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どちらが上か
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「あんな態度許せないわ!」
ジンの事務所に怒鳴り込んだマダムは珍しく一人だった。
ジンが足を乗せている机を思いきり叩いて怒鳴りつけるもジンは爪を整えているヤスリを止めようとしない。ジンの事務所は気まぐれに開けるため朝から開いていることもあれば夜はもう閉まっていることもある。昨日は珍しく夜は閉まっていたため訴えることができず、ダメ元で朝から行ってみると開いていたため突撃したのだが「どうした?」と聞かれることさえなかった。
もともと人の顔色を窺って商売をする人間ではないためどちらかといえば依頼主のほうが気を使う必要がある。今もそう。怒鳴りつけたあとでマダムは気まずさを感じてゆっくり手を離した。
「朝から一人で大勢のデモ隊みたいな声出して何用だよ」
爪についた削りカスに息を吹きかけて払い、ヤスリを机に置いたことでようやくジンが人間として稼働する。
「ディルのことよ!」
「ああ、レンタル契約終了だってな」
「あの子が勝手に言っただけよ! 私は納得してないわ! あの子はルールも守らず逃げ出したの! ペナルティを与えるべきよ!」
「ペナルティねぇ。例えば?」
「あの子を一年契約にしてちょうだい。それも報酬なしで」
マダムにとっては当たり前の提案だったのだが、ジンはそれに対し吹き出すようにして笑い始めた。
「な、何がおかしいの!?」
「ルールを守らなかった人間がルールを口にすることよりも面白ぇことがあるとはな」
「私がルールを守らなかったって言いたいの!?」
「自分がサインした契約書の内容も理解できなくなっちまったのか? ボケるにはまだ少し早いだろ」
ガラッと音を立てて開かれた引き出しの中から数枚束ねられた紙が取り出される。契約書だろう一番上の紙には確かにマダムシンディのサインがあった。マダムとジンの間で交わされた取引。口約束だけでは絶対に取引をしないジンがそれを手の甲で叩いて「覚えてるか?」と問いかけた。
「ここに書いてあんだろ。ディルを商品として差し出す条件の一つに仕事を継続させることって。アンタはそれを破ったそうじゃねぇか」
「ど、どうして知ってるの……」
「狭い街だ。そういった噂は一瞬で広まる。貴族共のくだらねぇ噂話よりもずっと早くな」
人通りの少ない夜に尋ねたのは人の注目を浴びないためだったのに意味がなかった。日付が変わる前に訪ねて行ったのに朝にはもうジンの耳に入っている。
マダムとジンの付き合いは長い。だからマダムは多くの秘密をジンに握られている。それはマダムも同じでジンとは協定を結んでいる部分もあれど全部ではない。脅しに出られないのは失う物はマダムのほうが圧倒的に多いから。
ジンのような悪人は逃げれば終わるが、マダムはそうじゃない。お気に入りの屋敷があり、自分を慕う使用人も、お気に入りのペットたちも全部捨てるには勇気がない。だからマダムは悔しそうに顔を歪ませるだけで怒鳴りつけはしなかった。
「あの子は私に牙を剥いたの。許されることじゃないの。どう責任取るつもり?」
「責任? アンタの躾不足なだけだろ。オレはアンタとの契約成立時に言ってたはずだ。躾を楽しんでもらうためにこっちではなんの躾もしてないって。それをアンタはわかってるって喜んだだろ。飼い犬に手を噛まれたから責任取れだ? 笑わせんじゃねぇよ」
机に置いた両足を軽く左右に揺らしながら楽しげだが嘲笑混じりな言い方をするジンにマダムの記憶が呼び起こされる。一から自分好みに躾けるのが好きなマダムにとって尻尾を振っていないディルは好みだった。ジンの手にかかればどんな人間も怯えを隠して尻尾を振る。それではつまらない。だからジンの配慮を喜んだのだが、失敗だった。
悔しげに分厚い唇を噛むマダムにジンが鼻を鳴らして笑う。
「アンタがルールを守りゃアイツもルールを守っただろうよ。ルールを守らねぇ奴が出したルールを守るバカがどこにいるってんだ?」
「で、でも、おかしいじゃない! 私は大金を払ったのよ! それなのに逃げ出したら終わりなんて契約書には記載されてなかったはずよ!」
「連れ戻すとも書いてなかったしな」
「あ、あなたの商品でしょ! 責任取りなさいよ! こんなの──ヒッ!」
机に乗せていた足を振り上げて叩きつけるように下ろしたことで食事中のテーブルをひっくり返したかのような大きな音が部屋中に響く。部下たちは慣れているのかその音に驚いてドアを開けて中を確認することはしない。
ジョージとティニーは一緒じゃない。今は自分を守ってくれる人間がいない状況だとわかっていながらマダムは意味なく挙動不審に辺りを見回すもジンがチッチッチッチッと舌打ちのように音を鳴らしたことで意識が戻される。
「で、アンタは何を言いに来たんだ? 新しいペットが欲しい? それとも追加で金を払うから取り戻してくれ?」
「……いくらかかるの?」
「さあなァ……いくらかねぇ。アイツは俺に金借りてるわけじゃねぇから連れ戻すには苦労するだろうなァ」
「いくらなの!?」
金はいくらでもある。それこそ湯水の如く使っても痛手のないほどに。だが、そんな使い方をするのは愛する者と自分の欲を満たすため。だからこそいくらでも出すとは言えない。今までの経験上、ジンは「絶対」という言葉を使わない。それは「絶対とは言ってない」と逃げ道を作るためだ。何度も取引をしたマダムはすぐには飛びつかないようにした。過去にそうすることで大損した経験があるからだ。
「十、だな」
「……冗談よね?」
「俺は冗談は好きだが、交渉時に冗談を言うのは好きじゃねぇ。知ってんだろ?」
冗談でなければなんだと言うのか。信じられないと顔に出すマダムの腹の奥底は沸々と湧き上がる怒りで熱くなる。
「ディルをレンタルする際、私がいくら払ったか覚えてる?」
「三」
「連れ戻すだけで三倍以上払えって言うの? それは絶対に連れ戻せるからその額なの?」
「アンタがルールを破ったことへの違反金。アイツは俺の部下にレンタルは終わりだと伝えたが、そこに怯えた様子はなかったらしい。アンタがちゃんと躾なかったせいで妙な自信をつけた人間が一番厄介なんだよ。そんな人間に逃げ出した場所に戻れって言い聞かせることがどれだけ骨の折れることかわかってるよな?」
「絶対なの?」
絶対でなければ払えない。最低条件として挙げる言葉にジンは笑いながら足を組んで乗せた足を揺らす。
「この世に絶対はないんだよ。アンタの金も、俺の職にも絶対はない」
「お金だけ払わせるつもりじゃないでしょうね……」
「信じるか信じないかはアンタ次第だ」
ジンが取引相手としては優秀だと思っている。実際にマダムは何度も何度も彼に世話になっている。だが、信用ならない部分も多い。相手がどれだけ太客だろうと自分の機嫌優先で事務所を開閉する。それによって常連が何を言おうと「俺の勝手だろうが」と突っぱねる。
彼がどれほどの影響力を持っているかはその界隈の人間に名前を出すだけでわかる。彼を知らない人間からすれば脅威はないが、知っている人間からすれば彼を怒らせることは避けたいと言わせるほどの力を持っているのだ。マダムもそう考えるうちの一人。
「私はね、安心が欲しいの。絶対に連れ戻してくれるなら十倍でも払うわ」
一種の賭けに出たマダムにジンが笑う。
「アイツは犬じゃねぇからな。言葉を話せるだけに厄介なのはわかるだろ」
「絶対じゃなきゃダメよ!」
「だったら諦めな。逃げ出したのはアンタがアイツの飼い主の器じゃなかったってことだ」
マダムは認めたくなかった。今まで数多くの人間を買い取ってきた。家族のいない若い男を中心に自分がママとなりご主人様となり従わせてきた。だが、どれもすぐに壊れてしまう脆弱な者ばかりで手応えがなく退屈な日々を送っていた。ディルはそうじゃなかった。何をしようと折れず“悪い子”になる日を楽しみにしていた自分がいた。狙って“悪い子”になるジョージとは違う、本気の拒絶。それを時間をかけて屈服させる醍醐味を久しぶりに味わわせてくれたのがディル。それを一度逃げ出したからと簡単に諦められるほどあの感覚は頻繁に味わえるものじゃない。
拳を握り、唇を噛み締める。答えに迷っている。お願いか、絶縁か。後者はない。ジョージとティニーの気持ちが不安定になっている今、後継者を手配してくれるジンとの繋がりを断つことは日々から楽しみが消えることを意味している。ジンもそれをわかっているから余裕めいた笑みを浮かべながらマダムの返事を待っていた。
「……払うわ」
「前払いだぞ」
「わかってるわよ!」
「今日中に持ってこい」
わなわなと拳を震わせながらもマダムは意地になっていた。
ディルを見つけるまでマダムの日常は平穏そのものだった。お気に入りのジョージとティニーが傍にいて、働き者の使用人が頭を下げ、引き抜いた有名シェフの食事に舌鼓を打ち、全てが思いどおりになる人生だった。でもディルをレンタルしてから人生は思いどおりにいかないことが増えた。ディルが“良い子”にしていることは少なく、躾ができる楽しみはあってもストレスを感じないわけではなかった。なぜこの生活を素晴らしいと思わないのか。なぜ仕事に行くときのほうが嬉しそうなのか、と。ジョージやティニーのように媚びて人生を楽しもうとしないディルをなんとしても跪かせたかった。そして意地になって店に取り返しに行ったものの、ディルを守っている相手が悪かった。
ジルヴァについて下調べはしたつもりだったが、ジンと同様に厄介な相手であることまでは調べがつかなかったせいで負け帰ったようになった。それもマダムに屈辱を与えた理由の一つ。
このままでは負け犬になってしまう。マダムシンディが負けるなどあり得ない。絶対に取り戻すと固く決意し、歯を食いしばってギリッと音を立てながら金を取りに戻るため事務所から出て行った。
ジンの事務所に怒鳴り込んだマダムは珍しく一人だった。
ジンが足を乗せている机を思いきり叩いて怒鳴りつけるもジンは爪を整えているヤスリを止めようとしない。ジンの事務所は気まぐれに開けるため朝から開いていることもあれば夜はもう閉まっていることもある。昨日は珍しく夜は閉まっていたため訴えることができず、ダメ元で朝から行ってみると開いていたため突撃したのだが「どうした?」と聞かれることさえなかった。
もともと人の顔色を窺って商売をする人間ではないためどちらかといえば依頼主のほうが気を使う必要がある。今もそう。怒鳴りつけたあとでマダムは気まずさを感じてゆっくり手を離した。
「朝から一人で大勢のデモ隊みたいな声出して何用だよ」
爪についた削りカスに息を吹きかけて払い、ヤスリを机に置いたことでようやくジンが人間として稼働する。
「ディルのことよ!」
「ああ、レンタル契約終了だってな」
「あの子が勝手に言っただけよ! 私は納得してないわ! あの子はルールも守らず逃げ出したの! ペナルティを与えるべきよ!」
「ペナルティねぇ。例えば?」
「あの子を一年契約にしてちょうだい。それも報酬なしで」
マダムにとっては当たり前の提案だったのだが、ジンはそれに対し吹き出すようにして笑い始めた。
「な、何がおかしいの!?」
「ルールを守らなかった人間がルールを口にすることよりも面白ぇことがあるとはな」
「私がルールを守らなかったって言いたいの!?」
「自分がサインした契約書の内容も理解できなくなっちまったのか? ボケるにはまだ少し早いだろ」
ガラッと音を立てて開かれた引き出しの中から数枚束ねられた紙が取り出される。契約書だろう一番上の紙には確かにマダムシンディのサインがあった。マダムとジンの間で交わされた取引。口約束だけでは絶対に取引をしないジンがそれを手の甲で叩いて「覚えてるか?」と問いかけた。
「ここに書いてあんだろ。ディルを商品として差し出す条件の一つに仕事を継続させることって。アンタはそれを破ったそうじゃねぇか」
「ど、どうして知ってるの……」
「狭い街だ。そういった噂は一瞬で広まる。貴族共のくだらねぇ噂話よりもずっと早くな」
人通りの少ない夜に尋ねたのは人の注目を浴びないためだったのに意味がなかった。日付が変わる前に訪ねて行ったのに朝にはもうジンの耳に入っている。
マダムとジンの付き合いは長い。だからマダムは多くの秘密をジンに握られている。それはマダムも同じでジンとは協定を結んでいる部分もあれど全部ではない。脅しに出られないのは失う物はマダムのほうが圧倒的に多いから。
ジンのような悪人は逃げれば終わるが、マダムはそうじゃない。お気に入りの屋敷があり、自分を慕う使用人も、お気に入りのペットたちも全部捨てるには勇気がない。だからマダムは悔しそうに顔を歪ませるだけで怒鳴りつけはしなかった。
「あの子は私に牙を剥いたの。許されることじゃないの。どう責任取るつもり?」
「責任? アンタの躾不足なだけだろ。オレはアンタとの契約成立時に言ってたはずだ。躾を楽しんでもらうためにこっちではなんの躾もしてないって。それをアンタはわかってるって喜んだだろ。飼い犬に手を噛まれたから責任取れだ? 笑わせんじゃねぇよ」
机に置いた両足を軽く左右に揺らしながら楽しげだが嘲笑混じりな言い方をするジンにマダムの記憶が呼び起こされる。一から自分好みに躾けるのが好きなマダムにとって尻尾を振っていないディルは好みだった。ジンの手にかかればどんな人間も怯えを隠して尻尾を振る。それではつまらない。だからジンの配慮を喜んだのだが、失敗だった。
悔しげに分厚い唇を噛むマダムにジンが鼻を鳴らして笑う。
「アンタがルールを守りゃアイツもルールを守っただろうよ。ルールを守らねぇ奴が出したルールを守るバカがどこにいるってんだ?」
「で、でも、おかしいじゃない! 私は大金を払ったのよ! それなのに逃げ出したら終わりなんて契約書には記載されてなかったはずよ!」
「連れ戻すとも書いてなかったしな」
「あ、あなたの商品でしょ! 責任取りなさいよ! こんなの──ヒッ!」
机に乗せていた足を振り上げて叩きつけるように下ろしたことで食事中のテーブルをひっくり返したかのような大きな音が部屋中に響く。部下たちは慣れているのかその音に驚いてドアを開けて中を確認することはしない。
ジョージとティニーは一緒じゃない。今は自分を守ってくれる人間がいない状況だとわかっていながらマダムは意味なく挙動不審に辺りを見回すもジンがチッチッチッチッと舌打ちのように音を鳴らしたことで意識が戻される。
「で、アンタは何を言いに来たんだ? 新しいペットが欲しい? それとも追加で金を払うから取り戻してくれ?」
「……いくらかかるの?」
「さあなァ……いくらかねぇ。アイツは俺に金借りてるわけじゃねぇから連れ戻すには苦労するだろうなァ」
「いくらなの!?」
金はいくらでもある。それこそ湯水の如く使っても痛手のないほどに。だが、そんな使い方をするのは愛する者と自分の欲を満たすため。だからこそいくらでも出すとは言えない。今までの経験上、ジンは「絶対」という言葉を使わない。それは「絶対とは言ってない」と逃げ道を作るためだ。何度も取引をしたマダムはすぐには飛びつかないようにした。過去にそうすることで大損した経験があるからだ。
「十、だな」
「……冗談よね?」
「俺は冗談は好きだが、交渉時に冗談を言うのは好きじゃねぇ。知ってんだろ?」
冗談でなければなんだと言うのか。信じられないと顔に出すマダムの腹の奥底は沸々と湧き上がる怒りで熱くなる。
「ディルをレンタルする際、私がいくら払ったか覚えてる?」
「三」
「連れ戻すだけで三倍以上払えって言うの? それは絶対に連れ戻せるからその額なの?」
「アンタがルールを破ったことへの違反金。アイツは俺の部下にレンタルは終わりだと伝えたが、そこに怯えた様子はなかったらしい。アンタがちゃんと躾なかったせいで妙な自信をつけた人間が一番厄介なんだよ。そんな人間に逃げ出した場所に戻れって言い聞かせることがどれだけ骨の折れることかわかってるよな?」
「絶対なの?」
絶対でなければ払えない。最低条件として挙げる言葉にジンは笑いながら足を組んで乗せた足を揺らす。
「この世に絶対はないんだよ。アンタの金も、俺の職にも絶対はない」
「お金だけ払わせるつもりじゃないでしょうね……」
「信じるか信じないかはアンタ次第だ」
ジンが取引相手としては優秀だと思っている。実際にマダムは何度も何度も彼に世話になっている。だが、信用ならない部分も多い。相手がどれだけ太客だろうと自分の機嫌優先で事務所を開閉する。それによって常連が何を言おうと「俺の勝手だろうが」と突っぱねる。
彼がどれほどの影響力を持っているかはその界隈の人間に名前を出すだけでわかる。彼を知らない人間からすれば脅威はないが、知っている人間からすれば彼を怒らせることは避けたいと言わせるほどの力を持っているのだ。マダムもそう考えるうちの一人。
「私はね、安心が欲しいの。絶対に連れ戻してくれるなら十倍でも払うわ」
一種の賭けに出たマダムにジンが笑う。
「アイツは犬じゃねぇからな。言葉を話せるだけに厄介なのはわかるだろ」
「絶対じゃなきゃダメよ!」
「だったら諦めな。逃げ出したのはアンタがアイツの飼い主の器じゃなかったってことだ」
マダムは認めたくなかった。今まで数多くの人間を買い取ってきた。家族のいない若い男を中心に自分がママとなりご主人様となり従わせてきた。だが、どれもすぐに壊れてしまう脆弱な者ばかりで手応えがなく退屈な日々を送っていた。ディルはそうじゃなかった。何をしようと折れず“悪い子”になる日を楽しみにしていた自分がいた。狙って“悪い子”になるジョージとは違う、本気の拒絶。それを時間をかけて屈服させる醍醐味を久しぶりに味わわせてくれたのがディル。それを一度逃げ出したからと簡単に諦められるほどあの感覚は頻繁に味わえるものじゃない。
拳を握り、唇を噛み締める。答えに迷っている。お願いか、絶縁か。後者はない。ジョージとティニーの気持ちが不安定になっている今、後継者を手配してくれるジンとの繋がりを断つことは日々から楽しみが消えることを意味している。ジンもそれをわかっているから余裕めいた笑みを浮かべながらマダムの返事を待っていた。
「……払うわ」
「前払いだぞ」
「わかってるわよ!」
「今日中に持ってこい」
わなわなと拳を震わせながらもマダムは意地になっていた。
ディルを見つけるまでマダムの日常は平穏そのものだった。お気に入りのジョージとティニーが傍にいて、働き者の使用人が頭を下げ、引き抜いた有名シェフの食事に舌鼓を打ち、全てが思いどおりになる人生だった。でもディルをレンタルしてから人生は思いどおりにいかないことが増えた。ディルが“良い子”にしていることは少なく、躾ができる楽しみはあってもストレスを感じないわけではなかった。なぜこの生活を素晴らしいと思わないのか。なぜ仕事に行くときのほうが嬉しそうなのか、と。ジョージやティニーのように媚びて人生を楽しもうとしないディルをなんとしても跪かせたかった。そして意地になって店に取り返しに行ったものの、ディルを守っている相手が悪かった。
ジルヴァについて下調べはしたつもりだったが、ジンと同様に厄介な相手であることまでは調べがつかなかったせいで負け帰ったようになった。それもマダムに屈辱を与えた理由の一つ。
このままでは負け犬になってしまう。マダムシンディが負けるなどあり得ない。絶対に取り戻すと固く決意し、歯を食いしばってギリッと音を立てながら金を取りに戻るため事務所から出て行った。
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