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13 たぶん相思相愛
しおりを挟むこんなの初めてだ。俺、体質的にアルファフェロモンに感じにくい体質なのかと思ってたのに。聞いていたフェロモンショックがこれほどのものだとは思ってもみなかった。
胸が震えて熱くなる。抱き合って体温が伝わってくるところから溶け合っていくみたい。
まるで俺はこの感覚を、体温を、ずっと昔から知っている…そんな気持ちになった。でも勿論そんな事は有り得ない。俺は今日まで陛下と会った事なんか
一度も無いからだ。庶民の俺と陛下では、文字通り住む世界が違うし、そんな俺が皇族を目にする機会なんて、SPに囲まれながらご公務を果たす姿をニュースでチラ観するくらいのものだった。よって、接点なんてゼロ以下だったのだ。この後宮の募集が目に留まらなきゃ、この先だってその筈だった。
それに。
こんなインパクトのあるお方を、何処かで見かけて忘れる訳がない。
だから、漫画やラノベでよくあるような、過去に何処かで会ってたなんて都合の良い設定がある訳がないんだ。
なのに、俺は陛下の事をはるか昔から知っていて、この瞬間をずっとずっと待っていたような…そんな気がしている。
これは一体、なんなんだろうか。
「ああ…本当に、なんという…」
鼓膜を揺らす陛下の低い声が更なる甘さを帯びて、俺の心臓と下腹がきゅきゅんっ、と疼き始めた。
(な、なんだ今の…)
「ユウリン…」
「っ、ふ…っ!」
陛下の吐息が触れた耳と首筋に甘い痺れが落ちて、それがじわじわと広がっていく。それでも俺は必死に陛下の背中にしがみつき続けていた。気を抜くと、すぐに声をあげてしまいそうだから。
「ユウリン…僕は、以前にもこうして君を抱擁していた事があるような気がする。君の事を、ずっと昔から知っていたような気がするのだ」
(…!!)
陛下の言葉に、俺は驚いてその顔を見つめた。陛下も俺と同じ事を思っているなんて。俺達20歳と18歳なのに、ずっと昔からって表現が出るのも変な気がするけど、本当にそんな気がするんだ。
「…笑うか?」
少し眉を下げた陛下に問われ、俺はぶんぶんと首を振って答えた。
「笑いません!俺も、俺もさっきからずっと同じ気持ちで。だから、驚いて…」
陛下は眉を下げたまま、微笑んだ。
「そうか。同じなのだな。ユウリンは、僕と同じ気持ちでいてくれるのだな」
そして、またぎゅっと俺を抱きしめ、それから頬にちゅ、と唇を押し当ててきた。誰だよ、陛下が陰キャなんて言ったの。めちゃくちゃ積極的じゃん。
「僕は幸運だ。」
「陛下…」
嬉しそうな声色を聴きながら思う。そんなの、俺だって。
目が冷めて、捨ててから向けられた執着から逃れる為だと割り切って飛び込んだ場所で、まさかこんなにどストライクの極上アルファに出会えるとは思ってなかった。だって、笹原さんもシュウメイさんも、他の後宮関係者も誰一人!陛下がイケメンだなんて教えてくれなかった!!寧ろ、引っ込み思案だとか、少し人見知りなお方ですとか、容姿には言及せずに性格の事ばかりを言われて、だから俺は陛下は陰キャでコミュ障なのかと思っていたし、実際陛下を目にしてもそれは当たったと思った。
でもそれは、半分当たってて半分違ってた。それも、全部が良い意味で。
陛下は俺の理想の…いや、理想を遥かに超えて素敵な人だった。
これがラッキーじゃなくて何て言うんだよ。
頬から唇に、陛下の唇が俺の肌の上を滑る。唇が重ねられた瞬間、ぐっと強く抱き寄せられる腰。
陛下の唇の熱が俺に移ってきて蕩けてしまいそうだ。
ぎこちなく俺の唇をこじ開け、侵入しようとする陛下の舌。俺もそれを舌で迎えて、絡める。その花の香りの舌と唾液の、なんて甘い事か。人の分泌物がこんなに美味しいと感じるなんて。少なくともエリアスの時には無かった事だ。エリアスの唾液は煙草臭かったし、フェラさせられて口に出されたザーメンだって漂白剤のような独特の匂いだった。いくらエリアスを好きだった時でも、美味しいなんて思った事は無かった。
なのに、出会ったばかりの陛下の唾液は…。
これも陛下がアルファで俺がオメガだから?だからそう感じるのだろうか?それとも、フェロモンと同じでアルファごとに個体差があるのか…。
何もわからないけど、とにかく夢中で陛下とキスを貪りあった。多分陛下も、俺と同じだ。俺の唾液や舌を美味しいと思ってくれてる。
他のアルファとした事は無いけど、でもわかる。
俺と陛下は、きっとすごく相性が良い。
キスを続行しながら、ゆっくりと押し倒された。陛下は童貞の筈だけど、フェロモンで発情している。俺がさり気なく誘導したら、このまま勢いでセックスできてしまいそうだ。
舌を絡めながら、陛下の手が俺の襦袢のような屋着の腰を留めている紐にかかる。片蝶結びにされていたその綺麗な細い紐は、陛下が2本の指で引っ張っただけであっけなく解けた。
はだけていく、薄い衣。俺のまっ平らな胸を陛下の大きな熱い手がまさぐり始める。
「…あ…っ」
「すまない、大事に少しずつと思っていたのに止めらそうにない。もう少しだけ…」
本能的に込み上げてくる欲望と戦っているのか、少し苦しそうな表情でそんな可愛い事を言う陛下。ここまで脱がしておいて何て殊勝な事を言うんだろ。
最後までしちゃったって、俺は全然かまわないのに。寧ろ、したい。でも陛下が頑張って本能に抗って、過去の苦い経験を教訓に、俺とゆっくり気持ちを確かめ合いながら関係を築きたいと考えているのもわかる。だからほんとは、陛下のペースに合わせてあげる方が良いのかもしれない。
でも、フェロモンにあてられている今の俺は、やっぱりもう少し陛下が欲しい。さっきのきゅきゅんでアソコだって濡れてて受け入れ態勢だってバッチリなのに。陛下だって、同じでしょ?きっと勃起してるでしょ?
だから俺は…。
「いいんですよ。すきなように、してみて」
俺の胸に口づけている陛下を見て、誘うように微笑う。
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