雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-31.優しい気遣い

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 執務室に向かう途中の廊下で、スノウはブレスラウの腕に手を絡めながらにこにこと笑った。

 アークと合流してから、お披露目会を開く広間に行く予定だ。それまで、こうしてブレスラウと並んで歩けるのが嬉しくてたまらない。
 つい最近まで小さな赤ちゃんだったのに、大きくなるのが早すぎると残念な気持ちもなくはないけれど。

「ブレスラウ、その服似合ってるね!」
「ありがとう。ルイスが選んだ」
「うん、知ってる。でも、色は自分で決めたんでしょ? 白色、好きだね?」

 ブレスラウにとって最初の晴れ舞台。そこで纏う正装は、短い期間ながら職人総出になって仕上げられた一級品だ。

 光沢のある白い布は、金の刺繍が美しく彩っている。ところどころに縫い付けられているのは、透明感のある貴石。おそらく最高硬度と言われる金剛石だろう。
 刺繍も貴石も、明かりを受けてキラキラと眩いほどの光を放つ。白い服にその輝きは映えていた。

「好き? ……父者と被らない」
「あぁ、確かに」

 首を傾げた後呟かれた言葉に、スノウはすぐに納得した。
 アークは昔から変わらず黒色の服をよく着る。それは白銀の髪がよく映えて似合っているし、魔王らしい威厳を添えている感じがしてスノウも好きだ。

 そんなアークとブレスラウの好みは、随分と対照的だと思っていたのだけれど、狙ってそうしていたことが初めて分かった。
 親子なのに——もしくは、だからこそなのか——ブレスラウはアークと似るのを嫌がる。白色の服は絶対に被らない安全牌ということなのだろう。

 スノウに似た瞳の色以外はアークによく似た容姿で、黒と白にはっきりと分かれているのが、余計に親子っぽいと思う。そんな感想は、ブレスラウの顔を顰めさせてしまいそうだから言葉にしないけれど。

「それに、ママと一緒」
「うん? ふふ、そうだね!」

 スノウの服はブレスラウより僅かに黄みを帯びた柔らかな白色。真っ白よりもこのくらいの色の方が似合うと、アークが勧めてくれたのだ。
 服に施された刺繍は瞳に合わせて金色で、ブレスラウの服と似ている。おそらくデザイナーが狙ってしたものだろう。

 完成品を眺めた時、アークが微妙な顔をしていたことを思い出して、スノウは思わず笑ってしまった。
 自分が作らせたものなのに、ブレスラウとリンクしたコーディネートになって、アークは独占欲が刺激されてしまったらしい。

 そんなアークの服は、スノウと同じ柄の刺繍を銀糸で施した黒衣だ。強そうで格好いい。着ているのを見るのが楽しみだ。

「アークと被るのは嫌だけど、僕と似てるのはいいの?」

 刺繍の柄や布地の色に多少の差異はあるけれど、傍目にはそっくりな服。それを許容するブレスラウが、スノウにどんな思いを抱いているかは想像に容易い。
 でも、言葉にしてもらいたくて、スノウは思わず甘えるように視線を上げた。

「……ママなら嬉しい」

 常は無表情なブレスラウの顔に、ほんのりと照れが滲む。
 スノウは『僕の子って、なんでこんなに可愛んだろう!』と心の中で親ばかな感想を溢れさせた。

 それにしても、卵の中にいた時と比べても、随分と優しく育ってくれたなと思って、まじまじとブレスラウを眺める。

 アークが度々「心ある子に育てと『ラウ』と名を付けたが、ここまで効果が出るものなのか……?」と不思議そうに呟くのだ。きっとブレスラウの性格は、竜族の一般からはかけ離れているのだろう。

(今日、竜族のみんなを見たら、その違いがよく分かるようになるのかな?)

 スノウはアークとブレスラウ以外の竜族を知らない。以前会った竜族の女性も、少し言葉を交わした後は二度と会うことはなかった。
 だから、実はルミシャンス同様にスノウも、竜族の他者へ無関心な性質をきちんと理解しているとは言えないのだ。

「——それに……」
「なぁに?」

 ブレスラウが躊躇いがちに言葉を続けたのと同時に、瞳が僅かに翳るのを見て、スノウは顔を覗き込むようにしながら真剣に問いかけた。
 心を悩ますことがあるなら、迷わず相談してほしい。

 そんなスノウをちらりと見たブレスラウが、廊下の先の執務室の扉に視線を投げてから、再び口を開く。

「父者の番だから、ママが粗雑な扱いをされることはないと思うけど。俺のママだって示すことも、竜族への良いアピールになる」
「……うん?」

 一瞬理解損ねた。でも、少し考えればブレスラウの言いたいことが分かる。

 つまり、ブレスラウはスノウと服を似せることで、次期族長候補の母親であると竜族に示し、雪豹族であるスノウの立場をより強くさせようと狙ったのだろう。

 まだ幼い子がそこまで気を回せるのかと驚くと同時に、その思いに気づなかったことが悔しくなった。
 早く気づいていたら、もっとたくさんお礼と喜びを伝えて、「そこまで気にしなくていいんだよ!」とブレスラウを安心させることができたのに。

 今は、とりあえず——。

「——僕のこと、大切にしてくれようとしたんだね。ありがとう、ブレスラウ!」

 頬にちゅっとキスをして微笑みかけたら、珍しく大きく目を見張ったブレスラウが、ほんのりと頬を赤く染めて視線を逸らした。照れているらしい。

 嫌がられなくて良かった、と思いながら、スノウはにこにこと微笑む。
 ブレスラウが優しい子に育っているのが分かって、誇らしさと嬉しさが胸を満たした。

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