7 / 7
◇親友・天知 駿は語る
しおりを挟む小さな頃からあらゆる点で周りより優れていた自覚があるよ。
お陰でずっと人にも物にも不自由はしてこなかった。
俺が良いなと思う相手は少し視線を投げてやるだけで勝手に自分から近付いてきたし、欲しいと思う前に全てが与えられてきた。
俺は恵まれた人間だと思う。
だから、気づくのが遅れたんだろうね。
やっとこれが恋なんだと意識した時には、既に想い人は他の男の腕の中だった…なんて、笑えない。
橋本 湊との初対面は、就職した会社での入社式だった。
最初は伯父の会社に入社しろと言われていたのを蹴って急成長中の中小企業を選んだのは、伯父の娘で俺の従姉妹の性格ブスと結婚なんか意地でもしたくなかったのと…まあ、ちょっと面白そうな業界だったから。
てっきり何処か大手に行くと思ってた、と周りには驚かれたけど、実は俺、結構なへそ曲がりで、既に完成しているものには興味が無い。自分で起業も考えたけど、そうなると忙しくなり過ぎそうでそれも微妙だし、と考えていた時にたまたま目に付いた会社が今の会社だった。
今は営業1課で持ち前の外面を活かして販路を拡大中だ。ウチは成果主義だから、当然給料も右肩上がり。入社3年程度にしては、まずまずの年収だと思う。
まあ、今はそれは置いといて。
入社式で少し話した時は、小綺麗だけどありふれた平凡な男に見えた。只、何かこう…妙に気になる雰囲気は持ってる奴だったのは間違いない。新人研修中に橋本と仲良くなったのは、橋本が必要以上に俺に関心を示さなかったから。
暗い訳でも妙にテンションが高い訳でもなく、物静かで、変に媚びる事も無く。それで、話をしてみると妙に趣味も合う。え、こんな事迄話せるのか、ついてこれるのか、と思ってたら、逆に橋本の方が造詣が深かったりして。
とにかく、楽しかったんだ。それに、ラクだった。
こんな気のおけない関係ってのが友達ってもんなのかな、と思ったり。
いや、友達は居たよ、たくさんね。でもその中の何人くらいが、こんな風に話せるのかはわからない。
俺は社会人になってみて初めて、ホントに友達らしい友達ができたなと思った。
でも、人の欲って限りが無いって本当らしい。
恵まれ過ぎてたせいか、そんなのピンと来なかったけど、今ならわかる。
何時しか俺は、橋本に対して複雑な感情を抱くようになっていた。
姿が見られるのが嬉しい。
すれ違いざまに言葉を交わせるのが嬉しい。ふと見せてくれる笑顔が嬉しい。
視線が合うのが、嬉しい。
付き合ってきた相手は覚えてないくらいいたけど、そんな風になった事なんてなかったよ。
自分の中で橋本が特別になったんだなってわかった。
でも、それが友情を越えてるって事は直ぐには認められなかったんだ。
だって。橋本は、同じ男だから。
それに、橋本に学生時代から付き合ってる恋人がいるってのも聞いてたし。
彼女持ちの同性に片想いなんて、不毛もいいとこだろ。
自覚する前に引き返さなきゃ、って、自衛してたんだろうな。失恋なんて、した事無いしこの先も経験したくなかった。
今にして思えば、くだらないプライドだよね。
そんな中途半端な気持ちを燻らせてる間に、トンビに油揚げさらわれたんだから。
営業に配属されていた俺は、入社2年目になった頃には急に忙しくなった。先輩に同行してた得意先案件を一人で任される事も増えて、でもまだ2年目だから覚えていかなきゃならない事も多くて。でも自分の経歴から、上からの期待がやたらと大きくなるだろうなというのは覚悟してたから…まあ、頑張るしかなかった。
それで半年以上、ろくに橋本に会えない日々を過ごしたんだよね。橋本も忙しそうにしてたから、お互い様だなと思ってたけど、ちょうど良いかとも思ったんだ。接触の機会が減れば、この橋本への妙な気持ちも薄れるか消えるかも、って。
でも現実は真逆で、会えない程に気持ちって大きくなって拗れていくものなんだね。
ああ、これは無理そうだ、橋本を自分のものにしない限り、この気持ちをどうにかする事なんかできないんだろうなと気がついたときには、橋本の一番近くには神崎課長が居た。
最初は、まさかと思ったよ。だって神崎課長といえば、国内トップレベルの大学卒で異例のスピード昇進で出世街道驀進中の若手のホープ。俺もその後に続けと言われてる程の人物だ。
少し冷たそうな整ったルックスで、当然ながら仕事には厳しい。だけど厳しいながらも部下のフォローはしっかりしてて、人望は厚い。
つまり、全方位隙なしのパーフェクトな人なんだ。そんな人が、いくらこの多様性の時代とはいえ同性の部下にいくか?と思うじゃない?
日本ってまだまだ結婚してる事が世間的な信用に繋がったりするし、表向き程同性愛が受け入れられてはいない。同性に好意を持っているなんて知れたら、出世の足を引っ張られる事になるっての、無い訳じゃないだろうに、と思ったんだ。
だけど神崎課長の橋本を見る目は…。
俺と同じだって直ぐにわかった。橋本が欲しくて欲しくて堪らないって、どろどろした目をしてさ。
分からない訳、ないじゃない?(笑)
俺だって何も手をこまねいて見ていたつもりはなかったんだよ。でも、俺の焦りを他所に神崎課長と橋本はそれから間も無くして、デキてしまった。
わかるだろ?そういう空気って。
…あ、いやどうだろ?
俺が2人を見ていたからわかっただけかな。
他の人達が気づいてる様子は今の所、無いし。
そりゃ普通は考えもつかないよね。
まさか課長が、女子社員ならともかく、若い男性社員と、なんて。
そりゃあ悔しかったよ。
でも、今の所、橋本が幸せそうだからね…無理に奪うのも、違うかなって。
たまに茶々入れる程度で溜飲を下げてるよ。
今は神崎課長が目を光らせて牽制してくるから無理っぽいけど…その内、隙が出てきた時が勝負かなって思ってる。
だってどんなガチガチのカップルだって、倦怠期は来るだろ?
…ま、俺なら…一度飲み込んだら、絶対腹から出さないけどね。(笑)
92
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(11件)
あなたにおすすめの小説
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ご閲覧ありがとうございます。
執着する攻めが多いほど攻めの魅力と魔性が発揮されていきますよね。翻弄されてるようでしてる受け…😌
単に短編しか書けないポンコツってだけなんですが、お褒めの言葉、恐縮です。ありがとうございました☺️
はー♡天知編も最高でした‧˚₊*̥(* ⁰̷̴͈꒨⁰̷̴͈)‧˚₊作者様天才確定‧˚₊*̥
攻めの強い愛ごちそうさまでした♡
ご閲覧ありがとうございます。
大変恐縮ゥ・:*+.(( °ω° ))/.:+
喜んでいただけて幸いでございます。天知も自らの腹黒さを露呈した甲斐があったというもの…( *˙ω˙*)و グッ
こちらこそご閲覧ありがとうございます。微力ながら天知が御身の活力源になれて嬉しく思います。
あやしまれない程度にニヤついて下されば…(笑)
御家族、大変でしたね。ちょこさんは大丈夫でしたでしょうか?私は幸いにも今の所難を逃れておりますが、捕まったら逃れられるか不安ですね…ヤツも相当粘着気質らしいので。
いやはや見つかったらどうしよう。🤔
お互い気をつけましょうぞ。お仕事頑張って下され。