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第三章 休みくらい好きにさせて
第3話 眠りたい
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お出かけ……といっても、学園内だけど、のんびりと散歩していると、ふわぁとあくびしてしまう。
ずっと不安になっているから、全然眠れない。珍しく眠れたかと思えば、レアの言っていた存在に拐かされる悪夢を見てしまう。
狙いが本当にわからない。公爵令嬢としての私を狙うなら、まだ力をつける前の幼い頃を狙ったはずだ。下手に成長してからだと、抵抗されるかもしれないし、この世界は魔法がある。さらに危険だろう。幼い頃よりも、成長したときの方が、魔法は強くなっているに決まっているから。
それなら、私が公爵令嬢だから狙っているというわけではないのかもしれない。そうなると、心当たりは麗香である“私”だ。
確かに、性格が変わると、不審に思われるかもしれない。でも、それで私という答えにたどり着くだろうか。いくら魔法なんて非現実なものが存在するとしても、別の世界から転生したなんて、そう簡単には思い当たらないと思う。
そう考えたとき、思い出したのは、私は死んだわけではないということだ。急に目の前が暗くなったと思えば、この世界に来ていた。もう、単純な乙女ゲームの世界とは考えていない。普通に魔法のある世界ということだけを考えると、何かが私を呼んだんじゃないだろうか。召喚というやつだ。でも、それがなんらかの理由で失敗して、このリリアンに宿ってしまったのかもしれない。
あまりにもおかしな話だが、それならわざわざ成長してからリリアンを狙う理由が説明できる。私という存在になんらかの理由で気づいたとすれば、狙われるのは理解はできる。必要だから召喚しようとしたわけなのだから。
カインとは、幼い頃から婚約していたし、今は仮婚約状態だから、それも違うだろうしね。
「なんか悩み事?」
「いいえ、なんでもないわ」
私が冷たくそう言うと、レアが私の背中におんぶするように覆い被さってきて、ほっぺをつんつんされる。
「隠し事はよくないぞー?」
「それじゃあ、あなたから話してくれない?……レアもまだ隠してることあるでしょ」
「……さて、なんのことだか?」
私が少し疑う視線を向けながらたずねると、レアは視線を泳がせながらそう言った。
そのレアの言動が、さっきの言葉は嘘だということを物語っている。
だって、やっぱりどう考えてもおかしいだろう。お父様よりも年上なのに、見た目は幼いままなんて。精神魔法で見た目の年齢まで操作できるとは思えないし。……まぁ、自称だから、本当は見た目通りの年齢という可能性もなくはないけど。
「それなら私も話さないわ」
「うー……」
わざとらしくほっぺを膨らませて、不機嫌だということをアピールしている。
こういうところがあるから、子どもみたいに見えるのよ。いい大人がこんなことをやっていたら、ぶりっ子にしか思われないだろう。
「あれ?リリアン様?」
そんな声が聞こえて、声がする方を見ると、そこにはソフィアがいた。
「ソフィア。どうしたの?」
「モニカさんが実家に帰ってしまわれたでしょう?ですので、リリアン様に会いに行こうとしたのですが……」
それで、私の部屋まで向かっていたところで、私と遭遇したということだろう。
レアのことは気にしないのかと思って、いつの間にか私から降りていたレアを見ると、思いっきり隣に立っている。私がレアの方に視線を向けたからか、ソフィアもレアの存在に気づいたようだった。
「あれ?その子ーー」
ソフィアがそこまで言うと、レアの目が閉じて、再び開かれた。それは、いつものレアの瞳と違って、赤い目をしている。
すると、ソフィアは「なんでもなかったわ」と言って、私に向き直った。
もしかして、これが精神魔法なんだろうか。自分の存在を認識できないようにした……?結構怖いことするな。
「それで、何の用だったの?」
「いや、特に用があったわけではないんだけど……暇だからお話でもしようかと思ってね」
レアの存在を認識してなくて、二人きりだと思っているのか、私にため口を使ってくる。
「ほうなの……」
私は、大きくあくびをしながら返事をしたので、しっかりと発音ができていない。
「あんた、寝れてないの?」
「いろいろあったのよ……なんか、狙われているみたいだし」
「それがどんなやつなのかは知らないけど、うだうだ悩むなんてあんたらしくないわよ!行き当たりばったりのくせにね」
「そうだったかしら?」
でも、言われてみれば、事前に対策を練ったりとかはあまりしていなかったかもしれない。もちろん、無謀な特攻にならないようには気をつけているが、ちゃんと作戦を考えたりとかはしていなかったような気がする。
あまりにも綿密に練ってしまうと、ズレができたときに対応ができなくなる。そんな考えから、私はあまり深く考えて行動したりはしないんだけど、それがソフィアから見たら、行き当たりばったりに見えるのかもしれない。
「まぁ、眠れないなら、うちの眠り薬でも持ってきましょうか?」
「うちの薬?」
「私の実家は薬屋なのよ。私もそれなりに薬の知識はあるわ」
そうなのか。確かに、賢いソフィアなら、そんなのは簡単に理解できてしまうだろう。学園の勉強の片手間にそんなことをしていたなら本当の天才だ。私には無理。
「お願いできる?」
「それなら、今から実家に帰省するから、そのときに持ってきてあげるわ」
それだけ言うと、その場を立ち去ってしまった。
……うん?今から帰るの?もうすぐ正午を過ぎるくらいになるのだけど。まぁ、両親が迷惑しないならかまわないけどね。
「それじゃあ、私たちも部屋に戻りましょ」
「はーい」
私はレアに声をかけて、部屋に戻った。
*ー*ー*ー
部屋に戻った私たちは、ベッドに寝転がった。いつもならベッドに寝転がったらすぐに眠り出すレアが珍しく起きている。
レアは、ゴロゴロしながらも、こちらに顔を向けて言う。
「寝れないんだったら、レアが寝かせてあげてもいいよ?」
一瞬、何を言っているんだろうと思ったが、アイリスに言われたことを思い出す。そういえば、精神を操って眠らせるのもできるんだったか。
精神を操るというのは怖いけど、今は藁にもすがる思いだから、頼んでみることにした。
「お願いできるかしら」
「オッケー。それじゃあ、全身の力を抜いて、なるべく抵抗しないようにね」
言われたように、私は寝転がって全身の力を抜く。
「後は、ゆっくりと深呼吸してればいいよ」
言われたように、息を吸ってーー吐いてーーとしていると、レアの指が額に触れる。その瞬間、力を抜いていたはずなのに、さらに脱力感に襲われる。その脱力感に気づいたときには、私は瞳を閉じていた。
ずっと不安になっているから、全然眠れない。珍しく眠れたかと思えば、レアの言っていた存在に拐かされる悪夢を見てしまう。
狙いが本当にわからない。公爵令嬢としての私を狙うなら、まだ力をつける前の幼い頃を狙ったはずだ。下手に成長してからだと、抵抗されるかもしれないし、この世界は魔法がある。さらに危険だろう。幼い頃よりも、成長したときの方が、魔法は強くなっているに決まっているから。
それなら、私が公爵令嬢だから狙っているというわけではないのかもしれない。そうなると、心当たりは麗香である“私”だ。
確かに、性格が変わると、不審に思われるかもしれない。でも、それで私という答えにたどり着くだろうか。いくら魔法なんて非現実なものが存在するとしても、別の世界から転生したなんて、そう簡単には思い当たらないと思う。
そう考えたとき、思い出したのは、私は死んだわけではないということだ。急に目の前が暗くなったと思えば、この世界に来ていた。もう、単純な乙女ゲームの世界とは考えていない。普通に魔法のある世界ということだけを考えると、何かが私を呼んだんじゃないだろうか。召喚というやつだ。でも、それがなんらかの理由で失敗して、このリリアンに宿ってしまったのかもしれない。
あまりにもおかしな話だが、それならわざわざ成長してからリリアンを狙う理由が説明できる。私という存在になんらかの理由で気づいたとすれば、狙われるのは理解はできる。必要だから召喚しようとしたわけなのだから。
カインとは、幼い頃から婚約していたし、今は仮婚約状態だから、それも違うだろうしね。
「なんか悩み事?」
「いいえ、なんでもないわ」
私が冷たくそう言うと、レアが私の背中におんぶするように覆い被さってきて、ほっぺをつんつんされる。
「隠し事はよくないぞー?」
「それじゃあ、あなたから話してくれない?……レアもまだ隠してることあるでしょ」
「……さて、なんのことだか?」
私が少し疑う視線を向けながらたずねると、レアは視線を泳がせながらそう言った。
そのレアの言動が、さっきの言葉は嘘だということを物語っている。
だって、やっぱりどう考えてもおかしいだろう。お父様よりも年上なのに、見た目は幼いままなんて。精神魔法で見た目の年齢まで操作できるとは思えないし。……まぁ、自称だから、本当は見た目通りの年齢という可能性もなくはないけど。
「それなら私も話さないわ」
「うー……」
わざとらしくほっぺを膨らませて、不機嫌だということをアピールしている。
こういうところがあるから、子どもみたいに見えるのよ。いい大人がこんなことをやっていたら、ぶりっ子にしか思われないだろう。
「あれ?リリアン様?」
そんな声が聞こえて、声がする方を見ると、そこにはソフィアがいた。
「ソフィア。どうしたの?」
「モニカさんが実家に帰ってしまわれたでしょう?ですので、リリアン様に会いに行こうとしたのですが……」
それで、私の部屋まで向かっていたところで、私と遭遇したということだろう。
レアのことは気にしないのかと思って、いつの間にか私から降りていたレアを見ると、思いっきり隣に立っている。私がレアの方に視線を向けたからか、ソフィアもレアの存在に気づいたようだった。
「あれ?その子ーー」
ソフィアがそこまで言うと、レアの目が閉じて、再び開かれた。それは、いつものレアの瞳と違って、赤い目をしている。
すると、ソフィアは「なんでもなかったわ」と言って、私に向き直った。
もしかして、これが精神魔法なんだろうか。自分の存在を認識できないようにした……?結構怖いことするな。
「それで、何の用だったの?」
「いや、特に用があったわけではないんだけど……暇だからお話でもしようかと思ってね」
レアの存在を認識してなくて、二人きりだと思っているのか、私にため口を使ってくる。
「ほうなの……」
私は、大きくあくびをしながら返事をしたので、しっかりと発音ができていない。
「あんた、寝れてないの?」
「いろいろあったのよ……なんか、狙われているみたいだし」
「それがどんなやつなのかは知らないけど、うだうだ悩むなんてあんたらしくないわよ!行き当たりばったりのくせにね」
「そうだったかしら?」
でも、言われてみれば、事前に対策を練ったりとかはあまりしていなかったかもしれない。もちろん、無謀な特攻にならないようには気をつけているが、ちゃんと作戦を考えたりとかはしていなかったような気がする。
あまりにも綿密に練ってしまうと、ズレができたときに対応ができなくなる。そんな考えから、私はあまり深く考えて行動したりはしないんだけど、それがソフィアから見たら、行き当たりばったりに見えるのかもしれない。
「まぁ、眠れないなら、うちの眠り薬でも持ってきましょうか?」
「うちの薬?」
「私の実家は薬屋なのよ。私もそれなりに薬の知識はあるわ」
そうなのか。確かに、賢いソフィアなら、そんなのは簡単に理解できてしまうだろう。学園の勉強の片手間にそんなことをしていたなら本当の天才だ。私には無理。
「お願いできる?」
「それなら、今から実家に帰省するから、そのときに持ってきてあげるわ」
それだけ言うと、その場を立ち去ってしまった。
……うん?今から帰るの?もうすぐ正午を過ぎるくらいになるのだけど。まぁ、両親が迷惑しないならかまわないけどね。
「それじゃあ、私たちも部屋に戻りましょ」
「はーい」
私はレアに声をかけて、部屋に戻った。
*ー*ー*ー
部屋に戻った私たちは、ベッドに寝転がった。いつもならベッドに寝転がったらすぐに眠り出すレアが珍しく起きている。
レアは、ゴロゴロしながらも、こちらに顔を向けて言う。
「寝れないんだったら、レアが寝かせてあげてもいいよ?」
一瞬、何を言っているんだろうと思ったが、アイリスに言われたことを思い出す。そういえば、精神を操って眠らせるのもできるんだったか。
精神を操るというのは怖いけど、今は藁にもすがる思いだから、頼んでみることにした。
「お願いできるかしら」
「オッケー。それじゃあ、全身の力を抜いて、なるべく抵抗しないようにね」
言われたように、私は寝転がって全身の力を抜く。
「後は、ゆっくりと深呼吸してればいいよ」
言われたように、息を吸ってーー吐いてーーとしていると、レアの指が額に触れる。その瞬間、力を抜いていたはずなのに、さらに脱力感に襲われる。その脱力感に気づいたときには、私は瞳を閉じていた。
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