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認めねぇ

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「‥‥まさかレリアーナ王女に魔術をかけられるなんて‥‥」
 しょぼんとリリィベルは事実に肩を落とした。
 テオドールはそんなリリィベルの頭を撫でてあげる。
 リリィベルは首を傾げてテオドールを見上げた。

「でも一体何故ですか‥‥?ポリセイオの王女が私を消し、帝国の人々の記憶をすり替えて、公爵が王位継承者になると言うのは、私達には関係のない話では?」

「ああ、それに関しては僕から。えーと、ロスウェル様からなんですが、レリアーナ王女は、どうやら殿下狙いです。

 そして、それは公爵との間に取引があり、それがどうやら王位継承権についてでしょう。ポリセイオ王国の情勢が分からない事が多いので、まぁ真実はまだ闇の中。

 しかし‥‥遥か遠くの国の王女までも虜にしてしまうなんて、


 さすが殿下。ややこしい!鬱陶しい!」

「やかましい!俺はなんも知らん!!大体最近王女になったばかりの女と俺になんの関係があるってんだ!!

 仮に俺をどう世間が見てるかは知らないが!俺はこうして婚約者が居るんだぞ?!それを魔術まで使って手に入れたいか?!頭イカれてるとしか言いようがないだろ!どいつもこいつも!!!俺は小蝿ホイホイじゃねぇんだよ!!!」

「小蝿にも魅力なそのお顔っすね。中身大して詰まってないのに。」
 ハリーは呆れた顔して、失礼な言葉を繰り返すがテオドールには正にその通りだった。

 中身を知らずに小蝿も寄りたかる。自分でも呆れる。

「そんな‥‥女性を小蝿だなんて失礼ですっテオ。」
「お前はそんな事を言ってる場合か?腹が立たないのか?そんな姿にされて!」

「もちろん腹を立てておりますが、その様な発言があるにも関わらず、貴方を狙う人が後を絶たないのですっ。これ以上私には防ぎようがありませんっ」

 リリィベルにそう言われてテオドールは口を閉じた。
 ムズムズとした思いが沸々と湧き立ってくる。

「だがっ‥‥俺はもう!お前が居るんだぞっ?!」
「それでも欲しがられるお立場なのでしょう?
 テオがこれまで女性に目もくれず居たはずなのに、では何故?!」
「俺だってわかんねーよ!」

「まぁまぁまぁまぁ!!お2人が言い争ってどうするんですかっ。」
「とにかくだ!とっととあの女引っ捕まえて‥‥」
「それは危険ですって殿下。対策練らないと!」
「だからっ‥‥‥あぁーくそっ‥‥‥魔術に対抗するなんてどーすんだよ。今までは俺たちがそっち側だろ?」

「まぁ・・・他国に、しかも王族に・・・なった者に魔術師がいるなんてな・・・。」

 ハリーが深く頭を落として考え込む。

「それがおかしいっすよねぇ・・・。魔術師は魔の森から排出されてくるのに・・・・。」
 その言葉にテオドールはハリーを見つめた。

「なぁハリー・・・お前魔の森の事は覚えてるのか?」
「あ・・・んー・・・いや、正直物心ついた時にはここに居たので・・・。
 他の奴らもそうだと思うんすけど・・・。ロスウェル様が親っていう感覚なんすよね・・・。
 ロスウェル様しか見てないので。ロスウェル様って確か陛下が14歳のときから筆頭で、その前の筆頭魔術師方と他の魔術師もみんなお年寄りだったみたいで・・・。俺が色々分かるようになった時にはロスウェル様しか居なくて。」

「へぇ・・・。ロスウェルっていくつだ?」
「いや、多分陛下と同じぐらいの年齢っすよ。」
「んー・・・ロスウェルが年長者しかいない中で来たって事か・・・。」

 リリィベルはふと口を開いた。
「先程、レリアーナ王女とモンターリュ公爵との会話で・・・魔術師となられたと言っていましたよね?
 では・・・テオが魔術を使えるようになったのと同じ様なものでしょうか?」

 ハリーとテオドールは目を合わせてハッとした。
「そっか・・・。それだ・・・・。」
「そっすよね・・・。でもそれで最高位の魔術?殿下は一時的にしか使えないのに?」
「だよな・・・。」

「では・・・最高位の魔術師の方が、ポリセイオ王国に存在すると言う事でしょうか・・・。」
「・・・ロスウェル様以上の魔術師が・・・・。」

 テオドールは髪を掻き上げて首元を掻きむしった。
「なんか・・・気に食わねぇな・・・。ロスウェルよりすげー奴がいるなんて・・・。」

 そうぽつりとつぶやいた。
 その言葉にリリィベルはクスっと笑った。


 なんだかんだ言っても、ロスウェルは信頼している第二の父のような存在だった。
 小さな頃、あのボロ花屋に迎えに来たロスウェル。

 その後も幾度となく助けてくれた。絶対的存在。
 オリヴァーとは違う目線で、見守ってくれて、安心させてくれた。

 冗談ばかり言って、失礼で・・・・。

 太陽みたいな笑顔で・・・・。




「・・・俺、認めねぇ・・・。」
 気だるげにソファーに座り、テオドールの瞳が鋭く光った。

「・・・殿下?」
 ハリーが不思議そうにテオドールを見た。
 だが、リリィベルは静かに微笑んだ。

「リリィをそんな姿にされたのもそうだし・・・。俺の婚約者ほざいてんのも気に食わねぇ。
 大事な建国祭ぶち壊されたのも・・・。

 そんなクソ女が・・・ロスウェル以上の魔術師なんて・・・認めねぇ・・・。」


 テオドールは自分の魔術印を見つめた。

 俺達と魔術師達を繋ぐ魔術印。ロスウェル達が繋いできた魔術はどれも優しいものだ。

 俺が・・・この魔術を一時的に使える様にしたのも

 素顔で表には出られないロスウェルや城から出られないハリー達が、安全に暮らしていけるそんな人生を作るため。



 こんな邪念にまみれた魔術で、ロスウェル達の魔術が穢されるのは許せない。


 俺は、ロスウェルを、みんなを守りたいんだ・・・・。

 ここに縛られてきた魔術師達の想いもすべて・・・・。


「なぁ、ハリー。ロスウェル呼べるか?」
「あ・・・聞いてみます。」





 舞踏会の最中、フォルトナー伯爵と会話中の時だった。
 テオドールは命がけの魔術で彼の足を治した。それだけ彼はこの国にとって大事な人。
 そんな時、ハリーから念話が入った。

「フォルトナー伯爵、少し席を外す。楽しんでくれ。」
「ありがとう御座います。殿下。」

 すっと人波をすり抜けて皇太子はバルコニーへ抜け出した。

 皇太子の指がパチンと鳴る。


「おう、ロスウェル。」
「はい。殿下。」
 一瞬で皇太子の部屋に真剣で張り詰めた顔をしたテオドールに扮したロスウェルが現れた。
 そして、それと同時に霧が晴れる様に本来の姿に戻った。

「わぉ。」

 ロスウェルの目に入ったのは、テーブルの上のソーサーに座っている妖精型のリリィベルだ。
「リリィベル様。」

 その姿を見て、ロスウェルは膝を立て深く頭を下げた。
「申し訳ございません。リリィベル様・・・。ご無事でいて下さって感謝致します・・・。
 私の魔術が至らぬばかりに・・・大切な御身を危険に晒しました事を死んでお詫びしたい思いです。」

「ロスウェル様っ・・・そんな事おっしゃらないでっ・・・。私は無事ですっ・・・。」

「はい。死んでお詫びはしません・・・。」

 太陽の様にいつも笑顔のロスウェルが、鋭く瞳を光らせた。
「筆頭魔術師ロスウェル・イーブスの名に懸けて・・・あなた様に掛けられたその魔術と、
 このふざけた魔術を・・・消してみせます・・・。」


「・・・・ロスウェル様・・・・。」
 ハリーは、ゴクっと息を呑んだ。こんなに怒りを露わにしている姿は見た事がない。
 小さな頃から躾けられてきた師匠。厳しくてとっても優しい師匠。

 その重みある言葉に、リリィベルは穏やかに笑みを浮かべた。
「信じております。ロスウェル様。私が油断したのです・・・。あれ程気を付けるように言われていたのに、他人をこの部屋に入れてしまったのですから・・・。私が招いた事です・・・。

 あなたの名誉に傷をつけてしまう事になって・・・申し訳なく思っています・・・。」

「とんでもございません・・・。私は愚かにも、殿下に言い訳を致しました。
 魔術に対抗する付与をしていなかったなどと・・・長年皇族に仕える私が・・・・

 ですが決してっ・・・。」

 切実な後悔が止まらないロスウェルの前にテオドールが立つ。

「ロスウェル。」
「・・・はい・・・殿下。申し訳ございません。」

 テオドールはロスウェルの前に膝をつき、じっと見つめた。

「お前、父上が14歳の皇太子時代から筆頭だよな?」
「・・・・はい・・・そうですが・・・。」





「・・・・俺達の契約、外そうぜ・・・・。」


「え・・・・・。」
 その言葉にロスウェルは目を見開いた。
 そしてその目は次第に絶望感を抱いた。

「殿下っ・・・あのっ・・・それはっ・・・・。」


 信頼を失ってしまったから・・・?




「お前の考えてる事、多分ちげーよ。」
「え・・・?」

 テオドールは、ロスウェルの手を取った。
 そして、それを懐かしむように微笑んだ。

「ロスウェル・・・・。」

「はい・・・・。」
 ぽかん・・・と口を半開きで返事をした。

「俺・・・お前に何度守られたか・・・数え切れねぇよな・・・・。」
「・・・殿下・・・・。」

「お前達は・・・当たり前だと・・思ってるかもしんねぇけど・・・。

 俺達が、お前達を本当の意味で守れてた事になるのかな。

 お前達をこの城で保護したって言うけどさ・・・。俺時々思うんだ。

 この魔術印がなかったら・・・お前達が自分たちで生活を守れたら

 俺達皇族に縛られる事なかったんじゃねぇかなって・・・。


 だけど、悪い奴はどこにもいるからさ・・・。お前達が世間でつらい目に合うのはやっぱ嫌なんだよな。



 だから・・・俺は、ハリーと魔術を研究したんだよな・・・・。




 俺、お前よりすごい魔術師なんか嫌なんだ・・・。つか・・信じねぇ・・・・。

 お前はいつだって・・・すげぇ奴だった・・・・。」


「・・・殿下・・・。」

 ロスウェルの瞳がじんわりと滲んだ。

「・・・お前は、ずっと皇族と魔術印で繋がれてただろ・・・・。

 これは、お前についてる枷なんだ・・・。外してほしい・・・・。」



「そしたら・・・お前が世界最強だってそれ以外考えらんねぇだろ?」

 テオドールの、自信に満ちた笑みがロスウェルの目の前に広がった。

「・・・っ・・・・そ・・・んな・・・・っ・・・。」



「試してみようぜ。それでもダメなら、俺の全身の血、死ぬギリギリまでやるよ。


 だから・・・・俺を・・・また、助けてくれるか?」


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