異世界でもマイペースに行きます

りーさん

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第一章 伯爵家の次男

11 チートな言語理解

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 リオンティールが茂みをかき分けつつ探していると、案外近くにスレイクスはいた。

「さて、どうしようか……。こいつしかいないから、こいつを手懐けるしかないよなぁ」

 魔物との契約法は当然知っている。
 魔力を相手に注げばいい。魔道具に魔力を込めるのと同じやり方だ。
 でも、その魔力を相手が受け入れなければならない。
 無理やり注いで従魔にする方法もあるが、抵抗されても従魔にできるだけの魔力が、そもそもリオンティールにはなかった。

「にゃー……なお」
『手懐けるって……まるでペットみたいに』
「見た目が猫だとペットと変わらないーーうん?誰の声?」

 兄のベルトナンドではなかった。
 でも、当然ながら自分の声でもない。
 兄と自分以外に人は見当たらなかったのに、女の子みたいな声がする。
 しかも、その声はリオンティールの下のほうから聞こえた気がした。

「にゃおん?うにゃあ?」
『あれ?ボクの言葉がわかるの?』

 猫のような鳴き声の後に、脳内に響くように言葉が聞こえてくる。
 リオンティールは、ようやく目の前にいるスレイクスへと目を向けた。

「……えっ!?君が話してるの!?どういうこと!?」
「にゃあ。にゃお?」
『どういうことはボクのセリフだよ。なんで人間なのにボクの言葉がわかるの?』
「なんでと言われてもーーあっ」

 リオンティールは、そこまで言ってあることを思い出した。
 それは、リオンティールが転生のときにもらった恩恵。

 言語理解

 それは、生物が話すことがわかる・・・・・・・・・・・というもの。
 つまりは、魔物も含まれる。猫みたいな鳴き声はリオンティールの耳には聞こえているものの、脳ではなんと言っているのかわかる。

(脳内で翻訳されるのか。だから、耳には自分が聞こえた通りの言葉しか聞こえない)

 神の知識は、能力の細かい部分まではわからなかった。
 言語理解の、わかるというのは、確かに知らないしわかるはずもないのにわかるということみたいだった。 

「僕は、言語理解の恩恵持ちだからだと思うよ。人間以外も対象みたい。僕も初めて知ったけど」
『けっこう強い恩恵じゃん!大抵は同じ種族しか通じないのに……』

 多分、神さまから直接もらったからだろうとリオンティールは考えたが、兄が近くにいるのもあり、それ以上口にはしなかった。

「そんなことよりもさ、ペットみたいにって言ったってことは、僕がここに来た理由は知ってるんだよね?」
「にゃ~……にゃ、にゃお」
『そんなことでもないと思うけど……まぁ、そうだね。知ってるよ』
「なら話が早くていいね。それで、君は僕の従魔になるつもりはあるの?ないなら他を当たるけど……」

 リオンティールは、従えたい魔物にこだわりはない。
 最低限の義務を果たせたらそれでよかった。
 そのため、嫌なら放って他の魔物を当たろうと考えたのだが……

『……いや、君は面白そうだし、ボクの力も悪用しなさそうだから、従魔になってもいいよ。さっきも助けてくれたみたいだし』
「悪用できるものなのかわからないけど、なってくれるなら頼もうかな」

 意外と楽に手に入ったことに安堵しながらも、リオンティールはしゃがみながら魔力を注ぐ。
 魔法の使い方を学んでいたリオンティールは、魔力の流すことも容易にできた。

(リオンティールとしての五年間の記憶がちゃんとあるのはありがたいな)

 確かに梨央としての記憶もあるのだが、リオンティールの記憶のほうが強く残っている。
 アルゲナーツが何かやったのかとも思ったけど、ご都合主義として深くは考えていない。

(さて、魔力を注ぎながら名付けだったな)

 思考がそれていたのを戻し、リオンティールは目の前のことに集中する。
 魔物と従魔の関係を結ぶには、魔力を注ぎ、反発されないうちに名前を与えることで契約が完了される。

「名前は……ラクでいいよね」

 幸運という意味のラッキーから取っただけだが、そんな単純な理由のほうが覚えやすい。

『そんな適当に名付けないでほしかったなぁ……』

 契約したからか、なんとなく感情が伝わってくる。これは、落胆だ。

「僕が覚えやすいのがいいと思って。嫌なら変えるけど」

 落胆しているラクにも、申し訳なさは微塵も感じない。それがリオンティールだった。
 これでもリオンティールは妥協しているほう。落ち込まれるとリオンティールのわずかな罪悪感のようなものは働くからだ。

(こんなんだから蓮にも自分勝手とか言われたのかな?)

 蓮がこの場にいたら、きっと呆れ返っていたにちがいない。
 今になって、こんな自分に付き合ってくれていた蓮に感謝の思いが沸いてきた。本人がいない世界で思ったところで、それを伝えることはできないが。

『な~んか調子狂うなぁ……。まぁ、嫌じゃないからいいけどさ』

 ラクの言葉に、リオンティールは蓮がよく言っていたなと思いながらラクの頭を撫でる。
 そのときのリオンティールは完全に忘れていた。いや、忘れてはいなかったが、注意散漫であった。

「リオン。さっきから誰と話しているんだ?」
「あっ……兄上」

 ベルトナンドが近くにいたことを理解していなかった。
 いるのは知っていた。あの魔物から守ってくれたのだから。
 だが、猫との会話に集中していて、その間はベルトナンドの存在は頭から消えていた。
 ベルトナンドに呼びかけられたことにより、再びリオンティールの脳内はベルトナンドの存在が大きく占める。
 そして、少しの焦りが生まれていた。

「え~っと……このスレイクスと、なんですが……」

 リオンティールは、先ほど契約したスレイクスーーラクを抱き上げる。
 お前は何を言っているんだというようなことを言われる未来を想像していたので、その後返ってきた返答に呆けてしまう。

「そうか。契約できたというなら行くか」

 そう言って、兄は歩きだしただけだった。

「……へ?」
「どうした?」

 兄はそう言って、歩みを止める。

「あっ、いや……なんでも」

 リオンティールが適当にごまかすと、兄は「そうか」とだけ言って、また歩きだした。
 リオンティールは、それに置いていかれないようについていくことしかできなかった。
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