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新しい世界

第7話 魔術学院の授業②

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次は魔法実習の時間だ。この授業は修練場で行う。

「今日は早速だがテストを行ってもらう!とはいえあくまで現状確認のためのものだし、傾向や属性で得手不得手はあるだろうから、身構える必要は無いぞ!」

テスト内容は大きく分けて2つ、丸太攻撃と自由発表である。

まず丸太攻撃は名称通り、用意された人間サイズの丸太を30秒間でどれだけ壊せるかを見る。

次に自由発表は、自分の好きなように魔法を使って何か芸をして見せろという漠然とした内容だが、割とお遊戯会的なテンションらしい。そもそも神の啓示から3ヶ月しか経っておらず、魔法の歴が浅いので、魔法そのものの技術を見るというよりは自己紹介の側面が大きいようだ。これについては予め連絡があったので、私もある程度考えてはある。

「さて、では最初は丸太攻撃だ。最初の5人、前へ。」

うち1人はジークのようだ。優秀らしいことは知っているが実際に魔法を使っているところは見たことがないので少し楽しみだ。

「それでは、初め!」


「ファイアボール!」

「グランドアーミー!」

「ウインドカッター!」


5人が一斉に攻撃する。だが皆属性によらず苦戦しており丸太に大きな変化はない。一見木製なのだから火属性が有利そうだが、乾燥させていない人間サイズの木はそこそこの火でも30秒ではいくらも燃えない。

しかしジークは違った。

「とおー!」

丸太を覆うように風のドームができたかと思うと、ドーム内の至る所から超高速の風の刃が繰り出され、次々に削っていく。あんな間の抜けた声を出しながら、こんな攻撃をされようものならトラウマになりそうだ。ちなみにジークは魔法名を言っていないのになぜ魔法が出せるのか?と思うかもしれないが、むしろ逆である。そもそもが乙女ゲームのこの世界に魔法名やスキル名なんてものは無い。だが魔法はイメージが大事なので、イメージしやすくするために皆それっぽいことを叫んでいるのである。

「30秒!やめ!」

他4人は表面に傷をつけた程度なのに対し、ジークは丸太を半壊させる結果となった。魔法歴3ヶ月の、しかも攻撃を得意としないはずの極光傾向の者がなせるレベルではない。さすがは首席なだけある。

「ロバンはさすがだな。他のみんなもこのような姿を目標にするように!」

「いや~そんなこと言われると照れますよ先生~!」

クラスメイトからどっと笑いが起こる。これ程の実力者でありながらクラスにここまで馴染めているのも、また彼の才能と言えるだろう。

「次の5人、前へ!」


今度はマリーの番だ。

「緊張するわ!大丈夫かしら。」

「現状確認だけって言ってたし、気楽にいこうよ。」

「そうね、頑張るわ!」


「では初め!」

「アーススピア!」

マリーは地面を動かして槍を作り、一生懸命丸太をつついている。一見地味だが確実に丸太を削っていく。

「やめ!」

マリーの結果は悪くないものだった。目測で4分の1程度、ジークの半分位の損傷率だろうか。

「ん~悔しいですわ、もっといけると思ったのに!」

「いや、でも他の人と比べてもこれだけできるのはすごいよ」

「ほんとう?なら嬉しいですわ!」




――――――――――――――



「では最後の5人!前へ」

今度は私の番だ。さて、突然だが、一般にこの世界の魔法でできることはざっくり2つである。1つは各属性の元素を生み出すこと、そしてもうひとつは現存している属性のものを操ることである。つまり私の場合水を作るだけでなく、今ある水もしくは水分を操ることができる。そして目の前の丸太、今回用意されている丸太の水分量は多く、半分近くが水である。ではその水を操って一気に発散させたら?面白そうだからやってみよう。仮に失敗しても30秒あれば他の手法も試せるだろう。

「では始め!」

さて、魔法に大事なのはイメージだ。まず操作する範囲を大まかに決めて、水元素を感知・掌握。そして急速に発散させる…!


パァァァン!!!


思惑は見事成功、花火のごとく丸太が弾け飛ぶ。飛んでいるのは火の光ではなく木片だから、全く綺麗ではないが。

木片が散り終わると、丸太は余すとこなく粉々になっていた。ここまでおよそ10秒である。ふと周りを見やると、皆ポカーンとした顔で丸太や私を見ていた。同時に丸太攻撃をやっていた他の4人も手が止まっている。まだ15秒はあるがいいんだろうか。みんな黙ったままなので私が口を開く。

「…えっと、丸太''攻撃''ってことは外部から攻撃しないとダメとかありましたっけ…」

「い、いや、そんなことは無いが…どうやったんだ?」

先程考えた方法を伝える。

「なっっそんなことが…!確かに言われてみれば理にかなってはいるが…しかし百歩譲って丸太の水分を操作できたとして、元素視なんてどこで覚えたんだ??熟練の魔術師ならともかく魔法覚えたての者がやるようなものじゃないぞ…」

元素視とは、私が丸太内の水分を検知するために使った力だ。これを使えば自分の属性と同じ属性の元素を見つけ出すことができる。

「えっと、母が『これできると便利よ!』などと軽いノリで言ってくるので教わったのですが…」

「………母上の名は?」

「マドレーヌです。たしか旧姓は…」

「メルシエか」

「はい。もしかしてお知り合いですか?」

「ああ、俺の生徒時代の後輩だよ。…なるほどなあ、あいつの娘でその魔力量なら納得だな。それでも凄いもんは凄いが。」

なんと、先生がママの先輩だったとは。世間とは狭いものである。しかしママがそんな魔法が得意なイメージは無かったが……

いや、よくよく考えると彼女がナチュラルに使っていた従業員代わりの土人形、一日中形が崩れることがない上に、単純労働だけでなくお客の注文を受けて会計までやっていた。だが、読んでいた本にそんな高度なことをする土人形の話は載っていなかった。…伊達に「ヒロイン」の母ではないな。

「さて、驚くこともあったがとりあえず一休みだ!」

ここで休憩に入る。すると私の元へマリーとジークが駆け寄ってくる。

「すごいですわ、カナ!さすがね!」

「ほんとほんと!びっくりしたよ!いや~カナは魔法だけじゃなくて頭も良いよね!前の授業もスパーっと答えてたし、今のだってそんな方法思いつかないよ!」

「ありがとう、嬉しいよ」

こんな真正面から、そして恐らく心の底から褒められることも少ないのでやや赤面しているかもしれない。それと2人のテンションの上がりっぷりに笑みがこぼれる。

「「(カナがちょっと照れてる(わ)…!)」」

そんな私に2人が萌えていることには気が付かなかった。
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