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春の宴の後に11
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華春の街には、相変わらず人が溢れていた。
私の住む都、陽宝とは違い、賑やかというよりは、騒々しいに近い。
黒仕が歩く方向に黙って付いて行くと、時折、思い立ったように立ち止まり、街について教えてくれる。
「この街は、人が多い分、悪い人間も多いのです。金銭は、肌身離さず持っておくことをお勧めします。」
「陽宝には、春の宴という催しがあるでしょう。私は、以前、訪れたことがあるのですが、この街は、常にそのくらい賑わっているように感じます。雅さは、ありませんが。」
「あまり余所見をしていると、路地裏に引き込まれることもあるので気を付けてくださいまし。」
冗談なのか、そうでないのかわからない言葉も交えながら、彼女と街の散策を楽しんだ。近道をするために路地裏を通れば、美しい川の辺が垣間見えたり、橋と並行に洗濯物が紐で吊るされてあったりと、見たことのない風景が広がっていた。今まで見たことのない光景は、私をここにずっと留めておくのには、十分な刺激だった。
黒仕によって連れて来られたのは、繁華街から離れた場所に位置するとある屋敷だった。
黒々とした立派な木製の門と家屋を守るようにして囲っている高い塀を見るからに、名家であることがわかる。黒仕は、到着するや、躊躇うことなく、すぐに門を叩く。しばらくすると使用人らしき男が現れる。
しかし、黒仕に対し、名を尋ねることもなく、察したように、大きな門を開く。黒仕の服装は、やはりこの街であっても奇妙で、名乗らせるのも野暮なのだろう。
男は、私達を門の中に招き入れる。門を通過する際、私のことをちらりと見るて、何か言いたそうな表情をしたが、押し黙ったように感じる。私の偏見だが、黒仕からの圧なのだろうか。
彼女は、声色が大人っぽく、全身を黒で固めているので、物怖じしてしまう気持ちはわからないでもない。私も彼女について、今後もすべてを知ることは不可能であるくらいに掴めない雰囲気だ。
黎の使用人と黎の客人であるからお互いに信用はまだ保たれるが、私がたまたま彼の元へ訪れただけの人間であったならば、こうも親切に接してはくれないように思う。
屋敷の庭には、花の咲いた低木が生え、池があった。この街には珍しいくらい緑が多かった。きょろきょろと庭を見見渡しながら歩いていると、前方から歩いてきた人物にすぐに気づくことはできなかった。
「おはようございます。わざわざ届けていただき、感謝する。」
聞き覚えのある声にはっとする。目の前には、王凌雅が立っていた。
あっ、そう思った刹那、彼も私と同様の感情を表したように見えた。
そして、眉間に皺を寄せる。きっと私がここにいることが疑問なのだろう。
私としてもまさか陽宝から離れた街に彼と偶然出会うとは、予想だにしていなかった。
私の住む都、陽宝とは違い、賑やかというよりは、騒々しいに近い。
黒仕が歩く方向に黙って付いて行くと、時折、思い立ったように立ち止まり、街について教えてくれる。
「この街は、人が多い分、悪い人間も多いのです。金銭は、肌身離さず持っておくことをお勧めします。」
「陽宝には、春の宴という催しがあるでしょう。私は、以前、訪れたことがあるのですが、この街は、常にそのくらい賑わっているように感じます。雅さは、ありませんが。」
「あまり余所見をしていると、路地裏に引き込まれることもあるので気を付けてくださいまし。」
冗談なのか、そうでないのかわからない言葉も交えながら、彼女と街の散策を楽しんだ。近道をするために路地裏を通れば、美しい川の辺が垣間見えたり、橋と並行に洗濯物が紐で吊るされてあったりと、見たことのない風景が広がっていた。今まで見たことのない光景は、私をここにずっと留めておくのには、十分な刺激だった。
黒仕によって連れて来られたのは、繁華街から離れた場所に位置するとある屋敷だった。
黒々とした立派な木製の門と家屋を守るようにして囲っている高い塀を見るからに、名家であることがわかる。黒仕は、到着するや、躊躇うことなく、すぐに門を叩く。しばらくすると使用人らしき男が現れる。
しかし、黒仕に対し、名を尋ねることもなく、察したように、大きな門を開く。黒仕の服装は、やはりこの街であっても奇妙で、名乗らせるのも野暮なのだろう。
男は、私達を門の中に招き入れる。門を通過する際、私のことをちらりと見るて、何か言いたそうな表情をしたが、押し黙ったように感じる。私の偏見だが、黒仕からの圧なのだろうか。
彼女は、声色が大人っぽく、全身を黒で固めているので、物怖じしてしまう気持ちはわからないでもない。私も彼女について、今後もすべてを知ることは不可能であるくらいに掴めない雰囲気だ。
黎の使用人と黎の客人であるからお互いに信用はまだ保たれるが、私がたまたま彼の元へ訪れただけの人間であったならば、こうも親切に接してはくれないように思う。
屋敷の庭には、花の咲いた低木が生え、池があった。この街には珍しいくらい緑が多かった。きょろきょろと庭を見見渡しながら歩いていると、前方から歩いてきた人物にすぐに気づくことはできなかった。
「おはようございます。わざわざ届けていただき、感謝する。」
聞き覚えのある声にはっとする。目の前には、王凌雅が立っていた。
あっ、そう思った刹那、彼も私と同様の感情を表したように見えた。
そして、眉間に皺を寄せる。きっと私がここにいることが疑問なのだろう。
私としてもまさか陽宝から離れた街に彼と偶然出会うとは、予想だにしていなかった。
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