逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第六章 一年次・夏

第125話 奇跡の湖の浮島

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「やあ、久しぶりだね」
「レイニッ!」
 チェリシアが叫ぶと、ロゼリアとペシエラ以外がくるりと振り返った。
「光の精霊様……なのですか?」
 こう言って歩み寄ってきたのは、公爵令嬢のプラティナだった。
「ははっ、その通りだよ。でも、厳密には少し違うよ。ボクは光と水の精霊だからね」
 プラティナは驚いた。幼い頃からスノーフィールド公爵家の娘としてたくさん勉強してきたプラティナにとって、二属性の精霊は初耳だからである。
「っと、レイニ。今回は念話ではありませんのね」
 何かに気が付いたロゼリアが、レイニに尋ねる。
「よく気が付いたね。ボクは普通に話す事もできるんだよ」
 レイニはニヤリと笑っている。
 目の前でふよふよと浮いているレイニ。三年ぶりだが、やはり掴みどころがない。精霊とは自由気ままなのだ。
「君たちが来る事は知ってたよ。特に、そっちの眼鏡をかけた子、君をね」
 容姿で指定されたアイリスが、目を白黒させている。精霊に直接指定されるなど、あり得る事ではないからだ。
「ペシエラっていったっけ、君もおいで。あちらさんからのご指名だよ」
「あちらさんって、どなたの事なのかしら?」
 ケラケラと笑いながら言うレイニに、ペシエラは食ってかかる。
「まぁ、会えば分かるよ。残りの子は湖でも堪能しててよ」
 レイニはそう言うと、すうっと移動を始める。仕方ないので、ペシエラとアイリスの二人だけで移動する事になった。
「ロゼリア、任せますわよ。お姉様の事は、特に気を付けて下さいませ」
「分かってるわ」
 ロゼリアに見送られながら、ペシエラとアイリスはレイニの後を追った。

「お、追いつきましたわ……」
「ペ、ペシエラ様、大丈夫ですか?」
 息を切らせるペシエラを、アイリスが気遣っている。言葉遣いが従者している。
 二人が今居るのは、湖に浮かぶ小島。いつからあるのか分からないが、湖の中央ほどを彷徨っているらしい。湖底とすら繋がっていない、本当に浮島である。
「レイニ、一体ここに何があると言うのです?」
 ペシエラが尋ねるが、レイニは答えない。そして、後ろを向いていたレイニがくるりと振り返る。
「精霊に黙ってついて来るとは、本当に人間って愚かだね。ま、それは嫌いじゃないけど」
 レイニが悪い顔で笑うものだから、ペシエラとアイリスは構える。二人のその姿を見ても、レイニはまったく余裕を崩さなかった。
「うんうん、いい反応だよ。だからこそ、ボクは君たちに手を貸すんだけどね」
 かと思えば、今度は腕組みをして頷いている。まったく精霊の行動は読めないものだ。
 その時だった。
 レイニの横で、どす黒い瘴気が集まり始めた。あまりに強い瘴気に、ペシエラたちは警戒を強める。
「そんなに構えなくてもいいよ。彼が話がしたいと言うから、君たちを招いたんだ。ペシエラはおまけで、本命はそっちの眼鏡の子だよ」
 レイニの言う事がまったく分からない。アイリスに用事があって呼んだ? ペシエラはおまけ? 首を傾げるばかりである。
「ボクは光と水の精霊だと言ったでしょ? サファイア湖で起きた事は把握しているんだよ」
 レイニがこう言った事で、ペシエラはなんとなく分かった。
「なるほど、この瘴気も幻獣ってわけなのですわね」
「鋭いね、その通りだよ」
 レイニはお腹を抱えて笑っている。そこまで笑うの事なのだろうか。
「まぁ、本人に話してもらうとしようか。出ておいて、ニーズヘッグ」
 レイニが名前を呼ぶと、瘴気がその姿を変え始めた。そして、ペシエラが過去に見た事のある形が現れたのだった。
「厄災の……暗龍?」
 そう、三年前の魔物氾濫で姿を見せた、不完全ながら顕現した厄災の暗龍だった。
「そうだよ。三年前はちょっとした事故で、自我を失った不完全な姿で現れたけどね。まったく、瘴気を喰らう龍が、逆に瘴気に飲まれるとか笑えないんだけど」
 レイニが厄災の暗龍を叱っている。ペシエラたちは何を見せられているのだろうか。
 少ししょんぼりしたように見える厄災の暗龍。だが、そのどっしりとした体躯に鋭い眼光を秘めた瞳を持つ龍は、確かに畏怖されてきた厄災の暗龍なのである。
「我は幻獣ニーズヘッグ。我の暴走を抑えた人間よ、久しいな」
 見た目や過去のイメージとは裏腹に、比較的丁寧に挨拶をしてきた。
「我は待っていた。我を使役できる人間が現れる事を」
 ニーズヘッグはそう言って、アイリスへと視線を向けたのだった。
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