忘れられない、人がいた

鳩愛

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 前をしごかれ、後ろもこの男は忘れているはずのイリゼのいい所を確実に狙って摺り上げられ、イリゼは半狂乱になって涙を零しながら身悶えよがる。
 しかし今度は入り口の気持ち良い部分だけを広げるようにやわやわと擦られ、前の刺激も差し止められて、何度も何度も前で達した身体はもう雫だけをだらだらと垂らしてびくつくだけ。
 後ろからの刺激が欲しくて指をもっと奥まで誘うように腰を蠢かせると、ダイに指を引かれて又泣きそうになる。

「いじわるしないで」
「意地悪はどっちだ。お前は身勝手な人でなしだろ」
「ううっ……、欲しい、欲しいよお」
「俺がどんな気持ちで、お前とのこれからを考え続けて生きてきたのか、お前には分からないだろう? いらなくなったらいつでも忘れさせて捨て去って、何もなかったころに戻れる、お前と! こんなふうに俺を悪戯に刺激して、いやらしく誘惑する、お前はまるで魔性だな?」
「あうっ!」

 咎めるように乳首を摘まみ上げられ、もうなにもでない赤い果実のように熟れ切った前を震わせるイリゼは潤み切った瞳で自分を責め立てる癖に深い悲しみに沈んだダイの頬に緩々と白い手を伸ばした。

「もどれなかった……」
「……」
「もう、もどれない。ダイを知る前の、一人ぼっちの俺には二度と戻れないんだ」
「イリゼ……」
「今もこれからもずっと。ダイ……俺はお前だけが欲しい」

 涙を流し、頭を起こして小さな舌を僅かに覗かせながら唇を寄せ強請ると、今度こそ求めている通り愛情が籠った柔らかな口づけを与えられる。
 ひとしきり繰り返される、先ほどまでの怖ろし気な雰囲気が払しょくされる舌や唇を愛撫されるような柔やわと甘い口づけの後、互いに鼻先がするあう程度の距離に顔を離すと、ダイの矢車菊にも似た青い瞳にも涙の被膜が張っているように見えてイリゼは堪らなくなった。

「ダイ……。ごめんなさい。ずっと、お前だけを愛してる」
「イリゼ。俺も愛してる。もう、過去に逃げるな」

 瞬間、互いに指を絡め握りあっていた、双方指輪をつけた方の手の辺りが眩い光を放ったが、イリゼがそれに気がつく前に続いてダイの天を突き今にもはちきれんばかりに育ちきった屹立がイリゼの蜜壺に早急に押し入る。
 イリゼは達し続けた上に媚薬でぐずぐずに蕩けた身体にダイの猛攻を受け止めることになった。

「ああああああ」

 薬の効果か、達し続ける内側の滑り熱い蠢きにダイは搾り取られそうになりながらも互いの肉の音が弾けるほどに激しくイリゼを攻め立てる。
 辛い程の過ぎる快感が続き、イリゼは繋がれていない方の手で無我夢中でダイの背中や腕に爪痕を残す。赤い唇から零れる艶めかしい嬌声すら我が物にせんと、ダイがその唇を口づけで塞ぐと、貪るうちにイリゼはぜいぜいと声を失い、脱力し、前からとろとろと再び白濁を零しながら気をやってしまった。
 少年の面影すら残る、白く瑞々しい柔軟な身体。正体を失くし手脚をだらりと下げたしどけなく脱力したそれをいいようにするのは背徳的な心地すらする。しかしダイは構わずイリゼの身体を裏返すと、ダイの腰に打ち立てられやや赤みを帯びたまろい双丘の間に赤黒くそそり立つ刀身をゆっくりと埋めていく。

「んっ、ああ」

 僅かに身じろぎ逃れようとする細腰を鷲掴みにし荒々しく突き上げた。

「……っ! うぐっ」

 抜き差しするたび、結合部位から先走りが泡立ち、イリゼは無意識に過ぎた快感を逃そうと折れんばかりに腰をよじって艶めかしい嬌声が零れ続ける。その淫靡すぎる光景にダイはさらに自らを大きくし、ぐっと身を進めていく。
 奥までいきなり蹂躙され、イリゼは衝撃で意識は戻ったものの、朦朧とした中でも粘膜全てを摺り上げられる悦楽に身を委ね、こらえきれずに喉元から掠れた悲鳴が迸る。ダイも今までで感じたことのない程の強い快感に鮮やかな青い目を血走らせ剥き、互いの境目すら溶けてなくなったかのような交接にのめり込みながらも、ついには込み上げる感情が吹きこぼれるように狂気じみた笑い声をあげた。

「は、ははは、ああー。はははは」

 乱れた前髪をかき上げ、狂ったように雄たけびをあげながら無抵抗の情人を激しく犯す。組み敷いたイリゼの身体が前からも止まらぬ精液をとぷとぷと垂らし続けながら何度も痙攣し、限界を超えた官能とひくひくと止まらぬ脈動を繋がった部分からダイに伝えてくるが、もうダイは自分自身を抑えることはなかった。
 イリゼはもう這う這うの体ですでに出ぬ声を使えず口元だけでぱくぱくと「やめて」と呟き、後ろ手にダイの腕を掴んで爪を立て引っ掻いたが、ダイは痛みにすら興奮し、さらに奥を潰すように攻め立てる。
「ひっ、ああ」
ぐちゅ、ばちゅっとすごい音を立て、イリゼは身を震わせその嵐に絶えることしかできなかった。
 時の流れから飛び出した青年をついに掴まえたという支配欲と、指輪をした指先から身体の中に確かに自分のものとは違う力が漲り、じりじりと熱い塊となって流れていることを感じ、ダイは歓喜に打ち震え叫んだ。

「掴まえた。イリゼ。……永遠に、俺だけのものだ!」

 ダイは両手で掴み上げた白い腰にべったりと手形をつけながら、砕けんばかりに穿ち続ける。そのまま一度自分を捨てかけた恋人への恨みつらみすら越えた愛欲の全てをその奥へと放ち続けた。緩々と長い吐精が終わり、漸くダイの長大な一物がずるずると引き抜かれた。ぐったりしたイリゼがほっとしたのも束の間、再び荒々しく仰向けに裏返される。

 青い瞳が僅かな月明かりだけの暗がりで光り、赤い髪からも逞しい身体のシルエットに沿って焔のように燃え立つ生命力と魔力の炎がダイを取り巻いているようにイリゼには見える。

(ああ……。ダイ。まるで赤い毛並みのしなやかな獣のよう。本当に綺麗……。お前に丸ごと喰われるなら本望だよ。俺はもう、指一本……。動かせられないもの)

 ぐったりとしたイリゼの瞳にはダイが荒い息を吐きながら再び覆いかぶさり一心不乱に自分を犯そうとする様を映し、このままこの美しい獣に何度も舐られた胸も首筋も貪り食われ、一つになれてしまえたら幸せだと、そんな淫らな夢想を浮かべながら意識を手放した。


 
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