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目覚めた先は・2
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(どうして、こんな事に……!)
道無き道を走る沙彩の後ろからは、男達が追って来ているようだった。
今朝までの沙彩は、いつも通りに過ごして、部屋の本棚を整理して、読み終えた本を持って家を出たはずだった。
買取に出して、ウィンドウショッピングを楽しんだら、自宅に戻って明日からの仕事に備えてゆっくり休むはずだった。
それなのに、どうして今、男達に追われて森の中を走っているのだろうーー。
木々の中を走っていた沙彩は、ようやく木々の終わりを見つけた。森を抜けられるだろう。
ホッとした沙彩の目から涙が溢れる。掌で擦ると、そのまま走り抜けたのだった。
森から出ると、そこは山道のような急な道が続いていた。
遠くに無数の明かりが見えた。街があるのだろうか。
けれどもーー。
(ここって、本当に日本なの……?)
森の中では分からなかったが、ここには人工的な明かりがなかった。舗装された地面でなければ、車も走っていなかった。
こんな場所が日本にあったのだろうか。
悩んでいると、後ろから男達が追って来ているのがわかった。
「考えている場合じゃない……!」
沙彩は街に向かって、一目散に駆け出したのだった。
どれくらい走っただろうか。
山道の麓近くまで降りていると、馬の嘶きのような声が聞こえてきた。
(馬って、ここは日本の田舎なのかな?)
馬なんて、子供の頃に行った牧場で見たくらいであった。
沙彩が恐る恐る山道を下っていると、不意に正面から人が登って来た。
「良かった……。人がいた……」
これで助けを呼べると安心したからだろうか。
沙彩は足元に生えていた太い木の根に爪先を引っ掛けてしまった。
「きゃあ!?」
前のめりに倒れそうになった時、沙彩に向かって駆け出してきたのだった。
倒れそうになった沙彩は、誰かの身体にもたれる形で転ばずに済んだ。
(誰……?)
肩に手を添えて、身体を支えてくれたのは沙彩と同い年か少し年上の青年であった。
「大丈夫?」
「は、はい!」
鳥肌が立つような低音の美声に、沙彩は何度も頷く。
「そっか。良かった……」
安心したように青年はエメラルドのような淡い緑色の瞳を細めた。
水色のかかった銀色の髪をショートにした青年に見惚れていると、後ろからガチャガチャと男達の足音が聞こえてきたのだった。
「ようやく、追いついた」
まるで中世に出てくるような銀色に鈍く輝く鎧を纏った男達は、沙彩達の少し手前で立ち止まって声を掛けてきた。
その声にビクリと身体を震わせる沙彩の姿に状況を悟ったのか、青年は顔を上げる。
「あ、貴方様はっ……!?」
青年の顔を見た男達は姿勢を正したのだった。
(どういう事……?)
青年に肩を支えられた状態で見上げると、青年の耳朶の何かの紋章が彫られた銀色のイヤリングが目に入った。
そんな沙彩の様子に気づく様子もなく、青年は男達に向かって話し出したのだった。
「こちらの女性が今回の?」
「ええ。おそらくは。あの森の奥にいたのは、こちらの女性だけでしたので……」
「そうか……」
青年は沙彩の顔をじっと見つめると、右頰に触れてきた。
「ああ。可哀想に。顔に土がついてしまっているね」
おそらく、森で倒れていた時につけてしまったのだろう。青年は沙彩の右頰を何度か優しく擦ると、土を落としてくれたのだった。
道無き道を走る沙彩の後ろからは、男達が追って来ているようだった。
今朝までの沙彩は、いつも通りに過ごして、部屋の本棚を整理して、読み終えた本を持って家を出たはずだった。
買取に出して、ウィンドウショッピングを楽しんだら、自宅に戻って明日からの仕事に備えてゆっくり休むはずだった。
それなのに、どうして今、男達に追われて森の中を走っているのだろうーー。
木々の中を走っていた沙彩は、ようやく木々の終わりを見つけた。森を抜けられるだろう。
ホッとした沙彩の目から涙が溢れる。掌で擦ると、そのまま走り抜けたのだった。
森から出ると、そこは山道のような急な道が続いていた。
遠くに無数の明かりが見えた。街があるのだろうか。
けれどもーー。
(ここって、本当に日本なの……?)
森の中では分からなかったが、ここには人工的な明かりがなかった。舗装された地面でなければ、車も走っていなかった。
こんな場所が日本にあったのだろうか。
悩んでいると、後ろから男達が追って来ているのがわかった。
「考えている場合じゃない……!」
沙彩は街に向かって、一目散に駆け出したのだった。
どれくらい走っただろうか。
山道の麓近くまで降りていると、馬の嘶きのような声が聞こえてきた。
(馬って、ここは日本の田舎なのかな?)
馬なんて、子供の頃に行った牧場で見たくらいであった。
沙彩が恐る恐る山道を下っていると、不意に正面から人が登って来た。
「良かった……。人がいた……」
これで助けを呼べると安心したからだろうか。
沙彩は足元に生えていた太い木の根に爪先を引っ掛けてしまった。
「きゃあ!?」
前のめりに倒れそうになった時、沙彩に向かって駆け出してきたのだった。
倒れそうになった沙彩は、誰かの身体にもたれる形で転ばずに済んだ。
(誰……?)
肩に手を添えて、身体を支えてくれたのは沙彩と同い年か少し年上の青年であった。
「大丈夫?」
「は、はい!」
鳥肌が立つような低音の美声に、沙彩は何度も頷く。
「そっか。良かった……」
安心したように青年はエメラルドのような淡い緑色の瞳を細めた。
水色のかかった銀色の髪をショートにした青年に見惚れていると、後ろからガチャガチャと男達の足音が聞こえてきたのだった。
「ようやく、追いついた」
まるで中世に出てくるような銀色に鈍く輝く鎧を纏った男達は、沙彩達の少し手前で立ち止まって声を掛けてきた。
その声にビクリと身体を震わせる沙彩の姿に状況を悟ったのか、青年は顔を上げる。
「あ、貴方様はっ……!?」
青年の顔を見た男達は姿勢を正したのだった。
(どういう事……?)
青年に肩を支えられた状態で見上げると、青年の耳朶の何かの紋章が彫られた銀色のイヤリングが目に入った。
そんな沙彩の様子に気づく様子もなく、青年は男達に向かって話し出したのだった。
「こちらの女性が今回の?」
「ええ。おそらくは。あの森の奥にいたのは、こちらの女性だけでしたので……」
「そうか……」
青年は沙彩の顔をじっと見つめると、右頰に触れてきた。
「ああ。可哀想に。顔に土がついてしまっているね」
おそらく、森で倒れていた時につけてしまったのだろう。青年は沙彩の右頰を何度か優しく擦ると、土を落としてくれたのだった。
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