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1章 番(つがい)とは
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「はぁ。わたしのかわいいルーちゃんが『姉さん手紙は書くので会いに来ないで』って言うの。反抗期なのかなぁ?」
煤けた金の髪を高く一つにまとめ後ろに流し、涙を滲ませたピンクの瞳を縁取るのは長くもなく短くもない睫毛。鼻も低くもなく高くもなく普通。ぷっくりした唇も普通。少し草臥れた服を着ているが体格も特に表現することもなく普通。
何もかもが凡庸に普通の姿をした18歳ほどの女性がバーにあるような長いカウンターで、真っ昼間からぐずぐずとくだをまいている。
ちなみに女性の前には今日のスペシャルランチセットとアイスティーが置いてあるのでお酒が入っているわけではない。
「いや、それが普通だ」
ぐずぐずと言っている女性の相手をしてあげているのはカウンターの奥にいる厨房のおやじである。
「今日、王立騎士養成学園に入ったルー坊の入学式だったんだろ。全寮制だから長期休みしか家に戻れねぇんだから、いい機会だ。もう13歳になるし、いい加減に弟離れしろ」
「いじめられたらどうするの?ルーちゃんはかわいいし、貴族じゃないし、泣かせたり、いじめたりしたヤツは生きていることを後悔させてやる」
「コエーよ。肉ブッ刺しながら言ってないで、さっさと食って、そこで依頼でも受けてこい」
厨房の親父が言っているように、女性がランチをしているのはバーでもなく喫茶店でもなく、シーラン王国の王都メイルーンの冒険者ギルドの中の食堂である。
午前は入学式の行事があり、その後に女性の弟から言われた言葉にショックをうけ、一旦家に戻ったものの何もやる気が起きなかったためにいつもの習慣化しているギルドへ足が向いてしまっただけで、彼女は依頼を受けるつもりはなかった。
そう全くもって無かったのである。
「お、いいところに嬢ちゃんがいるじゃないか」
そう声をかけてきたのはここの業務補佐官だ。
「いいところじゃないし、嬢ちゃんでもない」
「こんな小さい頃からいるじゃないか」
「親指と人差し指の間にはまる人間はいないと思います」
「そこ真顔で返されても困るな。シェリーにこの依頼お願いしたいのだけど、いいよな」
業務補佐官は1枚の紙を彼女に差し出した。しかし、彼女はその紙を見向きもせずに断る。
「拒否権を発動します。本日、傷心により当分の間依頼は受けることができません」
いたって真顔で答えている。
「本音をいえ」
「ルーちゃんに何かあったら直ぐに駆けつけられないと困るし、ルーちゃんが変な女に引っ掛かったらいけないし、それに私はBランクなんで指名依頼は受けられません」
その顔は先程と違い、恋する乙女がもじもじしているかのようだが、平凡のモブといってもよい容姿の彼女から胸キュンポイントを受けとることができるのは彼女の弟ぐらいだろう。
「今まで弟を育てるからって、ごねてBランクだけど、実質シェリーはSラ「却下します」だぞ」
「私はBランクです。腐ってもBランクです」
「このブラコンは治んねーじゃねーか。聖女さまに煩悩を浄化してもらったら治るかもしれねーな」
厨房の親父の笑い声がカウンターの奥から響いてきた。
そして、補佐官はため息をつきながら、彼女を見下ろして言う。
「ここ最近、あっちこっちで魔物の活性化が見られて、今人手がたりないのだ。『銀爪』のカイルと行ってくれないか」
「Sランクのカイルさんが一人で行けない依頼なんて、私では役不足だと思うので、Aランクのマリードさんを推薦します」
「マリードは『暁の火』の依頼に同行してもらったので一月程戻ら」
「あの前衛だけの『暁の火』。使えない」
彼女はここにはいない『暁の火』のメンバーに呪いを込めるかのように毒を吐く。
「という訳でよろしく」
「あ」
気がつけば指を押さえられ特殊インクで依頼書に拇印を押されていた。恐るべし気配を感じさせずに流れるようにインクと用紙に拇印を押させる、補佐官の神業。
煤けた金の髪を高く一つにまとめ後ろに流し、涙を滲ませたピンクの瞳を縁取るのは長くもなく短くもない睫毛。鼻も低くもなく高くもなく普通。ぷっくりした唇も普通。少し草臥れた服を着ているが体格も特に表現することもなく普通。
何もかもが凡庸に普通の姿をした18歳ほどの女性がバーにあるような長いカウンターで、真っ昼間からぐずぐずとくだをまいている。
ちなみに女性の前には今日のスペシャルランチセットとアイスティーが置いてあるのでお酒が入っているわけではない。
「いや、それが普通だ」
ぐずぐずと言っている女性の相手をしてあげているのはカウンターの奥にいる厨房のおやじである。
「今日、王立騎士養成学園に入ったルー坊の入学式だったんだろ。全寮制だから長期休みしか家に戻れねぇんだから、いい機会だ。もう13歳になるし、いい加減に弟離れしろ」
「いじめられたらどうするの?ルーちゃんはかわいいし、貴族じゃないし、泣かせたり、いじめたりしたヤツは生きていることを後悔させてやる」
「コエーよ。肉ブッ刺しながら言ってないで、さっさと食って、そこで依頼でも受けてこい」
厨房の親父が言っているように、女性がランチをしているのはバーでもなく喫茶店でもなく、シーラン王国の王都メイルーンの冒険者ギルドの中の食堂である。
午前は入学式の行事があり、その後に女性の弟から言われた言葉にショックをうけ、一旦家に戻ったものの何もやる気が起きなかったためにいつもの習慣化しているギルドへ足が向いてしまっただけで、彼女は依頼を受けるつもりはなかった。
そう全くもって無かったのである。
「お、いいところに嬢ちゃんがいるじゃないか」
そう声をかけてきたのはここの業務補佐官だ。
「いいところじゃないし、嬢ちゃんでもない」
「こんな小さい頃からいるじゃないか」
「親指と人差し指の間にはまる人間はいないと思います」
「そこ真顔で返されても困るな。シェリーにこの依頼お願いしたいのだけど、いいよな」
業務補佐官は1枚の紙を彼女に差し出した。しかし、彼女はその紙を見向きもせずに断る。
「拒否権を発動します。本日、傷心により当分の間依頼は受けることができません」
いたって真顔で答えている。
「本音をいえ」
「ルーちゃんに何かあったら直ぐに駆けつけられないと困るし、ルーちゃんが変な女に引っ掛かったらいけないし、それに私はBランクなんで指名依頼は受けられません」
その顔は先程と違い、恋する乙女がもじもじしているかのようだが、平凡のモブといってもよい容姿の彼女から胸キュンポイントを受けとることができるのは彼女の弟ぐらいだろう。
「今まで弟を育てるからって、ごねてBランクだけど、実質シェリーはSラ「却下します」だぞ」
「私はBランクです。腐ってもBランクです」
「このブラコンは治んねーじゃねーか。聖女さまに煩悩を浄化してもらったら治るかもしれねーな」
厨房の親父の笑い声がカウンターの奥から響いてきた。
そして、補佐官はため息をつきながら、彼女を見下ろして言う。
「ここ最近、あっちこっちで魔物の活性化が見られて、今人手がたりないのだ。『銀爪』のカイルと行ってくれないか」
「Sランクのカイルさんが一人で行けない依頼なんて、私では役不足だと思うので、Aランクのマリードさんを推薦します」
「マリードは『暁の火』の依頼に同行してもらったので一月程戻ら」
「あの前衛だけの『暁の火』。使えない」
彼女はここにはいない『暁の火』のメンバーに呪いを込めるかのように毒を吐く。
「という訳でよろしく」
「あ」
気がつけば指を押さえられ特殊インクで依頼書に拇印を押されていた。恐るべし気配を感じさせずに流れるようにインクと用紙に拇印を押させる、補佐官の神業。
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