大きくため息をついた。
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