雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-33.強き者

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 お披露目会はまさに『ブレスラウのためのもの』という雰囲気だった。誰も彼もがブレスラウと話し、その力や性格を見定めるのに忙しい。
 スノウは彼らにとってほとんど見えていない存在であり、それが実はありがたかった。

(こんな人たちに囲まれたら、僕は怖くなっちゃうもんね……)

 たくさんの竜族に観察されているブレスラウを少し遠くから眺めながら、胸の中で呟いた。

 竜族であるアークや吸血鬼族であるロウエンにはスノウだって慣れている。でも、見知らぬ相手である上に、近くにいればいるほど強さが伝わってくるような竜族たちとは、まともに話せるとは思えなかった。
 普段、アークやロウエンは随分と気を遣ってくれていたのかもしれない。

「スノウ、大丈夫か?」
「うん。……ルミシャンスを連れてこなくて良かったって、心底思ったけど」

 耳元に囁きかけてきたアークに、スノウも小声で返事をする。
 つい苦笑を添えてしまったのは、意気揚々と参加したルミシャンスが、怯えて固まる光景を想像したからだ。雪豹族の子どもに、竜族の集団は刺激が強すぎる。

「ああ……もしスノウに願われても、それは俺が許さなかっただろうな」

 アークが肩をすくめる。それに頷き返しながら、スノウは周囲に視線を走らせた。

 スノウの傍に寄り添ってくれているアークには、ほとんどの竜族が近づいてこない。時折視線は感じるから、話しかけたいと思ってはいるのだろう。遠慮しているのか、恐れているのか、よく分からない。

「アークはみんなと話さなくていいの?」

 普段魔王城に籠っているアークは、竜族の里との交流をしていないはずだ。もしかしたら、独自の連絡手段があるのかもしれないけれど。

 久しぶりに会えた族長に、竜族たちが話しかけたいと思うのは当然だと思う。アークも族長として、数少ない機会に同族と親交を深めようと思ってもおかしくないはずだ。

「別に必要ないだろう。族長とは言っても、竜族の象徴として一番強い者がなるというだけだ。竜族をまとめる役目を持っているわけではないからな」
「へぇ……そうなの。もしかして、さっき竜族を代表して挨拶したパールセンさんがまとめ役?」

 竜族の里のあり方をきちんと聞いたことがなかったと気づいて、今更ながら尋ねてみた。
 今後も竜族の里に関わることはそうそうないだろうけれど、竜族の番がいる身として知っていて損はないだろう。

「ああ。代々続く里長の家柄だ」
「里長……族長とは違うんだよね」
「そうだな。外向けに存在しているのが族長で、内向けに存在しているのが里長だ」

 スノウが知る里のあり方とは少し違うらしい。
 そもそもが独立独歩の傾向が強い竜族なのだから、スノウの常識に当てはまらないのは至極納得できる。

「そっか……。じゃあ、パールセンさんに気に入られていたら、ブレスラウが竜族の里を訪問するってなっても、大丈夫な感じなのかな」

 ブレスラウの隣をキープして、秘書のように竜族の集団をさばいているパールセンを眺めて呟く。

 スノウがこうしてブレスラウの傍を離れているのも、アークから「パールセンに任せていれば問題ない」と言われたからだった。
 実際、パールセンはブレスラウの負担を軽減するよう、よく働いてくれていると思う。

「ブレスラウの能力は高いから、そもそも竜族の里を訪問する頃になれば、あのように遠慮もなく近づく者たちはいなくなるだろう。パールセンが役に立つのは否定しないが」
「……ブレスラウってそんなに強いんだ」

 アークが当然な感じで言うので、スノウは改めてブレスラウのことを知った気がした。

 生まれて数カ月でスノウより大きな人型になったけれど、ブレスラウはまだまだ子ども。
 そんな認識を持っていたスノウにとって、ブレスラウの強さを聞かされても正直実感はない。

 魔族一強いと言われる竜族において、次期族長として確実視されるのは、ブレスラウの潜在的な力の強さが感じ取られているからだろう。
 どうやったらそれが分かるのかな、とスノウは首を傾げる。

 威圧されたいわけではないけれど、ブレスラウの強さを感じてみたいと思うのもスノウの本心だった。

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