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バァァン!!

皇太子は机を蹴り上げた。

「私の机だぞ、気持ちは分かるがやめてくれ」
「オリバンダーのクソ野郎が!!!」
「気持ちは解るが、口を慎め」

そこは皇帝陛下の執務室。

議会を終え、執務室に戻った皇太子は八つ当たりする程激怒していた。皇帝はそれを静かに宥めた。

「まさか、他国の王女を勧めてくるとは!
暗殺者に狙われるリリィが悪いだと?!笑えねぇんだよクソが!!!」

「テオ、口が悪いぞ。」
「父上!これは、何かあるに決まってるでしょ!?」
「そうであろうな‥‥。恐らく、裏で何かしているな。
しかも相当な自信だ。あの場で発言したのだから」

「‥‥‥鉱山が絡んでいるのでしょう。」
「まぁ、そうだろうなぁ。きっと、お前を使って取引をしようとしているのだろう。しかし、妙だ。あんな申し入れをお前にした所で聞く耳を持たない事は分かりきっているはず‥
お前達が恋愛結婚をしようとしているんだ。怒らせるに決まっているのにだ‥。単純にそれだけだろうか‥」

「それに、白々しいブリントン公爵も‥」

「そして、貴族の三家か死んだと言うのに‥
おかげで、罪の話題が逸された。狙いはそちらか‥」


皇太子はギュッと拳を握りしめた。
「では、その三家と何かあるのでしょう。」
「しかし、尋問ではみな独断の依頼だったが‥」
「いいえ、貴族達皆、妙に落ち着いて居ました。

‥複数依頼があったとの事ですが、元を辿れば、それがそもそも罠だったのでは?」

「黒幕がいると言っていたな。お前達が捕まえた暗殺者は。」
「えぇ‥なんとしても、暴かねばなりません‥」

皇帝は指輪を3回叩いた。

「はーい、お呼びですか?人使いが荒いですよー?」
ロスウェルが現れた。
「議会が妙な展開になってな‥お前、作っていた物はできたか?」

「ま、私は有能ですからぁ~?」
ロスウェルは朝飯前だとでも言わんばかりに、両手を伸ばして欠伸をした。

「‥なにを作ったんだ?」
「んふふー、知りたいですか?殿下」
「あぁ、知りたい。」
皇太子は、直ぐに返した。その反応にニッコリとしたロスウェルだった。

「教えなーいっと言いたい所ですが、あまりのんびりして居られないので。」

ロスウェルが自身の両手をふわっと何かを包む様に手を合わせた。

手の甲に魔術印が現れる。

ロスウェルが両手を離すと、中から、蝶が現れた。

「?!」
皇太子は目を丸くしてそのヒラヒラと舞う蝶を見つめた。

「‥これは?」
「ふふっ、これは盗蝶です♡」

「盗聴・・・蝶・・‥?」

「以前陛下が、殿下に変身して、皇太后陛下の元へ行き、その光景と声を水晶玉に写しました。それは本来危険です。その場に居なければなりませんし。悪巧みをしている人物の所は行くのは親子だから誤魔化せただけのこと。誰かになり代わりすることも、知らない人物として行くのも難しいので、生物に声を拾える様にしたのです。外に行くなら蝶や虫が適任でしょう。部屋の中なら鼠などの小動物、部屋のあちこちに行けます。どうです?」
ロスウェルがウインクをした。
その説明に皇太子は目をキラキラさせた。
「すげぇなロスウェル!魔術師に見えてきた。」
「魔術師です。なんだと思ってました?」
「愉快なおっさん」
「殿下?1度、なります?鼠に」
「冗談だ。許せよ」
「私は根に持つタイプですからね?」
「偉大な魔術師に敬意を‥」
「ありがとう御座います殿下♡」

「とにかくだ。これで、悪巧みは暴いてやろう‥我々の特権だ。存分にな‥」
そう言った皇帝の顔は、悪巧みしている親玉だ。
ニヤリと皇帝が2人に囁く‥

「さぁ‥どこからいこうか?」



いつもの温室で、テーブルを囲むのはブリントン公爵、
ヘイドン侯爵と、ライリー、皇太后だった。

「あの女は‥‥早く消さなければなりません!私に喧嘩を売りましたわ!」
ライリーが怒りを露わにした。
先程のリリィベルとのやり取りの事だろう。

「まぁ、今だけよ。すぐに消えるわ」
優雅に紅茶を飲んで皇太后は言った。

「しかし、三家が没落しました。」
「愚かな勝手な振る舞いだ。放っておけ。」
ヘイドン侯爵の言葉に、そう返したのはブリントン公爵だ。

「ライリーを差し置いて、自分達が皇族に近付く夢でも見て居たのだ。良かったじゃないか。いい目眩しだ。」
「しかし、オリバンダー侯爵には驚かされたな。」

「なんです?一体何が?」
ライリーが身を乗り出して聞いた。少し困惑したようにヘイドン侯爵は口を開く。
「オリバンダー侯爵が、リリィベルを批判した上、イシニス王国の王女と婚姻をと提案したのだ。」

「なんですって?!」

「どうやら、繋がっているようですね?理由はまだ分かりませんが‥自分に旨みのある話でしょう。そんな方には見えませんでしたがね‥」
「ウィルト、裏のない者などおりません。」
「姉上、だが、他国の王女など迎えても我々にも不都合です。こちら側に着くとは限りません。」
「そうね、皇太子妃にはライリーになって貰わなくちゃならないわ?」

皇太后のその言葉に笑みを浮かべたライリーだった。

「オリバンダー侯爵の裏を探らねば‥‥」
そう呟いたヘイドン侯爵だったが、ライリーは父親の腕を掴み揺さぶった。
「お父様‥その前にあの女を早く消しましょう。
私は、あの女を放って置くのが嫌で仕方ありません!」

「表舞台に立つ時でないといけないわ。必ずね‥どんなに暗殺者を送ろうと、無駄足だもの‥」
「何故なのです?!理由をお教えくださいませ陛下っ」
ライリーが悔しそうに聞いた。

「それは言えないわ。私にもしもの事があったら、貴方は何も出来ずに、機会を逃すわよ?」
「‥‥でも‥‥」

皇太后はいつも肝心な事は教えてくれない‥
それがいつももどかしいライリーだった。

「ふふっ‥そんなに焦らなくても良い。最後にその場に立てばよい。愛に溺れた女など、やがて消えていくわ。」


「‥‥ですがっ自分が殿下に愛されていると、傲慢にも私にそう言ってっ‥‥」
「今度の婚約記念の舞踏会が最後よ。建国祭は、あなたが隣にいるわ?」
ライリーの肩に手を置いてそう囁く‥‥

「ヘイドン侯爵、アレは準備出来ているの?」
「はい、陛下。すでに何人か潜らせておりますので、
当日は滞りなく‥」

その言葉に皇太后はニヤリと笑った。

「まずは‥暗殺者に狙われるあの娘に気を取られ、警備を集中させてあげて、その間に皇后をやるのよ。ふふふ、私だって血を分けたオリヴァーは可愛いもの。皇后を殺さない程度に、当日仕掛けなさい。いつ、どこのタイミングにするかは、任せるわ。私が、疑われる訳にはいかないのよ。貴方達を生かすためにもね‥?」






「ばばぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
水晶玉が割れそうなくらいの怒号が響いた。
水晶玉に向かって叫ぶ皇帝。

「ほらぁ!!やっぱり母上も!!!」
皇帝の肩を掴んでブンブンと揺さぶった。

盗蝶は役に立った。温室で優雅に舞い、
その計画を知る事が出来た。

「陛下、声で玉が割れます‥挑んでいるのですか?」
ロスウェルが慌てて皇帝の両腕を取り押さえた。

「ババァァァ‥‥‥このババァがぁぁぁ‥‥‥私のマーガレットをぉぉ‥‥‥」

親を見る目ではなかった。

「ロスウェル‥アレってなんだと思う?」
皇太子が冷静に聞いた。
皇帝を後ろから抑えながらロスウェルが悩む。
「うぅん‥‥‥アレねぇ‥‥‥」

「‥‥‥潜り込ませてると言ってぞ‥‥
最近入ったメイドや従者をしらべなきゃならねぇな‥」

もう外からの敵だけではない‥‥
内側にも敵がいる事になった‥。


「テオドール、マーガレット達の食事から何から何まで、すべて警戒するぞ‥。そして、お前達の婚約パーティーは予定通り進めるが、最大級の魔術を施す。ロスウェル、異存はないな。」
「もちろんです。陛下」


ロスウェルに抑えられて居た皇帝は、怒りそのままに口を開く。

「ロスウェル•イーブス」

「わー、このまま?」
苦笑いしたロスウェルだった。

ロスウェルの身体がエメラルド色に光る。

皇帝は、後ろを振り向き手を振り解いて、机の羽ペンを手の甲に突き刺した。

この手をロスウェルの頭にかざす。

それに膝をつき、ボソッと呟く。
「親子で同じ様な事を‥」

「どんな害があろうとも、マーガレット•アレキサンドライトを守れ、足りなければこの指を切り落としてやろう‥」

「指はいりません‥陛下。」

「では、毎日、俺の元へ来い、血をやろう・・・。マーガレットに最高の守りを捧げよ‥‥この契約をその命をもって果たすのだ‥」

「はい、皇帝陛下。」
ロスウェルの両手の甲にエメラルド色の光が輝いた。

「皇帝の命令は絶対だ。この契約が守られなければ、お前は命を差し出せ‥‥」

「はい、皇帝陛下‥」


これが、皇帝陛下の権限である。火炙りと言われる契約だ。

「テオドールよ。絶対に守るぞ‥私達の愛する者達を‥」
皇帝の力強い目に、皇太子も改めて決意を固める。
「もちろんです。父上‥‥」


それからと言うもの、厳重な魔術が施された。皇帝・皇后の宮には究極の守りを。
食事には目に見えない毒の検証を、メイドや従者達には武器の所持がないかの透視を・・・。

筆頭魔術師と5人の魔術たちにより、皇帝夫婦と皇太子と婚約者を24時間守りの魔術を。

「マーガレット。婚約パーティの準備は順調か?」
皇帝の私室で、2人はテーブルを挟み、向かい合っていた。
「えぇ、順調よ?あと3週間後だもの!ダニエルにも送ったし、招待客にも。抜かりないわ?」

「・・・そうか。先日話したが・・・」
「大丈夫よ、オリヴァー様。私たちはロスウェル達が守ってくれているもの」
「あぁ・・・はぁ・・・テオドールの気持ちが痛い程感じるよ。」
前髪をくしゃっと掴み、皇帝は頬杖をついた。その様子を見て皇后は笑みを浮かべ
皇帝に近づいた。
「オリヴァー様。私達もまだテオ達と同じね?」
「マーガレット・・・私は真面目に・・・」
「えぇ・・・とても嬉しく思うわ。愛しています。オリヴァー様。」
そう言ってマーガレットはオリヴァーの頬に口づけた。

「・・・私とテオドールは、同じような素晴らしい伴侶に巡り合ったな。
リリィもそなたも、強いな・・・。」

男は、女を前にこんなにも弱くなるのに・・・。
女たちは、男を前にしてとてつもない強さで支えてくれる。

「マーガレット、心配するな。何があっても守ってやる・・・。」
「ふふっありがとう御座います。」

握りあった手、何年経とうと色褪せることなく愛はそこにある。

こちらでも、愛を伝えあう手と手を重ね合わせている。
「リリィあと3週間だ‥」
「はい、テオ様。」
「今も、ロスウェル達の魔術は完璧だが、用心してくれ、出来るだけ側は離れない。
俺と離れた時は、ロスウェルの部下たちがお前を守っている。」
「はい・・・。大丈夫です。私は殿下の側にいます。なんと言っても、私たちが主役なのでしょう?
寄り添っていて不自然はありません。私は信じておりますので・・・。

どうか、みんなの前で、私だけを見ていて下さい。」

「あぁ・・・・俺がどれだけお前を愛しているか、皆に見せつけてやる・・・・。
誰にも邪魔されないようにな・・・。」
「はい・・・・。楽しみにしております。」


当日は、身を隠したロスウェル達がいる。従者として現れるのも疑われるだろうから、
その方法しかない。もちろん、リリィやマーガレットも身を隠したロスウェル達は見えない。
これも、皇帝と皇太子だけのものだった。

「俺が離れる時は、なるべく父上か母上と一緒に・・・・。」
「はい、テオ様・・・。」

額を寄せ合い、笑みを交わす。婚約パーティーは様々な策略が張り巡らされる。
2人の男たちには戦場だ。

婚約パーティーの舞踏会はもうすぐそこまで迫っている。
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