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十章 マウリ様とミルヴァ様の高等学校入学
8.ダーヴィド様のお誕生日とヨウシア様の申し入れ
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秋も深まる頃にダーヴィド様は4歳になる。喋りもはっきりしてきて、長い文章も喋れるようになってきていた。
「わたし、4さいになったから、にぃにのことはおにいさま、ねぇねのことはおねえさま、パパのことはおかあさま、ママのことはおとうさまってよぶね」
「だーちゃん、パパはおとうさまで、ママがおかあさまよ」
「あ、まちがえちゃった」
言い間違えることもあるがダーヴィド様はあまり気にしていないようだった。ダーヴィド様の関心は他のことにあった。
「まーにいさまと、みーねえさまのおたんじょうび、パーティーでしょう? わたしのおたんじょうびは、どうしてパーティーじゃないの?」
「マウリはヘルレヴィ家の後継者ですし、ミルヴァはラント家の後継者の婚約者です」
「パーティーを開いて知らない貴族に祝われて疲れるよりも、家族だけでお祝いした方がいいと俺は思ってたんだが、ダーヴィドはパーティーがしたいのか?」
「わたし、たくさんのひとにいわってほしい」
ダーヴィド様には甘いカールロ様とスティーナ様である。ダーヴィド様の望みをできるだけ叶えつつ、見知らぬ貴族が来ないようによく考えたようである。ダーヴィド様のお誕生日は大広間で祝われた。
招かれたのは、ヨハンナ様とサロモン先生とハンネス様とフローラ様とライネ様は当然だったが、サイロ・メリカント村からエロラ先生とエリーサ様とハールス先生とヨウシア様とエイラ様、アンティラ家からはイルミ様が招かれた。
「アイラ様、移転の魔法をお願いできますか?」
「ダーヴィド様のためならば参ります」
わたくしは頼まれて、マイヤラ大公夫妻を王都に迎えに行った。それからラント家の両親とクリスティアンも迎えに行く。
たくさんのひとたちに祝われてダーヴィド様は満足そうにしていた。
「おとうさま、『ダーヴィドのおたんじょうびにきてくださって、ありがとうございます』っていって」
「今から言うよ。皆様、我が家の末っ子、ダーヴィドの誕生日にお越しくださってありがとうございます」
「ダーヴィドも4歳になりました。お喋りもとても上手になって毎日成長していくのが楽しみです」
「皆様、どうか、ダーヴィドを共に祝ってください」
大広間でのパーティーにダーヴィド様は大満足している。音楽隊が呼ばれてダンスを踊る場面になると、ライネ様がダーヴィド様を誘いに来ていた。
「だーちゃん、おどりましょう」
「はい、らいちゃん」
手を取り合ってワルツの列に入るが、まだ4歳なのでステップも踏めていないし、ダンスも適当なのだが、それでも楽しそうなのでわたくしは見ているだけで幸せな気分になる。
「ダーヴィド、本当におめでとう」
「こんなに大きくなったのですね」
「なんて可愛らしい」
「わたし、かわいい! おおきくなった!」
マイヤラ大公夫妻はダーヴィド様の可愛さに相好を崩していた。
パーティーが終わるとわたくしはマイヤラ大公夫妻を王都に送って、わたくしの両親とクリスティアンをラント家に送って戻って来た。大広間は片付けられ始めていたが、カールロ様とスティーナ様はヨウシア様と真剣に話をしていた。
「僕はエミリアちゃんを実のところ、とても可愛がっています」
「実のところではなく、はっきりと可愛がってくれているのがよく分かりますわ」
「エミリアもヨウシア様のことが大好きだし」
「知られていたのですね……。それで、エミリアちゃんを僕とオスカリの養子に迎えたいと本気で考えているのです」
公爵家の娘であるエミリア様が養子に行くなんて考えたこともなかった。わたくしが驚いて大広間に立ち尽くしていると、エミリア様がいそいそと肩掛けのバッグの中身を確認し始めた。
「たからもの、はいってるわ。がくふもへいき。きがえは……あ! わたくしのだいすきなみーあねうえからもらったワンピースがはいってない。いれてこなきゃ!」
いそいそとワンピースを取りに行くエミリア様はすっかりと行く気になっている。公爵家の次女であるエミリア様は、次期後継者がマウリ様と決まっているとはいえ、他の家に養子に出されることはないような気がしているのだが。
「エミリアをそんなに可愛いと思ってくださることには感謝します」
「ですが、エミリアは私たちの大事な娘です」
「ははうえ、ちちうえ、わたくし、じゅんびができたわ!」
「エミリア!? 行ってしまうのか!?」
「え? わたくし、ようせんせいのこどもになるんじゃないの?」
公爵家の次女として養子には出せないとカールロ様とスティーナ様が断ろうとしているのに、当のエミリア様はすっかりと行く気でいる。ヨウシア様は話しを続ける。
「エミリアちゃんには歌の才能があります。将来、僕のところから最高の歌姫としてデビューさせてあげたい」
「公爵家の御令嬢を養子になど、無茶なことを言っているとヨウシアも分かっているのです」
「どうしても、エミリアちゃんを僕は養子に欲しいんです」
ヨウシア様の熱意にカールロ様とスティーナ様も困惑して顔を見合わせている。エミリア様はもう行く気で準備万端整えている。
「エミリア、ヨウシア様とハールス様の家には、母も父もいないのですよ?」
「しってるわ」
「マウリもミルヴァもダーヴィドもいないんだぞ? 一人で眠ることができるか?」
「まーあにうえも、みーあねうえも……だーちゃんも!? だーちゃんもいないの!?」
幼年学校に入る年なのでもう一人部屋をもらっていい年ではあるが、エミリア様が特に欲しがっていないので、エミリア様はまだ子ども部屋の衝立の向こうでダーヴィド様とベッドを並べて寝ていた。
ヨウシア様のことは大好きだが、ダーヴィド様を溺愛しているエミリア様としては、完全に行く気だった気持ちが少し揺らいだように見えた。
「そうなのね……わたくし、ようせんせいがだいすきなの」
「エミリアがヨウシア様を好きなのは分かっています」
「俺たちが心配しているのは、仲のいい兄弟を引き離して育てることなんだ」
「エミリアはマウリのこともミルヴァのことも大好きでしょう? ダーヴィドのことは特別大好きでしょう?」
「わたくし……まーあにうえも、みーあねうえも、だいすき。だーちゃんのことはものすごくだいすき……ようせんせいとくらべられないわ」
苦悩するエミリア様もまだ6歳で自分で養子になるかどうかを決められる年ではないとスティーナ様もカールロ様も考えているようだ。
「大きくなって、自分の意志で養子になることを決められるまで待ってもらえませんか、ヨウシア様?」
「エミリアはあまりにも幼すぎます」
「仰ることはもっともだと思っています」
「わたくし、ようせんせいのこどもになりたいけど、まーあにうえともみーあねうえともだーちゃんともはなれたくないわ」
「エミリアちゃん、うちに泊まりに来てみる?」
ヨウシア様の提案は、悪くないような気がした。
「ヨウシア様の養子になるかはともかくとして、お試しでヨウシア様のところに泊まってみるのもいいかもしれませんね」
「エミリア、一人で泊まれるかな?」
問いかけにエミリア様が困っているのが分かる。オクサラ辺境伯領にカールロ様とスティーナ様が行ったときの二日間でさえ、エミリア様はカールロ様とスティーナ様がいなくて泣いてしまったのだ。あれから時間は経っているとはいえ、エミリア様が急に成長するはずもない。
「わたくし、ひとりで……」
「えーねえさま、わたし、ついていってあげる!」
そこに声をかけたのはダーヴィド様だった。
「だーちゃん、いっしょにきてくれるの?」
「私も一緒に行くよ」
「わたくしも!」
マウリ様とミルヴァ様が声を上げてからわたくしの方を見る。
「アイラ様も来るよね?」
「アイラ様も行きましょう?」
エミリア様のヨウシア様のお屋敷にお試しでのお泊りは、どうやらヘルレヴィ家の子どもたち全員でのお泊り会になってしまいそうな雰囲気だった。
「ヨウシア様、ハールス先生、よろしいですか?」
わたくしの問いかけに、ヨウシア様もハールス先生も穏やかに頷いていた。
「わたし、4さいになったから、にぃにのことはおにいさま、ねぇねのことはおねえさま、パパのことはおかあさま、ママのことはおとうさまってよぶね」
「だーちゃん、パパはおとうさまで、ママがおかあさまよ」
「あ、まちがえちゃった」
言い間違えることもあるがダーヴィド様はあまり気にしていないようだった。ダーヴィド様の関心は他のことにあった。
「まーにいさまと、みーねえさまのおたんじょうび、パーティーでしょう? わたしのおたんじょうびは、どうしてパーティーじゃないの?」
「マウリはヘルレヴィ家の後継者ですし、ミルヴァはラント家の後継者の婚約者です」
「パーティーを開いて知らない貴族に祝われて疲れるよりも、家族だけでお祝いした方がいいと俺は思ってたんだが、ダーヴィドはパーティーがしたいのか?」
「わたし、たくさんのひとにいわってほしい」
ダーヴィド様には甘いカールロ様とスティーナ様である。ダーヴィド様の望みをできるだけ叶えつつ、見知らぬ貴族が来ないようによく考えたようである。ダーヴィド様のお誕生日は大広間で祝われた。
招かれたのは、ヨハンナ様とサロモン先生とハンネス様とフローラ様とライネ様は当然だったが、サイロ・メリカント村からエロラ先生とエリーサ様とハールス先生とヨウシア様とエイラ様、アンティラ家からはイルミ様が招かれた。
「アイラ様、移転の魔法をお願いできますか?」
「ダーヴィド様のためならば参ります」
わたくしは頼まれて、マイヤラ大公夫妻を王都に迎えに行った。それからラント家の両親とクリスティアンも迎えに行く。
たくさんのひとたちに祝われてダーヴィド様は満足そうにしていた。
「おとうさま、『ダーヴィドのおたんじょうびにきてくださって、ありがとうございます』っていって」
「今から言うよ。皆様、我が家の末っ子、ダーヴィドの誕生日にお越しくださってありがとうございます」
「ダーヴィドも4歳になりました。お喋りもとても上手になって毎日成長していくのが楽しみです」
「皆様、どうか、ダーヴィドを共に祝ってください」
大広間でのパーティーにダーヴィド様は大満足している。音楽隊が呼ばれてダンスを踊る場面になると、ライネ様がダーヴィド様を誘いに来ていた。
「だーちゃん、おどりましょう」
「はい、らいちゃん」
手を取り合ってワルツの列に入るが、まだ4歳なのでステップも踏めていないし、ダンスも適当なのだが、それでも楽しそうなのでわたくしは見ているだけで幸せな気分になる。
「ダーヴィド、本当におめでとう」
「こんなに大きくなったのですね」
「なんて可愛らしい」
「わたし、かわいい! おおきくなった!」
マイヤラ大公夫妻はダーヴィド様の可愛さに相好を崩していた。
パーティーが終わるとわたくしはマイヤラ大公夫妻を王都に送って、わたくしの両親とクリスティアンをラント家に送って戻って来た。大広間は片付けられ始めていたが、カールロ様とスティーナ様はヨウシア様と真剣に話をしていた。
「僕はエミリアちゃんを実のところ、とても可愛がっています」
「実のところではなく、はっきりと可愛がってくれているのがよく分かりますわ」
「エミリアもヨウシア様のことが大好きだし」
「知られていたのですね……。それで、エミリアちゃんを僕とオスカリの養子に迎えたいと本気で考えているのです」
公爵家の娘であるエミリア様が養子に行くなんて考えたこともなかった。わたくしが驚いて大広間に立ち尽くしていると、エミリア様がいそいそと肩掛けのバッグの中身を確認し始めた。
「たからもの、はいってるわ。がくふもへいき。きがえは……あ! わたくしのだいすきなみーあねうえからもらったワンピースがはいってない。いれてこなきゃ!」
いそいそとワンピースを取りに行くエミリア様はすっかりと行く気になっている。公爵家の次女であるエミリア様は、次期後継者がマウリ様と決まっているとはいえ、他の家に養子に出されることはないような気がしているのだが。
「エミリアをそんなに可愛いと思ってくださることには感謝します」
「ですが、エミリアは私たちの大事な娘です」
「ははうえ、ちちうえ、わたくし、じゅんびができたわ!」
「エミリア!? 行ってしまうのか!?」
「え? わたくし、ようせんせいのこどもになるんじゃないの?」
公爵家の次女として養子には出せないとカールロ様とスティーナ様が断ろうとしているのに、当のエミリア様はすっかりと行く気でいる。ヨウシア様は話しを続ける。
「エミリアちゃんには歌の才能があります。将来、僕のところから最高の歌姫としてデビューさせてあげたい」
「公爵家の御令嬢を養子になど、無茶なことを言っているとヨウシアも分かっているのです」
「どうしても、エミリアちゃんを僕は養子に欲しいんです」
ヨウシア様の熱意にカールロ様とスティーナ様も困惑して顔を見合わせている。エミリア様はもう行く気で準備万端整えている。
「エミリア、ヨウシア様とハールス様の家には、母も父もいないのですよ?」
「しってるわ」
「マウリもミルヴァもダーヴィドもいないんだぞ? 一人で眠ることができるか?」
「まーあにうえも、みーあねうえも……だーちゃんも!? だーちゃんもいないの!?」
幼年学校に入る年なのでもう一人部屋をもらっていい年ではあるが、エミリア様が特に欲しがっていないので、エミリア様はまだ子ども部屋の衝立の向こうでダーヴィド様とベッドを並べて寝ていた。
ヨウシア様のことは大好きだが、ダーヴィド様を溺愛しているエミリア様としては、完全に行く気だった気持ちが少し揺らいだように見えた。
「そうなのね……わたくし、ようせんせいがだいすきなの」
「エミリアがヨウシア様を好きなのは分かっています」
「俺たちが心配しているのは、仲のいい兄弟を引き離して育てることなんだ」
「エミリアはマウリのこともミルヴァのことも大好きでしょう? ダーヴィドのことは特別大好きでしょう?」
「わたくし……まーあにうえも、みーあねうえも、だいすき。だーちゃんのことはものすごくだいすき……ようせんせいとくらべられないわ」
苦悩するエミリア様もまだ6歳で自分で養子になるかどうかを決められる年ではないとスティーナ様もカールロ様も考えているようだ。
「大きくなって、自分の意志で養子になることを決められるまで待ってもらえませんか、ヨウシア様?」
「エミリアはあまりにも幼すぎます」
「仰ることはもっともだと思っています」
「わたくし、ようせんせいのこどもになりたいけど、まーあにうえともみーあねうえともだーちゃんともはなれたくないわ」
「エミリアちゃん、うちに泊まりに来てみる?」
ヨウシア様の提案は、悪くないような気がした。
「ヨウシア様の養子になるかはともかくとして、お試しでヨウシア様のところに泊まってみるのもいいかもしれませんね」
「エミリア、一人で泊まれるかな?」
問いかけにエミリア様が困っているのが分かる。オクサラ辺境伯領にカールロ様とスティーナ様が行ったときの二日間でさえ、エミリア様はカールロ様とスティーナ様がいなくて泣いてしまったのだ。あれから時間は経っているとはいえ、エミリア様が急に成長するはずもない。
「わたくし、ひとりで……」
「えーねえさま、わたし、ついていってあげる!」
そこに声をかけたのはダーヴィド様だった。
「だーちゃん、いっしょにきてくれるの?」
「私も一緒に行くよ」
「わたくしも!」
マウリ様とミルヴァ様が声を上げてからわたくしの方を見る。
「アイラ様も来るよね?」
「アイラ様も行きましょう?」
エミリア様のヨウシア様のお屋敷にお試しでのお泊りは、どうやらヘルレヴィ家の子どもたち全員でのお泊り会になってしまいそうな雰囲気だった。
「ヨウシア様、ハールス先生、よろしいですか?」
わたくしの問いかけに、ヨウシア様もハールス先生も穏やかに頷いていた。
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