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第01章――飛翔延髄編

Phase 35:壊れたかも

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《チキンレッグピストン》BFW社が開発したSm器官であり、航空型Smの文字通り脚となる駆動力である。シンプルな構造で稼働し、軽量で耐久性も高く治りも早い。そのため本来はBFW直系のSmシリーズのオリジナル器官であったが、チキンレッグピストンだけを売り出し、それは結果的に成功となった。顧客に渡された製品は本来想定していた航空関連のみならずドラッグSmのような改造Smの駆動力として地面を走行することにも使われたり、今では、航空機に並ぶBFWの主力商品である。















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 ミニッツグラウスの機内では、痩せっぽちが怒声を飛ばす。

「いいから! 早く突き破れよ!」

 太っちょにナイフを突きつけられ切り傷を作るアレサンドロは言い返す。

「わかってる。でも、もう最大馬力を出してるんだ!」

「だったら一旦下がれ!」

 それってつまり、と口を開くアレサンドロはさらなる被害の予感に顔色を悪くする。
 パイロットの横顔に頭を寄せた痩せっぽちは言い放った。

「チャージ!」
 


 ソーニャは双眼鏡を外し、声を張った。

「ロック動き出す!」

 もう動いてるだろ、と呆れ半分に言い返そうとしたレントンは。ミニッツグラウスを見て白目をむき、バックするぞ! と大声を放った。
 機体に近づいていたと判断した人は急ぎ退避をはじめ、そうでなくとも巨体がどんな挙動をするかわからず、逃げていく。
 一方保安兵を指揮するルイスは冷静に伝達した。

「通常機体は撤退。精密機体は動きが落ち着くまで待機しろ」

 女性隊員に近づいたルイスは、ピストンの付け根の状況は、と問いただす。
 だが彼女は口を開けっぱなしでうめいている。
 ルイスの手は女性隊員が被る武骨なヘッドギアの側面にあった摘みのメモリを下げる。そうすると女性隊員は体の緊張を失い、まるで麻酔でも打たれたような不完全な言葉づかいで、口が外れない、と訴えた。
 コロコッタのうちチキンレッグピストンの表皮などに食らいついていた機体は命令通り離脱する。しかし、付け根に食らいついていた機体は金属フレームの歯茎を軟組織に埋没していた。
 その様子を仲間のコロコッタが頭部のカメラで撮影し、送られてきた映像をヘッドギアの画面で見た操縦者が告げる。

「増量したピストンの組織が精密コロコッタの口と癒着してるようです」

 女性隊員は見えない何かを押し返すような仕草をする。
 コードのたてがみが目立つ精密コロコッタは前足でピストンの付け根や足場になりえる箇所を踏みつけ、顎を組織から引き剥がそうと躍起になった。
 助けます、と表明する保安兵に対し仲間も、手伝います、の一声を発した。
 操縦者二人は首から下げていた筐体のコントローラーを操る。
 二機のコロコッタが精密コロコッタの足に食らいつく。そうして加重を増やしたが、コロコッタの顎は癒合した組織から外れる気配はない。
 腹ばいになったほうが楽なほど屈んでハイジャック機の下を双眼鏡で覗いたソーニャは、次にコロコッタが床に吐き出した組織片の成長を確認すると、保安兵に尋ねた。

「コロコッタとチキンレッグピストンが癒着した、というより成長した組織が喉の奥に入ってるんじゃない?」

 そうなのか、仲間の言葉に女性隊員は首をかしげる。
 ソーニャは機体に向かって歩き出す。

「多分、コロコッタの口の中の感覚までしか、お姉さんにフィードバックされてなくて喉の奥に達した組織に気づいてないんじゃないのかな」

 少女に名を呼ばれたスロウスは、両腕を挙げた少女を肩に担ぐ。
 そこへレントンが、何をするつもりだ、と詰め寄った。

「保安兵さんたちは機体を失いたくないんでしょ?」

 尋ねられたルイスは少女に困惑を若干披露し、ああ、と答える。
 だが、と言葉を続けようとする指揮官ルイスを無視してソーニャは、スロウスGO! とコロコッタめがけて突撃を命じた。
 エロディをはじめ良識ある大人たちは手を差し伸べ少女を止めようするも。スロウスの一歩は迅速で大きかった。
 人型の巨躯は主が指さすほうへ駆け出す。
 ミニッツグラウスの隣にスロウスが並ぶと、その肩からソーニャは飛び降りて自分の足で立ち、機体の動きに呼応して下がりながら精密コロコッタの胴体を指さした。
 ご主人様の手招きを受けてスロウスは、四つん這いになりそうな勢いで屈み、ハイジャック機の下を覗き込む。

「スロウスあのコロコッタの腰を掴んでゆっくりと引っ張って」

 暗い眼窩は、少女が両手でつかむ虚空を見つめた。



 機内では痩せっぽちが正面を指さし号令した。

「それじゃキャプテン全速前進だ」

 アレサンドロはためらったが、太っちょが喉に這わせてくるナイフに決断を迫られ、ギアを倒す。
 発進したミニツッグラウス。
 少女をまねして両足を広げて床に座り込んでいたスロウスは、鬣のコロコッタの腰を両手で支え、背中を倒す。
 ハイジャック機とスロウスが相反する方向に向かうことで鬣のコロコッタの口に張り付いていた組織が糸を引いてちぎれていき、やがて露になったコロコッタの口から、赤紫の液体に塗られた鋭くかたい棘、あるいは骨を斜めに切って作った槍先を密集させた構造が引き抜かれ、続いて喉奥から盛大に太い管があふれ出す。それは以前に噛み砕いた管に似ており、先端までの長さは、おそらく精密コロコッタの鼻先から腹部に達していた。
 女性隊員は正常な呼吸を取り戻した途端、ずみまぜん、と謝罪した。
 指揮官ルイスは彼女の背中をさすり。

「いや、よく機体を守り抜いた。おかげで作戦が続行できる」

 ミニッツグラウスを追いかけるソーニャの後ろを屈んだ姿でついていくスロウスは、背中は機体からはみ出ていたが、頭頂部を機体の底面に擦る。
 ソーニャが熱視線を送っていたのは、コロコッタが今まで噛みついていたチキンレッグピストンの付け根。しかし今その個所は骨の棘が花弁のように広がり、その中心から舌のように径の違う管が幾本も生えていた。
 観察に集中していたソーニャの腹にスロウスの腕が巻き付く。そして、彼女の進路をふさぐようにコロコッタが回り込んだ。頭部のカメラに付属するマイクが、退避してください、と強く呼びかける。
 ソーニャはスロウスに連れていかれ機体から離れていった。
 ミニッツグラウスは加速して、拉げたシャッターに再激突。隙間を押し広げた。
 お次は、少し下がって突撃。これを何度も繰り返す。あたりに鉄片が飛び散るが、それがハイジャック機由来か、シャッターのものか判別できない。それほど、ぶつかり合いは激しく緊密で混沌として、衝突音が発せられる度に人々はしかめ面を作る。  
 そんな目も耳も塞ぎたくなる格納庫に息も絶え絶えに馳せ参じたのはスーツ姿の人物だった。
小奇麗な装いに似合わず脂汗に塗れた顔をハンカチで乱暴に拭い声を荒げた。

「ど、どうなってる!」
 
 ちょうどみんなのところへ帰ってきたスロウスに抱えられるソーニャは、見知らぬ男性に眉を傾げ、誰、と尋ねた。
 口を乱暴に拭った女性隊員が答える。

「責任長だよ。この空港の管理運営のトップ。それよりありがとう」

 少女が、ユアウェルカム、と答えた一方でルイスが責任長に説明した。

「ハイジャック機がシャッターを開けようとしているのです。我々もコロコッタで機体を止めようとしましたが歯が立たず」

「言い訳はいいから今すぐ何としてでも止めろ!」

 そうはおっしゃいますが、と事情を説明しようとするルイスの言葉を責任長は遮った。

「保安兵なんだろ!? だったら武器でもSmでも使って強行突入して停止させればいいんだ。さもなきゃ……ああ、シャッターが! あのシャッターを修復するのにいくらかかると思ってるッ」

 責任長は、ハイジャック機よりもシャッターに意識を注ぎ憂い煩う。
 中に犯人いるんでしょ? と事実を述べる少女にベンジャミンも言葉を添える。

「そして無実のパイロットがいる」

「それをわかって言ってるのあの人?」

 スロウスの手から降りたソーニャが渋い表情で疑問を口にすると、傍らのレントンがその肩に手を置く。

「お偉いさんになると、人の命より大事にしたいものができるのさ」

 いやだねぇ、とソーニャが言うと周りの大人も、だねぇ、と答える。
 そんな彼らに気が回らない責任長は保安兵に詰め寄った。

「今すぐ何とかして止めろ!」

「わかってます。そのために作戦を練っており」

「作戦なんて簡単だ! 武力を使ってあのハイジャック機を行動不能にして制圧するんだ! そこの犬も! そのでっかいヤツも使って。保安兵なら兵器でも持ってこい! 今すぐ!」

「あ、そのでかいのはうちのじゃないですよ」

 整備士はスロウスを見て言ったが責任長は考慮しない。

「うるさい! 口答えはいいからお前らも手伝え! さもないと減給やクビじゃ済まさないぞ! それと……」

 責任長の指先はしばし迷うも、髭が目立つ年配の整備士に向けられた。
 ベンジャミンは自分自身を指さし、俺? と伺う。
 うなずく責任長。

「そうだ、シャッターを開けろ! これ以上壊されたら業務に支障が出る」

 ベンジャミンが一歩前に出て口を開く。

「待ってください。あの中には犯人が」

「なんでもいい、とりあえずシャッターを」

 いや無理だ、ときっぱり答えるベンジャミンに対し、責任長は怒りが禁じ得ない。

「なにッ……口答え」

「いやもっと冷静になってくれ! あの拉げたシャッターをどうやって開けるっていうんだ?」

 責任長はやっと現実を認知し、表情を凍てつかせる。彼らの目に映るシャッターは複数の扉をスライドさせて開閉する。しかし、その内の二枚が外に向かってへこんで隣接する扉にも破壊の影響が波及し、レールにはまった扉の金具が不完全に噛み合っているのか、最初の閉鎖時の動きが嘘のように開く気配がない。

「だ、誰だ! 一体、誰がシャッターを下ろせと言った!」

 皆の視線が物怖じ一つしないベンジャミンに注がれ、責任長は火が上がりそうなほど顔を真っ赤にして怒鳴った。

「なんてことをしてくれた! これでは後のフライトに影響が出るだろうがッ! アバドン社の整備契約もあるというのに……ああ、これでは」

 赤くなったかと思えば今度は顔を青くする責任長に、ベンジャミンは平然と答える。

「何言ってる。これはマニュアル通りだぞ」

 なに、と責任長は相手の言葉を疑い、怒りを再燃させるが、ベンジャミンは毅然として言った。

「ハイジャック並びに異常状態に陥った機体が無理に発進しようと試みたらそれを止める。って運用マニュアルに書かれている」

「なんでそんなバカげたことを」

「安全制御できない機体が離陸して町の上を飛ぶほうが馬鹿げてるだろうが!」

 その時ソーニャが、あれ見て、と声を張り上げた。皆の意識は、少女が指さす方に切り替わる。
 衆目にさらされたミニッツグラウスの装甲の繋ぎ目が軋み、並ぶリベットが不揃いに浮かび弾け飛ぶ。
 タイヤをそれぞれ支えていた梁は、機体から蔓性植物のように這い出てきた軟組織に絡み付かれる。チキンレッグピストンが始めた緩い屈曲に合わせて、肉で覆い隠された梁の付け根が前後に稼働した。
 先ほどまではタイヤの回転が推進力のすべてだったが、それがタイヤで地面を踏みしめ、後ろのチキンレッグピストンが関節を伸縮することで前のめりの突撃へと変わる。
 ソーニャは整備士たちに振り返り、ハイジャック機を改めて指さした。

「あの機体のグレーボックスにはあんな動きを可能にするプロトコルが組み込まれてたの?」

 ベンジャミンは手にした書類を閲覧すると首を横に振る。

「そんなわけないだろ。あいつのグレーボックスは操縦室からの命令を変換して機械動作を担う筋肉に伝達して機体を制御するもんだ。単純な機械的反応はできても、あんな連携の取れた動物まがいの行動なんて、できるはずがない」

「じゃあ、なんで……。ほかのグレーボックスを積んでたとか? 確か航空機Smには催眠制御装置ってあったよね」

「ああ、それもグレーボックスを使った技術だが入力に適合した機械的行動を航空制御にかかわる機関にしか命令しない。つまりあんな運動は再現できないし。そもそも飛行に直接かかわらないチキンレッグピストンと連動しない。  
 神経節は、いや、それだってタイヤを回す動きしか再現できないはずだ。たとえピストンの構造が変わっても。ほかの機関と連携できることにならないだろう」

 じゃあ模倣本能の誤作動、と言うソーニャの指摘に。ベンジャミンは、それほど高度な神経網はない、と反論した。
 誰だこの子は、と責任長の疑問に対して保安兵も整備士も肩をすくめるばかり。
 それをよそにソーニャの表情は深刻度合いを深める。

「でも、それじゃ、もしあの動きが元から設定されてない動きだったら。これからもどんどん全く予期できない動きを初めて、最悪、人の操縦の主導権もなるなるんじゃ」

 エロディが、どういうこと? と聞いた。

「勝手な想像になっちゃうけど。多分、元からあったグレーボックスが何らかの方法で、新しいプロトコルを憶え込んだんだとおもう」

 レントンが言葉を受け継ぐ。

「だが、操縦する側の機械には、その新しくインプットされた動作をコントロールする機能はない」

「結果、パイロットは飛行機を制御できない」

 エロディは何となく理解したが、ソーニャにはそれを喜ぶ余裕はなかった。

「既存の操作系統と新しい動きのプロトコルのシステムが連動すれば話は別だけど」

「そんなうまい話あるわけない」

 整備士は少女の楽観を切り捨てる。

「犯人がグレーボックスを持ち込んだとかは?」

 エロディの突発的な質問にソーニャは小首をかしげる。

「もしそうだとしたらグレーボックスが機体の構造にマッチしすぎてる。あらかじめ、グレーボックスと機体のすり合わせがないと機能しないはずだから。エロディの推理が正しければパイロットがグルだったことに……」

 ベンジャミンが声を荒げた。

「んなわけないだろ!」

 ソーニャは怖気づいてしまう。レントンが間に入って整備士をなだめた。
 ベンジャミンは我が身を振り返って一歩引き下がると視線を逸らす。

「だから、嬢ちゃんのグレーボックスの憶え込み説に賛成だ! 大体、グレーボックスを今さっき持ってきて、それを短時間で移植するなんて、よほどの腕があっても無理だからな。でも、あの動きの連動は一つの器官の発達だけで説明がつかない。きっと、各器官を統合する部位があるんだ。きっとそれが変異したグレーボックスであの動きを可能にしている。あるいは一から全く違うグレーボックスが生まれたか」

「グレーボックスの構築だけなら憶え込ませるよりずっと簡単だけど」

 少女の言葉が、エロディ頭の上に疑問として乗っかる。
 
「つまり全く新しいグレーボックスの誕生? でも、グレーボックスが勝手に出来るなんてことあるの?」

 ソーニャは。

「Smはその基礎となる製造卵細胞から組織を発達させれば臓器はもちろん、人間でいうところの脳みそ、つまりグレーボックスも作られる。けど、単純にグレーボックスが出来上がっても中身、つまり情報が組み込まれてなかったら動き出さない」

「それに、よくエンジンに使われるゴブリンとか、それこそあの飛行機ミニッツグラウスのロックみたいにフレーム専用Smなんかは製造の初期段階からグレーボックスの発生を物理的にも科学的にも防いでいる」

「だから、動かすには別途用意された特化型汎用グレーボックスを搭載するんだけど。そのグレーボックスに新しいプロトコルが記述されたか、あるいはそのグレーボックスが構造を変えたか」

「けど、プロトコルの書き換えだって簡単には……」

 整備士の話を断ち切って、責任長が声を張り上げた。

「そんなことはどうでもいい! 止める方法を考えろ!」

 ベンジャミンは負けないくらいの声量で言い返す。

「止める方法があるか検討するために話し合ってんだろうが!」

 鬼気迫る物言いに負けた責任長は息を詰まらせる。
 しかし、ベンジャミンは相手を無視して、ハイジャック機に振り向いた。

「あの機体に起こった変化は一器官どころじゃない……。人間の制御を離れて新たな機種が誕生したと考えて対処しなけりゃ、最悪な結果を招くことになる」

 整備士の発言が場の空気にとどめを刺す。
 保安兵がささやきあう。

「やっぱりシャッター閉めてよかったんだ」

「犯人をむざむざ逃して、あの市長が黙ってるわけないよ」

「だな、中央の飼い犬じゃなくてプレーヤーを目指してるって話だから。些細なミスも許さないだろうさ」

 市長、という単語を耳にして責任長は生唾を飲み込む。

「じゃ、じゃあどうすればいい! そうだ。ならば犯人を捕まえろ」

「それができるなら苦労はないんだよ」

 と告げるベンジャミンから保安兵たちは視線を逸らす。
 声を上げるのは責任長だ。

「できるだろ! こっちには大量のSmも保安兵も技術者もいるんだから」

「相手をよく見てみろ。あっちは巨体で装甲も分厚い。対してこっちにはそれを覆すだけの力がないんだ。さっきもコロコッタで破壊を試みたが」

 いまだ咳込み、胸を摩る女性隊員が答えた。

「Smの組織の回復速度が尋常じゃなく。破壊したそばから即座に組織が回復されて太刀打ちできません」

 ソーニャも言う。

「さっきコロコッタが噛みついていた箇所は異常な発達を示していた。もし破壊するなら適切な薬剤処置を施して形状変化を抑制しないと。それかスロウスの強行突破」

「高威力による完全な破壊……か?」

 レントンの言葉にソーニャは。

「けど、一番の問題は中にいる人質の命……」

 少女の指摘が最後を締めくくり、責任長は切羽詰まった。

「なら、ほかに止める方法は?! ないのか? もしあれが外に出て、もしものことになれば。私の立場は……」

「官営の人間は辛いねぇ」

「民営になったらなったで、ああいう声と態度だけデカくてお頭と度量が小さい奴は即クビになる」

 遠巻きにいたパイロットたちが小声で談笑するが、責任長の迫力に欠けた怒りの目を向けられ口を閉ざす。
 ソーニャはその場の人々の顔を見てから言う。

「でもセキニンチョーの言ってることも一理ある。あのロックを捕まえないと。あんな暴走状態で空を飛んだら大事故になる」

 大人たちは少女の言葉にうなずく。一方で年端もいかない少女が対等に議論に入っていることの不自然さを理性が指摘した。
 その時、責任長は胸元の呼び出し音に反応し、懐からセマフォを取り出して、画面に目を見開いた。









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