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◇親友・天知 駿は語る
しおりを挟む小さな頃からあらゆる点で周りより優れていた自覚があるよ。
お陰でずっと人にも物にも不自由はしてこなかった。
俺が良いなと思う相手は少し視線を投げてやるだけで勝手に自分から近付いてきたし、欲しいと思う前に全てが与えられてきた。
俺は恵まれた人間だと思う。
だから、気づくのが遅れたんだろうね。
やっとこれが恋なんだと意識した時には、既に想い人は他の男の腕の中だった…なんて、笑えない。
橋本 湊との初対面は、就職した会社での入社式だった。
最初は伯父の会社に入社しろと言われていたのを蹴って急成長中の中小企業を選んだのは、伯父の娘で俺の従姉妹の性格ブスと結婚なんか意地でもしたくなかったのと…まあ、ちょっと面白そうな業界だったから。
てっきり何処か大手に行くと思ってた、と周りには驚かれたけど、実は俺、結構なへそ曲がりで、既に完成しているものには興味が無い。自分で起業も考えたけど、そうなると忙しくなり過ぎそうでそれも微妙だし、と考えていた時にたまたま目に付いた会社が今の会社だった。
今は営業1課で持ち前の外面を活かして販路を拡大中だ。ウチは成果主義だから、当然給料も右肩上がり。入社3年程度にしては、まずまずの年収だと思う。
まあ、今はそれは置いといて。
入社式で少し話した時は、小綺麗だけどありふれた平凡な男に見えた。只、何かこう…妙に気になる雰囲気は持ってる奴だったのは間違いない。新人研修中に橋本と仲良くなったのは、橋本が必要以上に俺に関心を示さなかったから。
暗い訳でも妙にテンションが高い訳でもなく、物静かで、変に媚びる事も無く。それで、話をしてみると妙に趣味も合う。え、こんな事迄話せるのか、ついてこれるのか、と思ってたら、逆に橋本の方が造詣が深かったりして。
とにかく、楽しかったんだ。それに、ラクだった。
こんな気のおけない関係ってのが友達ってもんなのかな、と思ったり。
いや、友達は居たよ、たくさんね。でもその中の何人くらいが、こんな風に話せるのかはわからない。
俺は社会人になってみて初めて、ホントに友達らしい友達ができたなと思った。
でも、人の欲って限りが無いって本当らしい。
恵まれ過ぎてたせいか、そんなのピンと来なかったけど、今ならわかる。
何時しか俺は、橋本に対して複雑な感情を抱くようになっていた。
姿が見られるのが嬉しい。
すれ違いざまに言葉を交わせるのが嬉しい。ふと見せてくれる笑顔が嬉しい。
視線が合うのが、嬉しい。
付き合ってきた相手は覚えてないくらいいたけど、そんな風になった事なんてなかったよ。
自分の中で橋本が特別になったんだなってわかった。
でも、それが友情を越えてるって事は直ぐには認められなかったんだ。
だって。橋本は、同じ男だから。
それに、橋本に学生時代から付き合ってる恋人がいるってのも聞いてたし。
彼女持ちの同性に片想いなんて、不毛もいいとこだろ。
自覚する前に引き返さなきゃ、って、自衛してたんだろうな。失恋なんて、した事無いしこの先も経験したくなかった。
今にして思えば、くだらないプライドだよね。
そんな中途半端な気持ちを燻らせてる間に、トンビに油揚げさらわれたんだから。
営業に配属されていた俺は、入社2年目になった頃には急に忙しくなった。先輩に同行してた得意先案件を一人で任される事も増えて、でもまだ2年目だから覚えていかなきゃならない事も多くて。でも自分の経歴から、上からの期待がやたらと大きくなるだろうなというのは覚悟してたから…まあ、頑張るしかなかった。
それで半年以上、ろくに橋本に会えない日々を過ごしたんだよね。橋本も忙しそうにしてたから、お互い様だなと思ってたけど、ちょうど良いかとも思ったんだ。接触の機会が減れば、この橋本への妙な気持ちも薄れるか消えるかも、って。
でも現実は真逆で、会えない程に気持ちって大きくなって拗れていくものなんだね。
ああ、これは無理そうだ、橋本を自分のものにしない限り、この気持ちをどうにかする事なんかできないんだろうなと気がついたときには、橋本の一番近くには神崎課長が居た。
最初は、まさかと思ったよ。だって神崎課長といえば、国内トップレベルの大学卒で異例のスピード昇進で出世街道驀進中の若手のホープ。俺もその後に続けと言われてる程の人物だ。
少し冷たそうな整ったルックスで、当然ながら仕事には厳しい。だけど厳しいながらも部下のフォローはしっかりしてて、人望は厚い。
つまり、全方位隙なしのパーフェクトな人なんだ。そんな人が、いくらこの多様性の時代とはいえ同性の部下にいくか?と思うじゃない?
日本ってまだまだ結婚してる事が世間的な信用に繋がったりするし、表向き程同性愛が受け入れられてはいない。同性に好意を持っているなんて知れたら、出世の足を引っ張られる事になるっての、無い訳じゃないだろうに、と思ったんだ。
だけど神崎課長の橋本を見る目は…。
俺と同じだって直ぐにわかった。橋本が欲しくて欲しくて堪らないって、どろどろした目をしてさ。
分からない訳、ないじゃない?(笑)
俺だって何も手をこまねいて見ていたつもりはなかったんだよ。でも、俺の焦りを他所に神崎課長と橋本はそれから間も無くして、デキてしまった。
わかるだろ?そういう空気って。
…あ、いやどうだろ?
俺が2人を見ていたからわかっただけかな。
他の人達が気づいてる様子は今の所、無いし。
そりゃ普通は考えもつかないよね。
まさか課長が、女子社員ならともかく、若い男性社員と、なんて。
そりゃあ悔しかったよ。
でも、今の所、橋本が幸せそうだからね…無理に奪うのも、違うかなって。
たまに茶々入れる程度で溜飲を下げてるよ。
今は神崎課長が目を光らせて牽制してくるから無理っぽいけど…その内、隙が出てきた時が勝負かなって思ってる。
だってどんなガチガチのカップルだって、倦怠期は来るだろ?
…ま、俺なら…一度飲み込んだら、絶対腹から出さないけどね。(笑)
応援ありがとうございます!
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ご閲覧ありがとうございます。
執着する攻めが多いほど攻めの魅力と魔性が発揮されていきますよね。翻弄されてるようでしてる受け…😌
単に短編しか書けないポンコツってだけなんですが、お褒めの言葉、恐縮です。ありがとうございました☺️
はー♡天知編も最高でした‧˚₊*̥(* ⁰̷̴͈꒨⁰̷̴͈)‧˚₊作者様天才確定‧˚₊*̥
攻めの強い愛ごちそうさまでした♡
ご閲覧ありがとうございます。
大変恐縮ゥ・:*+.(( °ω° ))/.:+
喜んでいただけて幸いでございます。天知も自らの腹黒さを露呈した甲斐があったというもの…( *˙ω˙*)و グッ
こちらこそご閲覧ありがとうございます。微力ながら天知が御身の活力源になれて嬉しく思います。
あやしまれない程度にニヤついて下されば…(笑)
御家族、大変でしたね。ちょこさんは大丈夫でしたでしょうか?私は幸いにも今の所難を逃れておりますが、捕まったら逃れられるか不安ですね…ヤツも相当粘着気質らしいので。
いやはや見つかったらどうしよう。🤔
お互い気をつけましょうぞ。お仕事頑張って下され。