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第2章 幼年編
063 のんのん村へ(中)
しおりを挟む翌日
領都教会学校の演習場で魔法の発現披露会があった。
後期教会学校4年生・5年生・6年生の100人弱の合同である。
魔法を発現できる子はそれだけで注目を浴びる。それは大人も子どもも変わらない。
「すげー!」
「いーなー羨ましーなー!」
「ウォーター!」
手から水を出す子。
「ウィンド!」
手を振って涼風をそよがせる子。
「ファイア!」
指先にロウソクのような火を灯らせる子。
「ウォール!」
土竜が掘ったみたいに土を盛り上がらせる子。
「鍬!」
手にした金属を鍬型に変形させる子。
生活魔法を発現する子がちらほらと見受けられ、その子の周りにはちょっとした人だかりも生まれた。
魔法を発現する人間は子どもでも世間一般と変わらず10~20人に1人程度だ。
Level1の生活魔法でさえそうなのだから、Level2の攻撃魔法を発現できる者はごく僅かとなる。ファイアボールを発現できる6年生カーマンが得意となる気持ちもわからなくもないが‥。
この後期教学校にはさらに2人稀有な存在がいる。
シャーリーと俺の2人だ。
「アレクお願い」
「いーよー」
ズズ~~ッ
シャーリーの前方10mに無詠唱で土型を作る俺。
「ウォーターボール!」
シュッ!
どかーんっ!
シャーリーの手から水の塊が放たれる。
Level2のウォーターボール(水弾)だ。ウォーターボールを受けて崩れ落ちる土型。
「「「あの女の子すげぇな!!!」」」
「「「あいつも無詠唱かよ!」」」
どよめく生徒たち。
「アイスロック!」
どかーんっ!
次は氷の礫が襲う。崩れ落ちるのは土型の兵。
Level3アイスロック(氷弾)だ。
ただの土型も今度は刀を構えた土兵にした。
(はーはー。まだまだね。もう疲れちゃった。でもアレンあれ壊れやすく作ったでしょ!)
(あはは、シャーリーにはバレるよな!)
(当たり前じゃん!村の土塀だったら硬過ぎてぜったい壊れないわよ。せいぜい濡れた水跡しか残らないわよ!)
ヒソヒソと話すシャーリーと俺。
「俺にもやらせろ!」
6年生のカーマンがしゃしゃり出るが‥。
「ファイアボール!」
ふらふらふら~シューーぽてッ
テニスボールほどの火球はふらふらと目標の半分の5mも飛ばないうちに失速し最後は線香花火のように落下して無くなった。
コッソリ土兵を硬くしていた俺だったが。
まったく無駄だった。
「うっ、うわー!くっ来るなっ!」
代わりに5m、4m、3m、2m、1mとカーマンの目の前まで土兵を発現してやった。振り上げた刀をだんだん振り下ろしながら。
最初囃したてながら見学していたカーマンの仲間の6年生も途中からはダンマリ、カーマンは顔面も蒼白だった。
先日俺の背中をファイアボールで焼いたカーマンと、下級生をいじめていた仲間たち。
ガン見してやったら、目を逸らされた。これでもう下級生にちょっかいをだすこともなくなるだろう。
この後、俺は同級生や下級生からは人気者になる。が、なぜか上級生には俺をリーダーとした3馬鹿トリオと合わせて不良4年生グループと思われるようになった。さらに俺には「狂犬アレン」などという二つ名までついた。「チューラット王」に続く最悪なネーミング。めちゃくちゃ心外だ。
▼
放課後。
マモル神父様に依頼されたノッカ村の教会へ、シスターサリーを訪ねた。
ノッカ村
領都サウザニアの北西にある100戸ほどの小さな村だ。領都サウザニアに近い村は気候も穏やかで土壌もデニーホッパー村ほど悪くない。領都に近いため盗賊や魔獣に襲われる危険性も少なく、人族と大人しい気性の狸獣人が半々で営む村だ。地域色同様に長閑な気質の人が多い。このあたりの言葉でいうのんのんしている(ゆったりしている)村、のんのん村と呼ばれている。
「マモル神父様に依頼されて来たデニーホッパー村のアレクです。シスターサリーはおみえですか?」
俺はノッカ村の真ん中あたりに建つ小さな教会を訪ねた。
「はーい。私がサリーよお。のんのん村へようこそ!アレク君来てくれてありがとうねー」
タレ目に涙袋がチャームポイント。おそらくは実年齢よりも幼くみえるかわいい小柄な人族のシスターが迎えてくれた。
「えーっとぉアレク君はデニーホッパー村なんだよねー?」
「はい」
「デニーホッパー村は改良がすごくうまくいってるって最近のんのん村でも評判なのよぉ」
「そうなんですね。うれしいです」
「改良はアレク君のアイデアなんですってねぇ」
「あはは。たまたまです」
よその村でもわが村が話題になっているのは、すごくうれしい。なんだか村が誇りだよな。
「でねー、デニーホッパー村でもチューラットの駆除に成功したって聞いたから、アレク君のアイデアを貸して欲しいなーって。最近うちの村もチューラットが増えてるのよねぇ
。危険性は少ないからいいんだけどぉ。チューラットは畠を荒らすしー、身は固くて美味しくないしー、みんな本当に困ってるのよぉ」
「わかりました。少し時間をいただきたいです。村長さんや村の皆さんの協力もほしいですし。まずは村の畠とか見せてもらっていいですか?」
「もちろんよぉ。さっそく村の農業に詳しい人に来てもらうわねぇ」
「はい。ではよろしくお願いします」
そしてシスターサリーが連れてきてくれたのがポンコーさんだった。
「君がチューラット駆除をしてくれる子かい?ずいぶんとかわいい子だねー」
ニコニコと小太りの狸獣人の村民が言った。
▼
ポンコーさんに案内された畠には、昼間にもかかわらず走り逃げるチューラットが何匹も見られた。普通のチューラットであれば昼間は物陰に隠れて人目に触れないはずなのに。一体どのくらいいるんだろう。
チューラットは魔獣の中でもスライムと並んで最弱の存在だ。ただ危害もなくても無視されがちなスライムとは違い、畠の作物を食い荒らすチューラットは見つけたら積極的に駆除していきたい魔獣なのだが。
ポンコーさんはのんのん村(ノッカ村)の村長の息子さんで、若手村民の代表でもあるらしい。
村は領都サウザニアに近く、なだらかに広がる畠はそのまま未開墾の平野に繋がっている。安全性が高いと言われるのも納得だ。隠れるところもないので野盗や魔獣の接近にも気づきやすそうだ。
黒土から収穫されるのは麦や芋が主体らしい。こんな良い土ならたくさん収穫できるだろうな。
害獣のチューラット。食べても硬くておいしくないから、たぶんその駆除を怠っていたんだろうな。そうこうするうちに繁殖力の高さから今回のような問題になったんだろう。転生前の世界でも「鼠算」なんて言葉があったくらいだし。
問題点も見つかった。あとは村のみんなに協力してもらうよう話をするだけだ。
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