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第四章 学園編・1年後半

第161話 学園長に直談判

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 週が明けた登校日。私は早速学園長の部屋へと向かった。剣術大会に参加を希望する事をどこに言えば分からなかったので、とりあえず一番偉い人となったのである。
 学園長室の前に立った私は、コンコンと扉を叩く。すると、
「はい、どちら様でしょうか?」
 中から意外と若い声が聞こえてきた。これにはさすがの私もびっくりした。大体学園長って初老のおじいちゃんでしょう?
「アンマリア・ファッティです。中に入ってもよろしいでしょうか」
「ああ、噂の太い方のファッティ嬢ですね。いいですよ、お入り下さい」
 許可が出たので、私は扉を開けて学園長室に入る。
 まったく、そんな正直に言わないでくれないかしら。自覚してるとはいっても、さすがにそれは失礼でしかないわよ。
 そうは思いつつも、私はにこにことした表情で学園長と対面する。
「学園長のアバラ・ボーン侯爵です。君とは初めましてになりますかね」
「はい、学園長。初めましてでございます。お目にかかれて光栄ですわ」
 机に座ったまま挨拶をしてくるアバラ。それに対して、私はスカートの裾をつまんで軽く会釈をした。
 アバラ・ボーンと名乗った学園長だけれども、40歳いっているかどうかという若い人物だった。これは予想だにしていなかった若さである。
「私の若さに対して驚いていますかね。それならばしてやったりといったところでしょう」
 そして、大概の学園長に見られる茶目っ気まで装備していた。何だこのイケオジは。
「まあ、冗談はさておいて……。私に一体どんな御用なのでしょうか」
 咳払いをしたアバラは、改まって私に用件を尋ねてきた。なので、私はドストレートに話す事にした。
「学園祭の剣術大会に、参加したいのですわ!」
 バーンという効果音がなっていそうなくらいの勢いで、私は学園長にそう告げた。あまりにも予想外だったのか、学園長はしばらくの間、険しい表情で黙り込んでしまった。そんなに意外でしたかしらね。
「いや失敬。学生のやる気をあざ笑うのは、教育者としてはしてはいけないものでしたね」
 アバラは笑ってもいないのにそんな事を言っている。多分、周りに話した時の反応を言っているのだろう。
「いえ、私の体型を見れば、誰だってそう思うはずです。さすがに一瞬は怒りますけれど、そこまで気にしないで下さい」
 私は一応怒るよという事は主張しつつ、大人の対応をしておいた。こう言っておけば大丈夫でしょう。
「さすがは殿下たちの婚約者に選ばれるだけはありますね。余裕を感じますよ」
 ちょっとバカにしたような感じを受けるけれど、まあ褒め言葉として受け取っておきますよ。私は心が広いんですから、ヒロインだけに。
「正直結論から言いますと、あなたを剣術大会に出場させる事は可能です。基本的にどなたでもご参加いただけますから」
 アバラはそんな事を言っている。剣術大会って、参加資格に学園の生徒である事以外の制限がなかったようなのだ。これは私にとっては僥倖だった。
 アンマリアというのは、ゲームでは物理も魔法もどちらもこなせる万能キャラだった。初期体重120kgでも、他のメンバーに比べて先手を取りやすい。メタ〇キングみたいなものだろうか。育て方さえ間違えなければ、1年目の剣術大会の優勝なんて余裕である。さすがに2年目3年目は攻略対象が強くなるので難しかったけど。
 もちろん、転生した私だってその点は注意して鍛錬を積んできた。だからこそ、この交流授業ではわざわざ武術型の科目を選択したのよ。主な目的は運動量を増やして痩せる事だけどね。
 私が無事に参加できると聞いて鼻息を荒くしていると、アバラが心配するように私の顔を覗き込んでくる。
「気負うのは構いませんが、あなたは殿下方の大事な婚約者なのです。万一が無いようにはお気を付け下さいね」
「はい、もちろんですよ。そこまで気が回らないような私ではありませんわ」
 その言葉に、私は力いっぱい元気に返事をした。私の言葉に、学園長はどことなく安心したようだった。
「それにしても学園長」
「なんでしょうか」
 とりあえず用件は終わったけれど、私は言いたい事があるのでここははっきり言わせてもらうわ。
「最初のとは、一体どういうおつもりですか? さすがにこれには正直傷付きましたわよ」
 血管マークを浮かべながら、私は笑顔でアバラを見る。さすがにこれには、学園長もちょっとたじろいでいるようである。まあ、まだ100kg程度ある私の体格ですものね。そりゃ怖いでしょうよ。
「いやあ、実にすまないですね。ですが、ファッティ家には義理の妹になるモモ嬢も居るでしょう? ファッティ嬢といえばどちらか分かりませんからね」
 アバラは必死に言い訳をしている。しかし、これには私はさらに怒りを募らせていく。
「モモ嬢って呼べるのですから、アンマリア嬢って呼べばよろしくありませんか、学園長?」
 どうして男性って、こうも女性の怒りの爆弾を踏み抜いていくんですかね。堪忍袋の緒が切れましたわ。
(はあ、なんでこうなるのよ……)
 そんなわけで、剣術大会の参加を伝えるだけのはずが、私はガミガミと年上の学園長に説教をする羽目になってしまったのだった。
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