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第二章 初めての領地
22 領地への道中 5
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リオンティールがすっかり熟睡してしまった頃。少し離れた場所で、アリアーティスとベルトナンドが話している。
リオンティールから離れているのと、ベルトナンドの風魔法の障壁で音を遮断しているので、リオンティールを起こす心配はないだろう。
「それで、リオンの話していた魔物って……」
「パワードベアーだ」
「そんな……!あそこにはいないはずの魔物ではないですか!」
アリアーティスは、大きな声でそう言ったが、慌てて口を塞ぐ。
リオンティールが起きたかと見てみるが、すーすーと寝息をたてていたのでほっとした。
風魔法の障壁も万能ではない。大声を出せば、風魔法で遮断しきれずに、聞こえてしまう可能性もある。
だが、アリアーティスでも、大きな声で叫んでしまうほどに、その事実は衝撃だった。
パワードベアーは、強大なクマのような見た目をした魔物で、そのパワーは、当然ながら普通のクマなんかとは比べ物にならないほどに強く、体も固いため、攻撃も通りにくい。
単独での討伐推奨等級は、三等級に分類される魔物だ。
そして、これも当然ながら、リオンティールが向かった森にはいない。
あの森の名前は、精の森といい、精ばかりが住んでいる森だ。
運が良ければ、ベルトナンドと契約しているヒュティカのような存在にも会えるが、ほとんどは雑魚の精ばかりだ。
リオンティールには、お世辞にも戦闘能力があるとは言えないので、強い魔物がいないところに連れていっていた。
それなのに、スレイクスだけでなく、パワードベアーまでいた。それは、異常という他ない。
「私も、あの時は自分の目を疑ったさ。リオンの後を追ったら、リオンがパワードベアーと対峙していたからな」
「でも、怪我がなかったのなら、襲われる前にお兄様が退治したのですよね?」
にこりと微笑みながらアリアーティスはそう言うが、ベルトナンドは静かに目をそらす。
それに不審に思ったアリアーティスは、ベルトナンドに詰め寄った。
「倒したのですよね?」
「ああ、魔法で倒した。リオンも怪我はなかったが……」
「なかったが……なんですか?」
「服は、破れていた。切り裂かれたみたいにな」
ベルトナンドの言葉に、アリアーティスは息を飲む。
切り裂かれたみたいに破れていたということは、パワードベアーの攻撃を受けたということ。
だがそうなると、当然ながら浮かぶ疑問がある。
パワードベアーの攻撃を受けておきながら、なぜリオンティールが無傷だったのかという点だ。
リオンティールは、防御の魔法は教わっていないため使えないはずだし、うまいこと、服だけが切り裂かれるように動けるほど、身体能力が高いわけでもない。
「あくまでも、私の予想なのだが……リオンは、もう一つスキルを持っているのかもしれない」
「そ、そんな!今まで複数のスキルを持つ者は確認されていないはずです!」
アリアーティスの言う通り、この王国は建国されてから、およそ七百年あまりとずいぶん長いため、古い資料もいくつか残っている。
だが、その資料のどこにも、スキルの複数所持者は見つからなかった。
かつては、スキルを他人に移すという実験も、よく行われていた。
発端者の名前からとって、ミューラ人体実験と呼ばれているこの実験は、今は禁忌扱いされており、場所によってはそれを口にすることも禁じられていることがあるほどだ。
説としては、スキルは神が与える力のため、人間の体では一つしか耐えられないというのが一番有力な説だ。
それを覆すような、スキルの複数所持者が現れたら。しかも、それが子どもだったなら。
ミューラ人体実験だけでなく、リオンティールの身柄を狙う者や、組織も現れてくるかもしれない。
そうなったら、無関係な人も多く巻き込まれるだろう。何よりも、リオンティールが危険すぎる。
「アリア。私は、お前が信用できるから話した。この事は父上と母上にはお話ししているが、たとえ屋敷の使用人だとしても言わないでくれよ」
「当然です。リオンの安全が一番ですもの」
気持ち良さそうに寝ているリオンティールを見ながら、二人は静かに頷いた。
リオンティールから離れているのと、ベルトナンドの風魔法の障壁で音を遮断しているので、リオンティールを起こす心配はないだろう。
「それで、リオンの話していた魔物って……」
「パワードベアーだ」
「そんな……!あそこにはいないはずの魔物ではないですか!」
アリアーティスは、大きな声でそう言ったが、慌てて口を塞ぐ。
リオンティールが起きたかと見てみるが、すーすーと寝息をたてていたのでほっとした。
風魔法の障壁も万能ではない。大声を出せば、風魔法で遮断しきれずに、聞こえてしまう可能性もある。
だが、アリアーティスでも、大きな声で叫んでしまうほどに、その事実は衝撃だった。
パワードベアーは、強大なクマのような見た目をした魔物で、そのパワーは、当然ながら普通のクマなんかとは比べ物にならないほどに強く、体も固いため、攻撃も通りにくい。
単独での討伐推奨等級は、三等級に分類される魔物だ。
そして、これも当然ながら、リオンティールが向かった森にはいない。
あの森の名前は、精の森といい、精ばかりが住んでいる森だ。
運が良ければ、ベルトナンドと契約しているヒュティカのような存在にも会えるが、ほとんどは雑魚の精ばかりだ。
リオンティールには、お世辞にも戦闘能力があるとは言えないので、強い魔物がいないところに連れていっていた。
それなのに、スレイクスだけでなく、パワードベアーまでいた。それは、異常という他ない。
「私も、あの時は自分の目を疑ったさ。リオンの後を追ったら、リオンがパワードベアーと対峙していたからな」
「でも、怪我がなかったのなら、襲われる前にお兄様が退治したのですよね?」
にこりと微笑みながらアリアーティスはそう言うが、ベルトナンドは静かに目をそらす。
それに不審に思ったアリアーティスは、ベルトナンドに詰め寄った。
「倒したのですよね?」
「ああ、魔法で倒した。リオンも怪我はなかったが……」
「なかったが……なんですか?」
「服は、破れていた。切り裂かれたみたいにな」
ベルトナンドの言葉に、アリアーティスは息を飲む。
切り裂かれたみたいに破れていたということは、パワードベアーの攻撃を受けたということ。
だがそうなると、当然ながら浮かぶ疑問がある。
パワードベアーの攻撃を受けておきながら、なぜリオンティールが無傷だったのかという点だ。
リオンティールは、防御の魔法は教わっていないため使えないはずだし、うまいこと、服だけが切り裂かれるように動けるほど、身体能力が高いわけでもない。
「あくまでも、私の予想なのだが……リオンは、もう一つスキルを持っているのかもしれない」
「そ、そんな!今まで複数のスキルを持つ者は確認されていないはずです!」
アリアーティスの言う通り、この王国は建国されてから、およそ七百年あまりとずいぶん長いため、古い資料もいくつか残っている。
だが、その資料のどこにも、スキルの複数所持者は見つからなかった。
かつては、スキルを他人に移すという実験も、よく行われていた。
発端者の名前からとって、ミューラ人体実験と呼ばれているこの実験は、今は禁忌扱いされており、場所によってはそれを口にすることも禁じられていることがあるほどだ。
説としては、スキルは神が与える力のため、人間の体では一つしか耐えられないというのが一番有力な説だ。
それを覆すような、スキルの複数所持者が現れたら。しかも、それが子どもだったなら。
ミューラ人体実験だけでなく、リオンティールの身柄を狙う者や、組織も現れてくるかもしれない。
そうなったら、無関係な人も多く巻き込まれるだろう。何よりも、リオンティールが危険すぎる。
「アリア。私は、お前が信用できるから話した。この事は父上と母上にはお話ししているが、たとえ屋敷の使用人だとしても言わないでくれよ」
「当然です。リオンの安全が一番ですもの」
気持ち良さそうに寝ているリオンティールを見ながら、二人は静かに頷いた。
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