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第2章 幼年編
324 ゲージ仁王立ち
しおりを挟む【 ボル隊side 】
「ダメだ。ヤラれた。まんまとはめられた。みんな一気に戻る‥」
すり鉢状の道を上りきって安堵してる俺たちにむけて。何かに気づいたキム先輩が叫んだんだ。「嵌められた」って。
そしてその言葉を続ける間もないタイミングで、あの遺物からけたたましい警告音が鳴り響いたんだ。
ピーーーーーーーーーーーーーッッ!
「戻るぞ」
「「「はい(ええ)」」」
「アレク、ブーリ隊と合流させない意図だと考えたらこの天狼の動きはわかりやすいな!?」
「はいキム先輩!」
緊急時なのに。
俺、思ったんだ。
キム先輩ってすごいよなって。そしてこんな時なのに、それでも俺に自分の持つノウハウというか知識を伝えてくれてるんだって。だから俺はキム先輩をがっかりさせないようにしなきゃ。
そう思ったら俺、どんどん冷静になってきたんだ。どう行動するのが正解だろうかって。
ガルルルーーーッッ
ウウゥーーーーッッ
坂を上った俺たちに、後ろから天狼たちがやってくるのは俺たちを戻らせまいとする何らかの意図。それは学園ダンジョンの意図とは違うものだろう。ひょっとして……。
あいつが‥‥?
俺の脳裡に浮かんだのはあのゴブリンソルジャーだった。
「急ぐぞ。シャンク悪いがまた頼んだぞ」
「はい僕は大丈夫です」
「それとセーラ、お前は絶対に障壁から出るな。絶対にだ」
「はい‥‥キム先輩?」
「俺が敵なら、1番先に倒したい厄介な敵はお前とリズだ。お前とリズさえ行動不能にできたら勝機は見えてくるからな。
だからお前は自分自身を守ってくれ。結果的にそれが俺たちみんなの勝利になる」
「はいわかりました」
「じゃあ行くわよ」
「「「はい!」」」
こうして俺たちは今来た道を戻ることにしたんだ。
【 ブーリ隊side 】
『天狼しか襲ってこない』
それは学園ダンジョンの意図であり、パーティー全員の刷り込み。そこにブーリ隊の、ビリーの最大のミスがあった。万が一、万が一それを覆すことができるのはイレギュラーの存在。そこを見落としていたのだ。
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
天狼の毛皮を背に天狼の背でカモフラージュしていたのはゴブリンアーチャーたちだ。
シュッ! シュッ!
シュッ! シュッ!
シュッ! シュッ!
シュッ! シュッ!
シュッ! シュッ!
ゲージにむけて放たれた矢を全身で受けるゲージ。
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
ブスッ!
手を広げ、不退転の構えをみせるゲージの全身に矢がふりかかる。ゲージの後ろにはリズがいるからだろう。一歩もひくまいとするゲージはその身体の大きさもあってゴブリンアーチャーたちのいい的であった。
ブスッ!
「ウッ‥」
内1本はゲージの右目を貫いた。
それでも。それでも仁王立ちのまま立ち塞がるゲージ。
「ゲージ!」
「みんな気をつけろ。毒が塗ってあるぞ!」
苦痛に顔を歪ませたゲージが絞り出すような声で叫ぶ。
「「くそっ!」」
即座に反応した面々がゴブリンアーチャーに反撃を試みる。が、付近にまで侵入を許したブーリ隊本陣の中はゴブリンアーチャーに天狼も含めて入り乱れ、混乱を極めた。
「ゲージ!」
そこに。
思わず障壁から飛び出たリズがゲージに向かって駆け寄ろうとする。が‥‥
「「アa$#**!」」
「「ヴ咦#**!」」
口々に何かを叫んだゴブリンアーチャーが一斉にその的をリズに向けた。
「!」
即座にその意図を理解したビリーが叫ぶ。
「リズだめだ!ゴブリンの狙いは君だ!」
そう。ゲージを狙ったかにみえた矢。それは陽動だった。障壁に守られたリズを誘き出すための罠。ゴブリンや天狼だけでは決して遂行できない綿密な作戦。それはまさにイレギュラーの存在が顕著となった瞬間だった。
ビリーが慌ててリズに翻意を促す。その声が届いたのか届かなかったのかわからないまま……。
シュッ!
シュッ!
シュッ!
ザスッ!
「ううっ‥」
1本の矢がリズに刺さった。
倒れるリズ。
間髪入れずにビリーが叫ぶ。
「タイガー!」
「ああ。撤退だ」
遺物が薄らと光った。
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