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続々.雪豹くんと新しい家族
3-4.思いやりと裏腹に
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アークの膝の上。
久しぶりに獣型になったスノウは、丸くなって寝転がっていた。アークの脚にはふわふわのブランケットが掛けられているので、結構寝心地がいい。
それでなくともアークの体温とほのかに甘い香りは、スノウをリラックスさせるのに十分な要素だ。
(子どもの時と違って、ちょっと狭く感じちゃうけど……)
苦笑しながら目を瞑る。
スノウに与えられた癒やし要員としての仕事は、アークの膝で寝そべることだった。これでアークのやる気が回復するというのだから、喜んでしますとも。
時々身体を撫でてもらえるのが心地よくて、うつらうつらとする。
安心したせいか、いつの間にか無意識で手がパンを捏ねるような仕草をしていた。
そのことに気づいたのは、頭上から「ぐぅっ……可愛すぎる……!」と興奮を押し殺しきれていない声が聞こえてきたから。
「あ、邪魔しちゃった……?」
「いや、まったく。マッサージしてくれて嬉しい」
真顔で言われた。
その勢いが強くて、ちょっと引く。それに、マッサージをしていたつもりはない。
「……脚が疲れているの? 僕、おりる?」
「そのままでいてくれ」
じっと視線があった。
そこまで望まれれば離れる気になりようがない。
スノウはくるりと寝返りをうち、アークのお腹を手でふみふみとしてみた。
脚を押されるのを気に入ったみたいだし、これも喜んでくれそうだと思ったのだ。
「……ふは……可愛いな」
「くすぐったい?」
「まぁ、多少はな。でも、やめなくていいぞ」
耳をつまむようにして撫でられる。次いで、首筋をマッサージするように揉まれて、「ふわぁ……」という声がもれた。
アークは撫でスキルまで高い。お風呂に入るよりリラックスできる。
「――陛下。手が止まっておりますよ」
スノウがうっとりと目を瞑りながら味わっていると、ロウエンのため息混じりの声が聞こえてきた。
「目ざとい奴め」
「今日の分が終わらないと、いつまで経っても帰れませんからね? ご理解してくださってますか?」
アークを咎める声の合間には、紙がめくられたり判子が押されたり、ロウエンが仕事を継続している音がしている。
会話の最中も手を休めないのを感じ取ると、スノウは少し心配になってきた。
(アークは僕で癒やされているらしいけど……ロウエンさんは大丈夫かな……?)
ロウエンはアーク同様に多忙だ。疲れも溜まっているはず。
どうやって気分転換やリラックスの時間を取っているのだろうか。
「分かってるさ。……それより、お前のその仕事は明日でもいいやつだろう。先に帰ったらどうだ?」
アークもスノウと同じ心配をしていたようだ。
スノウは身体を起こして、ロウエンの方を見つめて頷く。
「ロウエンさん、僕がアークのお仕事見張るから、帰っても大丈夫だよ」
「……ご親切にどうも。ですが、それをするには、陛下には信頼が足りないのですよ」
アークが仕事を放棄するに決まっている、と言いたげなロウエンに、スノウは沈黙を強いられた。否定できない。
スノウが見張ると言っても、アークに流されて遊んでしまう可能性はある。
「俺のことをよく理解していることで。全然ありがたくないが。――お前が今の時期、仕事に没頭するのは知っているが、そろそろ改めたらどうだ?」
アークがそう言った瞬間、空気が張り詰めたのを感じた。
スノウは突然の変化に目を丸くして固まりながら、おそるおそるロウエンの様子を窺う。
「……余計なお世話ですよ。放っておいてください」
「だが――」
「書類、増やしましょうか?」
スノウに次いで沈黙を強いられたのはアークだった。でも、納得がいっていない様子でロウエンを見つめている。
この会話が何を意味しているのか分からない。
どうも、ロウエンは今の時期に仕事に没頭しているようだけれど、それがなんだと言うのか。
スノウから見ると、それはロウエンのいつもの様子と変わりないのだけれど。
「…………はぁ、鬱陶しい視線をおやめください。――書類を見ろ、サインをしろ、仕事しろ!」
ロウエンの口調が荒くなった。そんな声は初めて聞いたので、スノウは息を飲むほど驚いてしまう。
作業の手まで止まっていて、ロウエンに異変があったことを感じさせた。
「……分かった。だが、適度なところで帰れ」
ロウエンと長い付き合いらしいアークは、荒い口調にも慣れている様子だった。でも、要求を飲ませるのは無理だと悟ったようで、ため息をつきながら肩をすくめる。
「うるさいんですよ」
ロウエンとアークが仕事を再開した。
これまでとは違った雰囲気だ。
どうしてこのような雰囲気になったのだろう。アークはロウエンを気遣っただけなのに。
(思いやるって、難しいなぁ)
スノウは戸惑いながらも疑問を置いておいて、アークの癒やし要員としての職務をまっとうすることにした。
久しぶりに獣型になったスノウは、丸くなって寝転がっていた。アークの脚にはふわふわのブランケットが掛けられているので、結構寝心地がいい。
それでなくともアークの体温とほのかに甘い香りは、スノウをリラックスさせるのに十分な要素だ。
(子どもの時と違って、ちょっと狭く感じちゃうけど……)
苦笑しながら目を瞑る。
スノウに与えられた癒やし要員としての仕事は、アークの膝で寝そべることだった。これでアークのやる気が回復するというのだから、喜んでしますとも。
時々身体を撫でてもらえるのが心地よくて、うつらうつらとする。
安心したせいか、いつの間にか無意識で手がパンを捏ねるような仕草をしていた。
そのことに気づいたのは、頭上から「ぐぅっ……可愛すぎる……!」と興奮を押し殺しきれていない声が聞こえてきたから。
「あ、邪魔しちゃった……?」
「いや、まったく。マッサージしてくれて嬉しい」
真顔で言われた。
その勢いが強くて、ちょっと引く。それに、マッサージをしていたつもりはない。
「……脚が疲れているの? 僕、おりる?」
「そのままでいてくれ」
じっと視線があった。
そこまで望まれれば離れる気になりようがない。
スノウはくるりと寝返りをうち、アークのお腹を手でふみふみとしてみた。
脚を押されるのを気に入ったみたいだし、これも喜んでくれそうだと思ったのだ。
「……ふは……可愛いな」
「くすぐったい?」
「まぁ、多少はな。でも、やめなくていいぞ」
耳をつまむようにして撫でられる。次いで、首筋をマッサージするように揉まれて、「ふわぁ……」という声がもれた。
アークは撫でスキルまで高い。お風呂に入るよりリラックスできる。
「――陛下。手が止まっておりますよ」
スノウがうっとりと目を瞑りながら味わっていると、ロウエンのため息混じりの声が聞こえてきた。
「目ざとい奴め」
「今日の分が終わらないと、いつまで経っても帰れませんからね? ご理解してくださってますか?」
アークを咎める声の合間には、紙がめくられたり判子が押されたり、ロウエンが仕事を継続している音がしている。
会話の最中も手を休めないのを感じ取ると、スノウは少し心配になってきた。
(アークは僕で癒やされているらしいけど……ロウエンさんは大丈夫かな……?)
ロウエンはアーク同様に多忙だ。疲れも溜まっているはず。
どうやって気分転換やリラックスの時間を取っているのだろうか。
「分かってるさ。……それより、お前のその仕事は明日でもいいやつだろう。先に帰ったらどうだ?」
アークもスノウと同じ心配をしていたようだ。
スノウは身体を起こして、ロウエンの方を見つめて頷く。
「ロウエンさん、僕がアークのお仕事見張るから、帰っても大丈夫だよ」
「……ご親切にどうも。ですが、それをするには、陛下には信頼が足りないのですよ」
アークが仕事を放棄するに決まっている、と言いたげなロウエンに、スノウは沈黙を強いられた。否定できない。
スノウが見張ると言っても、アークに流されて遊んでしまう可能性はある。
「俺のことをよく理解していることで。全然ありがたくないが。――お前が今の時期、仕事に没頭するのは知っているが、そろそろ改めたらどうだ?」
アークがそう言った瞬間、空気が張り詰めたのを感じた。
スノウは突然の変化に目を丸くして固まりながら、おそるおそるロウエンの様子を窺う。
「……余計なお世話ですよ。放っておいてください」
「だが――」
「書類、増やしましょうか?」
スノウに次いで沈黙を強いられたのはアークだった。でも、納得がいっていない様子でロウエンを見つめている。
この会話が何を意味しているのか分からない。
どうも、ロウエンは今の時期に仕事に没頭しているようだけれど、それがなんだと言うのか。
スノウから見ると、それはロウエンのいつもの様子と変わりないのだけれど。
「…………はぁ、鬱陶しい視線をおやめください。――書類を見ろ、サインをしろ、仕事しろ!」
ロウエンの口調が荒くなった。そんな声は初めて聞いたので、スノウは息を飲むほど驚いてしまう。
作業の手まで止まっていて、ロウエンに異変があったことを感じさせた。
「……分かった。だが、適度なところで帰れ」
ロウエンと長い付き合いらしいアークは、荒い口調にも慣れている様子だった。でも、要求を飲ませるのは無理だと悟ったようで、ため息をつきながら肩をすくめる。
「うるさいんですよ」
ロウエンとアークが仕事を再開した。
これまでとは違った雰囲気だ。
どうしてこのような雰囲気になったのだろう。アークはロウエンを気遣っただけなのに。
(思いやるって、難しいなぁ)
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