127 / 366
第六章 一年次・夏
第125話 奇跡の湖の浮島
しおりを挟む
「やあ、久しぶりだね」
「レイニッ!」
チェリシアが叫ぶと、ロゼリアとペシエラ以外がくるりと振り返った。
「光の精霊様……なのですか?」
こう言って歩み寄ってきたのは、公爵令嬢のプラティナだった。
「ははっ、その通りだよ。でも、厳密には少し違うよ。ボクは光と水の精霊だからね」
プラティナは驚いた。幼い頃からスノーフィールド公爵家の娘としてたくさん勉強してきたプラティナにとって、二属性の精霊は初耳だからである。
「っと、レイニ。今回は念話ではありませんのね」
何かに気が付いたロゼリアが、レイニに尋ねる。
「よく気が付いたね。ボクは普通に話す事もできるんだよ」
レイニはニヤリと笑っている。
目の前でふよふよと浮いているレイニ。三年ぶりだが、やはり掴みどころがない。精霊とは自由気ままなのだ。
「君たちが来る事は知ってたよ。特に、そっちの眼鏡をかけた子、君をね」
容姿で指定されたアイリスが、目を白黒させている。精霊に直接指定されるなど、あり得る事ではないからだ。
「ペシエラっていったっけ、君もおいで。あちらさんからのご指名だよ」
「あちらさんって、どなたの事なのかしら?」
ケラケラと笑いながら言うレイニに、ペシエラは食ってかかる。
「まぁ、会えば分かるよ。残りの子は湖でも堪能しててよ」
レイニはそう言うと、すうっと移動を始める。仕方ないので、ペシエラとアイリスの二人だけで移動する事になった。
「ロゼリア、任せますわよ。お姉様の事は、特に気を付けて下さいませ」
「分かってるわ」
ロゼリアに見送られながら、ペシエラとアイリスはレイニの後を追った。
「お、追いつきましたわ……」
「ペ、ペシエラ様、大丈夫ですか?」
息を切らせるペシエラを、アイリスが気遣っている。言葉遣いが従者している。
二人が今居るのは、湖に浮かぶ小島。いつからあるのか分からないが、湖の中央ほどを彷徨っているらしい。湖底とすら繋がっていない、本当に浮島である。
「レイニ、一体ここに何があると言うのです?」
ペシエラが尋ねるが、レイニは答えない。そして、後ろを向いていたレイニがくるりと振り返る。
「精霊に黙ってついて来るとは、本当に人間って愚かだね。ま、それは嫌いじゃないけど」
レイニが悪い顔で笑うものだから、ペシエラとアイリスは構える。二人のその姿を見ても、レイニはまったく余裕を崩さなかった。
「うんうん、いい反応だよ。だからこそ、ボクは君たちに手を貸すんだけどね」
かと思えば、今度は腕組みをして頷いている。まったく精霊の行動は読めないものだ。
その時だった。
レイニの横で、どす黒い瘴気が集まり始めた。あまりに強い瘴気に、ペシエラたちは警戒を強める。
「そんなに構えなくてもいいよ。彼が話がしたいと言うから、君たちを招いたんだ。ペシエラはおまけで、本命はそっちの眼鏡の子だよ」
レイニの言う事がまったく分からない。アイリスに用事があって呼んだ? ペシエラはおまけ? 首を傾げるばかりである。
「ボクは光と水の精霊だと言ったでしょ? サファイア湖で起きた事は把握しているんだよ」
レイニがこう言った事で、ペシエラはなんとなく分かった。
「なるほど、この瘴気も幻獣ってわけなのですわね」
「鋭いね、その通りだよ」
レイニはお腹を抱えて笑っている。そこまで笑うの事なのだろうか。
「まぁ、本人に話してもらうとしようか。出ておいて、ニーズヘッグ」
レイニが名前を呼ぶと、瘴気がその姿を変え始めた。そして、ペシエラが過去に見た事のある形が現れたのだった。
「厄災の……暗龍?」
そう、三年前の魔物氾濫で姿を見せた、不完全ながら顕現した厄災の暗龍だった。
「そうだよ。三年前はちょっとした事故で、自我を失った不完全な姿で現れたけどね。まったく、瘴気を喰らう龍が、逆に瘴気に飲まれるとか笑えないんだけど」
レイニが厄災の暗龍を叱っている。ペシエラたちは何を見せられているのだろうか。
少ししょんぼりしたように見える厄災の暗龍。だが、そのどっしりとした体躯に鋭い眼光を秘めた瞳を持つ龍は、確かに畏怖されてきた厄災の暗龍なのである。
「我は幻獣ニーズヘッグ。我の暴走を抑えた人間よ、久しいな」
見た目や過去のイメージとは裏腹に、比較的丁寧に挨拶をしてきた。
「我は待っていた。我を使役できる人間が現れる事を」
ニーズヘッグはそう言って、アイリスへと視線を向けたのだった。
「レイニッ!」
チェリシアが叫ぶと、ロゼリアとペシエラ以外がくるりと振り返った。
「光の精霊様……なのですか?」
こう言って歩み寄ってきたのは、公爵令嬢のプラティナだった。
「ははっ、その通りだよ。でも、厳密には少し違うよ。ボクは光と水の精霊だからね」
プラティナは驚いた。幼い頃からスノーフィールド公爵家の娘としてたくさん勉強してきたプラティナにとって、二属性の精霊は初耳だからである。
「っと、レイニ。今回は念話ではありませんのね」
何かに気が付いたロゼリアが、レイニに尋ねる。
「よく気が付いたね。ボクは普通に話す事もできるんだよ」
レイニはニヤリと笑っている。
目の前でふよふよと浮いているレイニ。三年ぶりだが、やはり掴みどころがない。精霊とは自由気ままなのだ。
「君たちが来る事は知ってたよ。特に、そっちの眼鏡をかけた子、君をね」
容姿で指定されたアイリスが、目を白黒させている。精霊に直接指定されるなど、あり得る事ではないからだ。
「ペシエラっていったっけ、君もおいで。あちらさんからのご指名だよ」
「あちらさんって、どなたの事なのかしら?」
ケラケラと笑いながら言うレイニに、ペシエラは食ってかかる。
「まぁ、会えば分かるよ。残りの子は湖でも堪能しててよ」
レイニはそう言うと、すうっと移動を始める。仕方ないので、ペシエラとアイリスの二人だけで移動する事になった。
「ロゼリア、任せますわよ。お姉様の事は、特に気を付けて下さいませ」
「分かってるわ」
ロゼリアに見送られながら、ペシエラとアイリスはレイニの後を追った。
「お、追いつきましたわ……」
「ペ、ペシエラ様、大丈夫ですか?」
息を切らせるペシエラを、アイリスが気遣っている。言葉遣いが従者している。
二人が今居るのは、湖に浮かぶ小島。いつからあるのか分からないが、湖の中央ほどを彷徨っているらしい。湖底とすら繋がっていない、本当に浮島である。
「レイニ、一体ここに何があると言うのです?」
ペシエラが尋ねるが、レイニは答えない。そして、後ろを向いていたレイニがくるりと振り返る。
「精霊に黙ってついて来るとは、本当に人間って愚かだね。ま、それは嫌いじゃないけど」
レイニが悪い顔で笑うものだから、ペシエラとアイリスは構える。二人のその姿を見ても、レイニはまったく余裕を崩さなかった。
「うんうん、いい反応だよ。だからこそ、ボクは君たちに手を貸すんだけどね」
かと思えば、今度は腕組みをして頷いている。まったく精霊の行動は読めないものだ。
その時だった。
レイニの横で、どす黒い瘴気が集まり始めた。あまりに強い瘴気に、ペシエラたちは警戒を強める。
「そんなに構えなくてもいいよ。彼が話がしたいと言うから、君たちを招いたんだ。ペシエラはおまけで、本命はそっちの眼鏡の子だよ」
レイニの言う事がまったく分からない。アイリスに用事があって呼んだ? ペシエラはおまけ? 首を傾げるばかりである。
「ボクは光と水の精霊だと言ったでしょ? サファイア湖で起きた事は把握しているんだよ」
レイニがこう言った事で、ペシエラはなんとなく分かった。
「なるほど、この瘴気も幻獣ってわけなのですわね」
「鋭いね、その通りだよ」
レイニはお腹を抱えて笑っている。そこまで笑うの事なのだろうか。
「まぁ、本人に話してもらうとしようか。出ておいて、ニーズヘッグ」
レイニが名前を呼ぶと、瘴気がその姿を変え始めた。そして、ペシエラが過去に見た事のある形が現れたのだった。
「厄災の……暗龍?」
そう、三年前の魔物氾濫で姿を見せた、不完全ながら顕現した厄災の暗龍だった。
「そうだよ。三年前はちょっとした事故で、自我を失った不完全な姿で現れたけどね。まったく、瘴気を喰らう龍が、逆に瘴気に飲まれるとか笑えないんだけど」
レイニが厄災の暗龍を叱っている。ペシエラたちは何を見せられているのだろうか。
少ししょんぼりしたように見える厄災の暗龍。だが、そのどっしりとした体躯に鋭い眼光を秘めた瞳を持つ龍は、確かに畏怖されてきた厄災の暗龍なのである。
「我は幻獣ニーズヘッグ。我の暴走を抑えた人間よ、久しいな」
見た目や過去のイメージとは裏腹に、比較的丁寧に挨拶をしてきた。
「我は待っていた。我を使役できる人間が現れる事を」
ニーズヘッグはそう言って、アイリスへと視線を向けたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
64
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる