今更お前が良いって時間も弁えず電話してくるのはやめてくれないか

Q矢(Q.➽)

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『やっぱりお前が良いんだ…。俺達、よりを戻さないか?』

確認もせずに出てしまったスマホのスピーカーから響いてきたのは、2年ぶりの元彼・永(ひさし)の声。

えーと…確かお前は、デート中に街中で会った俺の従兄弟に懸想して、浮気して皆の前で俺を捨てた訳だが…

もしかして忘れてる?健忘症?若年性?嘘だろ、早くね?

いや、あの件について今更永を責める気は無い。浮気成立は相手あっての事だから、永を受け入れた従兄弟の凛にも責任はある訳だし。

しかしだ。

大体、他に好きな奴が出来たのなら、先に別れ話があって然るべきではないだろうか。
 
『悪いがお前より好きな人ができてしまった。別れて欲しい。』

と言われたなら、俺だってそんな物分りの悪い方ではないからそれなりに考えた。永の事は好きだったが、人の気持ちを縛る事は出来ない事だって知っている。まして恋する気持ちなんて、制御不能になりがちなものは。
凛に惚れてしまったのだと話してさえくれたら、潔く身を引いたと思う。
俺は俺を好きじゃない人間に虚しい関係を強要し続けるほど鬼畜じゃないつもりだ。傍に居れば一度離れた心が自分に気持ちが戻ってくるなんて思わない。

そんな俺の性格を知っていながら、永は俺に隠れて凛と関係を持ち、2人の恋は燃え上がったらしい。
いや、隠す事で更に燃えたと言うべきか。
2人にとって永の恋人だった俺は、自分達の恋を邪魔する、所謂障害物。そして人間の中には、そういう壁や障害がある程に燃えるタイプが少なくない。
俺なんかは真逆で、ややこしいのはノーサンキューな方だからそんな気持ちはわからないんだけど。

まあそんな訳で、俺が気付かぬ内に大きく育まれていたらしい2人の愛は、ある日突然明るみになった。
それも、俺の誕生日に永と食事しようと"俺が"予約していたレストランに2人して現れて、周囲の客達の目の前で。

『俺は凛を愛してる。だから今日限り、お前とはさよならだ。』

『ごめんね、湊。僕が悪いんだ。ごめんね。』

『違う、俺が!俺が凛を愛してしまっただけなんだ!責めるなら俺だけにしてくれ!』

『永くん!』

『凛!!』

わざわざめかしこんで来て、衆目の面前でそんな愁嘆場を演じてくれた2人に、俺は只々ポカンとするばかり。
レストランの支配人が慌てて飛んで来て外に誘導しようとするのを聞かずに、最後迄演じ切ったのは流石というか、何と言うか…。

永の方は恋人よりも運命の恋に翻弄された自分、に酔っているようだったし、凛に至っては悲しげな表情を作りつつも、俺より自分が選ばれたという優越感を口元の笑みに滲ませていた。

それを見た時、あー、コイツやりやがったな、とわかった。多分、先に仕掛けたのは凛の方だろう。
1歳違いなばかりに子供の頃から従兄弟の俺と比べられ、俺に勝るのは少々可愛い顔だけという、男にしてはそんなに嬉しくなさげな勝因しか持たない凛。
彼が俺にどれだけ劣等感を募らせているかは、その視線や乱暴に投げ掛けてくる言葉尻から嫌でも感じ取れていたくらいだ。
とにかく俺の事が大嫌い。そんな凛だから、きっと永に言い寄られた時には有頂天になったに違いない。

これで常々気に入らなかった俺の悔しがる顔が見られる、と。

実際、愛の逃避行よろしく2人が手に手を取りながらレストランを出て行った後、(実際にはスタッフに追い出されたんだが…)残された俺は若干気不味い思いをした。哀れむような視線や、男同士の修羅場かよという好奇の目や…。
幸いだったのは、その店がそれなりの高級店だった為、他人の席に無遠慮にスマホなんぞを向けてくるようなマナーの無い客が居なかった事だ。もし録画でもされてSNSで全世界に拡散なんかされてたら……いや、恥ずかしいのはあいつらだけか。
俺、あの場で一言も喋ってないし。

そんな経緯で別れた俺に、やっぱりお前が良いからよりを戻したい?

ちょっと何を言ってるのかわからない。平気でそんな事を言って来れる永の神経も疑う。


「……凛は?」

色々思い出して混乱しつつもやっとの思いで聞いてみたら、反応を返した事で脈アリと見たのか永の声はあからさまに明るくなった。

『凛とはこの間別れたんだ。』

「えっ、運命の恋は??!」

『…意地悪言わないでくれよ。凛とは…うん、何か、違うなって。
湊と別れた後から、何かしっくりこない事が増えて…。』

俺から奪ったら頑張って永に合わせる必要も無くなったから張りが無くなったんだろうなぁ。気を抜いて化けの皮が剥がれていく凛が目に見えるようだ…。
だって、普段の凛はレストランで永に寄り添ってたか弱い感じとは全然違うのだ。子供の頃から横柄で嫌味ったらしい物言いをする奴だった。間違えても一人称は『僕』じゃないし、更に言えば、ごめんなんてしおらしい言葉を口にする奴でもない。

だからあの日、レストランから出て行く永と凛の後ろ姿を、俺は不思議な気分で眺めていたのだ。

凛は永のタイプじゃ無い気がするんだけどなあ…と思いながら。
何故か不思議な程、ダメージは無かった。最後に面白い学芸会を見せられたからだろうか。
今迄アレを恋人にしてきた事に、ちょっと後悔したくらいだ。
大学の同級生だった永に告白されて、女性が恋愛対象だった俺はその告白を断った。けれどその後も、熱心に口説かれて押されて、押し切られる形で初めて同性と付き合った。それでも確かに好きになれたと思っていた筈なのに、あのお粗末な劇を見せられてから、その気持ちが綺麗さっぱり霧散してしまった。

しかし別れたのがついこの間と聞いて、意外と持ったんだなと驚いた。2,3ヶ月も持てば良い方かなと思ってたのに、飽きっぽい凛にしては結構頑張ったな。つかアイツ、男イケたんだな?

それにしても、別れたなら別に行けば良いのに何故今更俺なんだ。

深夜の電話に、俺の気持ちは困惑するばかりだった。




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