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嵐の夜に起こった事件ですわ。

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嵐の夜に、第一王子が暗殺された。
実のところは、雷に撃たれたらしい...。
王子の亡き骸のお側には猫がずっといて、保護されたそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
猫を見に来るご令嬢たちも多いと聞いた。
わたくしの婚約者である、第一王子ルルア様が亡くなったというものの現実味がなく平然と過ごしている。
なぜなら、ルルア様が亡くなる数日前に婚約破棄の宣言を直接されていたからである。
どちらかというと、暗殺したなんて噂や容疑がかけられないか不安ですわ。

客室用の部屋でそんな事を考えていると、保護された猫が近くを通りかかった。
「ティ……オ……?」
どこからか声がする。
「ティオ……きこえ、るのか?」
「……な、なんで、あんたが……」
その声の主は保護された猫だったのだ。
その猫は、とても……人間のような、反応を見せた。
まるで人間のように驚いていた。
そしてまるで、自分が話せるということを肯定するかのように頷いた。
「なん、で……あたしの名前を、あんたが知ってんのよ……」
「……」
……わからない。
猫は、驚いているようだけど……冷静だ。
そんな猫とは裏腹に、わたくしの頭の中は混乱していた。
もしかしたら、ルルア様の記憶の一部がこの猫に?いや、そんなこと本のお話ならともかくとして現実に起こることとは思えませんわ。
それとも、ルルア様本人で自分が一度死んだという自覚があるのだろうか。
……理解が追いつかず、考えることが疲れてしまったわ。
わたくしのことがわかっているということは、あのことも知っているのかしら?
「……ねぇ、名前を教えてよ」
「……ぇ?」
「アンタがわたくしの名前を知ってるなら……それぐらいしてくれてもいいんじゃないの?」
「あ、ああ……」
「えっと……ル、ルル……ア……ん。……ルルア」
「え?る、ルルア……?」
名乗った名前に、わたくしも驚いた。
だって、その名は……。
「し、知ってるの?」
「……ああ、わたくしの婚約者様ですわ。」
「……あまり、記憶がなくて...」
驚いたと同時に納得した。
仮にルルア様の記憶の一部が入ってしまっているのであれば……彼のような言動になるのも理解できる。
「わかった……ルルン」
「……へ?」
「ルルアは色々とまずいわ。大人の事情というやつですわ。」
「……ん、んん!る、ルルンで!ありがとう。ティオ。」
急に呼び捨てにされ驚いてしまった。
でもなんかちょっとドキドキしている自分がいる。
わたくしは見せかけの婚約者で、婚約破棄を要求された時もあっさりとその要求をのむことができた。
しかし、いつの間にかルルア様を好ましく思っていた気持ちがあったなんて...。
いや、一時の気の迷い... または気のせいかもしれませんわ。
それに、仮にルルア様だとしても猫なのだ。
猫がしゃべるだけでなく、その中身が第一王子だなんておおごとになりかねない。
「ルルン。あなたのお世話をすることに決めましたわ。」
「? うん。」
こうして、ティオはルルンのお世話係りになったのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ルルン。ここがわたくしのお部屋ですわ」
ルルンを連れて客室に入る。
そこは、猫が使うのに配慮した部屋の仕様になっている。
「ありがとう!」
「ふふ……ルルンがしゃべれるとなると色々困りますわね。」
「え?」
ルルンに笑いかけると彼は首を傾げた。
今の彼を猫として扱うことは多分無理だと思うのよね……見た目は猫だけど中身が人間なのだから、ある程度は気を遣わなきゃいけない。
「だって、ルルンがしゃべる猫ってバレたらまずいですもの」
「あ、そうか……」
少し気まずそうな表情を見せたルルンにわたくしは安心させるように笑った。
「ふふ……大丈夫よ。ちゃんと守れるよう対策は考えますわ。でも、しばらくは猫として振る舞う方がいいでしょうね」
「ああ……ありがとう!ティオ!」
彼が嬉しそうに笑う表情を見ると何故か自分も嬉しくなるのだ。
ああ……ルルア様………。
わたくしはルルア様に恋をしていたのだ。
彼のことは好きではないと言いながら、本当に彼に好意を向けていたのだ。
今さら気付くなんて……わたくしは馬鹿ね。
「ありがとう、ティオ」
「え?」
唐突にお礼を言われたことに驚きルルンを見つめると彼は嬉しそうに笑った。
ああ、やっぱりルルア様じゃないのかしら?こんなにも私に笑いかけてくれる人なんて今までいなかったもの……。
そしてそのままベッドに座った彼は微笑みながら話を続けたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日経って、ルルンのおしゃべりは安定した。記憶が戻るのはまだ相変わらずのようでしたわ。
その日は、朝から大雨が降っていてルルンは落ち着かない様子だった。
雷が鳴るとルルンは暴れ始めた。
わたくしは、そんなルルンを落ち着かせるのに一苦労した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
雷というストレスに耐えられず、思い出したのか、ルルンは衝撃的な発言をした。「僕を殺したのは、雷じゃないよ。本当に何者かに暗殺されたんだ。」
「ルルン...?」
「ティオ...まだ思い出せたのは一部だけだ。すまないが、暗殺した者を探すことを手伝ってはくれないだろうか。」
わたくしは、急展開についていけずすぐに答えられず少しの間黙ってしまった。
「えっと...ルルア様は何者かに暗殺されてその事実は隠蔽されようとしていて、暗殺者が未だに特定できていないと。」
「あぁ...。巻き込んでしまってすまないが、この身体ではどうにもできないんだ。力を貸してくれないか。」
あぁ、かわいいお姿でなんという表情をされているのでしょう。こんなの断れませんわ。
「わかりましたわ...。一緒に暗殺者を探しましょう。」
「ティオ。本当にありがとう。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こうして、ルルア様の暗殺者を探す手伝いをすることになりました。
これを機にわたくしのことも思い出してもらわないとですわね。
わたくしは、子どもの頃は特にルルア様が大好きだったもの。そのこともどうか思い出しますように……。
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