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帝王と妖精の恋
帝王の恋 7
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行為も回数を重ねると慣れて来る。元々、ヴァンニ自身が受け入れがたいほども身体の相性は良すぎた。バスルームに抱き合って入って、口付けあいながらシャワーの飛沫を受け、互いの身体にボディソープの泡を擦り付け合うのも、興奮する要因でしかない。
水を滴らせながら、バスローブを引っかけて寝室に行けば、口付けだけで腰に熱が集まり、頭の芯が痺れたようになっているヴァンニは、抵抗なくシーツの上に押し倒されていた。ローションのボトルを開けたリュシアンが、とろとろと中心にそれを落として、そこから後孔にまで冷たい滑りが伝っていくのに、息を詰める。繊細な指がヴァンニの中心を扱きながら、もう片方の手で後孔を開いていくのに、抵抗するどころか、自ら脚を開いている自分がいる。
「避妊具(ゴム)は、つけてくれ……」
「えぇ、ヴァンニ、愛してます」
耳朶を噛まれて注ぎ込まれる熱い吐息に、ヴァンニは震えながらリュシアンを受け入れた。すっかりとリュシアンの形を覚えた後孔は、内壁を擦られてきゅうきゅうとリュシアンを締め付けて歓ぶ。
「あっ! うぁぁっ! りゅ、しあ……ひぁっ!」
自らの手で脚を支えていることも、触って欲しいとばかりに胸を反らしていることも、快感の中でヴァンニは気付いていない。胸を揉まれて、尖りを摘まれ、びりびりと走る快感に涙が溢れる。
「ヴァンニ、可愛いひと。僕の可愛いひと」
首筋を、鎖骨を吸い上げられて、甘く囁く声を聞きながらヴァンニは、リュシアンに中を掻き乱され、絶頂していた。
一度引き抜かれたリュシアンの中心に、物欲しげに後孔がひくついているのが分かる。浅ましく強請りそうになる自分を自制していると、リュシアンはゴムを取り替えたようだった。
「こっちに」
「あっ……そんな……」
膝の上に招かれて自ら受け入れるように促され、ヴァンニは僅かに躊躇った。しかし、以前にもしているし、高まっている体は一度の絶頂ではとても満足しきれない。切っ先を奥に宛てがって、ゆっくりと腰を落として行くと、体勢が変わったせいか、深くまでリュシアンを受け入れる形になって、ヴァンニは「あっ! ひっ!」と短く嬌声を上げることしかできなくなった。ガクガクと足が震えて動けないのに、締め付けるリュシアンの中心の形がはっきりと分かるようで、熱だけが篭って行く。
「お、ねがい、うご、いて……」
泣きながら強請るヴァンニに優しく口付けて、リュシアンが下から突き上げてくる。最奥まで到達するかと思うくらいまで突き上げられて、ヴァンニは快楽の中で意識を失っていた。
目を覚ませばリュシアンの姿がベッドにない。
時刻は朝方になっているので、稽古の準備のために帰ったのかもしれない。お互いにその辺は分かっているはずなのに、一抹の寂しさを覚えてベッドから立ち上がったヴァンニは、キッチンから聞こえてきた音に、リビングに出た。
コンロの前でリュシアンが困り顔で立っている。コンロにかけられたフライパンの上には、かつて卵であっただろう炭が出来上がっていた。
「ヴァンニが僕に朝ご飯を作ってくれるから、僕も時間をかけたら作れるかと思ったんです……」
「いいよ、一緒にやろう」
しょんぼりとしたリュシアンが、ヴァンニの言葉に、パッと顔を輝かせるのが妙に可愛くて、笑いながら一緒に朝ご飯を作った。自分を抱くときにはあんなに自信に満ちているリュシアンが、生活のことではヴァンニに頼らざるを得ないことが、なぜか嬉しかった。
首筋にキスマークが付いていることに気付いたのは、臨時のパートナーの彼に指摘されたときだった。
「リュシアンさん、随分激しいんですね」
浮かんだ笑みに、リュシアンがヴァンニに抱かれていることがバレたような、酷い気まずさと恥ずかしさが駆け巡って、ヴァンニの口を突いて出た台詞は、自分でも意外なくらいに大きかった。
「ただの遊びだ! 体だけの関係だ!」
同じ稽古場の端で柔軟をしていたリュシアンの緑の目が、こちらに向いたことは気付いていたが、ヴァンニはその場でそれ以上何か言うことはできなかった。
ダンス界の帝王、雄の中の雄。
そのイメージを崩すわけにはいかない。
気まずいままで、ヴァンニは公演で忙しくなって、リュシアンとじっくり話し合う時間がなくなったことに、安堵していた。
リュシアンがヴァンニの部屋を訪ねてきたのは、公演が終わった翌日の休みの日だった。
「あの……リュシアン、あのときは……」
「溜まってるでしょう? シましょうよ」
鬼気迫る勢いのリュシアンに圧されて、ヴァンニは彼を家に上げてしまう。いつも通りにシャワーを浴びて、寝室に行っても、リュシアンはどこか冷めた表情をしていた。
それでも舌を絡める口付けに、体を弄る手に、ヴァンニの体は熱くなってしまう。
「最初から、体の相性は良かったですよね、僕たち」
「それは……」
運命だと言い続けて、愛していると、好きだと繰り返したのはリュシアンだけだった。まだヴァンニは、リュシアンになんの答えも返していない。
「キスだけで、こんなにして、ここも濡れるようになったんじゃないですか?」
勃ち上がった中心をリュシアンが扱き上げ、後孔に触れる。慣れるまでは個人差があるが、妊娠もしにくく、濡れないその場所が、ぬるりと滑りを帯びていることは、ヴァンニも気付いていた。
「焦らすな、よ」
「好きだって……愛してるって、僕は言ったじゃないですか! 運命を感じたって。あなたは、僕に抱かれて乱れるのに……この部屋では恋人みたいに振る舞うのに、体だけだと言う」
「それは、リュシアン……」
「僕が、傷付かないと、思ったんですか?」
澄んだ緑の目から溢れた涙に、ヴァンニは言葉を失った。彼の言う通り、リュシアンが運命なのか、愛しているのか、好きなのか、ヴァンニは今まで真剣に考えたことがなかった。抱かれる方が自分ならば、結婚すれば子どもを産むのも自分になる。ダンス界の帝王が妊娠したなど、イメージを壊す要因でしかない。
一緒にいるのが心地よくて、性行為も限りなく悦い。しかし、世間がヴァンニに求めているのは、リュシアンを抱く雄々しい帝王の姿だという枠から、ヴァンニはどうしても外れることができなかった。
ベッドから降りたリュシアンが、服を着て立ち去るのを、ヴァンニはベッドの上で乱れたバスローブのまま、中途半端に熱のこもった体で見送るしかなかった。
足の怪我で苦しんでいた間、生活面では確かにリュシアンはヴァンニに甘えていたが、リハビリもストイックに続けて、何もしないという約束も守ってくれた。雑誌に書き立てられたときにも、ヴァンニが素っ気なく何でもないと言い張ったのに、リュシアンは合わせてくれた。
6歳年下のまだ21歳のリュシアン。
慌てて妙な態度を取ってしまうヴァンニよりも、ずっと大人に思えて、甘えていたのはヴァンニの方だったのかもしれない。リュシアンにとっては自分は運命だから、絶対に離れていくことはない。愛されているのだから、絶対にリュシアンはヴァンニがどんな風に扱っても去ることはない。そんな傲慢な思い込みがあったのかもしれない。
触れられた場所は熱いが、冷えた心を温めるようにシャワーを浴びても、ヴァンニは気持ちを切り替えることはできなかった。
もう二度とリュシアンはこの部屋に来ないだろう。
そう考えると、内臓を内側から握り締められるような痛みが走る。
これから稽古場でどんな顔をしてリュシアンに会えばいいのか。
その心配だけは、杞憂に終わった。稽古場でのリュシアンの態度は何も変わらなかった。ただ、緑色の目に、以前のような熱っぽさを見出すことはできなくなっていた。
水を滴らせながら、バスローブを引っかけて寝室に行けば、口付けだけで腰に熱が集まり、頭の芯が痺れたようになっているヴァンニは、抵抗なくシーツの上に押し倒されていた。ローションのボトルを開けたリュシアンが、とろとろと中心にそれを落として、そこから後孔にまで冷たい滑りが伝っていくのに、息を詰める。繊細な指がヴァンニの中心を扱きながら、もう片方の手で後孔を開いていくのに、抵抗するどころか、自ら脚を開いている自分がいる。
「避妊具(ゴム)は、つけてくれ……」
「えぇ、ヴァンニ、愛してます」
耳朶を噛まれて注ぎ込まれる熱い吐息に、ヴァンニは震えながらリュシアンを受け入れた。すっかりとリュシアンの形を覚えた後孔は、内壁を擦られてきゅうきゅうとリュシアンを締め付けて歓ぶ。
「あっ! うぁぁっ! りゅ、しあ……ひぁっ!」
自らの手で脚を支えていることも、触って欲しいとばかりに胸を反らしていることも、快感の中でヴァンニは気付いていない。胸を揉まれて、尖りを摘まれ、びりびりと走る快感に涙が溢れる。
「ヴァンニ、可愛いひと。僕の可愛いひと」
首筋を、鎖骨を吸い上げられて、甘く囁く声を聞きながらヴァンニは、リュシアンに中を掻き乱され、絶頂していた。
一度引き抜かれたリュシアンの中心に、物欲しげに後孔がひくついているのが分かる。浅ましく強請りそうになる自分を自制していると、リュシアンはゴムを取り替えたようだった。
「こっちに」
「あっ……そんな……」
膝の上に招かれて自ら受け入れるように促され、ヴァンニは僅かに躊躇った。しかし、以前にもしているし、高まっている体は一度の絶頂ではとても満足しきれない。切っ先を奥に宛てがって、ゆっくりと腰を落として行くと、体勢が変わったせいか、深くまでリュシアンを受け入れる形になって、ヴァンニは「あっ! ひっ!」と短く嬌声を上げることしかできなくなった。ガクガクと足が震えて動けないのに、締め付けるリュシアンの中心の形がはっきりと分かるようで、熱だけが篭って行く。
「お、ねがい、うご、いて……」
泣きながら強請るヴァンニに優しく口付けて、リュシアンが下から突き上げてくる。最奥まで到達するかと思うくらいまで突き上げられて、ヴァンニは快楽の中で意識を失っていた。
目を覚ませばリュシアンの姿がベッドにない。
時刻は朝方になっているので、稽古の準備のために帰ったのかもしれない。お互いにその辺は分かっているはずなのに、一抹の寂しさを覚えてベッドから立ち上がったヴァンニは、キッチンから聞こえてきた音に、リビングに出た。
コンロの前でリュシアンが困り顔で立っている。コンロにかけられたフライパンの上には、かつて卵であっただろう炭が出来上がっていた。
「ヴァンニが僕に朝ご飯を作ってくれるから、僕も時間をかけたら作れるかと思ったんです……」
「いいよ、一緒にやろう」
しょんぼりとしたリュシアンが、ヴァンニの言葉に、パッと顔を輝かせるのが妙に可愛くて、笑いながら一緒に朝ご飯を作った。自分を抱くときにはあんなに自信に満ちているリュシアンが、生活のことではヴァンニに頼らざるを得ないことが、なぜか嬉しかった。
首筋にキスマークが付いていることに気付いたのは、臨時のパートナーの彼に指摘されたときだった。
「リュシアンさん、随分激しいんですね」
浮かんだ笑みに、リュシアンがヴァンニに抱かれていることがバレたような、酷い気まずさと恥ずかしさが駆け巡って、ヴァンニの口を突いて出た台詞は、自分でも意外なくらいに大きかった。
「ただの遊びだ! 体だけの関係だ!」
同じ稽古場の端で柔軟をしていたリュシアンの緑の目が、こちらに向いたことは気付いていたが、ヴァンニはその場でそれ以上何か言うことはできなかった。
ダンス界の帝王、雄の中の雄。
そのイメージを崩すわけにはいかない。
気まずいままで、ヴァンニは公演で忙しくなって、リュシアンとじっくり話し合う時間がなくなったことに、安堵していた。
リュシアンがヴァンニの部屋を訪ねてきたのは、公演が終わった翌日の休みの日だった。
「あの……リュシアン、あのときは……」
「溜まってるでしょう? シましょうよ」
鬼気迫る勢いのリュシアンに圧されて、ヴァンニは彼を家に上げてしまう。いつも通りにシャワーを浴びて、寝室に行っても、リュシアンはどこか冷めた表情をしていた。
それでも舌を絡める口付けに、体を弄る手に、ヴァンニの体は熱くなってしまう。
「最初から、体の相性は良かったですよね、僕たち」
「それは……」
運命だと言い続けて、愛していると、好きだと繰り返したのはリュシアンだけだった。まだヴァンニは、リュシアンになんの答えも返していない。
「キスだけで、こんなにして、ここも濡れるようになったんじゃないですか?」
勃ち上がった中心をリュシアンが扱き上げ、後孔に触れる。慣れるまでは個人差があるが、妊娠もしにくく、濡れないその場所が、ぬるりと滑りを帯びていることは、ヴァンニも気付いていた。
「焦らすな、よ」
「好きだって……愛してるって、僕は言ったじゃないですか! 運命を感じたって。あなたは、僕に抱かれて乱れるのに……この部屋では恋人みたいに振る舞うのに、体だけだと言う」
「それは、リュシアン……」
「僕が、傷付かないと、思ったんですか?」
澄んだ緑の目から溢れた涙に、ヴァンニは言葉を失った。彼の言う通り、リュシアンが運命なのか、愛しているのか、好きなのか、ヴァンニは今まで真剣に考えたことがなかった。抱かれる方が自分ならば、結婚すれば子どもを産むのも自分になる。ダンス界の帝王が妊娠したなど、イメージを壊す要因でしかない。
一緒にいるのが心地よくて、性行為も限りなく悦い。しかし、世間がヴァンニに求めているのは、リュシアンを抱く雄々しい帝王の姿だという枠から、ヴァンニはどうしても外れることができなかった。
ベッドから降りたリュシアンが、服を着て立ち去るのを、ヴァンニはベッドの上で乱れたバスローブのまま、中途半端に熱のこもった体で見送るしかなかった。
足の怪我で苦しんでいた間、生活面では確かにリュシアンはヴァンニに甘えていたが、リハビリもストイックに続けて、何もしないという約束も守ってくれた。雑誌に書き立てられたときにも、ヴァンニが素っ気なく何でもないと言い張ったのに、リュシアンは合わせてくれた。
6歳年下のまだ21歳のリュシアン。
慌てて妙な態度を取ってしまうヴァンニよりも、ずっと大人に思えて、甘えていたのはヴァンニの方だったのかもしれない。リュシアンにとっては自分は運命だから、絶対に離れていくことはない。愛されているのだから、絶対にリュシアンはヴァンニがどんな風に扱っても去ることはない。そんな傲慢な思い込みがあったのかもしれない。
触れられた場所は熱いが、冷えた心を温めるようにシャワーを浴びても、ヴァンニは気持ちを切り替えることはできなかった。
もう二度とリュシアンはこの部屋に来ないだろう。
そう考えると、内臓を内側から握り締められるような痛みが走る。
これから稽古場でどんな顔をしてリュシアンに会えばいいのか。
その心配だけは、杞憂に終わった。稽古場でのリュシアンの態度は何も変わらなかった。ただ、緑色の目に、以前のような熱っぽさを見出すことはできなくなっていた。
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