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翌朝目覚めた時に少し頭が重かったけれど、夜中に目覚める事もなく、珍しく纏まった睡眠時間が確保出来た。
睡眠のおかげか、頭は重いけれどそれに反して身体は意外と軽かった。これが質の良い眠りだったら、さぞかし快調だったに違いない。
珍しく二度寝をしてしまいそうになる。これはまだ薬が効いている証拠だろうか。
僕は珍しく布団の上で微睡んでいると、そのうち本格的に眠りに落ちた。
次に気が付いたのは、お昼前だった。
ようやく頭がスッキリして、以前までとはいかないけれど、それに近い体調にまで戻った気がする。
僕は顔を洗って着替えを済ませると、母が用意してくれていた食事に手を付ける。
お昼から、梓紗の入院しているホスピスへと向かう。もうホスピス通いは日課となった。
梓紗が目覚めていなくても、一日に一度は必ず足を運んでいる。
今日こそは目覚めますようにと願掛けをしながら……。
でも残念ながら願いもむなしく、梓紗は相変わらず眠ったままだった。
月が替わり、十二月に入り、街はクリスマス一色に色付いている。病院内も、入院病棟内はクリスマスの飾りつけをして患者さんに季節を感じて貰うのだと、梓紗のお見舞いに来ていて顔なじみになった看護婦さんに聞かされた。
梓紗のいる無菌室も、面会室側からクリスマスの飾りつけをしている。
きっと狭い無菌室に装飾品の持ち込みが出来ないからだろう。目が覚めた時に、ガラス越しに少しでも梓紗もクリスマス気分を味わえるだろうか。
今日もいつもの様に、学校の授業が終わると僕は自宅へと戻り鞄を置くと、ホスピスへと向かった。
いつも通り梓紗のいる緩和病棟へと向かうと、看護婦さんが僕の顔を見ると慌てて駆け寄って来た。
「白石くん! 梓紗ちゃん、さっき容体が急変して、もしかしたら危ないかも知れない。早く行ってあげて」
僕はその言葉を聞いて、お礼も言う事も忘れて慌てて駆け出した。
病院内は走ってはいけない規則になっているけど、そんな事今は考えている暇はない。とにかく急がなければ。僕はエレベーターを待つ時間も惜しくて階段を駆け上がった。
幸いな事に廊下に人はおらず、誰かにぶつかったりすると言う事ななかった。
とにかく急いで僕は梓紗のいる無菌室へと向かった。
廊下には、梓紗のお母さんと加藤さんがいた。
きっと加藤さんも自宅に帰った時に病院から連絡があったのだろう。傍には加藤さんのお母さんらしき人も一緒にいた。
加藤さんの隣には、梓紗のお姉さんだろうか、写真でしか顔を見た事がないけれど、それらしき人がいた。
「白石くん、遅い!」
加藤さんに叱責されたものの、僕は梓紗の容体が気になって面会室へと入ろうとした所を、梓紗のお母さんに呼び止められて。
「白石くん、こっちに来て」
梓紗のお母さんはいつもと雰囲気が違う。珍しく髪を後ろに一つに束ねている。
「梓紗はもう、長くない。梓紗と最後にした約束、叶えてあげて欲しいの」
その声に、僕の思考が止まった。
「白石くんが到着するまで、先生にお願いして延命措置をして貰ってる。
本当はホスピスで延命措置はしてはいけないけど、梓紗の最期の願いを叶えてあげたいの。だから……。
白石くん、無菌室の中に入ってあげて」
僕は看護婦さんに案内されて、無菌室へ入る為の準備の為に別室へと連れて行かれ、身体に付着した埃等を取り払われると、手に消毒をしてマスクを着用し、無菌室へと通された。
面会室のあるガラス窓の向こう側に、加藤さん親子と梓紗のお姉さんが立っている。
僕は看護婦さんに誘導されて、梓紗の枕元へと向かった。梓紗に取り付けられている色々な管が、やせ細ってしまった梓紗の身体が、見ていて痛々しい。でも、目を背ける訳にはいかない。
「梓紗……、起きて。いつまで寝てるの?」
梓紗の耳元で囁いた。梓紗の顔には酸素マスクが被せられたままだ。
梓紗からは反応がない。どうしたらいいんだろう。このまま声を掛け続けた方がいいのか、それとも黙って梓紗の手を握った方がいいのか……。
その時、主治医と思われる医師が僕に声を掛けた。
「梓紗ちゃんは眠ってるけど、声はきちんと聞こえてるから、たくさん話しかけてあげて。手も良かったら握ってあげて。手の温もりを感じさせてあげて」
僕は言われた通り、梓紗のベッドの側に置いてあった椅子に腰を下ろすと、ベッドから出ている梓紗の手をそっと握った。輸血中だからか、梓紗の手は冷たかった。少しでも温めてあげたい。そんな思いで僕は両手で梓紗の手のひらを包みこむ。僕の熱が、梓紗に伝わりますように……。
「梓紗、もう十二月なんだよ。外はクリスマス一色なんだよ。一緒に外に出て散歩しよう。
この前焼いてくれたケーキ、美味しかったから、クリスマスにまた作ってよ。
年が明けたら、梓紗、誕生日迎えるだろう? 今度は僕が、何か作るから、それを食べてよ。
今まで家の手伝いでバイト代結構溜まったから、誕生日ブレセントも期待してて。
何が欲しいか決めといて」
睡眠のおかげか、頭は重いけれどそれに反して身体は意外と軽かった。これが質の良い眠りだったら、さぞかし快調だったに違いない。
珍しく二度寝をしてしまいそうになる。これはまだ薬が効いている証拠だろうか。
僕は珍しく布団の上で微睡んでいると、そのうち本格的に眠りに落ちた。
次に気が付いたのは、お昼前だった。
ようやく頭がスッキリして、以前までとはいかないけれど、それに近い体調にまで戻った気がする。
僕は顔を洗って着替えを済ませると、母が用意してくれていた食事に手を付ける。
お昼から、梓紗の入院しているホスピスへと向かう。もうホスピス通いは日課となった。
梓紗が目覚めていなくても、一日に一度は必ず足を運んでいる。
今日こそは目覚めますようにと願掛けをしながら……。
でも残念ながら願いもむなしく、梓紗は相変わらず眠ったままだった。
月が替わり、十二月に入り、街はクリスマス一色に色付いている。病院内も、入院病棟内はクリスマスの飾りつけをして患者さんに季節を感じて貰うのだと、梓紗のお見舞いに来ていて顔なじみになった看護婦さんに聞かされた。
梓紗のいる無菌室も、面会室側からクリスマスの飾りつけをしている。
きっと狭い無菌室に装飾品の持ち込みが出来ないからだろう。目が覚めた時に、ガラス越しに少しでも梓紗もクリスマス気分を味わえるだろうか。
今日もいつもの様に、学校の授業が終わると僕は自宅へと戻り鞄を置くと、ホスピスへと向かった。
いつも通り梓紗のいる緩和病棟へと向かうと、看護婦さんが僕の顔を見ると慌てて駆け寄って来た。
「白石くん! 梓紗ちゃん、さっき容体が急変して、もしかしたら危ないかも知れない。早く行ってあげて」
僕はその言葉を聞いて、お礼も言う事も忘れて慌てて駆け出した。
病院内は走ってはいけない規則になっているけど、そんな事今は考えている暇はない。とにかく急がなければ。僕はエレベーターを待つ時間も惜しくて階段を駆け上がった。
幸いな事に廊下に人はおらず、誰かにぶつかったりすると言う事ななかった。
とにかく急いで僕は梓紗のいる無菌室へと向かった。
廊下には、梓紗のお母さんと加藤さんがいた。
きっと加藤さんも自宅に帰った時に病院から連絡があったのだろう。傍には加藤さんのお母さんらしき人も一緒にいた。
加藤さんの隣には、梓紗のお姉さんだろうか、写真でしか顔を見た事がないけれど、それらしき人がいた。
「白石くん、遅い!」
加藤さんに叱責されたものの、僕は梓紗の容体が気になって面会室へと入ろうとした所を、梓紗のお母さんに呼び止められて。
「白石くん、こっちに来て」
梓紗のお母さんはいつもと雰囲気が違う。珍しく髪を後ろに一つに束ねている。
「梓紗はもう、長くない。梓紗と最後にした約束、叶えてあげて欲しいの」
その声に、僕の思考が止まった。
「白石くんが到着するまで、先生にお願いして延命措置をして貰ってる。
本当はホスピスで延命措置はしてはいけないけど、梓紗の最期の願いを叶えてあげたいの。だから……。
白石くん、無菌室の中に入ってあげて」
僕は看護婦さんに案内されて、無菌室へ入る為の準備の為に別室へと連れて行かれ、身体に付着した埃等を取り払われると、手に消毒をしてマスクを着用し、無菌室へと通された。
面会室のあるガラス窓の向こう側に、加藤さん親子と梓紗のお姉さんが立っている。
僕は看護婦さんに誘導されて、梓紗の枕元へと向かった。梓紗に取り付けられている色々な管が、やせ細ってしまった梓紗の身体が、見ていて痛々しい。でも、目を背ける訳にはいかない。
「梓紗……、起きて。いつまで寝てるの?」
梓紗の耳元で囁いた。梓紗の顔には酸素マスクが被せられたままだ。
梓紗からは反応がない。どうしたらいいんだろう。このまま声を掛け続けた方がいいのか、それとも黙って梓紗の手を握った方がいいのか……。
その時、主治医と思われる医師が僕に声を掛けた。
「梓紗ちゃんは眠ってるけど、声はきちんと聞こえてるから、たくさん話しかけてあげて。手も良かったら握ってあげて。手の温もりを感じさせてあげて」
僕は言われた通り、梓紗のベッドの側に置いてあった椅子に腰を下ろすと、ベッドから出ている梓紗の手をそっと握った。輸血中だからか、梓紗の手は冷たかった。少しでも温めてあげたい。そんな思いで僕は両手で梓紗の手のひらを包みこむ。僕の熱が、梓紗に伝わりますように……。
「梓紗、もう十二月なんだよ。外はクリスマス一色なんだよ。一緒に外に出て散歩しよう。
この前焼いてくれたケーキ、美味しかったから、クリスマスにまた作ってよ。
年が明けたら、梓紗、誕生日迎えるだろう? 今度は僕が、何か作るから、それを食べてよ。
今まで家の手伝いでバイト代結構溜まったから、誕生日ブレセントも期待してて。
何が欲しいか決めといて」
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