今更お前が良いって時間も弁えず電話してくるのはやめてくれないか

Q矢(Q.➽)

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大股で俺目掛けて歩いて来る永。皺だらけのスーツ、髪も心做しか乱れてて、以前の永からはちょっと考えられないやさぐれっぷり。

公園内を歩いてた通行人の若い女性達も、気味悪そうに小走りに立ち去っていく。それに気づいてもいない様子の永。前はもっと人目を気にするタイプだった筈なんだけど…。

距離が近づいてくると…ぅうわぁ~、やっぱ目は充血してるし濃い隈こさえてるし、何か肌荒れもしてる。極めつけに髭の剃り残し。何時でも髪の乱れを気にしてお洒落に気も手も抜かなかったそこそこイケメンは何処へ、ってくらい小汚かった。
そんな奴がずんずん迫ってくるもんだから、数歩後退ってしまってよろけた俺を素早く抱き抱えてくれる天知。

「湊、大丈夫?」

「あ、りがと…。」

優しげな顔立ちに反してがっしりした腕の力に不覚にもときめく。俺が女子だったら恋に落ちてたかも、と思わず見つめてしまった。

「ん?どしたの?」

「いやー、やっぱ天知、良い男だね。」

「何それ。湊にそんな事言ってもらえるなんて照れるなぁ。」

「おいっ、お前何だよ?!!」

和やかな至近距離での会話に無粋に割り込んで来た永の怒鳴り声。

お前が何だ。腹立つな。

自分の眉間に青筋が浮いてるのがわかる。だがそんな俺の変化にも気づかず捲し立てる馬鹿。此処が真昼間の公共の場所だって事を完全に忘れているようだ。

こんなのが元カレだったと思うと、マジで黒歴史なんだが。

「お前、湊とどういう関係…、」

「おいてめぇ黙れ。」

天知に突っかかろうとする永に待ったをかけた俺の低い声に、永が目を見開いて動きを止めた。

「お引き取り下さいとお願いした筈ですがぁ~?。」

ガラ悪くそう言った俺と永の間の距離は約2m。間一髪だった。危なかったぜ…。

「ぃ、いやでも…、」

食い下がってくる永に、俺は言った。

「何しに来た?昨夜の電話でお前の要求は断ったよな?」

体勢を立て直して支えてくれた天知の腕から離れ、真っ直ぐ立って目を眇めて永を直視すると、肩をビクつかせて何だか情けない。

さてどうしたものかと思っていたら、後ろに居た天知がぽそりと呟いた。

「…昨夜の電話…要求?」

「あ」

その時、俺は一瞬で自分の失態に気づいた。
只でさえ頭の回転の良い天知。これ、さっきの元カノの話が、今天知の頭の中で色々結び付いちゃったんじゃ?

「なるほど。アレが、湊のね。」

ふっ、と笑いながら背後から俺の両肩に手を置く色男。

……勘の良い奴め。

「ごめん。引いたか?」

バレてしまったものは仕方ないので小声で聞いてみると、天知はまたクスリと笑う。

「まさか。」

「そっか。ありがと。」

引かれてない事にホッとした。
海外生活が長いと、日本よりも多様な組み合わせのカップルを見慣れてるのかもしれない。

俺と天知がポソポソ話しているのが気に入らないのか、永の表情にはまた怒りが蘇ってきているようだ。
どうやら大人しく逃がしてくれそうにない。昼休みもそろそろ終わるっつーのに、とんだ厄介事が舞い込んできたもんだ、と俺は溜息を吐いた。
取り敢えず、天知だけでも離脱させないと。俺の巻き添えで遅刻させる訳にはいかないしな…。

「おい、天…、」

「協力してあげるよ、湊。」

「えっ?」

振り返って先に帰るように言いかけた俺に、天知はニコッと素敵な笑顔。

「…協力?」

「彼を追い返せば良いんだろ?彼氏になったげる。」

「は?え、いや…」

返事をする前にシュッとスーツ同士の擦れる音がして、後ろから抱き込まれた。仄かだった天知のフレグランスの香りが強くなる。

確かに新しい恋人が居るってのが一番手っ取り早いだろうが、普通こんなにすんなり協力できちゃうもんなのか?

「みっ、おま…?!」

口をパクパクしながら俺と天知を見ている永の表情が怒りからか驚愕からなのか、赤くなっていた。

「初めまして、元カレ君。俺は湊の今カレの天知です。よろしく。」

「い、今カレ?!」

永のスウッと顔色が赤から青に。その反応に、コイツの想像力の無さを今更ながらに思い知る。

いやいやいや。2年だぞ、永。2年あれば人は新たな恋愛も、何なら結婚だってする。
何で俺にそういう相手が居ないと思うんだ?
普通はまず、復縁してくれの前にその辺りの探りを入れて然るべきじゃね?
…いやまあ天知は俺の恋人ではないがな?

俺はほとほと呆れて、冷めた目で永を眺めた。
それにしても天知、ノリが良過ぎじゃん?

「ほ、ホントなのか、湊…?」

「は?呼び捨て?」

「み、湊さん…。」

「ホントも何も、見てわかりません?」

俺の右肩に顎を乗せ、余裕綽々で煽るように言う天知。耳の傍で喋られるの、吐息が混ざってちょっとドキッとする。

「…そんな…だって、男は俺だけだって…。」

「一人経験したから対象が広がったんだとは考えないのか?」

「!!」

はっ、なるほど!って顔やめろ。

そして俺の言葉に被せるように、更に悪ノリした天知が永に向かって言った。

「入社からずっと目を付けてたコがフリーになったら、そりゃ速攻行くでしょ。
俺達、もう2年近く付き合ってまーす。」

「2…じゃあ、俺と別れて直ぐ?!そんなに直ぐに切り替えられたのかよ、薄情者!」

「俺と付き合ってる最中に他の奴と乳繰り合ってたような奴がどの口で言うか、裏切り者。」

「…っ。」

「あはは、論破~。」

何という不毛な言葉の応酬だろうか。
売られた喧嘩は買う俺と、ぐうの音もでない永、どう見ても面白がっている天知。
これ、会社の他の社員に見られてねえだろうな…?

悔しそうに唇を噛み締めながら、それでも立ち去らない永に、俺は完全に面倒臭くなっていた。
もうこれ、午後の始業時間に絶対遅刻だろ…。

俺の気持ちを感じ取ったのか、単に午後に間に合わないと思ったからか、後ろから俺を抱きしめたままの天知がぽそりと囁いてきた。

「元カレ君、なかなかしぶといね。実力行使でもしちゃう?」

「実力行使?」

って何?
天知の顔を見ようと横を向いた途端、ぷちゅっと唇に柔らかい感触と、目の前ゼロ距離過ぎてボヤけた、閉じた睫毛。そして、横から永の野太い悲鳴…。


……天知、おま此処、白昼の公園…。










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