今更お前が良いって時間も弁えず電話してくるのはやめてくれないか

Q矢(Q.➽)

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昼休み。同僚と社外で昼食を取った後、食後の一服をしようと言われて社への帰路の途中にある公園へ寄った。その公園には端の方に喫煙コーナーがあり、大型の灰皿が設置されている為、何時行っても疎らに利用者が居る。そんな彼らの様子は見る度に一様に所在なさげだ。
どんどん減ってるもんな、喫煙所がある公園も。

俺はたまにしか喫わないけど、ヘビースモーカーには肩身の狭いご時世なんだろうなと少しだけ気の毒になる。
副流煙被害を考えれば仕方ないんだろうけどさ。

そんな中に混ざっても全く同情を誘わない男が俺の隣に…。

電子タバコ全盛のこの時代に、そんな事知らんと言わんばかりに堂々とした喫煙スタイル。血管の浮いた男らしい手が胸ポケットから煙草のボックスを取り出して開け、トンッと弾くと少し飛び出してくる1本。それを形良い、少し厚めの唇で咥え、爪先迄丁寧に手入れされた長い指が銀色のライターを着火させる。
それがやたらとサマになっているこの天知 駿(あまち しゅん)という同期の男は、その端正な容貌と優秀さから、入社した時から一際目立っていた。
海外の一流大卒、高身長、クッソイケメン。ほんとに日本製?と疑ってしまうくらいに顔の彫りが深くて、会社員ってより新人俳優と言われた方がまだしっくり来る。
部署も違うし最初はそんなに接点も無かったんだけど、何故か行く先々で偶然会う事が重なって、何となく話すようになったら妙にウマが合った。
今では同期の中では一番親しいかもしれない。
海外生活が長かったせいか、ちょっと距離感がバグってて俺様気質なところはあるけど、ソフトな物腰がそれを中和させていて、何より何気に気遣い屋。喫煙に付き合わせても、喫わない俺に寄越さないように反対側の空に向かって煙を吐く。
そんな天知の喫煙待ちで手持ち無沙汰だった俺は、ほんの数分の時間潰しの為に何気無く昨夜の事を話してしまった。と言っても、元カレではなく元カノに変えて。
流石にいくら会社で親しいと言っても、同性と付き合ってた事迄カミングアウトする勇気は未だ無い。


「……って事があってさ。久々にゆっくり寝られると思った割りには、なんだよな…。」

「そりゃまた災難だったな。」

天知は俺のウンザリ顔に苦笑しながらそう言ってくれたが、その後少し意外そうな表情をした。

「でも湊って、意外とキツい対応するんだな。
いや、別れた女にもそれなりに優しいのかと思ってたから、結構意外。」

ギクッ

「そう?」

まあ、女じゃないからな。



煙草を喫い終わった天知と、喫煙コーナーから離れた場所にあるベンチに移動。傍の自販機でコーヒーを奢ってもらった。
プルタブを開けて飲み口に口を近付けると香ばしい香りが鼻を擽る。

熱いのを冷ましながら一口飲んだところで横に座って同じように缶を傾けていた天知がさっきの続きを話し始めた。

「夜中に『アナタが忘れられないの』、なんてさ。男ならちょっとは嬉しいもんかなと思うんだけど。」

…言われてみれば、確かに。電話の主が他の元カノだったなら、また対応が変わったかもしれない。でもそもそもが、元カノ達との別れ方はそんなに酷いものじゃ無かったからなぁ。
進学で環境が変わるとか、他に気になる人ができたとか、タイミングが合わずすれ違いとか、そんなもんだった。中には簡易なLIMEでって事もあったけど、一応はそれも別れ話だ。
嫌いになって別れたって感じでは無かったから、彼女達から復縁したいと連絡が来たら一考はしたかもしれない。
何れにせよ永との最悪な別れ方とは状況が全く違うから、対応が違うのも当然なんだけどな…と思いながら、ヘラッと天知に逆質問。

「えぇ…そうか?
天知だとそんな事、しょっちゅうありそうなのに嬉しいんだ?」
 
俺の言葉に天知は少し黙って、それから答えた。

「俺はそんなに人と付き合った事が無いからな。」

「えっ?!」

今度は俺の方が意外な顔をする番だった。

「嘘だろ?」

「本当だ。」

「え、だって天知なのに?」

「だって天知なのにって何だ?」

訝しげな表情を浮かべる天知に、俺は驚き過ぎて直ぐには言葉が出て来なかった。
そんなに交際経験が無い?この、どっから見てもモテる要素しか無い男が?
よっぽど理想が高いんじゃろか?

「…恋愛経験は?」

「そりゃ…人を好きになった事ならある。
只、その人にはずっと相手が居ただけで…。」

「あ、もしかしてずっと片想いしてたとか?」 

「…そういう事になるな。こう、何時もタイミングがな…。」

それも意外過ぎるんだが。
こんな男が、ずっと片想いって…。その相手、凄いな。どんな人なんだろ。

誰もが認める高スペ男の思わぬ純情っぷりに、俺はちょっと感動しながら言った。

「天知って…結構一途なんだな。」

「結構は余計だ。」

珍しく顔を赤くさせて、天知は加糖のホットコーヒーに口を付ける。
見た目によらずと言うなら、喫煙する癖に甘党なところも意外性だったんだっけ。

「…で、そのコとは…復縁は無いのか?」

不意に天知に話を戻されて、俺は苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

「無い無い。死んでも無理。天地がひっくり返っても、アイツとだけは有り得ない。」

吐き捨てるように言うと、ははっと笑われてしまう。

「まあ、さっきの話を聞いてる限りは、よりを戻しても再犯がありそうで怖いな。」

そんな天知の言葉に、俺は残りのコーヒーを飲み干してから答えた。

「一度失われた信頼は戻っちゃこないからなー。」

「…だな。」

相槌を打ってくれた天知の横顔をチラッと見てから、俺は腕時計に目を落とした。つられたのか、同じように自分の腕時計を確認する天知。

さて、社に帰るべ。 

俺達はベンチから立ち上がって飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に捨て、歩き出そうとした。
 


「湊!!さん!!」

背後から、俺の名を呼ぶ妙に耳馴染みのある声。

 何だその微妙な間の呼び方の主は…と振り向いてしまった俺の目に映ったのは、ご推察通りの相手・永。
見た事ないくらい服がヨレて、気の所為か目が血走ってね?

そして、知り合い?と、聞きながら俺の横でキョトンとしている天知。

ふわ~…嘘だろ、アイツ。
何でこんな真昼間にこんなとこに…。しかも、隣に会社の同僚居るとこで…と焦りを隠し切れない俺の口から出た言葉は…。

「……お引き取り下さい。」

だった。










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