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貴族の密会

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 煌びやかな空間がそこにはあった。
 
 広い室内に置かれた調度品はどれも高価で、カーテンやブラインドその他、インテリアの類の一つとっても一般貴族には手の出にくい贅沢な代物ばかりである。

 中央には、玉座のようにしつらえられた白銀の円卓があり、3人の男が卓を囲んでいた。

 彼らはフロイゼン王国に仕える貴族の中でも特に力を持っている侯爵家の当主だ。
 
「みな集まったな。では、始めようか」

 荒鷲を思わせる鋭利な眼差しと、ゆったりとしたチュニックの上からでもわかる、よく鍛えられた四肢。

 まるで歴戦の猛者を思わせるその男――ガーランドは、正面に座る痩せぎすの男に話を振った。

「キエル侯、本日の議題について聞かせてくれ」

「はい。ロザリア王女が勇者ヨシトに想いを寄せていることは、お集りの皆さまもご承知のことと思います」

 キエルの言葉に、2人が頷く。

 これは貴族であれば誰もが知っていることだ。
 国王が善人よしとにロザリアを妻に迎える気はないかと伝えたいう噂が流れ、臣下の1人が真偽を訊ねたところ、真実だと認めたのだ。

 国王だけの暴走かと思いきや、ロザリア自身もまんざらではないという。

 その時は善人が魔王を討伐するまではということで断ったそうだが、ロザリアの最有力候補というのが、貴族の共通認識となっていた。

 そのことに関して大半の貴族は好意的だったが、一部の貴族は快く思っていなかった。

 特に地位が高い貴族ほど否定的な者が多い。
 
 それはそうだろう。
 ロザリアと婚姻を結べば血の繋がりができ、王宮と強固な関係を築くことができる。

 事実、キエルの姉が現国王の后となったおかげで、元々伯爵だった彼は侯爵となったのだ。

 例え女神の恩恵を与えられた勇者だろうと、貴族たちからすれば異世界からやってきた得体のしれない若造である。

 そのような者に、王女との婚姻という美味い汁をみすみす渡すなど許せない。

 だからといって簡単に善人に手を出せない理由が3人にはあった。

 最大の理由は、善人を始末することができる者が見つからないということだ。

 勇者というだけあって善人の力は侮れないものがある。
 王国でも屈指の実力の持ち主であったアルベルトを倒しているのだ。

 アルベルト以上の力を持った者を探すとなると時間がかかる上にリスクも高い。

 どうしても慎重にならざるをえなかった為、この件については先延ばしにしていた。

「私の得た情報によりますと、マクギリアス王子もまた貴族以外の者を気にかけているそうです」

「なにっ」

 キエルの左隣に座る恰幅のよい男――ベリックが驚いて、キエルを見た後にガーランドを見る。

「キエル候よ、それは本当か?」

「王宮に潜り込ませている者からの情報ですので、まず間違いないかと」

「そうか。ならば、マクギリアス王子が気にかけている相手も分かっているのか?」

 ガーランドの問いに、キエルが頷く。

「王宮御用達として認められた白ポーションを販売しているエリーという少女です」

「あの女か……忌々しい」

 ガーランドは苛立たしさを隠そうともせず顔を歪ませる。

 白ポーションの情報をいち早く入手したガーランドは、店を脅して利権を奪ってやろうと、自身の派閥に属する貴族に命じて何度か店を襲撃させたことがあったが失敗に終わっている。

 何度も失敗した貴族を叱責し、再び襲撃者を差し向けようとしたのだが、その前に王宮御用達に認定されてしまったため、簡単に手が出せなくなってしまったのだ。

 ガーランドは口髭を撫でながら目を閉じて考える。

 このままではロザリアだけでなくマクギリスまでもが貴族ではない、どこの誰とも分からぬ素性の者と結婚するかもしれない。

 特にマクギリアスは次期国王だ。
 つまり、彼の妻は次期王妃であり、2人の子は後の王となる。

 その外戚ともなれば地位や権力は保証されたも同然だ。
 
「勇者ヨシトよりはくみし易《やす》いか」

 相手は勇者でもない、ただの少女である。
 王宮御用達ということで躊躇していたが、ちょうどいい機会だ。
 ついでに、白ポーションの生成方法も吐かせることが出来れば言うことはない。
 
「確か、店には白髪交じりの男が1人で販売をしているのだったな」

「はい」

「ベリック候、頼みがある」

「『処刑人』の出番ですかな」

 処刑人とはベリック候が雇っている暗殺者だ。

「察しがよくて助かる。店の男を利用してエリーをおびき出す。頼めるか?」

 ガーランドの右隣に座るベリックが鷹揚に頷いた。

「お任せください。ですが、よろしいのですか? 奴は加減を知りませぬ故、女をおびき出す前に男を始末してしまうかもしれませんぞ」

「構わん」

 その方が見せしめになっていいかもしれない。
 年若い少女であれば、怯えて素直に言うことを聞くだろう。

「――だそうだ。やれるな?」

 ベリックが後ろを振り返る。

 彼の視線の先――壁際には、いつの間にか覆面で顔を隠した男が立っていた。
 覆面の男は言葉を発することなく、ただ一度だけこくりと頷いた。

「よろしい。ならば行け」

 ベリックの言葉とともに、覆面の男は纏っていたマントを翻す。
 次の瞬間、覆面の男の姿が消えた。

 ガーランドがニヤリと口角を上げる。

「恨むならマクギリアス王子を恨むのだな」
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