狂った世界に中指を立てて笑う

キセイ

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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ

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学園祭一日目。それは間もなく終わりを告げようとしていた。

今現在23:00。

今日のことを振り返ると、軽く2年分の時が一気に押し寄せたような濃さを感じる。

その原因は....チビちゃん。


首筋を擦ると、鈍い痛みと共に指先が凹凸に触れる。.....ああ、クソっ。嫌な記憶を思い出しそうだ。

それにしても首筋に噛みつくなんて....わざとか、それとも無意識か。


『や、弥斗は――優しくて、俺を愛してくれて、俺とずっと一緒にいてくれて、俺の番で、俺の....俺の.....』


いや、両方か。過去のチビちゃんを思い返せば、首筋に噛みついた理由が察せられる。


「怖いねぇ、αって。執着が並外れてる」


気絶という無様を晒したのもαの執着心の前では仕方ないというもの。何もしてこないだろうと高を括っていたのも原因だが....まぁ過ぎたことだ。

反省は終わり。
チビちゃんへの対応はこれまで以上に気をつけるとして、問題は明日だ。

緋賀現当主。

この人がとにかくヤバい。
何がやばいって、彼の印象が人によってバラバラだということ。
ある人は彼を善人と敬う。なんでも緋賀現当主という多忙な身ながら、貪る影カタラや異能者同士の争いで身寄りのなくなった子供を引き取っている孤児院を直々に訪れ、多額のお金を寄付しているそうだ。

ある人は彼を悪人と罵る。昔、緋賀現当主が自ら出向き粛清した事件があった。異能者が民家に上がり込み、住民を殺した事件だ。結果として、執行者を引連れた緋賀がその異能者を制圧したが....残念ながら生存者はなし。新聞ではそう報道された。
しかし真実は違うらしい。
制圧時に生きていた子供を緋賀自ら撃ち殺したとの証言があるのだ。


.....この話以外にも色々あるのだが、どれも意見がわかれている。それも半々に。これらはあくまで人に聞いた話なため、鵜呑みにするのは危険なのはわかっている。しかし、良い印象と悪い印象が半々というのはおかしいのではないか?

普通、どちらかに偏るだろう。それが半々....
僕の情報収集の仕方が悪かったのだろうか?


「.....ただの誤解されやすい人なのか、それとも表裏の激しいクズ野郎なのか」


現当主の息子である委員長が誤解されやすい人だから父親も''そう''なのだろうと信じたい。

でも.....
''五大家である緋賀の現当主''

信じようにもその肩書きが邪魔をする。




​─────ピンポーン


その時、僕の思考を遮るようにインターホンが鳴った。
インターホンが鳴るってことは鎖真那双子かな?
軽い気持ちでいつものようにドアを開けると白髪の双子.....は居らず、焼き爛れた素顔を臆面にもなく晒した笹ちゃんが立っていた。


「こんばんは笹ちゃん」

「.....こんばんは」

「中に入る?」

「.....うん」


一定の距離をつけ笹ちゃんは僕のあとをついてくる。敵対意志はないのだろう。
彼をソファに座らせ、お茶を用意する。僕お茶の中でもウーロン茶が好きだ。だから出すのはウーロン茶。文句は受け付けない。まぁ、僕の部屋には何故か来客が多いから、色んな種類の飲み物が置いてあり、笹ちゃんの好きな紅茶を出すこともできるけど.....面倒臭いからいっか。

お茶を飲んで一服。
笹ちゃんも落ち着いた様子でお茶を飲んでいる。

.....変わったなぁ。前までは素顔晒したまま落ち着いてお茶を飲むなんて行動しなかっただろうに。
傷を隠すように長く垂れ下がっていた前髪は後ろでまとめられ、痛々しいほどの火傷と白濁した瞳が明るい部屋の元、晒されている。



「笹ちゃん、今の君はとっても綺麗ですよ」

「っ、あ、あっ、ありがとう」


おっ、いい笑顔。いや、本当に人が変わったみたいだ。もちろん、いい方向にね。


「さて、こんな時間になんの用で?」


と聞いたが、用なんて1つだろう。笑い顔の仮面...ドールの返却かな?


「燈弥君にお願いがあってきたんだ。だけどその前に、今日は本当にごめん。君に成ろうだなんて身の程知らずだよね.....二度とそんな考え持たないからどうか許して欲しい」

「あー、うん....いいよ。もう過ぎたことだし、僕に迷惑かけないなら全然許す」


そう言うと、晴れやかな笑みを向けられた。
.....言うが、許すだけで捕縛しないとは言っていないから。そこんとこ彼はわかっているのだろうか?


「学祭が終わったら君を捕縛するというのは理解しているよね?それとこれは別問題だ」

「.....その事について燈弥君と交渉したい」


あぁ、それが笹ちゃんの言う『お願い』か。捕縛されたくないってことね。捕縛されたくないということは、反省していないという意味で僕は捉えるけど?


「捕縛、仮面、蒐集家コレクター....これらを手放してでも僕の利になる条件があるのかなぁ?」


僕自身ないと思うんだけど.....おっと、結論が早々に出てしまった。いかんぞ僕。もしかしたら僕の予想だにしない提案があるかもしれないんだから。
ちょっとの期待を抱きながら笑いかけると、笹ちゃんは頬をポっと赤く染めながら口を開く。


「燈弥君には是非、その姿で美コンに出て欲しい」


はい???
今なんて言った?


「ごめんねぇ。僕の耳には今、この姿で美コンに出て欲しいなん馬鹿げた言葉が聞こえたんだけど気の所為だよねー?」

「いや、気の所為じゃない。燈弥君にはその姿で美コンに出て欲しい」

「あははははは~!面白いこと言うね!!僕にぜんっぜん!!利がないじゃないか!!それでよく交渉だなんて言葉をほざけたね!」


僕がなぜ変装なんてものをしているのか、君は知らないのかな??
この容姿のせいで君に殺されそうになったのに?
よし、殺そう。僕の障害は悉く排除しよう。なーに、死体の処理はサマ臣君か、弟君がやってくれる。君が死んだなんて誰も気づかないさ。


「その代わり!!」


リッパーを手に持ったところで、ストップをかけられる。その代わり??
僕が面倒事を抱える代わりに何をしてくれるの?


「その代わり、僕は君に全てを捧げる」

「君の全てなんていらないよ。そんなもの捧げられても困る。っていうか、全てって抽象的だよね」

「僕の異能は触れた人に成り代われること!!どんなとこにでも潜り込めるし、僕の演技力があればまずバレることは無い。とってもいい駒じゃない?」

「へぇ、自分を駒って言いきるんだ。確かにいいよう使える駒は欲しいなぁ」

「ならっ」

「でも今まで1人でやってこれたし。絶対欲しいと言うほどじゃないんだよね」


つまり弱い。僕が美コンに出てもいいと言うには''僕の利''が足りない。


「っ、学祭終わったらもう体の部品がそこら辺に落ちてるとか無くなるよ!?」

「僕が君のドールを持ってる限り確かに無くなるね。で?」


大人しくしますは交渉材料足り得ない。だって、どの道君を懲罰棟にぶち込めば大人しくなるじゃん。


「う....じゃあ僕の持ってる情報全てを追加でどう?」

「どういう情報持ってるの」

「​────『シュウ』が何者か」

「......ほぉ」


コイツ....誰から聞いた?サマ臣君??
もしくはあの巣ごもり部屋に盗聴器とかあったのかな?

ダラダラと汗を流す笹ちゃんに微笑む。


「交渉成立」

「!!あっ、なら美コンに.....」

「出てもいいけど条件つきね」

「うん!!」


なぜすんなりOKしたか?
それは情報が武器だからさ。敵を知れば相手が近づいてくるのを防げる。あと僕がうっかり近づくことも防げる。

.....残念ながら僕は『シュウ』さんについて知ってることは少ないから。彼がクソ怖いことと、クソ性欲が強いことくらいしか知らないのだ。
もちろん僕を脅かす彼を放置するつもりは無い。でもどうしてかシュウさんの情報が出てこなかった。つまり今の今までお手上げ状態だったわけ。

当時は慄いた。
彼はほんとに存在しているの人間なのかと。僕の悪夢だったりしないのかと。....考えすぎて眠れない夜もあった。

そんなシュウさんの情報が手に入るのだ。そのためなら野に殺人鬼を放置してもお釣りが来るというもの。



「燈弥君、あの、それでシュウについてなんだけど....」

「ちょっと待って。まずその名前はどこで知ったの」

「それは......あれ?」


首を傾げる笹ちゃんに僕も首を傾げる。すると彼は驚きの言葉を言った。


「誰から聞いたっけ?」

「はぁ?」


これは約束を反故したと見なしていいだろうか?全ての情報をくれると言ったのに相手を庇う.....いや、まさか本気で言ってる?
笹ちゃんの様子がマジっぽい。でも彼、演技が上手いからもしかしたら僕を騙そうとしているのかも.....。

そんなわけないか。崖っぷちの彼が僕を怒らせるメリットはない。


「....ごめん燈弥君。思い出せない」

「確認するけど、君は比良山 美笹だよね」

「うん」

「ここに来る前、誰かに会った?」

「....会ってない」

「生徒の手足を奪ってたのは君?」

「うん」

「ということは君は蒐集家コレクターなわけだ」

「うん」

「''シュウ''は誰から聞いた?」

「......覚えてない」


.....わかんないなぁ。こういう時、演技が達者な人は面倒だ。判断がつかない。
嘘をついているのか、それとも何者かの異能に侵されているのか、はたまた本当に忘れているのか。

笹ちゃんの行動を思い返そうとして....やめた。


「はぁ.....疲れた。今日はもう帰ってよ。僕、明日も忙しいから今すぐ寝たい」

「.....ごめん。でもっ、燈弥君のために全てを捧げるっていうのは嘘じゃないから」

「うんうん、信じる信じる」

「~~っありがとう!!!僕の神様!!これからは精一杯、貴方に近づく身の程知らずを消してくね!」

「うんうん――うん?」


あれ?今なんて言った??
聞き返そうとしたが、もう既にその背はドアの向こう側だった。


.....まぁいっか。寝よう













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